秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない のすべてのチャプター: チャプター 161 - チャプター 170

287 チャプター

続編 第四章 相思相愛8

*十月になると、引っ越しの準備をはじめた。4LDKで少し広めの家に移ることにしたのだ。今月の半ばには、この家を出ていこうと思っている。もし子供が増えたら一軒家を建てようかとも話をしていた。私と彼の誕生日は六日しか変わらない。引っ越しもするし、忙しいので今日はささやかな誕生日パーティーを二人ですることにした。今日は自宅でピザを注文しケーキは大くんが買ってきてくれた。「誕生日おめでとう」貰い物のワインで乾杯をする。「美羽も三十路か」「信じられないね」はじめて出会った頃はまだ十代だった。お互いに子供で何もわからなくて。その時の私たちは私たちなりに真剣に生きてきたのだ。「おばあちゃんになる美羽を見るのも楽しみだ」「私も。大くんは年齢を重ねてもずっとイケメンなんだろうな」「努力していかないとな?」お互いにプレゼントを購入していたので交換をする。大くんは私に可愛らしい髪の毛のアクセサリーをくれた。「すごく可愛い!」「気に入ってくれてよかった」私からのプレゼントは、手作りのクッキーと手紙にした。「すごく嬉しい」手紙をじっと見つめてニヤニヤとしていた。そして急に私のことを抱きしめて優しくキスをはじめたのだ。甘すぎる二人だけの誕生日会になったのだった。
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛9

   *引っ越しの日が近づいてきたある日。パートを終えて夕食を作り終えると物を整理する。そんなにはたくさんここに住む時に持ってきてないけど、意外と細々としたものが多い。整理をしているとチャイムが鳴った。インターホンを覗くと寧々さんが立っていた。最近は忙しかったようで顔を見せてくれる機会が減っていた。久しぶりに会うことができて嬉しい。玄関のドアを開けると寧々さんが大きな紙袋を差し出してきた。「久しぶり」「お久しぶりです」「そろそろ引っ越ししちゃうんでしょ? これ、差し入れ。ケーキよ。食べて。引っ越ししたら引っ越し祝い持ってまた遊びに行くから」「ありがとうございます」今月は誕生日だったのでケーキを食べたばかりだったけれど、二回も食べられるなんてラッキーだ。ありがたくいただくことにしよう。「で、ついでに夜ご飯ご馳走してよ」「あ、どうぞ」遠慮しないでズカズカ入ってくるところが寧々さんらしい。はじめはびっくりしたけど、今は、可愛いなぁーなんて思ってしまう。食卓テーブルについた寧々さんに夕食を出した。今日は、ピラフとロールキャベツ。蒸鶏のサラダだった。私は目の前に座って少しだけ摘んでいる。大くんが帰って来たら二人で食べようと思って。「料理の腕、上げたじゃん」「ありがとうございます」「偉いよねー。ほんとに。見習わないとなぁー」ニコッと笑った寧々さん。「実はさ、彼氏できたの」「おめでとうございます!」「イケメンIT社長でね、年収は億いってるらしい。でもお金には構ってないからそこに魅力を感じて付き合ったわけじゃないんだけどね」さすが、寧々さんの選ぶ男性は飛び抜けている……。満足そうに頷いた寧々さんは、穏やかな顔つきになった。「すごい苦労人でね。とにかく優しい人なの」「そうなんですね」「私、彼と出会えてよかったと思ってる。人に対する思いやりとか、教えてもらえた気がして。今度、紹介するね」「はい。ぜひ」寧々さんに春が訪れて本当によかった。私まで幸せな気持ちになった。他愛のない話をしていると大くんが戻ってきた。一緒に食事をして楽しい時間を過ごしたのだった。
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛10

*引っ越しも無事に終えて、一段落ついた頃。十一月三日。仕事を終えた大くんと私は、池村マネージャーが運転する車で役所に向かっていた。ついに今日、婚姻届を提出するのだ。午後から仕事を入れないようにしてくれて、昼間にこうして一緒に動けている。事務所の配慮だった。入籍という記念すべきところを池村マネージャーが撮影してくれる。私の顔は隠した状態での撮影になるが、SNSなどで発信できることは発信していこうという事務所の方針になったのだ。プライベートの様子を掲載し、隠すことなく発信することでファンにも安心してもらおうとなったらしい。もしかするとCOLORのファンが減ってしまうかもしれないけれど、あえて隠さないでいきたいと大くんは語っていた。役所に届けを提出する。受付の男性がしっかり書類を確認してくれ受理された。「おめでとうございます」受付男性に笑顔を向けられると本当に結婚したんだと実感する。役所の時に出てくるとカメラを回した。池村マネージャーがインタビュアのように話しかけてくる。「おめでとうございます。どんな夫婦になりたいですか?」「何でも協力し合える夫婦になりたいかな。応援してくれる皆さんに感謝しながら頑張ります」動画を撮り終え、池村マネージャーがスマホで何かを確認してから頷いた。「ブログでもお知らせしてください。アップする前に私が確認するので下書きにしておいてください」「了解」「では、これ以上邪魔すると悪いので失礼いたします」「ありがとうございました」池村マネージャーは、頭を下げて去って行く私達は見えなくなるまで見送った。
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛11

――私と大くんは……夫婦になった。車に乗ると妙な気持ちになる。夢の中にいるような気がして頭の中がふわふわしていた。私は大くんに視線を向けて背筋を正した。「大くん……改めてよろしくお願いします」「こちらこそ。よろしくお願いします」にっこり笑った大くんは、手をきゅっとつかんだ。「じゃあ、ランチでも行こうか」「う、うん……」「どうした?」今夫婦になったけれど堂々と外に行くことに抵抗を覚えたのだ。「大丈夫かな?」「夫婦になったんだから別に隠すことはない。週刊誌に撮っれたって悪いことをしているわけじゃないんだし」「うん……」「美羽がどうしても嫌だと言うなら仕方がないけどさ。今まで我慢してきたから堂々と一緒にいろんなところに行きたい。いっぱいデートがしたい」瞳を輝かせながら言っている姿を見たら、私も覚悟を決めなければならないと思った。もしかしたらあの人が奥さんなんて似合わない」って言われるかもしれないけれど、それはわかっていたことだ。「そうだね。あまり気にしないようにして過ごそうかな」「あぁ! じゃあ俺ファミレスに行きたいな」「え?」「あんまり行ったことがないからさ。ファミレスのハンバーグのセット食べたい。コマーシャルで見ていいなと思ってたんだよな」楽しそうに言うので私も楽しくなってきて自然と笑顔になった。大くんのおかげで私は笑顔でいる時間が増えたように感じる。そのまま車を走らせて近くのファミレスに入った。さすがに帽子とサングラスはしていたけれど、雰囲気で彼がCOLORのメンバーだということはすぐにバレてしまった。ハンバーグを食べていても人が近づいてくる。「握手してもらってもいいですか?」「もちろん」ファンに対するサービスはピカイチだ。絶対に嫌な顔をしないで握手も撮影も応じている。でもあまり人が多くなりすぎると大くんは店に配慮してごめんなさいと断る。「他のお客様に迷惑になることはやめよう。応援してくれてありがとう」そうはっきり伝えるとファンは大人しくなり、店の中は落ち着きを取り戻した。
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛12

   *新婚生活はものすごく楽しく過ごさせてもらっていた。愛する人が帰ってきてキスをしてくれて、一緒にご飯を食べて同じ布団で眠る。当たり前のことなのに長年すれ違っていた私たちにとっては幸せな時間だ。しかし最近調子が悪い。吐き気がしたりめまいがしたり体がだるくてたまらないのだ。カレンダーを見ると月のものが来ていないことに気がついた。結婚をして引っ越しましたし環境が変わって生理が遅れているのかもしれないと思ったが、過去に妊娠した時のことを思い出した。あの時にすごく似ている。もしかしたらかもしれないけれど、授かっているかもしれない。私は咄嗟に『はな』のお供えコーナーに向かった。「はな……」子供ができているとしたらすごく嬉しいけれど、不安も襲ってくる。またお腹の中で子供が死んでしまったらどうしようと思ったのだ。その時窓から太陽の光が差し込んできた。まるで『はな』が大丈夫だよと言ってくれているような気がしたのだ。どこにも姿は見えないけれど私はそのように感じて涙がポロリと流れてきた。生まれてくることができなかった子供の分まで私たちは強く生きていかなければならない。勇気を出して私は最寄りのドラッグストアへ向かい妊娠検査薬を購入した。過去に妊娠した日のことを鮮明に思い出し、そして赤ちゃんが死んでしまった日のことが頭の中を駆け巡っていく。誰にも言えないし誰にも話せない過去だった。ものすごく辛くて苦しくて私はこのまま生きていけるのだろうかとさえ思ってしまう出来事だった。あの苦しみを乗り越えることができたのだから、これから人生で起きる試練は苦労しながらも超えて行ける気がする。私は深呼吸して妊娠検査薬を持ちトイレへと入った。結果は陽性だった。愛する人の子供をもう一度お腹の中に宿すことができたのだ。言葉では言い表せないほどの感動でなかなか涙が止まらなかった。大くんが家に戻ってきたら早速伝えよう。
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛13

その夜私はお祝いの意味も兼ねてすき焼きを用意して持っていた。「ただいま」仕事から戻ってきた彼はテーブルに用意されているすき焼きを見て目を丸くしている。「今日は何かの記念日だっけ?」「病院に行きたいの」「え? 具合悪いのか?」「……いや。あのね……生理が遅れていて」「マジ?」大くんは笑顔を作りそうになったが、抑えた。まだ、はっきりわからないから我慢したのだろう。「妊娠検査薬で検査をしてみたら陽性だったの」「わかった。病院にまず行こう。でも……やっぱり嬉しくて我慢できない」私のことを思いっきり抱きしめた。「私も嬉しくて我慢できなくてすき焼きを用意しちゃった」「病院に行って本当に妊娠しているか検査をしてもらってからじゃないとわからないけど……。でもありがとう」「こちらこそありがとう。今度こそちゃんと生まれてくるように体を大切にしなきゃと思ってるよ」「そうだな」私たちは食事をする前にお供えコーナーに手を合わせることにした。二人の願いは無事にこの赤ちゃんが生まれてきますようにということだった。「俺も産婦人科についていく」「ありがたいんだけど……目立っちゃうと思うから今回ばっかりは一人で行ってみる」「もう心配だ」「大丈夫だよ。仕事のスケジュールを変更するのも大変だと思うし、それに合わせて病院も予約できるとも限らないでしょう?」たしなめるように言うとやっと納得してくれた。でも私のこととお腹の子供のことを心配して思ってくれている気持ちが伝わってきたので胸が温かくなった。
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛14

数日後、私はパートを休ませてもらって病院で検査をすることになった。最後の生理開始日、普段の生理周期、既往歴など医師の問診を受け、超音波検査をした。そして尿検査をして検査結果を待っている間、私は、はなのことを思い出していた。――はな。もしかしたらあなたはお姉ちゃんになるかもしれないよ。目を閉じると涙があふれてきた。「紫藤さんどうぞ」ナースに呼ばれてぼんやりしていたけれどそうだった。私も紫藤になったんだった。紫藤美羽になったのだ。診察室に行って女医さんの方に向かって座った。「妊娠されています、今、九週になったところですね。出産を希望されますか?」「はい」私は力強く返事をした。たった二文字の言葉なのに返事ができてすごく嬉しい。私と大くんの赤ちゃんが宿ったのだ。相思相愛である私と大くんの宝の存在。今度こそはしっかりと、産みたい……絶対に。「出産予定日は六月二〇日前後だと思います」「そうですか」来年の夏になる頃には家族が増えているのだ。また悲しいことが起きてしまわないように体調に本当に気をつけなければならない。「次回の予約は四週間後にまた来てください。母子手帳の取得について事務から説明させてもらえますので廊下で待っててくださいね」「あ、ありがとうございます」診察室を出て説明を受けてから、会計を済ませて私は病院の外に出た。秋だというのに天気がとてもよくて太陽の日差しが暑い。薄手のコートを着ていたけれど思わず脱いでしまったほどだ。ふと自然を移すとそこにはたんぽぽの花が咲いていた。私はしゃがんで涙を流す。『はな』が見守ってくれているような気がしたのだ。今度こそ絶対に大丈夫だと確信が湧き上がってくる。「ありがとう……はな」
last update最終更新日 : 2025-01-19
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続編 第四章 相思相愛15

その日家に戻って大くんの帰りを待っていた。「ただいま」今日はドラマの撮影が遅くまであって帰ってきたのは二十三時だった。「どうだった?」私はまだ何か写ってんのかわからないようなエコーの写真を見せた。大くんは感動しているのか、手が震えている。「来年の六月ぐらいには生まれるかもしれないって」「嬉しい!」大くんは、私をぎゅっと抱きしめる。「嬉しい。嬉しいよ、美羽」「私も!」色んな気持ちが……込み上げてくる。今の二人がこうしていられるのは、色んな人のおかげだと思う。これからも、感謝を忘れずに大くんと素敵な家庭を作って行きたい。                                                           続編:終
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―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』1

―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心『黒柳リュウジ✗芽衣子編』黒柳リュウジと芽衣子編です。時系列は、大樹と美羽がまだ入籍前のお話です。*1芽衣子side「リュウジ、別れよう」いつも通り家に遊びに来ていた私の恋人である黒柳リュウジは、ソファーでクッションを抱えてテレビを見ていた。彼は大人気アイドルのCOLORのメンバーだ。私は彼らが所属する事務所で事務員として働いている普通のOL。黒髪でとても綺麗な二重と筋の通った鼻筋に薄い唇。中性的な容姿のリュウジは、女の私なんかよりもずっと美しい。くつろいでいる彼を黙って見ているのが好きだけど、今日こそは伝えようと決めていた。そして今、勇気を出して別れを告げたのだ。リュウジは不思議そうな表情で私に視線を向ける。「なんで?」ポツリとつぶやかれる。私はテレビを消してカーペットに座った。「テレビ……見てたんだけど……」「大事な話をしてるの。真面目に聞いて?」私とリュウジの歳の差は三歳。私が上だ。正直言うと誕生日が来たら三十四歳の私は結婚がしたい。親にだって急かされているが、リュウジは人に付き合っていることを誰にも言うなと厳しく言っていた。だから今まで誰にも言っていなかったんだけど、どうしても胸が苦しくなってパートとして来てくれている美羽さんにこっそり打ち明けたのだ。彼女はCOLORのメンバーの一人とお付き合いしていて婚約もしている。今日は事務所に所属しているタレントや、働いているスタッフが集まって飲み会が開かれて、そこで紫藤さんは美羽さんを自分の婚約者だと堂々と紹介していた。同じCOLORのメンバーと付き合っているのに、どうしてここまで差があるのだろう。リュウジの愛が本気じゃないからなのではないか。そもそも、トップスターが事務員である私なんかのことを本気で愛するわけがないのかもしれない。セフレのような存在なのか。もう我慢ができなくなって私はついつい別れの言葉を口にしたのだ。「私、リュウジを裏切ったの」「へぇー……。どんなふうに?」アイスティーをコクっと飲んで、ソファーに深く腰をかけるリュウジは動揺する感じでもなく冷静に質問してくる。リュウジの感情はいつも一定。「付き合っていること、人に言った」「…………ふーん」さすがに怒るかなと思って顔を見ているけれど表情が全然
last update最終更新日 : 2025-01-20
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―スピンオフ― 変わらぬ愛情・優しい心 『黒柳リュウジ✗芽衣子編』2

「芽衣子……意味わからない。はっきり言ってくれないと俺はわからないタイプだから」ふぅーと溜息をつかれた。「わからないのは、リュウジでしょ? 五年も付き合って放置って……ありえない」立ち上がってイライラを落ち着かせる。「放置って? いつも一緒にいるじゃん。会える時にはこうして会いに来てるし」男はそれでいいかもしれないけど、女は出産することを考えると、うかうかしていられない。はっきり言わないとわからないと言うなら言わせてもらおう。私は自分の気持ちを落ち着かせてから口を開いた。「私はね、結婚したいの」「…………」リュウジは私の言葉を咀嚼しているかのような表情だ。ストレートに言ったのに通じていないのだろうか。「だから、結婚がしたいの!」ちょっと強めな口調で言ってしまった。リュウジは表情を変えないで私を見つめる。私がこんなにも感情をあらわにして思いを告げたというのに、それでも表情が変わらない姿を見てさらにイライラしてしまった。「今は無理でしょ」「……」「大樹に続いて、俺が結婚となればCOLORを続けていくのは難しいし……。いろいろタイミングってあるんだよ。芽衣子は頭がいいんだからそれぐらいわかるでしょ」自分のことしか考えてないような言葉に、心の奥から傷ついた。「そう」マッサージチェアーに力なく座った私は、額に手をあててイラつきを落ち着かせるように溜息を吐いた。そんなことわかるけど、もっと心を配った言い方はないのだろうか。やっぱり私のことなんて愛していないのかもしれない。もう……リュウジの顔なんて見たくない。「私、もう三十四歳なんだよ」「それってさ、俺と結婚したいんじゃなくて、結婚できれば誰でもいいんじゃない?」冷ややかな視線を向けてくる。どうして、私が責められなきゃいけないの?信じられない。結婚したいからって誰でもいいわけじゃないのに。「そんな……」「芽衣子、最低」リュウジはクッションに顔を埋めた。そもそも、年下と付き合うなんて向いていなかったのかもしれない。リュウジはただ単に甘えん坊で、年上の女だったら誰でもよかったのではないかな。「リュウジは将来を何も考えてないんだね」「……たとえば?」「女にはタイムリミットがあるの。……私はリュウジの赤ちゃんがほしい。それにずっとずっと添い遂げたかった。結婚しな
last update最終更新日 : 2025-01-20
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