今回、ドラゴン化した学の背に俺、雫さん、ウィンディーニが乗り込む。
ちなみにノジャの背には『封魔の炎龍石』を積み込むための大袋等が載せてある。
「……じ、じゃあいくぞ……?」
「は、はい……」ウィンディーニは鞍に跨りプルプルと振えているが……。
なんというかその色々面白い。
そして、エンシェントフレイム化した学が力強く大空に舞い上がり、ノジャもその後を追う。
「ひ、ひえええ……」
ウィンデーニは情けなく悲鳴を上げていたが……。
「ぷふっ……」
その様子を後方で見ていた雫さんが思わず吹き出している。
(こ、コラコラ、笑っちゃ失礼だろ? ほ、本人は真剣なんだから……!)
とか思いながら、申し訳ないが俺も爆笑していたりする。
俺は雫さんや学が余計な事を言う前に、適当な話題を振る事にする。
「あ、そういえばウィンディーニって、その名前の由来、もしかして水の精霊に関係してたりする?」
とか考えていたら、雫さんは機転をきかし話題を振ってくれた。
「そうですね……。うちの家系は代々、水の精霊と仲が良いので何かしら水属性の名前を付けるしきたりがありまして。ちなみにうちの父はアイスバードといいます」
「へーそうなんだ! じゃあ……」そんな雑談を続けてから数時間後……。
例の温泉宿から少し離れた僻地に、ウィンデーニの知人が住んでいるというので寄ることになった。
「へー、こんなとこに小屋があるなんて知らなかったなあ……」
(ファイラスの地理に詳しい雫さんでも知らない場所か、正にだな)
「ええ、自分とギール様しか知らない秘密の
そんなこんなで数時間後、俺達は前に来たことある例の『秘湯の温泉宿』に来ていた。 「あー、久々の温泉は気持ちいいな……」 俺はお湯をゆるりと手ですくい、ゆっくりと顔を洗う。 リラックス出来た関係か、嗅覚が鋭くなり硫黄臭を強く感じる。(逆にそんなところが温泉地に来た雰囲気が味わえていいんだけどね……) まだお昼であるし、太陽が昇っている関係で当然周囲は明るく少し離れた山々の深緑がくっきりと見え、空気が余計美味しく感じられる。 太陽の反射光を浴びたお湯は輝いておりとても眩しい。(こんな時間にゆっくり浸かれるのはホント贅沢極まりないよな……) 「失礼しまーす!」「し、失礼します……」 複数の声の主が俺が浸っている湯舟に近づいて来るのが分る。 (きたきた学と雫さん達だ……!) 今回は二人ともタオルを羽織っている状態ではあるが?「こっ、こら押すな雫!」「え? だってこうでもしないと学は照れちゃって先に進めないでしょ?」 お2人がきゃいきゃい言いながら少しずつ近づいて来る。 顔を真っ赤にし、もじもじと照れながら、雫さんに背中をグイ押しされながら近づいて来る学。 太陽の逆光で眩く輝く、もち肌のうら若き女性達……。(こいつぁー、たまりましぇん……) タオルに半分ほど隠された白桃のような艶やかな胸は、そのボリュームの余り窮屈なタオルに逆らうかの如く食い込みが発生している状態だ。(……こ、今年の果物は豊作かな……?) 何故かそんな言葉が脳裏をよぎる。 不思議、止まらない……⁉ そして、そのサイズの大きい白桃は学が歩く振
「あ゛――――――――――――――――――⁈」 と、同時に湯船の中で学の絶叫が静かにこだまする……。 そ、そのお陰で俺は現状を視認出来た。 夢見心地の中、そっと雫さんの唇は離れていく。 更には再び俺の肩に自身の頭をそっと置く雫さん。 だからか、否応が無く先程の唇の感覚が俺の脳裏に鮮明に蘇って来る! 「あ、あの……? 雫さん?」「えへへ、その言葉ずっと待ってたんだ……」 雫さんは顔を真っ赤にしながら、少し照れくさそうはにかむ……。 俺もそれにつられて顔が真っ赤になるんですが?「あ……」(よく考えたら、今さっきの俺の言葉、ほとんど告白じゃねーか……!) 「えっ、え゛っぐ……う、うっうっ……」(ううっ、い、嫌な予感がする……) 当然、嗚咽を漏らしていたのは学だったが……。「ま、ま、学さん……?」 俺はもう訳が分からず思わずさん付けをしてしまうくらい狼狽えてしまっていた。「雫が雫が、守のファーストキスを取った―――! 俺なんか幼いころから好きだったのに、告白しようとして断られたのに―――!」 学は俺の肩に突っ伏し、号泣しだす始末! その俺の肩には涙やら、鼻水やら、何やら生暖かい液体がポタポタと流れ落ちてますが? うん、その一滴一滴が何やら重い、いや思い? 俺は孤児院時代の幼い頃の記憶を思い出し、友達認定して別れた頃を思い出していた……。(あ、ああ、あれはそう言う事だったのか……! いや、だってねえ? ホラ? 昔は男みたいだったじゃん? あ、でも、今
数十分ほど走り終えた後、今度は腰に下げている剣を抜き、俺の目線程の高さ以上ある枯れた大木目掛けて突きの練習をしていく。「ふっ!」 呼吸とも気合とも取れる声と共に、右手をピンと真っすぐに伸ばす俺。 一回一回丁寧にしかも鋭く早い突きを繰り出し、大木を突いていく。「朝から精が出ますな守様……?」「ッ!」 背後から聞こえる声に俺は驚き、振り向く。 するとなんと、ガウスがそこに立っていた。「な、なんだ、ガ、ガウスかビックリさせるなよ……」「はっはっはっ、申し訳ございません守様……。相手が雫様と学様ならもっと驚きましたか……?」(うっ! こ、コイツ、まさか……?) 「……な、何の話?」 俺は内心では思いっきり動揺していたが、冷静を装い一心不乱に大木を突いていく。「守様……。どうでもいいですが剣筋が乱れておりますぞ?」「なっ?」 よく見ると、確かに俺の剣は大木の真ん中から極端に離れた場所を突いていた。「何やら注意力散漫ですが、ナニがあったんでしょうなあ?」(こ、コイツ……? 昨日の事を知っているのか? それとも……?) 俺は訓練を中断し、ガウスと向き合う事にする。「……なあガウス、せっかくだし、ちょっと剣の相手をしてくれよ?」「ほお? やる気があるのは良いことですし、いいでしょう……」 ガウスは腰に下げている練習用の模擬剣を構え、更にはもう一本の模擬剣を俺に投げる。 軽くキャッチし、模擬剣を胸元に構える俺。 よく見るとガウスも同じように模擬剣構え、その丸くなった切っ先がこちらに見える。「では、行きますぞ?
闇夜に走るは1台の漆黒のスポーツカー。 そう、俺【月神 守】は大学の親友達と車で深夜の山中をドライブの真っ最中だったりする。「わあ、夜風がひんやりとして、とても気持ちいいですね……」 俺の隣の助手席に座っているのは【風見 スイ】さん。 彼女は夜風に静かになびくセミロングの銀色の髪に手をそっと当て、サファイアのように澄んだ青い瞳でこちらを見つめ、ほがらかに笑っていた。 よく見ると童顔を感じさせる二重の大きな瞳に細長い眉、彼女の小柄な体形と血色の良いもち肌、そしてふっくらとした丸みを帯びた顔と胸に合ったは小動物的な癒しを感じさせる。 「今日着ている紺色のギャザーワンピがまた彼女にはとっても似合っている」と俺は「ですよねー!」と力強く返事しながら、ウンウンと頷き自身で納得していた。 あ、でさ! 実はこのドライブには目的があるんだよね! 結論から言わせて頂くと、「スイさんへの告白をかねて」のドライブデート中なんだ! まー情けない話だけど、親友にお膳立てしてもらったんだよね。(いやーホント持つべきものは良い友……) 「風も気持ちいいけど、俺ともっと気持ちいいことしませんか? なーんつって!」「……」 後部座席から訳の分からない言葉が聞こえ、その後静かなエンジン音が車内に響き渡るのが分る。(こ、こいつっ! まじかっ⁈) 色々と、台無しである……。 だからか、俺の額にじんわりと変な汗が滲み出てくるのが分る。 あ……、で今、後部座席から訳の分からない人語を発したのが、色々お膳立てしてくれた悪友の【星流 学】。 学は御覧の通り剛速球な会話を得意とし、パーソナルスペースというものは一切なく、両手を広げ土足で人の心の領域に踏み込んでくる。 体の線は細いが馬鹿力を持っており、かつ武道の実力は相当なもので空手の師範代持ちだったりする。(他人を思いやる優しい一面もあるんだけどね……) 性格に反して顔と雰囲気は整った中性的であり、髪は薄い茶髪のオールバック、目は二重のアーモンド形の薄い茶色の瞳が特徴的だ。 こいつの今日の服装は紺色のジーパンに灰色の長袖ポロシャツで、脳みそと同じで非常にシンプルだ。 「ごめんねスイ、こいつアホだから今の会話は軽いジョークと思って、軽く聞き流して?」「ひ、ひどっ⁈」 その馬鹿とは対照的に、今度は後部座席から
……。「う、うあああ――――――⁈」 落下の感覚を思い出した俺は絶叫を上げ目を覚ます。 気が付くと俺は白いベッドに寝ていたのだ。(は、ははっ、夢かあ……。そ、そうだよなあ、よ、良かったあ……) 俺は額の汗を拭い、落ち着く為に呼吸を整え、ゆっくりとベッドから起き上がる。(ん? しかし、なんか変だな?) 俺はその得も知れぬ直感を確認すべく、周囲をよく観察していくことにする。 ベッドと枕はフカフカだろ。 頭上を見上げると高級感漂うシャンデリアが吊し上げられていし、部屋は一室でプール並みに広い。 更にじっくりと観察していくと、白壁には高級感漂う名画っぽい絵、部屋の壁際には無数の重量感を感じる鎧の置物などの装飾品が飾ってある。 どう考えても一人暮らしの狭い俺の部屋ではない。(この感じ、どこかの豪邸か高級ホテル? ってか俺達確か事故にあって崖下から落ちていたよな? てことはもしかして助かったのか?) と……とりあえず、顔を洗って頭をスッキリさせよう。 そうだ、そうしよう……。 俺は洗面所にゆっくりと移動し、深いため息を吐いた後、顔を洗うため鏡を見つめる。「うっ、うわああああああああああああああ――――――?!」 思わず反射的に絶叫してしまう俺。 何故かって? だってその鏡には映画やアニメで見た立派なねじくれた角を二本生やした悪魔? が映っていたからだ!(し、しかも、顔は俺に瓜二つ?! な、なななにが? ど、どどどっどうなってっ⁈) 俺は再びパニックに陥ってしまう。(お、落ち着け俺っ! と、とりあえず、こんな時は深呼吸だ、深呼吸っ!) 俺はゆっくりと息を吐き吸い込み、ある事に気が付いてしまう。(し、心拍数がふ、複数っ! て、ことはま、まさか、心臓が複数あるのか? じ、じゃあ鏡に映ったアレは?) 俺はそれを確認すべく、おそるおそる再び鏡に映った自身を見ようとするが……。「ど、どうしましたっ? マモル坊ちゃま?」 鏡越しで分ったことだが、勢いよく俺のいた部屋の扉が開き、聞き慣れない低い声が聞こえてくる? なんと驚いたことに、鏡越しに見えたのは、『羊のような角を生やした年老いた白髪メガネ黒服の執事』だったのた⁈「う、うーん……」 俺は頭の処理が追い付かず、かつショックで目の前が真っ白にな……る……。「……?」 「…
それから数時間後、ここは俺の魔王部屋。「ま、学うー……。良かったなー無事で」 「ははっ……。お前こそ……な」 真っ赤なソファーに仲良く腰掛け、俺達はしばらく再会の会話を楽しんでいた。 この会話で分かったことだが、この世界では不思議なことにどの種族間でも言語が統一されているらしい。 早い話、ドラゴンでも、魔族でも、人でもある程度知恵があるものなら会話が可能のご様子。 うんまあ、異世界転生あるあるだし、正直便利に越したことないしどうでもいいかな。(そんな事より、この悪友が長男と言う事実が俺には一番ビックリニュースだったけどね。うんまあ、嬉しいけど) 「なあ、お前何処に言ってたの?」 「ファイラスまで散歩!」 学は両腕を元気よく左右に振り、ジェスチャーで示す。(こ、こいつ……相変わらずエネルギッシュだよな。まあ、魔王だからむしろ丁度いいのか……) 「で、何しに?」 「偵察だな。なんでもこの国に攻めてくると言う噂を聞いたんでな」「えっ? 停戦中じゃなかったのか?」 執事に聞いた話と違い、目をまん丸くする俺。「マモル坊ちゃま、実はここ数日で色々状況の変化があったのでございます」 俺の心情を察した執事は近況を補足説明をする。 何でも我が国の斥候情報せによると、最近『ファイラス』では数十万単位の軍隊が練兵しているんだとか。 その為この感じだと、少なくても数か月後にはこの国に攻めてくるとシツジイは予想している。「実際、練兵している姿を俺はこの目で見てきたぜ?」 マ⁈「た、大変な事になるじゃねーかそれ? その規模だと、どっちかの国が亡びるかの大戦じゃねーか」(こ、これはえらいこっちゃ……) 俺は急に不安になり、その場をうろうろする。 「まあ、そうなるな……。なあ、シツジイ、基本人と魔族の一人当たりの戦力差は人一人の百倍と言われているよな?」 学は執事に、この世界の種族間の戦力ポテンシャルを確認する。「そうでございます。これは魔族の闇の魔力の強力さが理由と言われております」 学が疑問に持つのも無理もない。 この国は『ファイラス』に対して五万の兵力を有している。 純粋な数で比較すると数十万対五万となり、この国が不利に思われる。 しかし、今説明した戦闘力換算単位として戦力を国単位で比較すると【人戦闘力数十万】対【魔族戦
翌日の昼、ここは俺の部屋。 接客用のフカフカの赤いソファーに腰かけ俺と学は談話の真っ最中だったりする。「……守ここは慣れたか?」 「まあ、なんとかね」 正直、魔王としての立場とかまだ色々違和感はあるが仕方がない。「そうか。ところで守は転生した時に『特殊能力が使える事』に気づいているか?」 「え? 空飛べる以外にまだなにか出来るの?」 実際俺は昨日、シツジイに直接指導を受け、嬉しくって大空をガンガン飛びまくったからな。(へへっ、だからもう鷹とかツバメとかより早く飛べるぜ!) なんとといっても機動力は早めに確保した方がファンタジー世界では色々便利だしね。 俺のやれることから直実に詰めていった方がいい。「えーと、言葉で説明するより実際見せたほうが早いか……。てことで外に出ようか」 「おう!」 俺達は漆黒の翼を大きく広げ、近くのただっ広い平地まで飛んでいくことにした。 澄んだ青空を気持ちよく飛びながら俺はふと後ろを振り返り、今出ていったザイアード城を眺める。(うん! 壮観、壮観!) 城はごつごつとした岩場の高き山をくり抜いて作られた、ゴシック様式の白亜の天然要塞といったところか? その城の周りだけ漆黒の瘴気にうっすらと覆われているところがもうね……。「なんかこの城ってさ、ドラキュラが住んでそうな雰囲気出てるよな」 「ははっ、そうだな。てか俺達今、魔族だからな?」「でしたね……」 俺は自身の頭から生えているねじくれた固い角に触れ、しみじみとそのことを実感してしまう。「……よし、ここでいいか」 俺達はほどなくし、平地に着陸する。 周囲は靴くらいの高さに伸びた草と、程よく育った木々がまばらに生え、大きな岩が適度に散在している場所だった。(なるほど周囲には建造物もないし、魔王として強大な力を振るう訓練にはうってつけってわけか) よく見を凝らすと、粉々になった岩々が多数見られるため、学がここで色々修行したのが分った。「よし、じゃ見てろよ守?」 「お、おう!」 学はよどみなく空手の構えをとる。「せいいっ!」 学は気合と共に、近くにあった大人程あろう大岩に向かって素早く正拳中段突きを放つ!(え、マジ? おまっ、拳壊れちゃうよ?) 俺の心配とは裏腹に、鈍い音を上げ大岩は粉々に消し飛んだ!「す、スゲー⁉」
それから数週間たったある日。 ここは人の国『ファイラス』の王の間、大理石の白壁に囲われたの城内である。 天井には壮大な壁画が見られ、均一に立派な硝子細工のシャンデリアが吊るされている。 床には立派な赤い絨毯が引かれ、そこに静かに整列した重曹騎士団が見守る中、一部の権力者達が会合を行っている最中であった。「お兄様方、私は他国と争うことは反対です!」 「だ、黙れっ! 王女であるお前に決定権はないし、俺達は方針を変えるつもりはないっ!」 シズク王女と王子達の口論が静かに城内に響き渡る。 『ファイラス』では現在、第一王子レッツ、第二王子ゴウ、そして第一王女のシズクの3人による統治が行われていた。 そう、雫は『ファイラス』の王女として守と同時期に転生していたのだ。 激情型である第一王子レッツはシズク王女の態度に激昂し、頭上の王冠を激しく床に叩きつけ、怒りをあらわにする。 黄金の鎧を纏っていても分かる恵まれた体格、更には獅子の如きレッツの形相に、周囲の大臣や宰相などはおろおろし、たじろぐばかりであった。「……兄上のおっしゃる通りだ。もう確定事項なんだよこれは……。お前は頭を冷やしに城外に散歩に行ってきなさい。……いい子だから、な?」 対して温和で優しい第二王子ゴウはその王冠を拾いレッツに手渡し、シズク王女をもなだめる。 「……っ、分かりました。では、失礼します……」 雫は王子達に軽く一礼し、言われるがまま静かに城外に出て行く。 雫は峠を越え城外からかなり離れた川岸に出るやいなや、周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認し大きく深呼吸する。「レッツ王子のバッカヤロー! イノシシ武者――――――――――――っ!」 雫はそんな気持ちをぶつけるかの如く、大きく腕を振り絞り小石を川に勢いよく投げつけるのだった。 ドポンという鈍い音とともに、川に緩やかに広がっていく波紋。「あ―――――――すっきりした!」 落ち着いた雫はふと振り返り、少し小さくなったファイラス城を見
数十分ほど走り終えた後、今度は腰に下げている剣を抜き、俺の目線程の高さ以上ある枯れた大木目掛けて突きの練習をしていく。「ふっ!」 呼吸とも気合とも取れる声と共に、右手をピンと真っすぐに伸ばす俺。 一回一回丁寧にしかも鋭く早い突きを繰り出し、大木を突いていく。「朝から精が出ますな守様……?」「ッ!」 背後から聞こえる声に俺は驚き、振り向く。 するとなんと、ガウスがそこに立っていた。「な、なんだ、ガ、ガウスかビックリさせるなよ……」「はっはっはっ、申し訳ございません守様……。相手が雫様と学様ならもっと驚きましたか……?」(うっ! こ、コイツ、まさか……?) 「……な、何の話?」 俺は内心では思いっきり動揺していたが、冷静を装い一心不乱に大木を突いていく。「守様……。どうでもいいですが剣筋が乱れておりますぞ?」「なっ?」 よく見ると、確かに俺の剣は大木の真ん中から極端に離れた場所を突いていた。「何やら注意力散漫ですが、ナニがあったんでしょうなあ?」(こ、コイツ……? 昨日の事を知っているのか? それとも……?) 俺は訓練を中断し、ガウスと向き合う事にする。「……なあガウス、せっかくだし、ちょっと剣の相手をしてくれよ?」「ほお? やる気があるのは良いことですし、いいでしょう……」 ガウスは腰に下げている練習用の模擬剣を構え、更にはもう一本の模擬剣を俺に投げる。 軽くキャッチし、模擬剣を胸元に構える俺。 よく見るとガウスも同じように模擬剣構え、その丸くなった切っ先がこちらに見える。「では、行きますぞ?
「あ゛――――――――――――――――――⁈」 と、同時に湯船の中で学の絶叫が静かにこだまする……。 そ、そのお陰で俺は現状を視認出来た。 夢見心地の中、そっと雫さんの唇は離れていく。 更には再び俺の肩に自身の頭をそっと置く雫さん。 だからか、否応が無く先程の唇の感覚が俺の脳裏に鮮明に蘇って来る! 「あ、あの……? 雫さん?」「えへへ、その言葉ずっと待ってたんだ……」 雫さんは顔を真っ赤にしながら、少し照れくさそうはにかむ……。 俺もそれにつられて顔が真っ赤になるんですが?「あ……」(よく考えたら、今さっきの俺の言葉、ほとんど告白じゃねーか……!) 「えっ、え゛っぐ……う、うっうっ……」(ううっ、い、嫌な予感がする……) 当然、嗚咽を漏らしていたのは学だったが……。「ま、ま、学さん……?」 俺はもう訳が分からず思わずさん付けをしてしまうくらい狼狽えてしまっていた。「雫が雫が、守のファーストキスを取った―――! 俺なんか幼いころから好きだったのに、告白しようとして断られたのに―――!」 学は俺の肩に突っ伏し、号泣しだす始末! その俺の肩には涙やら、鼻水やら、何やら生暖かい液体がポタポタと流れ落ちてますが? うん、その一滴一滴が何やら重い、いや思い? 俺は孤児院時代の幼い頃の記憶を思い出し、友達認定して別れた頃を思い出していた……。(あ、ああ、あれはそう言う事だったのか……! いや、だってねえ? ホラ? 昔は男みたいだったじゃん? あ、でも、今
そんなこんなで数時間後、俺達は前に来たことある例の『秘湯の温泉宿』に来ていた。 「あー、久々の温泉は気持ちいいな……」 俺はお湯をゆるりと手ですくい、ゆっくりと顔を洗う。 リラックス出来た関係か、嗅覚が鋭くなり硫黄臭を強く感じる。(逆にそんなところが温泉地に来た雰囲気が味わえていいんだけどね……) まだお昼であるし、太陽が昇っている関係で当然周囲は明るく少し離れた山々の深緑がくっきりと見え、空気が余計美味しく感じられる。 太陽の反射光を浴びたお湯は輝いておりとても眩しい。(こんな時間にゆっくり浸かれるのはホント贅沢極まりないよな……) 「失礼しまーす!」「し、失礼します……」 複数の声の主が俺が浸っている湯舟に近づいて来るのが分る。 (きたきた学と雫さん達だ……!) 今回は二人ともタオルを羽織っている状態ではあるが?「こっ、こら押すな雫!」「え? だってこうでもしないと学は照れちゃって先に進めないでしょ?」 お2人がきゃいきゃい言いながら少しずつ近づいて来る。 顔を真っ赤にし、もじもじと照れながら、雫さんに背中をグイ押しされながら近づいて来る学。 太陽の逆光で眩く輝く、もち肌のうら若き女性達……。(こいつぁー、たまりましぇん……) タオルに半分ほど隠された白桃のような艶やかな胸は、そのボリュームの余り窮屈なタオルに逆らうかの如く食い込みが発生している状態だ。(……こ、今年の果物は豊作かな……?) 何故かそんな言葉が脳裏をよぎる。 不思議、止まらない……⁉ そして、そのサイズの大きい白桃は学が歩く振
今回、ドラゴン化した学の背に俺、雫さん、ウィンディーニが乗り込む。 ちなみにノジャの背には『封魔の炎龍石』を積み込むための大袋等が載せてある。「……じ、じゃあいくぞ……?」「は、はい……」 ウィンディーニは鞍に跨りプルプルと振えているが……。 なんというかその色々面白い。 そして、エンシェントフレイム化した学が力強く大空に舞い上がり、ノジャもその後を追う。「ひ、ひえええ……」 ウィンデーニは情けなく悲鳴を上げていたが……。「ぷふっ……」 その様子を後方で見ていた雫さんが思わず吹き出している。(こ、コラコラ、笑っちゃ失礼だろ? ほ、本人は真剣なんだから……!) とか思いながら、申し訳ないが俺も爆笑していたりする。 俺は雫さんや学が余計な事を言う前に、適当な話題を振る事にする。「あ、そういえばウィンディーニって、その名前の由来、もしかして水の精霊に関係してたりする?」 とか考えていたら、雫さんは機転をきかし話題を振ってくれた。「そうですね……。うちの家系は代々、水の精霊と仲が良いので何かしら水属性の名前を付けるしきたりがありまして。ちなみにうちの父はアイスバードといいます」「へーそうなんだ! じゃあ……」 そんな雑談を続けてから数時間後……。 例の温泉宿から少し離れた僻地に、ウィンデーニの知人が住んでいるというので寄ることになった。「へー、こんなとこに小屋があるなんて知らなかったなあ……」(ファイラスの地理に詳しい雫さんでも知らない場所か、正にだな) 「ええ、自分とギール様しか知らない秘密の
俺はそんな事を考えながらそっとため息を吐き、会議室から1人席を外し、そのまま自室に直行する。 俺は注意深く周囲を見て誰もいない事を確認し、机に腰かけゆっくりと背伸びをし、足腰を伸ばす。 俺が一人でここに来たのには深い理由があった。 それは休憩もだけど、ガウスから手渡された封書の内容を誰にも見せられないためだったりする。(ガウスは剣の腕と仕事の内容に関しては嘘をつかないからね……) 俺は中身が傷つかないようにペーパーナイフで丁寧に封書の封を切り、その内容に目を通していく。(ん? 誰からだと思えばウィンディーニから? あの場で伝えたいことを言えばとは思ったけど、あの天才児のことだから何か理由があるだろう。どれどれ……?) 「……え、これマジなん? じ、じゃあ学達のあの行動は……?」 ……俺は書かれていた内容に驚愕し、思わず独り言を呟いてしまった。(しっかし、ウィンデーニ、本物の天才なのかも) ……それから俺は色々な用事を済ませ、再び会議室にこっそり戻る。 部屋に入るなり、雫さん達が俺の周りに集まってくる。「あっ、守君! 今、学達と話してね、急遽アグール火山に行くことになったから!」 雫さん達は嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃいでいますが?(こ、この感じ、帰りはまた温泉宿泊コースかもしれんな。嫌いじゃないけどねっ!) 俺は温泉内のピンクイベントを思い出し、もっこ……もといにっこりと微笑む。「守様! あのっ! 自分も火山に同行することになりましたので、よろしくお願いいたします!」 ウィンディーニは元気よく俺にペコリとお辞儀をする。「彼には私の代理で現場視察に行ってもらうことになりましたので、守様よろしくお願いいたしますね」 ギールは俺にそう述べ、軽く一礼する。
それから数分後……。 俺達はギールの資料とウィンディーニの魔導知識を元に話しを詰めていく事になった。 「なるほど、ルモール森林全土には『封魔の炎龍石』を使った魔法陣をしかけられそうですが……」 「え? 何か問題があるの?」「森林の地下トンネルに配置する分が全く足りません……」「仕方ない、ではこれで足りるのでは?」 ギールは一番下に置いていた、とっておきと思われる資料をウィンディーニに手渡す。「ああ、これなら地下トンネル分も余裕で足りますね! 余った分で数十人の鎧加工分も作れるでしょう。あの、それはさておき、この資料は私は見たことが無かったのですが?」「最近、ようやく火山上部で発掘出来る環境になり、未開拓であった関係で大量に発掘出来たものだからですな」 ギールは咳払いしながら、俺をチラリ見している。(ああ、例のやつね……。まあ、役に立って何よりだったよ) 俺はそんな事を考えながら思わず苦笑する。「んんっ! ……守様はこのピンポン玉くらいの大きさの『封魔の炎龍石』の価値を知っておいでですか?」 ギールはそんな俺の態度を見て、俺を厳しい目つきで睨む。(う、うわあ? や、やっべ、俺、地雷踏んだかも……?) 「い、いや?」 「分かりやすくこの『封魔の炎龍石』の価値を説明させていただますね。これ一つでだいたい人家10件分の価値があります……。何故そんなに高値で売れるかと言うと、『エルシード』の連中が価値を見出し、大人買いしていくのですよ……」「お、おう……」(そ、それはギールが出し渋るのもシカタナイデスヨネ……?) 俺はギールの言葉の重みを感じ、額に変な汗が流れて来るのを自身で感じ取る。「この
それから数時間後、此処はファイラス城内会議室。「イエーイ!」「やりましたな!」 心地よいハイタッチの音がファイラス城会議室に響きわたる。 ファイラス城に帰還した守達は宰相ガウスら重臣達と、ザイアード軍掃討作戦の成功の喜びを分かち合っていた。「いやー、あんなに上手くいくとは思いませんでしたな!」「流石ガウス! 地の利を生かしてあんなエグイ作戦を思いつくなんて……」 俺は作戦を考えた功労者であるガウスを労って、ワインをガウスのグラスになみなみと注ぐ。「はっはっは、そんなに褒められても困りますなあ? この作戦は鉱山などの労働者や魔法兵団の方々にも協力してもらったからこそ出来た作戦ですしね」 ガウスは自分で言った言葉を嚙みしめるようにワインを飲み干していく。 ガウスは終始笑顔ではいるものの、顔や手などはすり傷だらけではあった。「そうだよね……。この作戦は兵だけでなく、ファイラスの住人みんなにも協力してもらったからこその成果ですものね」「だね」 俺もガウスや雫さんと同じ考えだ。「ぷはー上手い……! 口の中の傷にしみますが、勝利の美酒ということで今日だけは許してもらいましょうか……」「そうだね……。これからしばらくは飲むことは出来なそうだしね」「では、勝利とこれからの戦に向けて乾杯!」 ファイラス会議室内には複数のグラスが打ち鳴らす軽快な音と賑やかな談笑が響き渡る……。 そう、今だけは……。 俺達は勝利の美酒を飲みながら今までの苦労を思い出していた。 ♢ 時は遡り、20日前のファイラス城作戦会議室……。 会議室の10人ほどが囲える木製の広いテーブルがある。 その周りに俺達いつものメンツ、それに宰相ガウスら重臣達、ゴリさん、城下町の町長など、これからの作戦に欠かせないメンツが揃い論議中であった。「……では2人の魔王の能力の分析が少し進んだので、要警戒の能力だけ情報共有させてもらうね?」 雫さんの言葉に一同は静かに頷き耳を傾ける。「2人に共通しているのは『色んな探知魔法』を使えること」 「……して、具体的には?」 雫さんの話の重要性を感知し、ガウスは耳を傾けている。 「んー色々あるみたいだけど……。中でも罠感知・生体感知・魔法感知・音声感知が要注意かな?」 「それまた厄介な能力ですな……」 確かに、ガウスが
「ほう? シツジイよ詳しそうだな? 話せ……」「この魔法を遮断する結界には希少な魔石を使うのです。これ単品では効果は発揮出来ないので、効果を発揮させるために加工と魔法陣が必要にはなりますが……。そしてこれは音を遮断する静寂の風石よりも、もっと希少なものなのです」 シツジイは握りこぶしより2まわり程小さい真紅に輝く魔石を懐から取り出し、魔王スカードに手渡す。「ほう? つまり?」「ルモール森林すべてを遮断するのにファイラスでとれる魔石を全て使っていると逆算出来ます」「……シツジイがそのように考える根拠はなんだ? 述べて見よ」「ファイラスの宝石鉱山で稀にこの魔石が発掘されることはスカード様もご存じのはず」「……そうだな」 アグール火山に太古から住む龍がこの魔石を生み出すのに関係していると噂されていることを魔王スカードは確かに知っていた。「この森林だけでも数年前のファイラスの宝石生産量から取れる魔石の数年分ほどの量は使われていると思われます」 シツジイはその算出データが書かれた資料を黒カバンから取り出し、魔王スカードにそっと手渡す。 それからしばらくして……。「成程、見事な資料だ。お前を信じようシツジイ……。ところで、シツジイが算出基礎で用いているものは数年前のデータであろうし、近年生産量が増えている可能性は?」「……斥候情報によるとここ数年、年々宝石の生産量が少なくなっていると聞いております。メインで採掘している場所については、体積的に考えて枯渇することはあっても多くなることはないと思いますが」 シツジイは今度は魔王スカードにファイラスから極秘で入手した、アグール火山の見取り図とそこで発掘しているメインの発掘場のポイント図を提出する。「……成程、宝石自体いつか枯渇するものであるし、急に増える理由はないか…&hel
「思い起こせば今まで、行軍中に何も無かったのがそもそもの罠の一つだったようです……」 「……ふむ、お前の言葉確かに間違いでないし、俺もそのように感じていたところだ。早い話がこの俺のミスであり、お前達を咎める事は一切ない。だから遠慮なく続きを語ると良い……」「そ、それは違います! 魔王スカード様が悪いのではなく、このサイファーめが至らなかったのがそもそものミスなのです! どうか、どうかこのサイファーめに罰をお与え下さいっ!」 サイファーは魔王スカードのその言葉に心を心底痛め、スカードを庇うように弁明していく。「ふふ、良い。確かにお前が進言した内容は事実。だがな、それを聞いたこのスカードが最終判断を下したのだ。だからお前は気にすることはない……」 「う、うう、す、すみませぬ……」 腹心サイファーはその大きな体で地面に土下座をし、魔王スカードにひたすら平謝りをする。 その様子を見ていたザイアードの伝令兵はなんとなく流れを理解し、サイファーの為にも話を続けることにした。「あれは、数時間前のこと……。俺達ザイアード兵は霧が深いルモール森林をひたすら前進していました。森林の中は更に霧が濃くなり隣の兵の存在くらいしか確認できない状態でした……」 「そうだな……。俺の魔力感知にひっかからないところを見るとこの霧は自然発生したものだろう……」「で、ですよね。俺も先ほど色んな感知魔法を使って、周囲探索をしていましたが何も怪しいところは発見出来ていません!」 ただひたすらに忠臣であるサイファーは慌てて立ち上がり、魔王スカードに歩み寄り、そのフォローする。「い、異変に気が付いたのは高樹齢の大木が見え始め道の分岐が激しくなり、各々がバラけ行軍していたころでした」 「ふむ、続けよ」 ザイアード兵は震えながら続きを語って行く。 恐らくその時の様子を思い出し、恐怖におののいているのだろう……。 魔王スカードはザイアード兵のその様子を見ながら現在の心理状態を冷静に分析していた。「しばらくして、再び合流した時に結構な数の兵がいなくなっていることに気がつき……」 「まるで神隠しだな……」「じ、情報を共有させるために他の兵と、か、会話しようとしたところ……」 「……ところ?」「こ、声が出なかったのです……。入り口からしばらくはいった場所までは声が出せて