霧湧村村長の話。 霧湧村の村長は日村浩一という名前だ。まだ、四十代で日本国内を見回しても、比較的若い世代に属する政治家だろう。実際に会ってみると温厚質実そうな人物だった。 過日に捕まえた泥棒に、月野美良の事を質問にしてくれるように、警察に掛け合ってくれたそうだ。市井の人間ならばともかく、村の責任者に頼まれたら、警察も無下には出来無い様で、質問したそうだが『そんな女は知らない』と言われたらしい。 ただ、泥棒一味が遭遇した不可解な出来事の様子を聞かせて貰ったそうだ。 以下は泥棒の頭目と目される金田崇の話。 時刻は深夜の三時ぐらい。今まで虫の鳴き声と風の音ばかりだった暗闇に、唐突にその音が混ざり込んできた。ザッザッザッと無言で歩く三人の男たち。手には懐中電灯、背中にはナップザック。ナップザックからはバールのような物が顔を覗かせている。 日本の仏像や神具は海外で高く売れる。骨董的価値の高い、古い仏具が丁寧に手入れされ保管されているからだ。しかも、警戒心が無いのか容易く侵入が出来て、仏像などを持ち出すのは造作の無い仕事だ。「クソがお似合いの田舎っすからね」 尾栗哲佑(おぐりてつひろ)が言うには、此処には防犯装置など無いし、住職や神主も不在だと言われている。「この国はマヌケが多いからな」 リーダー格の金田崇(かねだたかし)がほくそ笑みを浮かべながら同意している。「売りさばいたら外国に逃げちまえば追跡しないからな」 子分の木下靖男(きのしたやすお)が愛想笑いをうかべている。 最初は毛劉寺(もうりゅうじ)に忍び込み、まんまと観音菩薩を手に入れた泥棒一味は、次に毛巽寺(もうそんじ)に忍び込んだ。ところが泥棒たちは、お目当ての仏像が無くなっているのに気が付き憤慨していた。何しろ毛劉寺にあった観音菩薩像は、一目で昭和の時代に作成されていると判る代物。闇市場で高く捌けるはずがない。 先日、下調べをした時には、毛巽寺の本堂には江戸時代に作られたという、古い仏像が納められていたのを目撃していた。ところが中に入ってみるともぬけの殻だった。仏像はおろか木魚すら無かったのだ。「どういう事だ!? ああっ?」 泥棒団のリーダーである金田が尾栗に詰め寄った。「せ、先月来たときには確かに仏像が在ったんだっ!」 尾栗がその時の模様を伝えた。 しかし、彼らの行動は村人に
Huling Na-update : 2025-02-21 Magbasa pa