All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 501 - Chapter 510

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第501話

「私はあなたほど心は狭くないわよ」理仁「……怒ってるでしょ」「ええ、そうそう、そうよ、怒ってますよ。あなたにあんなにメッセージを送ったのに、頑として返事しないんだもの」唯花は車を降り、同時に彼も車から引っ張り出すと、傘を彼に突き出して持たせた。「早く仕事に戻った、戻った。私、本当にもう行かなきゃ」彼女はお腹も空いているんだから。彼は今朝早く起きて彼女のためにジンジャーティーも入れてくれた。彼女はそれすらまだ口にしていない。今、少しお腹がキリキリと痛む。「俺はここで君を見送るよ」神崎姫華たち親子が彼女に会いに来ている。きっと神崎夫人の妹の件でだろう。理仁は彼女をここに引き留めておくわけにはいかない。唯花は運転席に戻り、彼に手を振って言った。「昼、ご飯を食べに来るなら一声かけてね。じゃないと、来ても皿洗いしかできないわよ」「わかったよ」神崎夫人とその娘が彼女の店に来ているから、彼は行くことはない。唯花はすぐにエンジンをかけ、運転して行ってしまった。理仁はそこに立って、彼女の車が遠くなり見えなくなるまで見送ると、ようやく振り返って会社へと戻っていった。この時、悟が望遠鏡を持って、辰巳と順番に会社の入り口にいたこの夫婦を見届けていたことなど、理仁は知る由もなかった。さっき緊急で会議を開くと言われ、呼ばれた管理職たちは、悟が彼らに少し仕事上の話をしてから、すぐに解散となった。「盗聴器でもあればよかったのに、悔しいなぁ」悟は望遠鏡を下ろした。様子を見ることはできるが、話し声は聞こえない。あの口下手な唐変木は一体社長夫人と何を話していたのだろうか。車で、あの夫婦は子供には見せられないようなことでもしていたのだろう。理仁のあのクソ真面目で、いつも難しい表情をした冷たい人間が、まさかあのようなことをするとは思ってもいなかった。愛の力というのは本当に偉大だ。いや、嫉妬の力と言うべきか。理仁がヤキモチを焼いたおかげで、なりふり構ずにこのような行動に出たのだから。辰巳は笑って言った。「兄さんが戻ってきた。俺はもう行きますよ。その望遠鏡を引き出しに戻しておいてくださいね。兄に見つかったら、自分でどうにかしてくださいよ」そう言うと、彼は先に退散した。悟はそれを聞いてすぐに望遠鏡を持って会議室
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第502話

明凛は周りからうるさく言われたくないので、大塚夫人の誕生日パーティーで臆すことなく床に寝転がってやったのだった。つまり彼女は結婚しろとかなり催促されていたということだ。この時、もし彼が明凛の見舞いにでも行ったら、彼女の母親に見られて、もう逃れようがなくなるかもしれない。確かに牧野明凛はかなり彼のタイプではあった。しかし、この二人はまだ何も始まっていないから、親に会うのはまだ早すぎるのだ。彼のほうはと言うと、ただ九条家の当主のみがこのことを知っているだけで、他の家族や親戚には言えなかった。彼らが知って、何台も車を連ねてやって来たら、明凛を驚かせてしまうだろう。明凛は悟が自分を気にかけてくれる気持ちに電話越しにお礼を言った。二人はあまり多くは話さず、電話を切った。……神崎姫華たち親子は唯花の本屋で彼女が戻ってくるのを待っていた。金城琉生は彼女たちが来た後、去っていった。琉生の母親は彼に神崎姫華に会ったら、なるべく関わらないようにと注意していた。この神崎家のおてんば娘は彼らの手に負えないのだ。神崎夫人はすでに唯花姉妹が自分の姪っ子であると確信していた。彼女は唯花のお店の中を隅々まで見歩いた。それに本以外の物もたくさんあったのでそれも見ていた。彼女は怪訝そうに娘に尋ねた。「内海さんのお店って、どうしてこんなにスキンケアや化粧品まで置いてあるのかしら?」唯花はさらにネットショップも開いている。その店で売っているのは彼女が自分で作ったビーズ細工だ。それは神崎夫人も知っている。彼女は娘が持って帰ってきたハンドメイドの鶴を見たことがあり、とてもよくできていた。娘はそれをとても気に入っていて、放そうとしない。姫華の顔がすぐに赤くなった。彼女はぎこちなく言った。「お母さん、そこにある物は全部私が買ったものよ。ちょっと気分が悪い時にショッピングに行って、なんでもかんでもカートに入れて買ったやつなのよ。いろいろ買ってから、ようやく気持ちが落ち着いたんだけど、私使わないし、お母さんに怒られるかなって思って、それで、唯花のお店に持ってきちゃった」神崎夫人「……あなた、それって内海さんの店をリサイクルショップにしてるじゃないの」姫華は舌をべえーと出した。急いで母親に近づき、腕を掴んで甘えたように言った。「唯花は従妹かもし
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第503話

「あなた、内海さんのその旦那さんとは会ったことあるの?」神崎夫人は娘にそう尋ねた。唯花姉妹が本当に彼女の姪っ子なら、神崎夫人はその二人の伯母にあたる。だから、姪っ子のためにもしっかり責任を持たなければならないのだ。「まだ会ったことはないわ。旦那さんは仕事がとても忙しいらしいし。お母さんも結城グループで働ける人はみんなエリートだって知ってるよね。仕事もとっても忙しいでしょう。唯花の旦那さんは管理職をしているみたいだし、普通の社員よりももっと忙しいわよ。唯花がたまに旦那さんのことを話してくれるけど、その時の表情ってだんだん柔らかくなっていってるの。きっと、夫婦二人はだんだんお互いに惹かれていっているんだわ」姫華は今まで唯花の結婚については深く興味を持ったことはなかった。彼女は男性を深く愛した経験があるから、唯花のスピード結婚相手に対する気持ちの変化に気づけたのだった。少し考えて、姫華はさらに付け加えた。「でも、二人はまだ愛し合っているわけじゃないから、本当の夫婦になってはいないわ。ただ名ばかりの夫婦ね。スピード結婚って、お互い愛し合う前に法律上の夫婦になっただけよね。ゆっくりお互いに愛を育てていって、後から本当の夫婦になるのよ。珍しいことに二人はすぐに関係を持ったりせずに、どっちも理性的なのよねぇ」まだ会ってもいないのに、神崎夫人はすでに唯花に思い入れをし始めていた。唯花のその理知的で、自立心があり、独り立ちしていて、強いところ、それが彼女にとても似ているからだ。この時、外から車の音が聞こえてきた。「きっと唯花よ」姫華が店から出ると、思ったとおり唯花が戻ってきたところだった。外はまだ雨が降りしきっていた。姫華は店の入り口に立ち、ニコニコと笑って唯花が車を降り、傘を差してやって来るのを見ていた。「姫華、ごめんね、すっかりお待たせしちゃって」理仁にしっかりと説明をして、あのすぐ頭に血が上る男とこの間の冷戦状態になるのを避けることができ、唯花は心が晴れやかだった。店に戻って姫華がニコニコとしているのを見て、彼女も思わずつられて笑ってしまった。店の入り口で傘を振るって水滴を落とし、それを畳むと姫華と一緒に店の中へと入っていった。「今日は一気に気温が下がったわね」姫華は「私は寒くは感じないけど」と言った。
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第504話

「そのお弁当はもう冷めちゃってるだろうから、キッチンで温めてくるわ。姫華、あなたはこの店の常連客でしょう。おば様をしっかりおもてなししてね」姫華は笑って言った。「安心して、私たち親子は遠慮なんかしないのよ。この店は自分の家だと思ってるくらいよ」唯花は思った。あなたの家の財力なら、こんな大したことない店を家にするなんて、とんでもない。彼女は理仁が買って来てくれた朝食を持ってキッチンへと行き、温めなおしてからそこで食べた。理仁は彼女にジンジャーティーも用意してくれた。タンブラーに入れてくれたから、まだ温かかった。気温は下がったし、彼女はちょうど生理中だ。手足がとても冷えていて、タンブラーを持ちながらジンジャーティーを飲んでいると、お腹の痛みがかなり緩和されていった。「プルプルプル……」その時、携帯が鳴りだした。彼女はジンジャーティーを飲みながら、携帯を取り出して見てみた。それは理仁からかかってきた電話で、彼女は電話に出た。「店には着いた?」理仁は店に着く時間を計算して電話をかけてきた。「着いてるよ」「何を食べているの?」「さっきあなたが朝買って来てくれた愛情弁当を食べ終わったところよ。今は作ってくれたジンジャーティーを飲んでいるの。ショウガの味が効いていて、ちょっと辛いわ。でも、飲んでみたら、とっても甘かったわ」理仁は彼女に「もうこんな時間なのに、今頃朝ごはんを食べたの?」と言った。「某怒りん坊が、朝何も言わず、すぐ逃げだしたりしてなけりゃ、私が今頃朝食を食べるはめにはならなかったと思うけど?」理仁「……それは俺が間違ってたよ。これからは絶対にあんなことはしないって約束する」「約束なんかしないでよ。あなたのその性格なんだもの、変えられっこないでしょ」そして、唯花はケラケラ笑って言った。「そんな簡単に約束しといて自分から破ったら、恥をかくのはあなたのほうよ。そんなカッコイイ顔してるくせに、面目を潰すとそのイケメンがもったいないでしょ」理仁「……」彼にそんなことを言えるのはおばあさんを除いて、この世で内海唯花だけだ。「お昼はこっちに食べに来る?でも、昼ご飯を作る時間はなさそうだから、たぶん外で食べることになるけど」彼女は姫華たち親子にご馳走するつもりだった。「神崎さんはまだお店にいるの?
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第505話

「金城琉生は帰った?」理仁はまだ恋敵のことは忘れていなかった。「こっちに戻ってから、彼には会ってないけど。まだヤキモチ焼いてるの?」理仁は少し黙ってから言った。「君も俺の性格がこんなんだって言ったろ。嫉妬するのがきっと癖になってるんだ」もしここに悟とおばあさんがいたら、以前はヤキモチなど焼かないなどと言ってたくせにと皮肉るだろう。唯花はハハハと笑った。「これから毎日お餅焼いて食べさせてあげよっか?」このヤキモチ焼き男ときたら、もっとたくさん焼かせてやらないともったいない。「君が作る料理なら、なんだって好きだ」「理仁さん、あなたは最近甘いものしか食べてないの?どんどん甘い言葉しか出てこなくなってるわよ」理仁は口角を引き攣らせた。おばあさんはいつも彼が唯花に甘い言葉を囁かないのをぶつくさと文句を言っていた。それが見てみろ、たった少し甘い言葉を口にしただけで、唯花にこんなことを言われてしまったではないか。彼女はたぶんあまりそういう言葉を聞きたくないのだ。「仕事忙しいでしょ、このあたりにしましょうか」「うん」唯花は先に電話を切った。理仁は携帯を耳元から離し、携帯画面を暫くの間見つめ、ぶつぶつと文句を言った。「あなたがいなくて寂しいとか、早く会いたいわとか、そういう言葉一つもないのか」そして、携帯を置き、すぐに気持ちを整え、忙しい仕事に身を投じた。唯花はジンジャーティーを飲み終わり、タンブラーを綺麗に洗ってから、冷蔵庫から果物を取り出して、お皿に盛りつけキッチンを出た。神崎夫人と姫華は店のレジ奥にある休憩スペースに座っていた。「おば様」唯花はその果物の皿を神崎夫人の前に置いた。「おば様、フルーツをどうぞ」「ありがとうね」神崎夫人はお礼を言って、唯花が座ると、単刀直入に彼女に言った。「唯花ちゃん、私が今日ここに来た理由をあなたはきっとわかっているでしょう。私は8歳のころ、実の妹と離れ離れになったの。あれからもう五十年が過ぎたわ。この五十年間、ずっと妹のことを忘れたことなんてなかった。妹が養父母の家でいじめられてないかとか、もう姉である私のことを忘れたんじゃないかとか、心配していたの。彼女が養子として引き取られていってから、私もよく施設の園長先生に妹の状況を聞いていたのだけれど、何も成果が得られな
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第506話

唯花は神崎夫人の目から涙が零れ落ちるのを見て、すぐにティッシュを渡してあげた。そして、申し訳なさそうに「おば様、ごめんなさい」と言った。「唯花ちゃん」神崎夫人は唯花の手を握りしめ、嗚咽交じりに言った。「違うわ、おばさんのほうこそごめんなさい。おばさんに力が足りなかったから、あなた達姉妹をずっと見つけてあげられなくて。もし、もっと早くあなた達を見つけられていれば、もしかしたらお母さんは亡くならなかったかもしれないのに」彼女がもっと早く妹を見つけていたのなら、絶対に彼女を市内に連れて来て生活させていたのだ。そうであれば、妹も田舎で事故に遭わず、夫婦ともに亡くなることなどなかったのに。まだDNA鑑定をしてはいないが、神崎夫人の話を聞いて唯花も鼻がじんとしてきて、目を赤く染めた。もし、母親がまだ生きていればよかったのに。「お母さん、泣かないで。お父さんからお母さんのことしっかり見ててって言われたのよ。もうお母さんを泣かせるなって。昨日一日中泣いていたでしょ」姫華は唯花の手からティッシュを受け取り、母親の目を拭いて慰めた。「お母さん、先に唯花と一緒に検査してきて。もし、結果がそうだったとしても、ここには唯花とお姉さんの唯月さんもいるんだから」神崎夫人は自分で涙を抜きとった。「お母さんったら、自分の気持ちをコントロールできないだけよ」当時、彼女自身も、両親を亡くしていた。まだ年が幼かったので、妹を育てる力はなく、妹と離れざるを得なかったのだ。それから五十年、ようやく手がかりが見つかったというのに、死別という結果しか得られないなんて理不尽すぎる。神崎夫人はとても強い女性だが、それでも心が辛く悲しくなることはあるのだ。神様を恨みたい。二人はなんとか神崎夫人の気持ちを落ち着かせて、唯花は姉に電話をかけた。姉に意見を聞いた後、彼女は夫人と一緒にDNA鑑定をしに行くことに決めたのだった。「私は店番してるわね」姫華は自ら店を見ておく責任を買って出た。唯花は車の鍵を取り、レジを通り過ぎながら言った。「お店を閉めるわ。後でご飯をご馳走しに行くから」自分のハンドメイド細工のことを思い出し、彼女はまた引き返して、いくつか出来上がっていたビーズ細工を神崎夫人に贈った。「おば様、これ私が作ったものなんです。そんな大したものじゃなくて、
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第507話

DNA鑑定に向かう途中、唯花は理仁が携帯に百万円送金してきたのを受け取った。彼女が拒否するかもしれないと思い、メッセージも一緒に送ってきた。「唯花さん、もしこのお金を拒否するなら、それは君が俺を夫だと見てくれてないってことになるぞ。だって夫が稼いだお金は妻のために使うものなんだからね」唯花は彼のメッセージを読んで、にやりとしてしまった。理仁のやつ、こんな不器用な言い訳で脅してくるとは。彼女はこの時はまだその百万円の受け取りボタンをクリックせず、鑑定機関に行って神崎夫人と一緒に血液検査をしてから、その送金を受け取った。夫から百万円もらったものだから、唯花は贅沢に神崎夫人親子を五つ星ホテルに連れて行って食事ができる。星城市の五つ星ホテルと言えば、唯花が一番よく知るのはスカイロイヤルホテルだ。スカイロイヤルホテルは結城グループが経営するホテルだ。結城グループと神崎グループは敵対関係というか、ライバル社同士と言える。唯花は親子二人をスカイロイヤルホテルに連れて行ってから、やっとこのことを思い出した。その瞬間、彼女は少しすまなさそうに神崎夫人に言った。「おば様、やっぱり、他のお店にしましょうか?」神崎夫人はこの時、唯花がそう言う意味を理解し、笑って言った。「いいの、以前会社で働いていた時には、よくここに来てお客さんと商談をしていたんだから」そして彼女は自分の娘もちらりと見た。姫華も馬鹿ではない。すぐに母親が自分を見てきた意味を理解した。彼女は不機嫌そうに言った。「お母さん、そんなに偶然に彼に会うわけないでしょ?それに、会ったとしてもだから何だっていうの?」理仁が結婚指輪をつけているのを見た瞬間から、姫華は心理的ショックを受け、その事実に苦しむ中、彼への気持ちを無理やり捨て去った。兄の奥さんが彼女に言っていた。優秀な男性はなかなかいないが、普通の男性ならその辺に転がっている。しかし、神崎姫華なら、そんなに結婚相手のことで悩む必要もない。絶対に結城理仁と同じように優秀で、姫華のことだけを愛してくれる男性が見つかるはずだ。唯花はこの親子がそんなに気にしていないようなので、彼女たちを連れてホテルの中へと入っていった。この時、ロビーの責任者は唯花に気づいたが、彼は唯花を若奥様と呼ぶことなどもちろんできず、ただ丁寧に三人
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第508話

「そうか、わかった。お前は仕事に戻ってくれ」辰巳は急いでグループに追いつき、兄の近くに寄って小声で教えた。「兄さん、日高マネージャーが数分前に義姉さんが神崎夫人と娘さんを連れてここに来たのを見たと言っていたよ。彼女達は今松の間にいるらしい」その部屋はスカイロイヤルでも最高級の個室だ。財布が心もとない人はその部屋を選ぼうともしない。しかし、唯花が神崎夫人にご馳走するのだとしたら、確実に最高級の松の間を選ぶだろう。「わかった」理仁はこれに関してはまったく意外には思っていなかった。「出くわすことはないさ」理仁は低く落ち着いた声でそう言った。彼は普通、顧客をホテルの最上階にあるペントハウスへと連れて行く。唯花のいる松の間は階が違うし、彼は専用エレベーターを使っている。ホテル客は彼が連れていかない限り、専用エレベーターに乗ることもできない。夫婦がエレベーターの前で出くわさない限り、決して会うことはないのだ。辰巳は兄が自信満々に言っているのを見て、それ以上は何も言わなかった。どのみち一般人を演じているのは兄だ。本当に義姉と出くわして、彼女に兄の正体がばれてしまったとしても、それは兄の事であって、他の人たちは面白いものを見させてもらえばいいだけの話だ。理仁たち一行は唯花たち三人と出くわすことはなかった。しかし、理仁がエレベーターに乗り込む時、ちょうど他のエレベーターから降りてきた佐々木俊介と成瀬莉奈の姿があった。俊介は理仁になんだか見覚えがあるような気がすると思ったが、はっきりと確認する前にエレベーターのドアが閉まってしまった。ボディーガードたちが上にあがる前に、俊介がエレベーターの前で覗き見ようとしているのに気づき、彼らは集まってきて俊介をじろりと睨んでいた。俊介は彼らに睨みつけられて、瞬時に萎縮し、すぐに莉奈を引っ張って去っていった。「俊介、さっき何を見てたの?」「さっきの男たちって、もしかして結城社長のボディーガードかな?」俊介は莉奈に尋ねた。「そんなの私にはわかるわけないでしょ。結城社長に会うチャンスだってないのに、彼のボディーガードなんてわかるわけないじゃないの」結城社長のボディーガードだと一目でわかる人は、絶対にいつも結城社長本人に会っている人だ。莉奈は自分も結城社長に出会えるような運
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第509話

「彼女の夫がもし大富豪の結城家と関係があるなら、私たち二人が今頃こんなところで悠々としていられると思う?それなら、彼女がさっさと結城社長の力を借りて、私たちを地獄に叩き落としているわよ」俊介は自分がやった馬鹿な真似を考え、莉奈が言っている話も理にかなっていると思った。それで今回の件はもう気にしなくなった。あの結城家の御曹司のような身分から見ると、唯花が何回転生しても、結城家の若奥様という立場になれるような運命など持ち合わせてはいないだろう。二人はイチャつきながら、ホテルを出て行った。しかし、ちょうどホテルの入り口で唯月を見かけた。唯月は一人だった。彼女は陽が寝ている隙に、清水に陽のことを頼んで、俊介と莉奈を待ち伏せしていたのだ。彼女がここに待ち伏せしに来たのは、理仁からもらったあの資料と証拠を見て、俊介が莉奈を連れてスカイロイヤルホテルで食事するのが好きなのがわかったからだった。夫婦はもう修復不可能なほどに関係が壊れている。唯月は自分が佐々木俊介と結婚し、子供を産み育て家庭を守って来たことを考えていた。しかもいつも彼の両親や姉一家の世話もしないといけなかった。それなのに、俊介は彼女が稼ぐこともできずに浪費するばかりで、一日中家の中にいて怠けていると言ってきたのだ。ただ子供一人の世話をするだけなのに、いつも唯花に手伝ってもらって、彼女は役立たずで、食べることしかできないなどと罵った。唯月の心は依然としてズキズキと痛んでいた。彼女がたくさん食べなければ、母乳が足りずに、俊介はまた彼女が子供を餓死させる気かなどと言ってくるはずだ。だから、陽は1歳になるまで全て母乳だけで育てて来た。初婚相手の彼女に、俊介は非常にケチだった。たまに機嫌が良いと、彼女を連れて外食していたが、それでもただ居酒屋やファーストフード店などのたくさん食べてもあまり金のかからない店ばかりだった。それとは逆に、頻繁に莉奈をスカイロイヤルホテルに連れて来て食事し、彼女には至れり尽くせりの生活をさせ、プレゼントを贈ってはご機嫌取りをしていた。莉奈をまるでお姫様のように扱っている。唯月の姿を見た後、莉奈は挑発するかのようにしっかりと俊介の腕をきつく抱きしめた。唯月は彼女のその挑発する動作を見逃さなかった。俊介は立ち止まって、莉奈を連れて唯月の前まで行き
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第510話

莉奈は俊介を引っ張って尋ねた。「あのデブ女、私たちと何を話し合うつもりなのかしら?」「俺が提示した離婚協議書にあいつは同意しなかった。たぶん離婚の件でまた話したいんだろ」離婚訴訟も時間がかかる。恐らく陽の一件で、唯月は一刻も早く離婚してしまいたいのだろう。俊介は莉奈を連れて彼の車のほうへと向かった。二人は車に乗り、彼は莉奈のほうに体を寄せて、辛そうな顔で莉奈の顔を撫でた。「痛む?」「あなたは?」俊介は自分の顔を撫でた。「めっちゃ痛えよ、陽の一件であいつ相当怒ってるらしい。まあ、このビンタであいつの気を晴らせるなら我慢してやるよ」莉奈は叩かれた自分の顔を触って言った。「俊介、あの女がそんなに離婚したがってるなら、離婚条件をもっと厳しくしてもいいと思うわ。一番はあの女に何にも渡さないことよ。彼女がもし嫌だって言ったら、さっさと離婚訴訟を起こさせちゃいましょ。私たちは耐えられるし」俊介はそれに同意した。「あいつについて行ってみよう。まずはあいつがどう出るのか見てみよう」二人は今、唯月が早く離婚したいと焦っていて、彼女をうまくコントロールして何も渡さず追い出せると思っていたのだった。唯月に財産を一切渡さず追い出せると思い、莉奈は叩かれた顔をさすりながら、口角を上げて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。唯月はあるカフェをゲス男と泥棒猫の二人と話し合う場所に決めた。彼女は席に座ると、自分の分のジュースを注文した。そして冷ややかな目で莉奈が俊介の腕を引いてやって来るのを見ていた。彼らはわざと彼女の前でイチャついている姿を見せつけて、彼女を刺激しているのだ。唯月は冷たく笑った。彼女はただ成瀬莉奈が現れてくれたことに感謝していた。彼女に俊介の隠れた劣悪な本性を教えてくれたからだ。こんなゲス男など成瀬莉奈にくれてやる。俊介たちが唯月に近づくと、テーブルの上に黄色のファイルがあるのが見えた。それを見て俊介の瞳が揺らいだ。そして、何も気にしない様子で座って唯月に「それはなんだ?」と尋ねた。唯月はその黄色のファイルを駿介の前へとずらした。俊介はその中身は唯月が書いた離婚協議書だと思ったが、それを持ち上げてみると、とても重かった。その中は絶対に離婚協議書ではない。莉奈も興味津々で彼に近寄り、その中に何が入っているのか見
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