藤宮夕月(ふじみやゆづき)は娘を連れて、急いでホテルに向かった。すでに息子の5歳の誕生日パーティーは始まっていた。橘冬真(たちばなとうま)は息子のそばに寄り添い、ロウソクの暖かな光が子供の幼い顔を照らしていた。悠斗(ゆうと)は小さな手を合わせ、目を閉じて願い事をした。「僕のお願いはね、藤宮楓(いちのせかえで)お姉ちゃんが僕の新しいママになってくれること!」藤宮夕月(ふじみやゆづき)の体が一瞬震えた。外では激しい雨が降っていた。娘とバースデーケーキを濡らさないようにと傘を差し出したが、そのせいで自分の半身はずぶ濡れになっていた。服は冷たい氷のように張り付き、全身を包み込む。「何度言ったらわかるの?『お姉ちゃん』じゃなくて、『楓兄貴(かえであにき)』って呼びな!」藤宮楓は豪快に笑いながら言った。「だってさ、私とお前のパパは親友だぜ~?だからママにはなれないけど、二番目のパパならアリかもな!」彼女の笑い声は個室に響き渡り、周りの友人たちもつられて笑い出した。だが、この場で橘冬真をこんな風にからかえるのは、藤宮楓だけだった。悠斗はキラキラした瞳を瞬かせながら、藤宮楓に向かって愛嬌たっぷりの笑顔を見せた。「で、悠斗はどうして急に新しいママが欲しくなったんだ?」藤宮楓は悠斗の頬をむぎゅっとつまみながら尋ねた。悠斗は橘冬真をちらりと見て、素早く答えた。「だって、パパは楓兄貴のことが好きなんだもん!」藤宮楓は爆笑した。悠斗をひょいっと膝の上に乗せると、そのまま橘冬真の肩をぐいっと引き寄せて、誇らしげに言った。「悠斗の目はね、ちゃーんと真実を見抜いてるのさ~!」橘冬真は眉をひそめ、周囲の人々に向かって淡々と言った。「子供の言うことだから、気にするな」まるで冗談にすぎないと言わんばかりだった。だが、子供は嘘をつかない。誰もが知っていた。橘冬真と藤宮楓は、幼い頃からの幼馴染だったことを。藤宮楓は昔から男友達の中で育ち、豪快な性格ゆえに橘家の両親からはあまり気に入られていなかった。一方で、藤宮夕月は18歳のとき、藤宮家によって見つけ出され、家の期待を背負って、愛情を胸に抱きながら橘冬真と結婚した。そして、彼の子を産み、育ててきたのだった。個室の中では、みんなが面白がって煽り始
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