それは、ある夏のかなり暑い日の出来事だった。 いつものように大学へ行くため、わたしは電車に乗っていた。 時間は朝8時15分、満員電車の通勤ラッシュの時間帯だった。 その日は友達と遊びに行く約束もしていたため、いつもよりも薄手の格好をしていた。 そう満員電車だから、乗れるわけもなく、通学時間40分ずっとたちっぱなしだった。 そして電車に乗り始めて10分後くらいだった。゛それに゛気付いたのは。 わたしのお尻に、サワサワと何か違和感があった。 ……これってもしかして。―――え、痴漢? その予感は、的中した。 だけどこんな満員の電車の中で、声も出せる訳もなくて……。 できることならいっそのこと、今すぐその手を掴んで「この人、痴漢です!」って口にしたい。 だけど、こんな状況で、口に出来る訳がない。 そう思った時だった。「ゔっ……!?」「すみませ。この人、痴漢です!」「……えっ?」 急にその手が離れて、違和感が無くなった。 振り返って後ろを見ると……。 痴漢していたおじさんの右手を掴んでいたのは、背の高いスラッと人だった。 ……わっ、イケメン。 そして駅に着いた途端、彼はおじさんの手を掴んだまま電車から引きずり降ろして、駅員さんに引き渡した。……た、助かった。 本当に怖かったし、声が出せないって辛いんだなと、改めて思ってしまった。 こういう時、ちゃんと言える人だったら良かったのにって……思ってしまった。 わたしも急いで電車を降りて、助けてくれたあの人の所へと走った。「あっ、あの……!」「ああ、大丈夫?」「は、はい!あの……助けてくださって、ありがとうございました」「いや、別に」 その人は本当にイケメンな人だった。……会社員さんかな?「本当に、なんてお礼をしたらいいか……!」「気にしないで。何もなくてよかったよ」その人は、優しく微笑んでそう言った。「あ、あの…」「ん?」「本当に、何かお礼させてもらえませんか?」「いいって。本当に気にしなくていいから」「えっ、でも…」 痴漢から助けてくれたのにお礼もしないなんて……礼儀正しくない気がする。「……どうしてもお礼したい?」「は、はいっ。このままだと、わたしが申し訳ないので……」「そう?」「は、はいっ……その、迷惑でなければ、ですけど……」 だってこんな
Last Updated : 2025-01-25 Read more