All Chapters of 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない: Chapter 131 - Chapter 140

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続編 第一章 小さな嘘と遠慮8

「美羽、どうしたの?」「お腹……空いてない?」「お腹よりも美羽が欲してるかも。美羽を補給したいかな……」くすっと笑って大くんは、私の太腿に頭を乗せてくる。安心しきった顔で甘えてくれると素直に嬉しい。柔らかい栗色の毛を撫でる。芸能人はコロコロ髪型を変えるのだけど、大くんは何をやっても似合う。大くんは体を私のほうに向けてお腹に顔をこすりつけてくる。まるで子犬だ。こうやってじゃれ合っている時間は最高に幸せで、いつか消えてしまうのではないかと思うほどだ。得るものがあれば、失うものがあるような気がして不安だった。「ねぇ、大くん。やっぱり、働きたいな。パートでもいいし」「うーん……。ちゃんと指輪してくれるなら考えてもいいけど」「ダイヤのリングはハードルが高いもん」落としてしまったら大変だ。なるべく宝物のように大切にしまっておきたい。「じゃあ、シンプルなの買いに行こうか」「もったいないから、いい」大くんは起き上がってずっと私の瞳を見つめてくる。まるで獲物を仕留めるような百獣の王のような強い視線だった。いつも穏やかで可愛い顔しているのに急に男っぽい顔をすることがあるのでドキッとさせられる。「俺、独占欲が半端ないんだよね……。もしも、美羽に変な男がくっついたら頭がおかしくなっちゃいそう。美羽ってさ、優しいから言い寄ってきたら断れなさそう」笑いながら激しい束縛めいたことを言うのが、大くんらしい。心配しなくてもいいのに。あんして大丈夫なのに。「わかった。リングつけるよ。外出する時はするようにします」「だーめ」私の顔を両手で包み込んでチュッとされた。いちいち行動が甘くて私の心臓は持たないかもしれない。「家の中でも。宅急便の男とかと接触することだってあるでしょ。……美羽、全然わかってない」「だ、大くん、まずはご飯食べよう」「ああ、うん」大くんの独占欲がこんなに激しいと思わなかったけど、私は嫌いじゃない。そんなに好きになってくれてありがたいと思っている。
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第一章 小さな嘘と遠慮9

食事を終えてシャワーを浴びた大くんが、頭を拭きながら戻ってきた。Tシャツにスウェットパンツなのに、何度見ても見惚れちゃう。カーペットに座って思わず見上げてしまう。「結婚して子供ができたらこの家だと狭いよなぁ」「…………(かっこいいなぁ)」「引っ越し………したく……っていうか、何?」私があまりにも見つめていることに気がついたのだろう。怪訝そうな顔をしてしゃがんだ大くんは、顔を思い切り近づけてくる。「何?」「えっ?」「じっと見てさ。何かついてる? ん?」更に顔を近づけてきてチュッと頬にキスをされた。自然すぎる頬キスに胸が高鳴る。アラサー女の思考じゃないのか、私ったら。まるで恋愛初心者の女学生みたいだ。いつになったらこのときめきは消えるのだろうか。大くんは、私の隣であぐらをかく。ついつい、大くんと過ごしていると出会った頃の気持ちになってしまうのだ。いつまでもピュアな気持ちが消えない。「大くんがあまりにもイケメンだから……だもん」「そりゃ、ありがとう。でも、俺の奥さんになるんだから慣れてくれよ」「うん……」それが、なかなか難しい。好きな気持ちが強すぎて、このまま家族になっても大丈夫なのだろうかと不安になってきた。「気軽に襲えないだろ」「いや、襲ってくれても大丈夫だけど……」って私は何を言っているのか。「ふーん。遠慮しないと大変なことになるけどいいの?」「えっ……うーんっ……どうかな」恥ずかしさを隠すように足を伸ばすとショートパンツだから膝の頭が見えた。ちょっとだけ、赤くなっている。床掃除をした日はなかなか色が消えない。「美羽、膝赤い」温かい手のひらで触れられる。「床掃除はモップでしなさいって言っただろ。美羽は色が白いんだからすぐに赤くなってしまう。そのまま黒になるぞ。大事な美羽に傷をつけたくない」「ごめんなさい……つい」「許さない。お仕置きする」私の膝の裏に手を入れた大くんは膝を折った。そして、膝の頭にキスをした。そして、ペロペロと舐めだす。「く、くすぐったいっ」「言うこと聞かないからだぞ」唇で膝を愛撫されて体の力が抜けていく。そのまま内腿へ移動してくる唇。「ちょっと……いやんっ……待って……」カーペットに倒れてしまった。大くんは私の足にまだ吸いついてくる。くすぐったいのが快感へと変わっていく
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第一章 小さな嘘と遠慮10

その後……。ベッドでたくさん愛され動けなくなってしまった。ハードスケジュールだったのに大くんは、体力がまだまだ余っているらしい。何度も何度も復活するから、ある意味尊敬してしまう。うつ伏せになって呼吸を整えている私の背中を撫でてくれる。「おーい、大丈夫か……?」「大くん、激しすぎるって」背中にぺったりくっついてきた大くんの重みを感じて、つい微笑みがこぼれた。顔が見たくなって上を向くと添い寝してくれた。お互いに生まれたままの姿でベッドの上でゴロゴロするのが気持ちいい。幸せを感じる瞬間だ。大くんは腕枕をしてくれる。すっかり甘えきった私はうっとりと目を閉じていた。「なぁ、美羽」「ん?」「俺らにちゃんと子供できるかな。はなが怒って授かれないとか……ないよね」珍しく不安そうな声音だ。赤ちゃんについては授かり物だから確証はないけど、私は大くんの子供をいつの日か産む気がする。「はなは、いい子だよ。絶対に大丈夫」私は星になってしまった子供のことを心に浮かべていた。「最低三人は、ほしいな。美羽は一人っ子だろ。俺は兄貴がいたけど、兄弟っていいもんだぞ」「うん。賑やかな家庭にしたいね」結婚はゴールじゃないけれど、ここまで来れたことに幸せを感じていた。大くんの赤ちゃん……可愛いだろうなぁ。「さっきも言ったけどさ。遠慮はするなよ。俺の仕事って特殊だから時間がバラバラだろ。だから体力がないとついていけない時もあると思う。眠くなったら寝ていいし、帰りだって待ってなくていいから」「大くんの帰りはなるべく待っていたい。一日の終りに顔が見れないなんて寂しいじゃない」「……美羽」大くんは嬉しそうにぎゅっと抱きしめてくれた。「それと仕事だけど、社会と繋がりがほしいなら習い事とかでもよくない?」「そうだね。……でも、赤ちゃんが生まれるまでは働きたいかな。子供にはちゃんと教育を受けさせてあげたいし習い事をしたいって言ったらやらせてあげたい」「お金のことは心配しなくていいと思うけど……」そうだとは思っているけれど、二人の子供なので私も協力できることをしたいのだ。「大くんだけに頼るのはよくないと思うの。もしかしたら怪我をしてしまって働けない時もあると思うし」「ちゃんと保険に入ってるから大丈夫」「それでも……」私は珍しく自分の気持ちを曲げなかった。する
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲1

続編第二章 愛するからこその独占欲仕事をしたいと大くんに言った次の日に、大くんが所属する事務所の大澤社長から電話をもらった。会計課の事務処理をするのに人手が足りないから仕事をしたいならどうかと声をかけてもらい、働くことにしたのだ。朝、大くんを見送ってから出勤をする。事務所は住んでいる場所からとても近くて、徒歩で行けるところにある。ビルの一角を借りて営業しているのだ。オフィスがある十五階を降りると廊下には、所属アーティストのポスターが貼られていた。その中で一番目立つ位置にCOLORのポスターが貼ってある。セキュリティカードをかざしてロックをすると扉が開かれ、白とガラスを基調としたお洒落な事務所の一室には、デスクが並んでいてパソコンが置いてあり、部署ごとに区切られている。打ち合わせスペースやお客様が来た時に通す部屋などがあり、一番奥に社長の部屋が設置されていた。所属しているタレントやアーティストは、三十名ほどでそんなに大きなほうではない。COLORが事務所の稼ぎ頭として活躍しているのだ。私は会計課の仕事を手伝うことになったのだが、会計課はドアのついた空間で仕事をしていた。事務所に到着すると今日も仕事を頑張ろうと気合いを入れた。「おはようございます」「おはようございます」笑顔で挨拶してくれたのは、芽衣子さん。ハキハキしていて性格がいい頼りになる人だ。「美羽さん、今日もよろしくお願いします」「よろしくお願いします」デスクに座ってパソコンを起動した。ふと顔を上げるとCOLORのポスターが貼ってある。十時から十五時まででいいと言ってくれて、用事ができた場合も気兼ねなく言ってくれたら休めるようにすると言ってくれた。仕事をすることになったけれど事務所には色んな方が出入りする。だから結婚するまでは大くんの婚約者なのは大っぴらにはしないことにした。ライブ会場で大勢の前で結婚したい女性がいると話をしてくれていたけれど、私がステージに立ったわけではないので顔がバレているわけではない。私が仕事に集中できるようにと大澤社長が気を使ってくれたのだ。数人のスタッフさんと、一緒に働く芽衣子さんには、伝えてあるらしい。ゴールデンウィークを終えてから働き始めて二週間。環境にも慣れてきた。芽衣子さんは、新卒の頃からいるらしくここで長く働いているようだ。会計
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲2

入ってきたのはマネージメント部マネージャーの市川さんだ。スーツをお洒落に着こなしている。タレントにも劣らないルックスで優しい大人男性である。出張したり、接待をしたりすることが多いため、経費の申請に頻繁に来ていて顔見知りになった。「美羽ちゃん、お疲れ様」「市川さんお疲れ様です」笑顔を向けて挨拶し合う。「どう、慣れた?」「はい。皆さん親切にしてくださるので」「あまり無理しないで、頑張れよ」ハキハキした口調で話して、ポンポンと肩を叩いて出て行く。偉い人は苗字で呼ぶこともあるが、下の名前で呼ぶのは、ここの社風らしい。私と市川さんが特別な関係だからと言うわけではない。市川さんが去って行くと静になる。パソコンを操作する音が響いていた。部署には、私と芽衣子さんの二人きりだ。「市川さんってカッコイイよねー。元モデルだっただけある」芽衣子さんがポツリとつぶやく。「モデルだったんですか?」モデルと聞いてそうだったんだとかなり納得できる。でもどうして裏方で働いているのだろう。「そう。でも、裏方の方が向いてると言って今の仕事をしてるのよ」「そうなんですか」「でも……どうしてあのルックスで結婚しないのかな。もう三十五歳なのに」……そうだったんだ。独身なんだ。「あの容姿だとモテすぎて困っているんじゃないですか?」「イケメンだと結婚するのに選びすぎるのかな。……まあ紫藤さんみたいな人もいるけどね」意味ありげな笑みを浮かべた芽衣子さん。恥ずかしくなって目を逸らした。芽衣子さんは付き合ってる人はいるのかな。……普通に考えているか。すごく美人だし性格もいいし。仕事は、会計中心だけど雑用もする。掃除をしたり、お茶を出したり。いろいろやることがあって、午後三時までの勤務なので短いのもあるがあっという間に一日が終わる。他の社員さんが戻ってきた。パソコンの打ち込みをしていると「お疲れ様」と声が聞こえた。入ってきたのはCOLORメンバーの黒柳さんだ。用事があるわけでもないのに入ってくる。「お疲れ様です」挨拶する社員さん。私も続いて挨拶をした。黒柳さんは、芽衣子さんの隣の空いている椅子に気だるそうに座った。この事務所に働き出してわかったのは、大くんに負けず黒柳さんはマイペースだということ。椅子に腰をかけてそこで眠ってしまう。その寝顔とき
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲3

一緒に住んでいることは秘密にしているのに。周りの社員さんが不思議そうな顔をする。それを察した芽衣子さんは「事務所に来るかもしれないしね」とごまかしてくれた。「そう。じゃあマネージャーに届けさせるわ」後ろの首に手を当てつつ黒柳さんは帰って行く。あーハラハラした。まあ、バレてもいいけれど……知られたくない気持ちのほうが強い。いまだに不釣合いなんじゃないかと思ってしまう。事務所の人だってなんでこの子なのって思われるかもしれない。どう思われたとしても気にしちゃいけないんだけどね。仕事が終了時間になって、芽衣子さんが「お疲れ様」と声をかけてくれた。「失礼します」帰る準備をして部署を出ると、エレベーターホールに市川さんが立っていた。「お疲れ様です」「あっ」そう言って手が伸びてきたからびっくりして身を縮こませた。「驚かせてごめん。髪の毛にこれ、ついてたからさ」「ほら」笑って見せてくれた。親指と人差し指で摘んでいたのは、紙切れ。さっき書類整理した時についてしまったのかもしれない。「あー……すみませんっ。ありがとうございます。私ってアラサーなのに抜けているところがあるんですよ……。本当に、すみません」「謝らないで」市川さんがニコっと笑った。上から見下ろされると恥ずかしくなってしまう。そんなに見つめないでほしい。優しい視線を向けられてどんな反応したらいいのか困ってしまった。……早くエレベーター来てよ。「ごめんね、髪の毛乱れちゃったな……直してあげよう」そう言って私の髪の毛を撫でた。大くん以外の人に触られるなんてありえないっ。動揺して声も出せずにいると、エレベーターのドアが開いて人が降りてきた。視線を動かすと大くんが立っていた。「……大くんっ……」小さな声でつぶやいたのに、市川さんには聞こえてしまったらしい。「へぇ、大くんって呼んでるんだ」意味ありげな笑みを浮かべられた。「……ファンだったんです」言い訳をしてみる。大くんはエレベーターの前で立ち止まった。「お疲れ様です。市川さん」大くんは無理に笑顔を作っているように見えた。髪の毛を触られたの……見られちゃったかな。市川さんは偉い人だから、大くんと私の関係は知っているはず。だから、変な意味で触れてきたんじゃなくて、本当に親切心だったと思う。市川さんはいい人だし。
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲4

仕事を終えた私はスーパーへ寄って帰る。今日は何を作ろうかな。リクエスト通りお魚を買った。あとは……どうしようかな。ポテトサラダでも作ろうかな。味噌汁はどうしようかな。私よりも大くんの方が料理は出来ると思う。いつも、イマイチな料理を食べてくれるから申し訳ないなぁと、思っていた。家に戻って料理を終えてからテレビをつけると、大くんが出演している番組が放送されていた。楽しそうに女性のタレントさんと社交ダンスをしている。ダンスをするために体を密着させていた。仕事だとわかっているけど嫌な気持ちになる。こんなんでヤキモチを焼いていたら身がもたない。私って意外に独占に欲が強いのかな。見ていられなくなって、テレビのチャンネルを変えた。しばらくして大くんが帰って来たので玄関まで迎えに行く。「お帰りなさい、大くん」「ただいま」頭をポンポンと撫でてリビングに向かって歩いた。ちょっと疲れているようで心配だ。今日もハードスケジュールだったのかもしれない。その間に事務所に寄って様子をわざわざ見に来てくれたのだろう。「大くんのリクエスト通りお魚焼いたよ。焦げているところもあるけど、なかなか美味しそうだよ」明るい声で話しかける。大くんは「ありがとう」と言って食卓テーブルについた。早速料理を並べる。大くんと出会った頃はカレーライスすら作れなかったのに、インターネットのお陰でなんとか作れるようにはなったかな。私も席につくと二人で手を合わせた。「いただきます」なんとなくいつもと雰囲気が違う気がした。大くんはよほどのことがないと感情を出さない。嫌なこととかあったのかな。会話を見つけなきゃと思って考えていると、大くんから会話を振ってくれた。
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲5

「仕事、慣れた?」「うんっ。皆さん優しいし親切にしてくれるからやりやすいよ。黒柳さんが時折、私と大くんの関係を言っちゃいそうでハラハラしてるけどね」くすっと笑って話をする。「あいつマイペースだからな」「大くんがライブで結婚するって言ってくれたでしょ? でも、世間には私の顔は知られていないからさ。まさか、私が大くんの奥さんになるなんて知ったら、信じられない人もいっぱいいるだろうね」自分でもまだ信じられない時がある。でも、一緒に住むようになって少しは実感が湧いてきた。「……入籍日なんだけど、十一月三日でOKもらったから」「本当? 嬉しい」ニコッと微笑むと大くんも微笑み返してくれる。「結婚式は親しい人だけでやらないか?」「そうだね。ウエディングパーティーみたいなのもいいかも。あまり人数が多いと疲れちゃうし。玲と千奈津は呼びたいな。小桃さんも!」「ああ、いいよ」「髪の毛……伸ばしたほうがいいかな。色んな髪型できるし」髪の毛と口に出した途端、大くんは険しい表情になった。言ってはいけないワードを言っただろうか。「ごちそうさまでした」「あ、うん」立ち上がって食器をさげると、歯を磨きに行ってしまった大くん。どうしちゃったんだろう。気に障ること言ったかな。戻ってきたと思ったら寝室で腹筋をはじめた。あまり、話しかけないほうがいいかなと思って、リビングで大人しく待っていた。しばらくしてちらっと様子を見ると、トレーニングを終えた大くんはベッドにうつ伏せになっている。遠慮しようかと思ったけど、大くんともう少しだけ話をしたいと思って近づいてみた。「起きてる?」「うん……」「あ、じゃあ、マッサージしようか?」「……お願いしようかな」大くんの背中に乗って肩から揉む。体が楽になればいいなと思いながら、気持ちを込めてマッサージをしていく。でも無言だ。気まずいので話題を探す。「市川さんってかっこいいのに、結婚しないんだね」「…………」「優しいし、仕事もできるし」「………………」「過去に悲しい恋愛とかしたのかな」「そんなに気になるのか」お腹の底から出しているような低い声に驚いて、マッサージする手を思わず止めてしまった。
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲6

「おい、美羽」「……まさか! 何言ってんの。ありえない」「市川さんがいいなら、婚約破棄すればいいだろっ」いきなり体を乱暴に起こすから、私はバランスを崩して倒れた。「大くん、危ないよ」顔を見ると不機嫌そのもの。ベッドの上で胡座をかいて、膝に肘をついて顔を支えている。人差し指で頬をトントントンと叩いていて、イライラを必死で抑えているように感じた。「あーもう」そして、頭をぐしゃぐしゃと両手で乱し大きなため息をついた。「……大くん」「いいか。俺はだな、美羽が他の男に触られたりするのが一番嫌なの」きょとんとする私。大くん以外の男の人に触られたりしてないけど。うーん。考えてみるけど思いつかない。「もしかして、自覚ないのか?」「……ごめん。大くん以外に触られたりした記憶がない」「もっと危険じゃん……」大くんは、私の手を取ってぎゅっと体を引き寄せた。大好きな大くんの香りに包まれて安堵する。やっぱり、一日一回はこうやって抱きしめてもらいたい。結婚してもこれは続けてほしいと思う。「大くぅん……」胸に顔をつけて大くんの香りをくんくんと嗅ぐ。あー、たまらない。犬が飼い主さんの匂いを嗅ぎたがる気持ちが痛いほど、わかる。「汗、臭いんじゃない? 俺、運動したばかりだし」「いいの。全部含めて大くんだし」「もう、まったく」さらにぎゅっと抱きしめられる。「美羽。お願いだから、市川さんといちゃいちゃするなよ」「……市川さん?」エレベーターの前で大くんに会った時、市川さんは髪の毛についたゴミを取ってくれて髪の毛を直してくれたんだった。あれを見て大くんは怒って、不機嫌だったのか。「市川さんってすげー男前だろ? 俺なんて勝負できるような人じゃないんだ。美羽、最近、市川さんの話ばかりだから不安になって……押しつぶされそうだった。しかも、髪の毛まで触らせて。俺の美羽なのに」独占欲むき出しの大くんにキュンキュンしてしまう私って……。でも、愛しているからこそ独占欲が湧いてくるんだよね。すごくわかる。「大くん。私だっていつも不安なんだよ。テレビで綺麗なタレントさんと楽しそうに話しているだけでも嫉妬する。……しかも今日なんて社交ダンスだよ」「あ……、あれオンエアー今日だったのか」苦笑いをしている。「美羽も嫉妬してくれてるんだな。なんか、安心した。…
last updateLast Updated : 2025-01-19
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続編 第二章 愛するからこその独占欲7

   *ランチを終えて仕事をしていると、窓から日差しが入ってきた。眩しいなと思っていたところ、芽衣子さんはブラインドを降ろした。他のスタッフさんは外出していて二人きり。まったりとした空気が流れている。「もう夏だねー……」つぶやいた芽衣子さんは、心なしか切なげな表情を見せた。なんでそんなに悲しそうな顔をするのだろう。夏に対していい思い出がないのだろうか。私は気になって仕方がなかったけれどプライベートなことを話させるにはまだ距離が近くない気がして黙っていた。「紫藤さんって優しい?」「え?」突然の質問に驚いてしまったけれど「はい」と素直に答える。「少し独占欲が強いところもありますけど……」苦笑いをする私。芽衣子さんは自分の席に座った。「それって愛されている証拠じゃない」微笑みながら、言ってくれた。きっと、そうだと思う。納得して微笑む。「幸せそうね」優しい声で言った。「芽衣子さんはお付き合いされている方いるんですか?」「私はね……別れようと思ってるの……」悲しそうに眉毛を落とした芽衣子さん。やっぱり、お付き合いしている人がいたのか。でも、どうして別れようと思ったのだろう。聞くに聞きづらい。「誰にも言うなって言われていて。ずっと黙ってたの。でも、もう別れるからいいよね。美羽さんだから言っちゃおうかな……」「私なんかでいいんですか?」「うん。聞いてくれる?」「もちろんです」カラッとした笑顔を向けてきた。「…………黒柳明人と……、付き合ってるの」「……そ、そうなんですか?」芽衣子さんの彼氏が黒柳さんだったなんて予想外だった。……けど、言われてみればここに黒柳さんが来ると必ず芽衣子さんの近くに座っていた。「付き合って五年。結婚の「け」すら聞いたことないの。私に言うのはただ一つ。誰にも言うなってことだけ。……付き合ってるんじゃなくて、あいつにとってはセフレなのかね」さっぱりとした口調で言っているけど、かなり傷ついているように見える。「同じCOLORのメンバーと付き合っているのに。美羽さんはああやってライブで結婚宣言までしてもらえて幸せだよね。私、もう三十四歳だから焦ってしまうのよ。結婚がしたい」その気持ちは痛いほどわかる。アラサーとして家庭への憧れは強くなるのだ。女性には出産できるタイムリミットがあるのでそれも焦る原
last updateLast Updated : 2025-01-19
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