「芽衣子、イライラしてるみたいだから……帰るね」すっと立ち上がったリュウジを睨んだ。話し合う気もないのだろうか。私は真剣に言っているのに……。「もう、来ないで」「…………なんで?」「リュウジのマイペースな性格に付き合いきれない。私は、あなたとじゃなくて、言われた通り結婚したいだけなのかもしれない。……だから、婚活する」「…………ふーん。じゃあね」バッグを持ったリュウジが玄関に向かって歩き出す。立ち上がった私は「待って」と声をかける。「合鍵、返して」リュウジの背中に向かって手のひらを広げる。振り返ったリュウジは眉間に皺を寄せた。バッグに手を入れてキーケースを出す。「今は……大樹を祝福する時だと思わない?」「祝福してるわよ。あの二人が不幸になれなんて言ってない」合鍵を手のひらに置かれた。ひどく冷たい気がする。その鍵を見てリュウジを引き止めたくなった。ずっと側にいたい。けれど、リュウジには結婚願望がないのだ。「芽衣子、イライラすると呑み過ぎるから気をつけてね。おやすみ」いつものように頭をポンポンポンと三回叩く。「今まで、ありがとう」せめて最後は感謝の気持ちでサヨナラをしたいと思い、言葉を投げた。リュウジは眉毛を下げて困ったような表情を見せて家を出て行った。ドアが閉まった途端、私の瞳からは涙がこぼれ落ちた。自分で選んだ道なのだ。後悔してなんか、ない。これ以上一緒にいると苦しくて耐えられないだろ。私は、リュウジと過ごした五年間をリセットできるのだろうか……。
Last Updated : 2025-01-20 Read more