All Chapters of かみさまのリセットアイテム: Chapter 51 - Chapter 60

65 Chapters

第28-2話 仄かに光る

「…… 円周率だよね……」 祭りを黙って見学していた姫星は唐突に言い出した。「え? え? 何が??」 雅史が聞き返した。雅史は男たちの仕草が、どうウテマガミを敬う事に為るのかを考えてたのだ。棒で地面を叩くのは、大地に残った穢れを祓うのだとしても、それを繰り返す意味が分からなかった。「神御神輿の時に地面を叩くじゃないですか?」 村の男たちがやっていた仕草をまねて、姫星は地面を叩く仕草を行った。「ああ…… ? 」 雅史が頷いた。まだ、姫星の言っている事がピンと来ないのだ。それに無言で黙々と地面を叩くさまは、ちょっと不気味だったのだ。「その叩く回数が円周率なんですよ。 3141592653589793…… と、続いているの」 姫星はスマフォで撮影した動画を再生しながら数えていた。「あっ、円周率は学校で習いました…… そう言われてみればそうですね」 誠が続けて言った。物心付いた時から、ずっと行っていたので、特に不思議には思っていなかったらしい。「円周率ねぇ…… 無理数を数えさせる為なのかな……」 姫星のヒントを受けて、雅史がある可能性を思いついた。「無理数?」 誠が聞き返して来た。日頃使う計算で無理数など聞いた事が無い。無理からぬことだ。「はい、正解が出て来ない計算結果の事です。 無限に数が出て来るので無理数と呼ばれています」 他にも平方根などが無理数であると説明した。「なんで、無理数が関係するの? それに、どうして昔の人は円周率を知っていたの?」 だが、姫星は無理数とウテマガミ様との関係が分からない。それより昔の人が円周率を知っていた事の方が驚きだった。農業にも狩猟にも円周率が関わり合いになるとは思えなかったからだ。「ん? …… 普通、考え事をする時って立ち止まるじゃないですか?」 雅史が二、三歩動き、腕を組んで片手を顎に当てて、考える人の振りをして止まった。「そうですね……」 誠がぼんやりと答えた。まだ、意味が繋がっていないようだ。「あっ、神様が無理数を数えている時には、神様は他所に行けなくなっちゃうんだね」 姫星が閃いた。「つまり、その間は現在地に留まって豊穣の恵みを下さると…… あ、なんとなく判るかもしれないです」 誠が手をぽんっと打つ真似をした。納得がいったようだ。雅史は姫星の模範的な答えにニッコリしながら頷
last updateLast Updated : 2025-03-28
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第29-1話 裏切り

霧湧神社 月野姫星が姉が居ると言ってきた。宝来雅史はそちらを見たが発見出来なかった。「どこにいるの?」 雅史は姫星に訊ねた。「あそこに…… あれ?」 姫星が指差す方を見たが美良はいなかった。村人たちが祭りの後片付けを見ているだけだった。更に雅史は周りをキョロキョロと見回したが、美良の姿は見えない。”見間違いじゃないのか?”と言おうとしたら先に姫星が喋り出した。「でも、お気に入りの水色のワンピース着ていたよ」 姫星が雅史の方を、ちょっと見た隙に美良は見失っていたのだ。姫星は背伸びしてキョロキョロと見回している。「…… それなら知っている。 僕が買ってあげた奴だ」 誕生祝に何が良いのかと、尋ねた時に美良がねだってきたものだ。一緒にデパートまで行って選んだのを覚えている。美良の買い物は多くの女性がそうであるように、とてもとてもとっても長い。雅史は女性の買い物に付き合うのは苦手だった。「おねぇに買ってあげたワンピース…… 私も欲しい……」 姉大好き少女の姫星は、小さい頃から姉の物を何でも欲しがる。美良がクスクス笑いながら、困り顔で言っていたのを雅史は思い出した。「ええ?!…… そ、その話は後で…… ちょっと山形さんに聞いてみるよ」 もう一度森の方を見てから、雅史は山形誠に聞いてみる事にした。「山形さん。 ちょっとすいません」 雅史は村の若い衆と話し込んでいる誠に声をかけた。祭りの後片付けの手順を説明しているらしかった。「はい、なんでしょうか?」 若い衆は祭りの後かたずけをするために立ち去った。誠は結果はともかく無事に終了して安心したようだ。「すいません。 姫星が祭りの最中に、姉を見かけたと言っているんですが……」 雅史は誠に訊ねた。「んー? 美良さんが村に来てるなんて聞いてませんよ」 誠はニコニコしながら答えた。「こんな小さな村ですから、誰か来たら直ぐに噂が広まりますしね」 確かに村人ネットワークの情報伝達速度は驚異的だった。それは力丸爺さんの家を訪ねた時に証明されている。雅史はそれもそうだなと頷いていた。「それに水色のワンピースでは、夜中には判別しづらいでしょう。 薄暗いですし…… 見間違えでは無いですか?」 それもそうかと雅史は思った。確かに夜中だし灯りは祭りの会場以外には設置されてない。その灯りも松明の炎だ。「……
last updateLast Updated : 2025-03-29
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第29-2話 遠吠え

 雅史は最初に力丸爺さんに、石塚のことを聞いたときに『誰も居ない』と即答されたのを思い出した。 それは、すでに観印が現れていて、中の人物を出した後だったからだ。 だから、観印は『今は』現れて無いと言ったのだし、中に人は居ないと言えたのだ。 力丸爺さんは言葉を失って俯いてしまった。その目には哀しみが浮かび始めた。孫の様に可愛い姫星に嫌われる事が余程悲しいのだろう。 姫星は村長の日村の方に向きを変えた。「私がお寺で気分が悪くなったのも、特殊な音をお寺のスピーカーから流していたからなんでしょ?」 霧湧神社に設置されている、監視カメラに付属していたスピーカーを姫星は思い出していた。建物の外に出ると不快な気持は治まった。ならば、原因はスピーカーであるはずだからだ。「そして、私の体調が悪くなるようにして、家に帰らせようとしていた…… 違いますかっ?!」 姫星は凛として日村に対峙している。村の人は美良を連れて帰られては困る事情があるらしい。しかし、無碍にも出来ない事情があるらしい。だから、姫星の体調不良を演出しようとしたのであろう。「…………」 日村は姫星を見つめたまま押し黙っていた。この状況をどう打開するか方策を考えているようだ。 その時、木と木の間を黒い影が横切って行ったような気がした。 村の中を回っていた時に感じていた視線。姫星は確信していた。「おねぇちゃんっ! いるんでしょっ?! ずっと私たちを付け回していたじゃないっ!!」 姫星が暗闇に向かって叫んだ。しかし、闇夜は姫星の声を押し包み、森には静寂が広がっている。「……」 唇を噛み締めた姫星が、一歩踏み出そうとするのを雅史が肩を掴んで止めた。「……お待ちください。 ……私から御説明させてください」 日村が横から進み出て来て雅史たちに言った。 気が付くと雅史と姫星の周りを村人たちが取り囲まれている。話に夢中になる余り気が付かなかったのだ。 村人たちは無言・無表情で雅史と姫星を見つめている。薪が火で爆ぜる音が、パチパチと聞こえるだけで、静かな空気が流れていく。かがり火に照らし出される無表情な顔が一層威圧感を増していた。(かなり、不味い立場にいるみたいだな……) 雅史は姫星を自分の背後に隠す様にして、ぐるりと周りを見渡して状況の打開策を思いあぐねていた。 誠の話しぶりからして、美良
last updateLast Updated : 2025-03-30
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第30-1話 不可侵領域

日村の自宅 村の中心付近にある日村の自宅。 宝来雅史と月野姫星は応接間に通されて日村の説明を待っていた。 応接間には対面式の応接セットがあり、日村が一人掛けに座って居る。二人掛けのソファーには、雅史と姫星、山形誠と伊藤力丸爺さんという組み合わせで、座って居た。 そして日村の後ろには村人が十人程来ている。本当は祭りに来ていた村の全員が、来ると言っていたが日村が止めたのだ。「恐らく村長の家に匿われていると思う。 僕が村長たちを引きつける。 その隙に美良を見つけるんだ」 雅史は小さな声で、姫星に美良の探索を頼んだ。「うん、分かった。 まさにぃも気を付けてね」 姫星は頷きながらそっと答えた。「実際に連れ出すのは僕がやるから無茶はしないでくれ」 雅史は暴走気味な姫星の性格を心配していた。「だーいじょぉーぶよぉー…… たぶん」 クスクスと姫星が笑った。 すると『ヴォォォ~~~ン』と狼のような遠吠えがまた聞こえた。それと共に机の上に在った湯呑みが震える。震えると言っても、湯呑みに入っているお茶に、僅かな水紋が丸く広がるだけだ。普段なら見過ごしているだろう。 だが、室内にいた誰もが、その兆候に気がついた。 しかし、今は村長に真実を告白させるべく対峙している時だ。「ウテマガミ様の観印かもしれんな……」「お怒りのようじゃ」「『神御神輿』も失敗してもうたしな……」「どうするんじゃ」 老人たちがそうヒソヒソと話をしていた。日村の家にやって来てから三十分近く経過してしまっている。「そろそろ話して貰えないですかね?」 村長は両手を握りあわせたまま、押し黙っている。その眉間に刻まれた深い皺が苦悩を物語っていた。「あの娘は選ばれたんじゃ」 不意に伊藤力丸爺さんが口を開いた。「何にですか?」 美良が日村の家に居るのは分かっている。しかし、相手が素直に逢わせないのも分かっていた。「ウテマガミ様にじゃ」 力丸爺さんは事も無げに言った。「何、馬鹿な事言ってるんですか、単なる拉致・監禁でしょうがっ!」 雅史は努めて冷静になろうとしていた。「待ってください。 私たちは美良さんを拉致・監禁などしていないですよ?」 日村が雅史を制するように手を広げて答えた。「長老の力丸爺さんがある日突然、コケシ塚の蓋を開けろと言って来たんだ。 それで開けて見たら
last updateLast Updated : 2025-03-31
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第30-2話 茶碗の欠片

「ですから、大学の方に手紙を出して『ご家族と連絡を取りたい』と、仲介の依頼をしようとしている所に、宝来先生がお見えになったんです」 今の学校は、個人情報の取り扱いに非常に慎重なっている。警察ですら中々信用して貰えないと言われている。その為に郵便を使って連絡を付けようとしていたみたいだ。「電話すれば済む事ではないでしょうか?」 今は、山奥の霧湧村ですら携帯電話が使える時代だ。美良が事前に大学名を言っているのなら、大学のHPなどで調べる事が可能だったはずだと雅史は言いたかった。「片田舎の村の村長がいきなり大学に電話して、個人情報を教えろと言って教えてくれますか?」 日村の言い分も的得ている。大学は女子学生の個人情報は第三者に漏らさない。「…… んー、無理ですね」 雅史は同意した。さすがに自分の大学の事は良く知っている。公的な書面でなければ応じないはずだった。「それで宝来さんがお見えになったと、月野さんのお姉さんに言ったのですが『追い返せ』と仰ったんで……」 郵便使って信用してもらえるかは不明だが、家族へ連絡はしてもらえると日村は考えていたらしい。「…… 言うとおりにしたと?」 雅史は、美良がどうして自分を追い返そうとしたのか理解に苦しんだ。「…… はい」 日村が頷いた。(折角、巫女になってくれると言うのに逆らって心変わりされたら困るって事か……) 村人たちも一緒になって騙す事に加わった理由もそこなのだろう。 だが、『何、説得されてるの?』というような顔付きで雅史を姫星は睨み始めた。「どちらにしろ、彼女は一旦連れて帰ります」 姫星の視線に気が付いた雅史は、美良を連れて帰る事を告げた。「あ、あんたらは居なくなるから、気楽に言えるんだ」 一緒に来ていた青年が言い出した。「この村を出ていけない俺らには他に道なんか無いんだよ」 もう一人の中年の男性も同意して言い出した。「彼女が巫女をやりたいのなら、彼女の口から御両親を説得するべきなんですよ」 雅史は美良が巫女をやる事に反対では無かった。ただ、何も相談せずに勝手に巫女になると決めた事には腹を立てている。ヴォォォ~~~ン また、遠吠えが聞こえた。「近づいている? いや、違うな…… 探しているのかっ!?」「あんた達が来たからだろう、それからずぅっと変な事ばかり起こっている」 
last updateLast Updated : 2025-04-01
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第31-1話 筋を通せ

日村の自宅。 日村にトイレは部屋を出て左手にあると言われた。しかし、姫星はそんな事には構わずに家の奥に行こうとした。「お手洗いは反対側ですよ」 ところが、日村家のお手伝いさんに行く手を阻まれてしまった。二階に行こうかと思ったが、階段の上にもお手伝いさんが居る。どうやら家の中を探られると不都合な事があるらしい。 行動を制限されてしまった姫星は、仕方なしにトイレに行った。何気なく見たトイレの窓から、裏庭に不釣り合いな青いビニールシートが見える。ピンと来た姫星は、玄関からそっと抜け出して裏庭に周り。青いビニールシートをめくってみた。「おねぇの車だ…… 買ってあげた刀人形がぶら下がっている」 日村の家に居るのを確信した姫星は、きっと家の奥に居るのだろう目星を付けた。日村家のお手伝いが見張っていたのが証拠だ。後はどうやって、美良の元に行くかを考えるだけだ。ヴォォォ~~~ン 今度は遠吠えがはっきりと聞こえる。地面を揺らしながら近づいてくるような音だった。「近付いてくる?!」 誰もがそう思った。 次の瞬間。凄い地鳴りがして村長の家が揺れた。大体二秒ぐらい続いて振動して急に静かになった。「ウ、ウテマガミ様がお怒りだ……」 室内に居た誰かが怯えたように声を出した。室内をホコリが舞い降りて電灯が少しだけ揺れていた。「あ、あんたらが無理に連れて行こうとしているからだっ!」 先程の若者が怒った口調で怒鳴っている。 怪音は地面から聞こえて来ている感じだ。豪華客船の汽笛が鳴っているような感じで、時々音源が地面の中を移動しているかのようだ。(地割れが起きるんじゃないか? この村全体の地面の下で、なにか地下水の流れが変わったとか、心霊現象より現実的に大変なことが起きるかもしれない) 雅史は現実的にあり得る可能性を考え始める。「兎に角。 彼女のご両親が心配しております。 一度、連れ帰らせていただきます」 雅史は日村に宣言した。「それは困ると言っているでは無いか!」 村長の横には村の若い衆が何人か一緒に来ていた。その中の一人がいきり立っているのだ。「彼女が巫女をやるということに反対してるのでは無いのですよ。 彼女がそうしたいと言うのであれば、僕は全面的に協力すると言っておきます」 これは嘘では無い。雅史は美良が巫女をやるために、村に移住するというのであ
last updateLast Updated : 2025-04-02
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第31-2話 微笑む者

「おねぇちゃんの所に案内してください。 出来ないと言うのなら自分で行きます」 姫星は自分の隣に居た日村の奥さんに、姉の所まで案内してくれるように頼んだ。 日村の奥さんは困った顔をして日村を見返した。日村は仕方が無いと言う感じで頷く。「こちらへどうぞ……」 色々と不慣れな悪巧みはしているが、所詮は人の良い村人だ。姫星の希望はすんなりと案内されていった。 やはり、美良は日村の家に居たのだ。 月野美良(つきのみら)は日村宅の奥の部屋に居た。そこは客間らしく広さは十畳はあろうかという洋間である。姫星が案内されて室内に入ると、美良は窓から外を見ている所だった。「おねぇっ!」 姫星は美良に向かって抗議するように叫んだ。姫星に気が付いた美良はニッコリと微笑んでいる。「……」 姫星は泣きながら美良の胸に飛び込んでいった。「…… ずっと、ずっと心配してたんだよ……」 いつもそうしてくれるように、美良は姫星の髪を優しく撫でてくれている。 優しい姉は、久々に会った妹の頭を撫でながらニコニコしていた。「…… ? ……おねぇ? ……ちゃん??」 姫星は美良の顔を覗き込んで小首を傾げた。何かが違うのだ。 雅史は日村を追求したい気がしたが、今は堪える事にした。三人で無事に帰宅する事を最優先にしているのだ。犯人や動機の追及は雅史の仕事では無いし興味も無い事だった。ヴォォォ~~~ン 心なしか音の間隔が狭まっているような気がする。先程のような大きな揺れは無いが、小刻みな揺れならばある。 そして、怪音は日村の自宅を中心にぐるぐる回ってる様な気がしてきた。北バイパス道路。 警官たちは事故の現場検証の手伝いをしたり、遺体搬出後の後処理をしていた。事故の現場検証が済んでも彼らがお役御免になる事はまだない。事故の時に壊されたガードレールをかたずけたり、遺留品を片づけたりと忙しいのだ。 しかも、事故を目撃しているので、その調書も作らなければならない。それらが全て終わったら、やっと帰宅できるのだ。「明日の朝一でクレーンを手配して車を引き揚げましょうとの事です」 一緒に来ていた若い警官がベテランの警官に声を掛けて来ていた。「じゃあ、朝までここに居る事に為るのか…… めんどくさいな、ったく」 鎮火したとは言え、事故車にはガソリンが残っている。万が一にでも、事故車が再
last updateLast Updated : 2025-04-04
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第32-1話 無数の気泡

 もう少しで夜明けという頃。日村家での話し合いは平行線で夜明け近くになってしまった。 宝来雅史は、このまま日が出るのを待って、月野姫星が見つけた月野美良の車で帰宅しようと考えていた。ここで目を離すと違う家に匿われてしまいそうだからだ。この村の人たちが、そこまでするとは思えなかったが念の為だ。 姫星は姉に会いに行くと言って奥の部屋に行ったままだった。恐らく寝ているのだろう。 その頃、村では違う騒動が起こっていた。上空で謎の光が目撃されているのだ。 雅史も山が光るのを見ていたが、早起きの村人たちが見たのは、雲が光って見えているのだ。夜明けの太陽が照らしているのかと思ったが、光っている雲と太陽は方角が違う。「ウテマガミ様が祭りの不始末を、お怒りなのではないか?」「やはり、もう駄目なのかもしれんな……」「地震の前触れではないのか?」 そこでウテマガミ様が、雲を光らせているのではないかと、話が独り歩きし始めていた。そのざわめきは瞬く間に村全体に広がって行く。 早朝にも関わらず、役場に電話する者もかなり居た。 『神御神輿』が失敗に終わり、ウテマガミ様の祟りを本気で信じているらしい。中には村から脱出しようと荷造りを始めた家もあった。「……雲が光っている?」 役場には当番の役人が居る。村人からの問い合わせの電話がひっきりなしに掛かって来ていると報告して来た。その電話を受けた日村は困惑してしまっているのだ。 日村の電話応答を聞いていた雅史は、居間の窓に寄って空を見上げた。ボンヤリとだが光っているのが分かる。 ある研究では、玄武岩や斑糲岩に含まれている細かい水晶などが、地盤変動で受けるストレスで放電することが判明している。 放電で発生した電荷は互いに結びつき、一種のプラズマ状態になる。蓄えられた電荷は大気中へ向けて放電され、雲に含まれる水の分子と反応して光って見えている。 『破壊発光効果』と呼ばれている現象だ。この現象は、大地震が発生した各地で観測されている。「なんだ? あれ??」
last updateLast Updated : 2025-04-05
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第32-2話 終焉の合図

ヴォォォ~~~ン 唐突に大きな怪音が響き、日村の家がミシミシと音を立てて揺れ出した。昨夜からの怪音騒ぎが無ければ地震と間違えてしまう程だ。余りの揺れに、雅史のバッグが椅子から落ちて中身が、居間の床に散らかってしまった。(ああ、しまった…… え?) 雅史は慌ててバックの中身を、鞄に戻そうとしたが、ある物を見つけて固まってしまう。 コンパスだ。 雅史のコンパスが、床の上に鞄の中身と一緒に落ちていた。しかも、コンパスの針が北を示さずにゆっくりと回っている。普通は一度方角を示したら動かないものだ。そうしないとコンパスの意味が無い。(なんなんだ? コンパスの針がクルクル回ってるじゃないか……) また、『磁気異常』という不可思議な現象が発生していると考えた。この事実に霧湧神社で気づいた時には、コンパスの針は十度ほど針のズレだけだったが、今見ているのはフラつきなどと言う現象では無い。 恐らく磁気を帯びた『何か』が地下で動いている。そう考えるのが合理的だ。「…… まずいな……」 雅史は昨日の昼間に見た、空き家が地面に吸い込まれる現象を思い起こしていた。地下に何らかの原因があるに違いない。「昨日の空き家のように、この建物が崩れる可能性があります。 全員を表に避難させてください」 突然の事に驚き、天井に下がった揺れる照明器具を見ていた日村は頷いた。原因の究明の前に、まずは生きている人間の保護が先だ。どこが安全なのかは不明だが、少なくともこの建物よりはマシだと雅史は考えたのだ。「さあ、みんな一旦外に出るんだ」 そう、日村が声を掛けた。雅史が忠告するのは、危険が差し迫っているのだろう判断したのだ。室内に居た村人たちは全員バタバタと外に出始めた。「美良と姫星はどこですか?」 連れ出すのなら今のタイミングしかない、そう考えた雅史は日村に尋ねた。「部屋を出て左、廊下の一番奥です」 日村は居間にある
last updateLast Updated : 2025-04-06
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第33-1話 山体崩壊の始まり

日村の自宅 いつの間にか夜明けの時刻になっていた。宝来雅史は日村の自宅に居る。婚約者の月野美良も、日村の自宅に居る事が分かって、ひと安心したい所だ。だが、日村の自宅が崩れる危険が差し迫っていた。 雅史は家の奥座敷に居る美良を迎えに来ていた。何の事はない、ずっと同じ村にいたのだ。 部屋に入った時。美良は水色のワンピースを着てソファに腰掛けていた。「美良っ!」 雅史を見た美良はニッコリと微笑んだ。そして、美良の膝に頭を乗せて姫星がスヤスヤと寝ていた。美良は、そんな姫星の頭を優しくなでていた。「美良…… 無事で良かった…… とにかく一旦、外に出よう。 この家が崩れそうなんだ」 美良はニコニコしている。色々と聞きたい事があるが、今は逃げる事が優先だ。「美良…… だよね?」 雅史は一瞬見とれてしまった。見間違うはずが無い、どう見ても『月野美良』だ。ギ、ギギィィィッ…… 日村の家が歪み始めた。天井から埃がパラパラと落ちてくる。天井を睨んだ雅史は焦った。「姫星。 姫星っ! 起きてっ!」 雅史が美良の膝で寝ている姫星の肩を揺すった。「もう…… 朝ゴハンなの?」 姫星は寝ぼけているようだ。美良はそんな姫星をニコニコしながら見ていた。「逃げよう、この家に居ちゃ駄目だ」「ふぁっ?!」 雅史は美良の手を引いて立ち上がらせ、姫星を押し出すようにして部屋を出た。ヴォォォ~~~ン 雅史たちが家の玄関から出てきた時に地鳴りが一際大きくなった。地面も揺れている。そして、それが合図だったかのように、霧湧村を囲んでいる山々が震え始めた。 やがて、ドロドロゴロゴロと重低音が鳴り始めた。山の崩壊が始まったのだ。「山から煙が出てるぞ」「なんだあ?!」「山が動いている!!」 みんなが山を指差している
last updateLast Updated : 2025-04-07
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