Share

第508話

Author: リンフェイ
「そうか、わかった。お前は仕事に戻ってくれ」

辰巳は急いでグループに追いつき、兄の近くに寄って小声で教えた。「兄さん、日高マネージャーが数分前に義姉さんが神崎夫人と娘さんを連れてここに来たのを見たと言っていたよ。彼女達は今松の間にいるらしい」

その部屋はスカイロイヤルでも最高級の個室だ。財布が心もとない人はその部屋を選ぼうともしない。

しかし、唯花が神崎夫人にご馳走するのだとしたら、確実に最高級の松の間を選ぶだろう。

「わかった」

理仁はこれに関してはまったく意外には思っていなかった。

「出くわすことはないさ」

理仁は低く落ち着いた声でそう言った。

彼は普通、顧客をホテルの最上階にあるペントハウスへと連れて行く。唯花のいる松の間は階が違うし、彼は専用エレベーターを使っている。ホテル客は彼が連れていかない限り、専用エレベーターに乗ることもできない。

夫婦がエレベーターの前で出くわさない限り、決して会うことはないのだ。

辰巳は兄が自信満々に言っているのを見て、それ以上は何も言わなかった。

どのみち一般人を演じているのは兄だ。本当に義姉と出くわして、彼女に兄の正体がばれてしまったとしても、それは兄の事であって、他の人たちは面白いものを見させてもらえばいいだけの話だ。

理仁たち一行は唯花たち三人と出くわすことはなかった。しかし、理仁がエレベーターに乗り込む時、ちょうど他のエレベーターから降りてきた佐々木俊介と成瀬莉奈の姿があった。

俊介は理仁になんだか見覚えがあるような気がすると思ったが、はっきりと確認する前にエレベーターのドアが閉まってしまった。

ボディーガードたちが上にあがる前に、俊介がエレベーターの前で覗き見ようとしているのに気づき、彼らは集まってきて俊介をじろりと睨んでいた。

俊介は彼らに睨みつけられて、瞬時に萎縮し、すぐに莉奈を引っ張って去っていった。

「俊介、さっき何を見てたの?」

「さっきの男たちって、もしかして結城社長のボディーガードかな?」

俊介は莉奈に尋ねた。

「そんなの私にはわかるわけないでしょ。結城社長に会うチャンスだってないのに、彼のボディーガードなんてわかるわけないじゃないの」

結城社長のボディーガードだと一目でわかる人は、絶対にいつも結城社長本人に会っている人だ。

莉奈は自分も結城社長に出会えるような運
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第509話

    「彼女の夫がもし大富豪の結城家と関係があるなら、私たち二人が今頃こんなところで悠々としていられると思う?それなら、彼女がさっさと結城社長の力を借りて、私たちを地獄に叩き落としているわよ」俊介は自分がやった馬鹿な真似を考え、莉奈が言っている話も理にかなっていると思った。それで今回の件はもう気にしなくなった。あの結城家の御曹司のような身分から見ると、唯花が何回転生しても、結城家の若奥様という立場になれるような運命など持ち合わせてはいないだろう。二人はイチャつきながら、ホテルを出て行った。しかし、ちょうどホテルの入り口で唯月を見かけた。唯月は一人だった。彼女は陽が寝ている隙に、清水に陽のことを頼んで、俊介と莉奈を待ち伏せしていたのだ。彼女がここに待ち伏せしに来たのは、理仁からもらったあの資料と証拠を見て、俊介が莉奈を連れてスカイロイヤルホテルで食事するのが好きなのがわかったからだった。夫婦はもう修復不可能なほどに関係が壊れている。唯月は自分が佐々木俊介と結婚し、子供を産み育て家庭を守って来たことを考えていた。しかもいつも彼の両親や姉一家の世話もしないといけなかった。それなのに、俊介は彼女が稼ぐこともできずに浪費するばかりで、一日中家の中にいて怠けていると言ってきたのだ。ただ子供一人の世話をするだけなのに、いつも唯花に手伝ってもらって、彼女は役立たずで、食べることしかできないなどと罵った。唯月の心は依然としてズキズキと痛んでいた。彼女がたくさん食べなければ、母乳が足りずに、俊介はまた彼女が子供を餓死させる気かなどと言ってくるはずだ。だから、陽は1歳になるまで全て母乳だけで育てて来た。初婚相手の彼女に、俊介は非常にケチだった。たまに機嫌が良いと、彼女を連れて外食していたが、それでもただ居酒屋やファーストフード店などのたくさん食べてもあまり金のかからない店ばかりだった。それとは逆に、頻繁に莉奈をスカイロイヤルホテルに連れて来て食事し、彼女には至れり尽くせりの生活をさせ、プレゼントを贈ってはご機嫌取りをしていた。莉奈をまるでお姫様のように扱っている。唯月の姿を見た後、莉奈は挑発するかのようにしっかりと俊介の腕をきつく抱きしめた。唯月は彼女のその挑発する動作を見逃さなかった。俊介は立ち止まって、莉奈を連れて唯月の前まで行き

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第510話

    莉奈は俊介を引っ張って尋ねた。「あのデブ女、私たちと何を話し合うつもりなのかしら?」「俺が提示した離婚協議書にあいつは同意しなかった。たぶん離婚の件でまた話したいんだろ」離婚訴訟も時間がかかる。恐らく陽の一件で、唯月は一刻も早く離婚してしまいたいのだろう。俊介は莉奈を連れて彼の車のほうへと向かった。二人は車に乗り、彼は莉奈のほうに体を寄せて、辛そうな顔で莉奈の顔を撫でた。「痛む?」「あなたは?」俊介は自分の顔を撫でた。「めっちゃ痛えよ、陽の一件であいつ相当怒ってるらしい。まあ、このビンタであいつの気を晴らせるなら我慢してやるよ」莉奈は叩かれた自分の顔を触って言った。「俊介、あの女がそんなに離婚したがってるなら、離婚条件をもっと厳しくしてもいいと思うわ。一番はあの女に何にも渡さないことよ。彼女がもし嫌だって言ったら、さっさと離婚訴訟を起こさせちゃいましょ。私たちは耐えられるし」俊介はそれに同意した。「あいつについて行ってみよう。まずはあいつがどう出るのか見てみよう」二人は今、唯月が早く離婚したいと焦っていて、彼女をうまくコントロールして何も渡さず追い出せると思っていたのだった。唯月に財産を一切渡さず追い出せると思い、莉奈は叩かれた顔をさすりながら、口角を上げて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。唯月はあるカフェをゲス男と泥棒猫の二人と話し合う場所に決めた。彼女は席に座ると、自分の分のジュースを注文した。そして冷ややかな目で莉奈が俊介の腕を引いてやって来るのを見ていた。彼らはわざと彼女の前でイチャついている姿を見せつけて、彼女を刺激しているのだ。唯月は冷たく笑った。彼女はただ成瀬莉奈が現れてくれたことに感謝していた。彼女に俊介の隠れた劣悪な本性を教えてくれたからだ。こんなゲス男など成瀬莉奈にくれてやる。俊介たちが唯月に近づくと、テーブルの上に黄色のファイルがあるのが見えた。それを見て俊介の瞳が揺らいだ。そして、何も気にしない様子で座って唯月に「それはなんだ?」と尋ねた。唯月はその黄色のファイルを駿介の前へとずらした。俊介はその中身は唯月が書いた離婚協議書だと思ったが、それを持ち上げてみると、とても重かった。その中は絶対に離婚協議書ではない。莉奈も興味津々で彼に近寄り、その中に何が入っているのか見

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第511話

    「私がどうやってそれを集めたのかなんてどうだっていいでしょ。俊介、もしも私がその不正で稼いでいた証拠を社長に密告したら、これからどうやってスカイ電機の部長でいられるかしらね?」唯花は姉に注意していた。俊介にその不正の証拠を見せずに、ただ言葉だけで彼を脅せと。しかし、唯月は俊介のことをよく理解していて、証拠がなければこの男を脅すことなどできないと思ったのだった。だから、彼女は理仁の友人が集めてくれた証拠を全てコピーして持ってきたのだ。俊介がそのコピーを破ってしまっても、彼女はまだいくらでもコピーすることができる。このような証拠があれば、俊介は自分の首を守るために、譲歩して彼女と離婚の話し合いに応じるだろう。この時の彼女は理仁がすでに九条悟に指示を出して、スカイ電機に全面的に圧力をかけているということは知らなかった。俊介と莉奈がどう足掻いても、どのみちクビになることには変わりはないのだった。俊介は怒りに歪んだ顔をしていた。彼はぎろりと唯月を睨み続けている。唯月も以前はスカイ電機で働いていた。さらに財務部長にまで昇進していて、当時の彼女は彼よりもずっと仕事ができたのだ。当時の彼のプレッシャーが大きく、自分は唯月には敵わないとプライドをズタズタに傷つけられて、自分よりよくできる彼女を部長の地位から引きずり降ろすために彼女にプロポーズしたのだ。彼らは知り合ってからもう十数年と長い時間が経っていて、またその中でも数年間付き合っていた。唯月の中では二人は深く愛し合っていると思っていた。唯月も彼と結婚する準備はしていた。彼がプロポーズしてきた時は大喜びしてそれを受け入れた。そして、結婚の準備をする時には、彼女がどのような要求をしてきても彼とその家族たちは全て応えてくれた。彼は彼女に対して今までよりももっと優しく、気配りしてくれるようになった。それでようやく結婚してから唯月に仕事を辞めて、子作りをしようと説得させることができたのだった。唯月が妊娠してから、俊介は子供が生まれるのを心待ちにしていた。そして、会社では唯月と比べられることもなくなり、プレッシャーも減って、だんだん社長に評価されるようになり、昇進していったのだった。それで今日の部長という肩書きがあるのだ。そして一方の唯月はと言うと、妻となり母親となり、毎日毎日この家

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第512話

    綺麗だった彼女は太ったことで全てが台無しになった。かつて幸せだった彼女の全てが、この男の手によって壊されてしまった。「唯月、どうしたいんだ?」俊介は少し口調を和らげて彼女に尋ねた。「お前の要求を言ってくれ。俺にできることなら、なるだけその要求を叶える。そして、俺たちはきれいさっぱり別れようぜ。そうしたら、この原本を俺にくれ」現在、彼には四千万近くの財産がある。しかし、もし彼が唯月とよく話し合えなかったら、彼女は離婚訴訟を起こすことだろう。彼女の手元には証拠が揃っているから、彼女のほうが有利で、彼は不利な立場だ。裁判所は当然半分の財産を唯月に分割するように判決を下すはずだ。唯月がもし彼が不正していた証拠を社長に渡せば、社長は彼をクビにしなくとも、部長という椅子から降ろされてしまうのは確実だ。しかも、彼は顧客からも不正に金をもらい、お金をもらった以上、顧客のためにいろいろなことをした。それに顧客を手伝って会社の不利益になるようなこともしていたのだった。社長がそれを調べれば、すぐにはっきりとわかり、怒りに触れて仕事を失ってしまうことだろう。もしかすると、社長が彼のこの行為を外部にも流し、今後、彼は新しい仕事を見つけるのが困難になるかもしれない。これは彼の将来に関わる。今後の自分の利益に関わる問題だから、たとえ俊介がこの時唯月を絞め殺したいくらい憎んでも、腰を低くして唯月としっかり離婚の話し合いをしなければならない。「あなた名義の全ての財産については別に多くもらおうとは思わないわ。半分ずつよ。それは私がもらう権利があるものだからね。家と車はいらないわ。だけど、お金にして払ってもらうわ」唯月は彼女の要求を提示した。「家のリフォーム代についてだけど、それはいらない。自分でお金を使ってリフォームしたんだもの、自分で取り返すわ」俊介が離婚に応じたら、離婚手続きをし、すぐに人を雇って家のリフォームした箇所を全て壊し、壁もはぎ取ってやるつもりだ。俊介が買ったばかりの家の状態に戻して返してやるのだ。「陽の親権は私がもらうわ。あんたは毎月六万円の養育費を払ってちょうだい。あんたの収入なら、これくらいちっぽけなものでしょう。あの子はあんたの子供なんだから、きっと問題ないわよね?陽が18歳になったら養育費は払ってもらう必要はない。

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第513話

    少し沈黙してから、俊介は言った。「唯月、俺がその財産分与に同意すれば、本当に手元にある証拠を俺にくれるんだな?絶対に社長んとこに伝えたりしないと?」「私がもらうべきものをもらえれば、私個人があんたに対して仕返しするような行為はしないと約束する」しかし、彼女の妹やその夫が何をするかは、彼女は保証できない。俊介はまた暫くじっくりと考えてから言った。「財産分与の件はいいだろう。だが、陽の親権に関してはお前にやることはできない。陽は我が佐々木家の子だ。うちの父さんも母さんも内孫である陽を重要視しているからな。だから、陽の親権は譲ることはできん」俊介は陽の親権を唯月に渡してしまい、家に帰った後、両親からひどく怒鳴られるのを恐れていた。しかも、陽はなんと言っても彼自身の息子だ。彼には今のところ陽一人しか息子がいないから、手放すことができないのだ。唯月はまだ飲み終わっていないジュースを持って、俊介の顔にぶちまけた。「俊介、よくも私と陽の親権争いができると思うわね?陽に佐々木家の血が流れていて、あんたの両親の孫だとか、そんなふざけたこと言わないでくれるかしら。あんた達が陽に何をしたか、もう忘れたって言うの?陽はね、今でもまだ急に泣き出すことがあるの。顔に残っている青あざはまだ消えていないわよ。あんた達が陽に与えるダメージがまだ足りないというわけ?陽があいつらに殺されたらようやく満足できるとでも?」俊介は唯月にジュースを顔にかけられて、そのありさまは、本当に散々なものだった。彼は唯月の行いにはもう腹が立ってしかたなかった。莉奈は急いでティッシュを取って、彼の顔にかかったジュースを拭きながら、唯月に言った。「ちゃんと話し合うんじゃなかったの?なんでこんなことするのよ。彼のスーツも濡れて汚れちゃったじゃないの、弁償できるわけ?」「成瀬さん、あなたはまだ状況を理解できていないみたいね」唯月は皮肉交じりに言った。「私とこいつがまだ離婚手続きをしていないのだから、こいつはまだ私の夫なのよ。こいつのスーツがどうなろうが、それは家庭内での問題よ。あんたに弁償しろと言われるような筋合いがあって?あんた一体何様よ?」莉奈は怒りで顔を赤くさせ、また青ざめさせた。「莉奈」俊介は優しく言った。「俺は大丈夫だから。この女のせいで怒って体を壊し

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第514話

    俊介は心配だった。彼がいなくなると、唯月が莉奈に何かするんじゃないかと思っていたのだ。唯月は彼と成瀬莉奈のホテルでの浮気現場を捕まえたあの夜、莉奈をひどく痛めつけたのだ。彼はあの後、あの夜のことを思い出しただけでも恐ろしくなる。唯月は冷たい声で言った。「この女を殴ったら私の手が汚れるだけだし。安心して、私は一切手出しをしないから」「唯月、これは俺ら二人の事だ。俺がここにいたらいけないのか?」俊介はやはり心配だった。唯月が彼から家庭内暴力を受けた時、包丁を振り回して彼を街中追いかけたのだ。だから、彼は唯月は一度キレると、本当に何をしでかすかわからない奴だと思うようになっていた。「これは妻である私と浮気相手の泥棒猫との話し合いよ。あんたみたいなゲス男には用はないわ」佐々木俊介「……」彼はぎろりと唯月を睨みつけ、しぶしぶと立ち上がってその場から離れた。俊介がいなくなってから、莉奈は髪の毛を整えながら唯月に尋ねた。「さあ、一体何の話?唯月さん、俊介が愛しているのはこの私なの。あまり大事にしたくないなら、さっさと彼と離婚したほうがいいわよ」「安心して」唯月は落ち着き払って言った。「別にあの男をあんたと争いたいわけじゃないから。あいつは私のことをなんとも思ってないし、争っても意味がないわけよ、だから、その必要はまったくないわね」彼女も別に俊介と離婚して生きていけないわけではない。離婚してもこの地球は普段と変わらず周り続ける。しかも俊介と離婚したほうが、彼女は幸せに生きていけるのだから。「成瀬さんって、私よりも若いでしょう。俊介と一緒にいる時は可愛がられるお嬢さんだわ。あんた、本気で2歳半の子供の継母になるつもり?」この時、莉奈の表情はこわばった。そして暫くしてからやっとどうにか口を開いた。「陽ちゃんは可愛いわ。努力して陽ちゃんと仲よくなれるようやっていくつもりよ。俊介のことを思えば、喜んで彼と一緒に陽ちゃんを育てていくわ」「成瀬さん、あまり無理をしないほうがいいんじゃないの。俊介はここにいないわ。あいつはあなたの本当の気持ちを知ることはないんだから」唯月は皮肉を交えて言った。「継母ってすごく大変よ。あなたが本心でも、取り繕ってやっていたとしても、他人はみんなあなたを悪い継母だって言うことになるわ。陽に厳しく

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第515話

    「成瀬さん、私と俊介が離婚したら、あなたは彼と結婚するんでしょ。あなた達はまだ若いし、きっとすぐにあなた自身の子供ができるわ。その子供の父親の愛を陽に分けてあげることができるの?俊介が陽を両親のところへやって世話をしてもらうと言っているとしても、陽が可哀想だと思って、陽のほうへ味方するようになるわ。彼らは俊介に陽のほうを可愛がるように言って、あなたの子供とは違う扱いをするわよ。自分の子供にそんな辛い思いをさせられるの?陽の親権が私に渡れば、俊介に毎月養育費を六万円だけもらって、それ以外のことに俊介を巻き込むことはないわ。あの人が長年ずっと陽に会いにこなくたって、別に責めたりしない。あなたとその子供に与える影響が一番少なくて済むのよ。あなたも私と俊介の子供である陽の影を感じずに済むわ。あなたが陽と一緒にいて、毎回陽に会う時、絶対に私と俊介の過去のことを思い出すはずよ。私と彼は知り合って十二年の仲なの。七年間恋愛して、結婚生活は三年ちょっと続いたわ。この時間はあなたよりもはるかに長いの。あなた本当にまったく気にならないわけ?陽が私の手に渡れば、あなたは毎日私の子供を視界に入れずに済むのよ。もしかしたら、初めのうちは俊介が子供に会いに来るかもしれないけど、あなたとの間に子供ができれば、彼の気持はそっちの子供に注がれるわ。そしてあなたの子供は父親の愛を一身に受けることができる。そのほうがいいでしょ?あの人はお金を稼ぐことができるんだから、今後稼いだそのお金は全てあなたとその子供に使われるの、良い話でしょ?陽が18歳になれば、俊介はもう何もする必要ないわ。あなた達もその分お金をかなり節約できるはずよ。結婚するなら、盛大に結婚式をするでしょう。新居も車も必要でしょうし、生活用品、そして披露宴にたくさんのお客を呼んだら、ものすごくお金がかかるわ。陽が俊介と一緒にいたら、成人して陽が家を買ったり、結婚したりするときにお金がまたかかるかもしれない。それはあなた自身の子供の利益を持って行かれるってことなのよ」莉奈は暫くの間黙った後、唯月に尋ねた。「あなた、私に何をさせたいの?陽ちゃんがあなたの方に渡れば、俊介とは二度と会わないって約束できる?彼が陽ちゃんに会いたいと言ったら、陽ちゃんを俊介の両親のもとに連れて行って、そこで面会させるのよ。陽ちゃんにか

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第516話

    唯月は笑って言った。「今あの人はあなたに夢中よ。あなたの言う事ならなんだって聞くに決まってる。今から彼と話してきて。陽の親権を放棄すると言ったら、会社に休みをもらって午後私と離婚手続きを終わらせましょうって伝えてちょうだい。あの人が早く独身に戻れば、あなたも早く彼と結婚できるでしょう。スカイ電機の部長夫人になれるわよ。スカイ電機はこの業界の中ではなかなかの会社で将来性もあるし、規模も大きいわ。あなたが部長夫人になったら、会社の中でも高い地位を得られるじゃない。重要なことは、彼は今後ずっとあなたのものになるってこと。彼はあんなにたくさん稼げるんだから、あなたも欲しい物があれば何でも買えるわよ。今までみたいにこそこそする必要もないし、堂々と外でも彼とイチャイチャできる。女性なら誰だって、自分の愛する人と何も憂いなく一緒に過ごしたいと思うものでしょう。俊介はまだ30歳っていう若さなのに、今のような仕事をしているんだから、ビジネス界では成功者と言えるでしょうね。もし、彼を逃したら、今後彼よりも良い男性が見つからないかもしれない。成瀬さん、あなたと俊介の幸せのためにも上手に彼を言いくるめないとだめだわ」莉奈は少し考えてから言った。「ちょっとパソコンを借りてあなた達の離婚協議書を書いてちょうだい。あなた達がサインして押印したら、後で市役所に行って離婚手続きをするの。私は今から俊介のところに行って、陽ちゃんの親権を諦めるように説得するわ」「それはできるけど、財産分与でちゃんとお金をもらわないと、役所に離婚手続きにはいけないわ。離婚してしまってあなた達が考えを変えるとも限らないでしょ?」唯月も馬鹿ではない。彼女が佐々木俊介に何の未練もなくなった時から、彼女は一歩も引く気はなかった。自分が損を被らないように、きちんと準備をしておかなければならない。莉奈が携帯を取り出して時間を見てみると、すでに午後二時を回っていた。早く事を進めれば、この日の午後に二人は離婚手続きを終わらせることができる。「ここで待っていて。いえ、先にちょっとパソコンを借りて離婚協議書を作って印刷しておいてちょうだい。今から俊介を説得してくるから」莉奈もこれ以上俊介と唯月が離婚のことでダラダラと続けていたら、俊介となかなか結婚できないと焦っていたのだ。さらに唯月に証拠

Latest chapter

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第560話

    「唯花さん、どうしたんだ?」理仁は彼女の異様な様子に気づき、急いで近寄ってベッドの端に腰をおろした。そして手を伸ばして彼女の身体に当て心配そうに尋ねた。「具合が悪いの?」「お腹が痛いの」「お腹が?もしかして夜食を食べた時に、食べ過ぎで痛くなったの?」唯花は彼をうらめしそうに見ていた。「違うの?だったら、どうしてお腹が痛くなった?」唯花は体の向きを変えて彼に背を向けた。「あなたにはわからないわ。ちょっと横になって我慢してたら良くなるわよ」理仁は眉をひそめた。彼は立ち上がって、すぐに腰を曲げ唯花をベッドから抱き上げた。そして整った顔をこわばらせて言った。「俺には医学的なことはわからない。でも医者にならわかるだろう。病院に連れて行くよ。我慢なんかしちゃだめだ。もし何かおおごとにでもなったら、後悔してももう遅いだろ」「病院なんか行かなくていいの。私はその……月のものが来ただけよ。だからお腹が痛くなったの」理仁「……月のもの……あ、あー、わ、わかったよ」彼は急いで唯花をまたベッドに寝かせた。「どうして痛くなるんだ?」彼は女性が生理中にお腹が痛くなるということを知らなかった。彼の家には若い女の子はいないのだ。両親の世代には女性がいるが、若い女性には今まで接したことがない。そう、だから本気でこんなことは知らなかったのだ。唯花が生理になった当日は、彼は彼女にジンジャーティーを入れてあげたが、あれは彼が以前、父親が母親にそのようにしてあげていたのを見たからだった。それで女性は生理中にはジンジャーティーのようなものをよく飲むのだと理解していた。「たぶん昼間たくさん動いたし、寒かったし、それで痛くなったんだわ。またジンジャーティーでも作ってくれない?」「わかった。暫く耐えてくれ。すぐに作ってくるから」理仁はすぐにジンジャーティーを作りに行った。キッチンで彼は母親に電話をかけた。「理仁、お母さんは寝ているぞ。何か用があるなら明日またかけてくれ」電話に出たのは父親のほうだった。「父さん、母さんを起こしてくれないか?ちょっといくつか聞きたいことがあるんだ」「聞きたいことって、今じゃないとダメなのか?言っただろ、母さんはもう寝てるんだって。彼女を起こすな。何だ、どんな問題なんだ?父さんに言ってみろ、解決できるかも

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第559話

    俊介はかなり怒りを溜めていた。一方、唯花のほうは今日、かなりスッキリしているようだ。夫婦二人が姉の賃貸マンションから出て来た後、唯花はずっと笑顔だった。理仁は可笑しくなって彼女に言った。「そんなに豪快に笑ってないでよ。お腹が痛くなるよ」「笑いでお腹が痛くなるっていうなら、ウェルカムよ。今頃、佐々木俊介はあの家に帰ってる頃よ。あいつ家に着いてどんな反応をしたかしらね?絶対入る家を間違えたって思ってるわよ。あはははは、あいつの反応を想像しただけで、思わず笑いが込み上げてくるわ。またちょっと大笑いさせて、あはははははっ……」理仁も彼女につられて笑ってしまった。そして危うく街灯にぶつかってしまうところだった。驚いた彼は急いでハンドルを切り、それをなんとかかわした。唯花もそれに驚いて笑いを止めた。安全運転になってから唯花は言った。「理仁さん、あなたの運転技術は如何ほどなの?下手なら、今後は私が運転するわ。私運転は得意なのよ。カーレースだって問題ないわ」「俺は18歳の時に免許を取ったもう熟練者だぞ。さっきはちょっとした事故だ、笑いすぎて集中力が落ちてたんだよ」唯花「……まあいいわ。もう言わないから、運転に専念してちょうだい」彼女は後ろを向いて後部座席に座っているおばあさんを見た。おばあさんが寝てしまっているようだから、夫に注意した。「おばあちゃん、寝ちゃったみたい。音楽をちょっと小さくして」清水はまだ唯月の家にいて、一緒に帰ってきていないのだった。理仁は彼女の指示に従った。そして唯花はあくびをした。「私も眠くなってきちゃった」「もうすぐ家に着くよ」「ちょっと目を閉じてるから、家に着いたら起こしてね」「君は一度目を閉じたら朝までその目を覚まさないだろうが。寝ないで、あと十分くらいだから。おしゃべりしていよう」唯花は横目で彼を見た。「あなたとおしゃべりしたら、優しい神様ですら飽きて寝ちゃうかもしれないわよ」理仁「……」暫くして、彼は言った。「唯花さん、俺は大人になってから、君を除いて俺にそんなショックを与えられる人間は一人もいなかったよ」「私は事実を述べただけよ」唯花は座席にもたれかけ、携帯を取り出してショート動画を見始めた。ショート動画によってはとても面白いので、眠気も全部消えてしまった。そし

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第558話

    俊介「……こんなにあるゴミも片付けてねぇじゃねえか!」唯月は可笑しくなって笑って言った。「私が当時、内装を始めた時には同じようにゴミが散らかっていたじゃないの。それは私がお金を出してきれいに片付けて掃除してもらったのよ。その時に使ったお金もあんたは私にくれなかったじゃないの。今日、それも返してもらっただけよ」「人を雇って掃除してもらったとしても、いくら程度だ?そんなちっぽけな金額ですらネチネチ俺に言ってくるのかよ」「どうして言っちゃいけないの?あれは私のお金よ。私のお金は空から降ってきたものじゃあないのよ。どうしてあんたにあげないといけないのよ。一円たりともあんたに儲けさせたりするもんか」俊介「……」暫く経ってから、彼は悔しそうに歯ぎしりしながら言った。「てめぇ、そっちのほうが性根が腐ってやがる!」「私はただ私が使ったお金を返してもらっただけよ。そんなにひどいことしてないわ。あんたが当時、自分のお金で買った家と同じものにしてやっただけでしょ」俊介は怒りで力を込めて携帯を切ってしまった。そして、携帯を床に叩きつけようとしたが、莉奈がすぐにその携帯を奪いにいった。「これは私の携帯よ、壊さないでよね」「クッソ、ムカつくぜ!」俊介はひたすらその言葉を繰り返すだけで、成す術はなかった。唯月の言葉を借りて言えば、彼女はただ自分が内装に使ったお金を返してもらっただけだ。彼が買ったばかりの家はまだ内装工事が始まる前のものなのだから、誰を責めることができる?「俊介、これからどうするの?」莉奈も唯月は性根の腐った最低女だと思っていた。なるほど俊介が彼女を捨ててしまうわけだ。あんな毒女、今後一生お嫁には行けないだろう。莉奈は心の中で唯月を何万回も罵っていた。「こんな家、あなたと一緒に住めないわ」彼女は豪華な家に住みたいのだ。「私もマンションは大家さんに返しちゃったし、私たちこれからどこに住むの?」俊介はむしゃくしゃして自分の頭を掻きむしって、莉奈に言った。「ホテルに行こう。明日、部屋を探してとりあえずそこを借りるんだ。この家はまた内装工事をしよう。前は唯月の好みの内装だったことだしな。また内装工事するなら、俺らが好きなようにできるだろ。莉奈、君のところにはあといくらお金がある?」莉奈はすぐに返事をした。「

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第557話

    「ドタンッ」携帯が床に落ちた時、画面がひび割れてしまった。俊介は急いで屈んで携帯を拾い、携帯の画面が割れてしまったことなど気にする余裕もなく、再び部屋の中を照らして見渡してみた。莉奈も携帯を取り出して、フラッシュライトで彼と一緒に部屋の状況を確認するため照らしてみた。豪華な内装がないだけでなく、ただの鉄筋コンクリートの素建ての家屋にも負けている。「俊介、やっぱり私たち入る家を間違えてるんじゃないの?」莉奈はまだここは絶対に自分たちの家ではないと希望を持っていた。俊介は奥へと進みながら口を開いた。「そんなわけない。間違えて入ったんじゃない。それなら、この鍵じゃここは開かないはずだ。ここは俺の家だ。どうしてこんなことになってるんだ?うちの家電は?たったのこれだけしか残ってないのか?」俊介の顔がだんだんと暗い闇に染まっていった。彼は食卓の前に立った。このテーブルは彼がお金を出して買ったものだ。この時、頭の中であることが閃いた。俊介はようやく理解したのだ。唯月の仕業だ。「あのクッソ女ぁ!」彼はどういうことなのか思いつき、そう言葉を吐きだした。「あいつが俺の家をこんなにめちゃくちゃにしやがったんだ!」俊介がこの言葉を吐いた時、怒りが頂点に達していた。莉奈はすぐに口を開いた。「早く警察に通報してあの女を捕まえてもらいましょう。賠償請求するのよ。あなたの家をこんなふうにしてしまったんだから、どうしたって内装費用を要求しなくっちゃ」内装費?俊介は警察に通報しようと思っていたが、莉奈の言った内装費という言葉を聞いて、すぐにその考えを捨ててしまった。そして、警察に通報しようとしていたその手を止めた。「どうして通報しないの?まさかしたくないとでも?まだあの女に情があるから?」莉奈は彼が電話をかけたと思ったらすぐに切ってしまったのを見て、とても腹を立て、言葉も選ばず厳しく責めるような言い方をした。彼女は自分が借りていたあの部屋はもう契約を解消してしまったし、全てを片付けて彼と一緒にこの家に帰ってきたのだ。ここに着くまでは、豪華な部屋に住めると思っていて、家族のグループチャットにキラキラした自分を見せつけようと思っていたというのに。結果、目に入ってきたのは素建ての家屋にも遠く及ばない廃れ果てた家だったのだ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第556話

    「私たちの家は何階にあるの?」「十六階だよ」俊介は莉奈のスーツケースを車から降ろし、それを引っ張って莉奈と一緒にマンションの中へと入っていった。エレベーターで、ある知り合いのご近所さんに出くわした。彼らはお互いに挨拶を交わし、そのご近所さんが言った。「佐々木さん、あなたの奥さん、午後たくさんの人を連れて来てお引っ越しだったんでしょ?どうしてまたここに戻ってきたんですか?」「彼女は自分の物を引っ越しで運んで行っただけですよ」相手は莉奈をちらりと見やり、どういう事情なのか理解したようだった。そして俊介に笑いかけて、そのまま去っていった。なるほど、この間佐々木さんが奥さんに包丁で街中を追い回されていたのは、つまり不倫していたからだったのか。夫婦二人はきっと離婚したのだろう。唯月が先に引っ越していって、俊介が後から綺麗な女性を連れて戻ってきたのだ。もし離婚していないなら、ここまで露骨なことはしないだろう。「さっきの人、何か知っているんじゃないの?」莉奈は不倫相手だから、なかなか堂々とできないものなのだ。俊介は片手でスーツケースを引き、もう片方の手を彼女の肩に回し彼女を引き寄せてエレベーターに入っていった。そして微笑んで言った。「今日の午後、俺が何しに行ったか忘れたのか?あの女と離婚したんだぞ。今はもう独身なんだ。君は正式な俺の彼女さ、あいつらが知ってもなんだって言うんだ?莉奈、俺たちはこれから正々堂々と一緒にいられる。赤の他人がどう言ったって気にすることはないさ」莉奈「……そうね、あなたは離婚したんだもの」彼女は今後一切、二度とこそこそとする必要はないのだ。エレベーターは彼ら二人を十六階へと運んでいった。「着いたよ」俊介は自分の家の玄関を指した。「あれだよ」莉奈は彼と一緒に歩いていった。俊介は預けてあった鍵をもらって、玄関の鍵を開けた。ドアを開くと部屋の中は真っ暗闇だった。彼は一瞬ポカンとしてしまった。以前なら、彼がいくら遅く帰ってきても、この家は遅く帰ってくる彼のためにポッと明りが灯っていたのだ。今、その明りには二度と火が灯ることはない。「とっても暗いわ、明りをつけて」莉奈は俊介と部屋の中へ入ると、俊介に電気をつけるように言った。俊介はいつものようにドアの後ろにあるスイッチ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第555話

    賑やかだった午後は、暗くなってからいつもの静けさへと戻った。唯月は結婚当初、この家をとても大切に多くのお金を使って内装を仕上げた。それが今や、彼女が当時買った家電は全て持ち出してきてしまった。そして、新しく借りた部屋には置く場所がなかった。彼女は中からよく使うものだけ残し、他のものは妹の家にではなく、中古として売ることにした。それもまた過去との決別と言えるだろう。唯月が借りた部屋はまだ片付けが終わっていなかったので、料理を作るのはまだ無理で、彼女はみんなを連れてホテルで食事をすることにした。そして、その食事は彼女がまた自由な身に戻ったお祝いでもあった。唯月のほうが嬉しく過去と決別している頃、俊介のほうも忙しそうにしていた。夜九時に成瀬莉奈が借りているマンションへとやって来た。「莉奈、これだけなの?」俊介は莉奈がまとめた荷物はそんなに多くないと思い、彼女のほうへ行ってスーツケースを持ってあげて尋ねた。「もう片付けしたの?」「普段は一人暮らしだから、そんなに物は多くないのよ。全部片づけたわ。要らない物は全部捨てちゃったの」莉奈はお気に入りのかばんを手に持ち、それから寝る時に使うお気に入りの抱き枕を抱えて俊介と一緒に外に出た。「この部屋は契約を解消したわ」「もちろんそれでいいよ。俺の家のほうがここよりもずっと良いだろうし」「あの人はもう引っ越していったの?」莉奈は部屋の鍵をかけて、キーケースの中からその鍵だけ外し、下におりてから鍵をそこにいた人に手渡した。その人は大家の親戚なのだ。「もう大家さんには契約を解消すると伝えてあります。光熱費も支払いは済ませてありますから。おじさん、後は掃除だけです。部屋にまだ使える物がありますけど、それは置いたままにしています」つまり、その人に掃除に行って、彼女が要らなくなったまだ使える物を持っていってくれて構わないということだ。おじさんは鍵を受け取った後、彼の妻に掃除に行くよう言った。俊介はスーツケースを引いて莉奈と一緒に彼の車へと向かい、歩きながら言った。「暗くなる前に、あいつから連絡が来たんだ。もう引っ越したってさ」同時に唯月は彼女の銀行カードの口座番号も送っていた。今後、彼に陽の養育費をここに振り込んでもらうためだ。そして彼女は俊介のLINEと携帯番号を全て削

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第554話

    理仁は悟のことを好条件の揃った男じゃなかったら、彼女の親友に紹介するわけないと言っていた。確かに彼の話は信用できる。一方の悟は、来ても役に立てず、かなり残念だと思っていた。彼が明凛のほうを見た時、彼女はみんなが荷物を運ぶのを指揮していたが、悟が来たのに気づくと彼のもとへとやって来た。そして、とてもおおらかに挨拶をした。「九条さん、こんばんは」「牧野さん、こんばんは」悟は微笑んで、彼女に心配そうに尋ねた。「風邪は良くなりましたか?」「ええ。お気遣いありがとうございます」唯花はそっと理仁を引っ張ってその場を離れ、悟と明凛が二人きりで話せるように気を利かせた。そして、唯花はこっそりと夫を褒めた。「理仁さん、あなたのあの同僚さん、本当になかなかイイじゃない。彼も会社で管理職をしているの?あなた達がホテルから出て来た時、彼も一緒にいるのを見たのよ」「うん、あいつも管理職の一人だ。その中でも結構高い地位にいるから、みんな会社では恭しく彼に挨拶しているよ」そしてすぐに、彼は唯花の耳元で小声で言った。「悟は誰にも言うなって言ってたけど、俺たちは夫婦だから言っても問題ないだろう。彼は社長の側近なんだ。社長からかなり信頼されていて、会社の中では社長の次に地位の高い男だと言ってもいいぞ」唯花は目をパチパチさせた。「そんなにすごい人だったの?」理仁はいかにもそうだといった様子で頷いた。「彼は本当にすごいんだ。職場で悟の話題になったら、誰もが恐れ敬ってるぞ」唯花は再び悟に目を向けた。しかし、理仁は彼女の顔を自分のほうに向けさせ、素早く彼女の頬にキスをした。そして低い声で言った。「見なくていい、俺の方がカッコイイから」「彼って結城家の御曹司に最も近い人なんでしょ。だからよく見ておかなくちゃ。結城社長の身の回りの人がこんなにすごいんだったら、社長自身もきっとすごい人なんでしょうね。だから姫華も彼に夢中になって諦められなかったんだわ」理仁は姿勢を正して、落ち着いた声で言った。「悟みたいに優秀な男が心から補佐したいと思うような相手なんだから、結城社長はもちろん彼よりもすごいに決まってるさ」「お姉ちゃんのために佐々木俊介の不倫の証拠を集めてくれた人って、彼なんでしょう?」理仁「……」彼は九条悟が情報集めのプロだということを彼女

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第553話

    部屋の中から運び出せるものは全て運び出した後、そこに残っている佐々木俊介が買った物はあまり多くなかった。みんなはまた、せかせかと佐々木俊介が買った家電を部屋の入り口に置いて、それから内装の床や壁を剥がし始めた。電動ドリルの音や、壁を剥がす音、叩き壊す音が混ざりに混ざって大合唱していた。その音は上の階や階下の住人にかなり迷惑をかけるほどだった。唯月姉妹二人は申し訳ないと思って、急いで外に行ってフルーツを買い、上と下のお宅に配りに行き謝罪をし、暗くなる前には工事が終わることを伝えた。礼儀をもって姿勢を低くしてきた相手に対して誰も怒ることはないだろう。内海家の姉妹はそもそも上と下の住人とはよく知った仲で、フルーツを持って断りを入れに来たので、うるさいと思っても住人たちは暫くは我慢してくれた。家に子供がいる家庭はこの音に耐えられず、大人たちが子供を連れて散歩に出かけて行った。姉妹たちはまたたくさん食べ物を買ってきて、家の工事を請け負ってくれている人たちに配った。このような待遇を受けて、作業員たちはきびきびと作業を進めた。夕方になり、外せるものは全て外し、外せないものは全て壊し尽くした。「内海さん、出たごみはきれいに片付けますか?」ある人が唯月に尋ねた。唯月はぐるりと一度部屋を見渡して言った。「必要ありません。当初、内装工事を始めた時、かなりお金を使って綺麗に片付けてもらいましたから。これはあの人たちに自分で片付けてもらいます。私が当初、人にお願いして掃除してもらった時に払ったお金とこれでチャラになりますからね」唯花は部屋の中をしげしげと見て回った。壁の内装もきれいさっぱり剥がして、床もボロボロにした。全て壊し尽くしてしまった。姉が掃除する必要はないと言ったのだから、何もする必要はないだろう。これは佐々木俊介たちが自分で掃除すればいいのだ。「明凛、あなたの話を聞いてよかったわ。あなたの従兄に作業員を手配してもらって正解ね。プロの人たちだから、スピードが速いのはもちろん、仕上がりもとても満足いくものだわ」明凛は笑って言った。「彼らはこの道のプロだから、任せて間違いなかったわね」「彼らのお給料は従兄さんに全部計算してもらって、後から教えてちょうだい。お金をそっちに入金するから」明凛は頷いた。「もう従兄には言ってあ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第552話

    「あ、あなたは、あの運転代行の方では?」唯花は七瀬に気づいて、とても意外そうな顔をした。七瀬は良い人そうにニカッと笑った。「旦那さんに名刺を渡して何かご用があれば声をおかけくださいと伝えてあったんです。仕事に見合うお給料がいただければ、私は何でもしますので」唯花は彼が運転代行をしていることを考え、代行運転の仕事も毎日あるわけじゃないから、アルバイトで他のことをやっているのだろうと思った。家でも暇を持て余して仕事をしていないのではないかと家族から疑われずに済むだろう。「お手数かけます」「いえいえ、お金をもらってやることですから」七瀬はそう言って、すぐに別の同僚と一緒にソファを持ち上げて運んでいった。明凛は何気なく彼女に尋ねた。「あの人、知り合い?」「うん、近所の人よ。何回か会ったことがあるの。普段は運転代行をしているらしくて、理仁さんが前二回酔って帰って来た時は彼が送ってくれたのよ。彼がアルバイトもしてるなんて知らなかったけどね。後で名刺でももらっておこう。今後何かお願いすることがあったら彼に連絡することにするわ。彼ってとても信頼できると思うから」陽のおもちゃを片付けていたおばあさんは、心の中で呟いていた。七瀬は理仁のボディーガードの一人だもの、もちろん信頼できる人間よ。人が多いと、作業があっという間に進んだ。みんなでせかせかと働いて、すぐに唯月がシールを貼った家電を外へと運び出した。唯月と陽の親子二人の荷物も外へと運び出した。「プルプルプル……」その時、唯花の携帯が鳴った。「理仁さん、今荷物を運び出しているところよ」唯花は夫がこの場に来て手伝えないが、すごく気にかけてくれていることを知っていて、電話に出てすぐ進捗状況を報告したのだった。理仁は落ち着いた声で言った。「何台かの荷台トラックを手配したんだ。きっともうすぐマンションの前に到着するはずだよ。唯花さんの電話番号を運転手に伝えておいたから、後で彼らに会って、引っ越し荷物を義姉さんの新しいマンションまで運んでもらってくれ。もし義姉さんのマンションに置く場所がなければ、とりあえずうちに荷物を置いておいていいから」彼らの家はとても広いし、物もそんなに多くないのだ。「うん、わかったわ。理仁さん、本当にいろいろ気を配ってくれるのね。私たちったら

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status