「…… 円周率だよね……」 祭りを黙って見学していた姫星は唐突に言い出した。「え? え? 何が??」 雅史が聞き返した。雅史は男たちの仕草が、どうウテマガミを敬う事に為るのかを考えてたのだ。棒で地面を叩くのは、大地に残った穢れを祓うのだとしても、それを繰り返す意味が分からなかった。「神御神輿の時に地面を叩くじゃないですか?」 村の男たちがやっていた仕草をまねて、姫星は地面を叩く仕草を行った。「ああ…… ? 」 雅史が頷いた。まだ、姫星の言っている事がピンと来ないのだ。それに無言で黙々と地面を叩くさまは、ちょっと不気味だったのだ。「その叩く回数が円周率なんですよ。 3141592653589793…… と、続いているの」 姫星はスマフォで撮影した動画を再生しながら数えていた。「あっ、円周率は学校で習いました…… そう言われてみればそうですね」 誠が続けて言った。物心付いた時から、ずっと行っていたので、特に不思議には思っていなかったらしい。「円周率ねぇ…… 無理数を数えさせる為なのかな……」 姫星のヒントを受けて、雅史がある可能性を思いついた。「無理数?」 誠が聞き返して来た。日頃使う計算で無理数など聞いた事が無い。無理からぬことだ。「はい、正解が出て来ない計算結果の事です。 無限に数が出て来るので無理数と呼ばれています」 他にも平方根などが無理数であると説明した。「なんで、無理数が関係するの? それに、どうして昔の人は円周率を知っていたの?」 だが、姫星は無理数とウテマガミ様との関係が分からない。それより昔の人が円周率を知っていた事の方が驚きだった。農業にも狩猟にも円周率が関わり合いになるとは思えなかったからだ。「ん? …… 普通、考え事をする時って立ち止まるじゃないですか?」 雅史が二、三歩動き、腕を組んで片手を顎に当てて、考える人の振りをして止まった。「そうですね……」 誠がぼんやりと答えた。まだ、意味が繋がっていないようだ。「あっ、神様が無理数を数えている時には、神様は他所に行けなくなっちゃうんだね」 姫星が閃いた。「つまり、その間は現在地に留まって豊穣の恵みを下さると…… あ、なんとなく判るかもしれないです」 誠が手をぽんっと打つ真似をした。納得がいったようだ。雅史は姫星の模範的な答えにニッコリしながら頷
Last Updated : 2025-03-28 Read more