大樹side――私には過去にお付き合いしていた人がいないの。だから、別れても友達だなんて意味がわからない。その言葉を思い出しつつテレビ収録をしていた。仕事を終えて急いで帰る支度をする。正直に元カノだと伝えた俺がバカだったのかもしれない。たしかに高校時代に付き合っていたし男女の関係もあった。でも今は本当に友達としか思っていない。自分はそう思っていて、紗代はどう思っているのか考えたことはなかった。俺がライブで交際宣言をして結婚すると言ってから「会いたい」と頻繁に言われるようになった。深い意味はないと思っていたが、二人きりで会った夜に抱きついてきた。そして泣きながら「大樹との思い出をずっと引きずっていた」と言われたのだ。女というのは、よくわからない。紗代は新しい恋をして幸せだと言っていたのにな。「ただいま」家に戻ると部屋は真っ暗だった。食べ物が出来上がった匂いはするのに。不思議に思って、リビングの電気をつけるが美羽の姿はない。ベッドルームを見てもいない。「……美羽?」俺はだんだんと不安になりトイレやバスルームを確認するも、どこにもいなかった。「美羽!」時計を見ると二十三時が過ぎていた。こんな時間に一人でどこ行ったんだ?混乱しつつ電話をかけてみるとテーブルに置かれたままの美羽のスマホが鳴った。「嘘だろ……」美羽を失った日のショックが蘇り冷静でいられなくなる。俺は慌てて外に出るが右を見ても左を見ても姿はない。どこに行ったんだ?気持ちを落ち着かせようと思って駐車場に行き車に乗った。ハンドルを乱暴に叩く。「……美羽っ」不安にさせてしまったことに深く反省する。お願いだから、帰って来てくれよ。一人で歩いていたら危ない。変な奴に襲われてしまうかもしれない。早く、早く見つけなければ……!エンジンをかけた時、赤坂から電話が来た。「もしもし、今忙しい!」電話を切ろうとしたが赤坂は『美羽ちゃんなら、俺と一緒にいる』と言った。どういうこと?美羽が赤坂と一緒にいる?「はあ? 美羽を返せ」『人聞き悪いな。俺もう飲んだから迎えに来いよ』「どこだ?」『俺の家』その言葉を聞いて、想像を絶するほどの怒りがこみ上げてきた。俺の女に手を出そうだなんてたちが悪すぎる。電話を切って赤坂の家まで車をぶっ飛ばした。
Last Updated : 2025-01-19 Read more