*会いたい気持ちがあふれて事務所に行くことにした。少しだけ時間があるから、芽衣子のショールに包まれて眠りたい。しかしだ。事務所に行っても芽衣子は目も合わせてくれない。そして、ショールもかけてくれない。――冷たい。そう思いつつ目を閉じていると、若い社員が芽衣子に話しかけた。「先輩、合コン行ったんですよね? どうでした?」は?芽衣子……合コン行ったのか?まじかよ。かなりショックなんだけど……。なんで、俺から離れていこうとするのだろう。「声をかけてくれた人がいてね。いい人だったよ」「先輩、とても美人ですしね。男は放っておかないと思いますよ。デートの約束したんですか?」「あぁ……うん。お誘いしてくれたけどね」「職業は?」「弁護士なの」「いいな。じゃあ結婚も間近ですね! 美羽さんも、芽衣子さんも結婚かぁ」まんざらでもない様子。芽衣子は本気で俺と別れて、違う男と結婚しようと思ってるのだろうか?「合コンで知り合って結婚したってうまくいくわけないじゃん」思わず声に出してしまう。芽衣子はキーボードを打つ手を止めた。「合コンなんて、いい部分しか見せないだろうし。たった一回会っただけでその気になるなんて逆に怪しい。弁護士なんて口がうまいに決まってる」「言われてみれば……そうかもしれないですね」若い社員が納得したようにうなずいた。「……ありえないね」芽衣子は俺のことが好きなんだ。だから牽制したかったのかもしれない。「黒柳さんみたいに出会いがたくさんあるわけじゃないので」イラッとして静かな声で言い返す芽衣子。「俺だってべつに……」言い返そうと思ったが、周りの社員に怪しまれるから我慢した。そして、何くわぬ顔で出て行く。芽衣子。どうして、俺から離れていこうとするんだろうか。エレベーターホールを力なく歩いていた。こんなメンタルで仕事をするなんて辛すぎるんだけど。男性マネージャーが俺を見つけて追いかけてきた。「黒柳さん、探しましたよ。ったく、どこへ行ってたんですか……。早く行きましょう」「ごめん」次は雑誌のインタビューだ。何を聞かれても芽衣子と関連づけてしまいそうで不安だった。
最終更新日 : 2025-01-20 続きを読む