誠は一冊の冊子を取りだして来た。「先生がいらっしゃる聞いて、村の長老から郷土史を借りてきました。 ご参考までにどうぞお読みください」 最初のページに粗筋みたいにまとめられている概略が載っていた。 それによると、霧湧村は江戸時代の初期に入植地とされたそうだ。それまでは猟人や修行僧ぐらいしか住み着いていなかったらしい。最初は酷い土地だったと、寺の人頭帖に書かれている。江戸の中頃まで碌に作物が育たず、村は極貧で飢饉に苦しめられていたとも書かれている。 そして、食べるのに困った親たちが、子供たちを連れて行く森があった。村から山に入って少し離れたところだ。そこで親たちは子供を手に掛ける。絶命したら山に遺体を埋めて村に帰り、村の者たちに子供が神隠しに遭ったと触れ回る。村の者も事情は似たようなものなので、何も知らぬふりをして神隠しの噂だけが残った。昔はそういう悲しい出来事があったとも書かれている。 ある時、旅の途中の坊さんにどうすれば良いのかを聞いた所。五穀豊穣を願うウテマガミ様を祀る儀式を教えられた。最初は旨くいったらしいのだが、ウテマガミ様の力が強すぎて村人が力に当てられてしまう…… つまり、発狂してしまう者が出てしまった。それで鬼門の方角に寺を建立して、力の強すぎる神様に対する結界としたらしい。「中々、興味深い郷土史ですね…… これは、美良は読んでいるのでしょうか?」 冊子から顔を上げた雅史は誠に尋ねた。「いえ、美良さんはお持ちじゃないです。 村の長老の所に尋ねた時に、東京から学生さんが来たと話したら、こういう冊子があるから大学に送ってやれと頂いたのです」 誠が冊子に付いている、村の地図を指差しながら答えた。「村の長老と言うのは、何と言う方なのですか?」 雅史は地図を見ながら尋ねた。「伊藤力丸という、ちょっと頑固な爺さんですよ。 明日、時間があるようなら尋ねてみますか?」 誠は欠伸をかみ殺す様に言っていた。もう、眠いらしい。「はい、ぜひお願いします」 雅史は頭を下げて頼んだ。「それでは手間をお掛けして申し訳ありませんが、美良の足跡を地図に示して貰えると助かります」 雅史は手元の地図を広げて見せた。「それも良いですが、明日は一緒に回りましょう。 これも何かの縁ですから、何かお役に立てそうなことなら何でもどうぞ」 誠は意外な提案をしてき
最終更新日 : 2025-02-11 続きを読む