楢崎があまりの驚きで、悲鳴を上げたと思えば、もう気絶していた。和樹は気の抜けないほど小心翼翼な動作で楢崎を支え、腰をかがめて彼女を持ち上げようとしたが、自分はもう年で腰が持たないことに気付いた。彼は震えの止まらない手でスマホを持ち出して、救急車を呼ぼうとしたが、何度試しても119の三桁を入力することに失敗した。そうときたら、彼は慌てて息子を呼んで、車を出して楢崎を病院に運べと命じた。出発する前のほんの僅かの一瞬も逃さずに、怖い目つきで私を睨み、「悪女め」と私を罵った。客の数名は彼らと共にあわてて楢崎を運んで外に出た。残った客たちは、あれだこれだと私のことを指差した。「もう年だというのに、なんで気の強い女だったこと」「和樹は私の見守りで育ったようなもんだ。そりゃいい人じゃのう。こんな大勢の前で離婚だと言い出せたことは、ここ数年さぞ苦労したのに違いない」「そうなのよ。文郁さんは若い頃から、怒りやすい女子だったが、まさかいい歳して少しも控えめになってないなんて、情けないのう」私のことを叱責した三人の女たちのうち、一人は和樹のお祖母の妹で、一人は彼の叔母で、もう一人は彼の上の従兄弟の妻に当たる者だ。そのお祖母の妹は、私が和樹と結婚した年から、私のことを低く評価していたのだ。私が田舎出身で、和樹には相応しくない結婚相手だと言った。その叔母は更なる滑稽だった。力尽くしても、嫁ぎ先の姪っ子を和樹とくっつけようとした。私がその場にいたのにも関わらず、何度もその女を和樹の懐へと押し付けた。私はカッとなって、あいつらと大喧嘩した、その日以来、私は怒りやすくて、躾のない田舎者となった。あいつらは人に会うたびに、私の悪口ばっかりを言うのだけではなく、和樹が気の毒な生活を送っているのだと言いふらした。しかし、和樹と結婚していたこの三十五年間、私は何一つ柏原家の顔に泥を塗るようなことをしていなかった。それを引き換えに、あいつらは皆、夫に嫌われ、子供にも嫌がられる身で、安泰と言える日々をろくに送ってもいないのに、ここで私の生き方に口を挟むなんて、図太いものだ。私は一切の感情を目から拭き取り、袖をめくり上げ、険しい目つきであの三人を見つめた。「今日から、私はもう柏原家の嫁でなくなった。貴様らどっかで引っ込んでろ」急に怒られ
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