理仁は唯花を抱きかかえて二人の住処へと帰った。玄関のドアを開けた瞬間、ペットの犬が飛び出してきた。「どけ!」理仁が低い声で一喝すると、子犬はおとなしく床に伏せて、それ以上は近寄って来なかった。シロは知っている。オスのほうの主人は自分のことを好きではないと。幸い、彼は犬をいじめることはなく、餌も水も十分だった。「プルプルプル……」この時、理仁の携帯が鳴り響いた。彼は唯花を抱きかかえているので、携帯を取り出して電話に出ることができなかった。すると相手はすぐに電話を切った。きっと悟が彼に言われた通りに、十分おきに彼に電話をしてきているのだろう。理仁が言い訳をして逃れるために事前に準備しておいた策だ。しかし、今となってはその必要もなくなった。神崎夫人親子はすでに唯月の家にはいないのだから。彼は唯花を彼女の部屋へと連れて行き、ベッドの上に横たわらせて布団をかけた後、携帯を取り出して悟に電話をかけ、小声で言った。「悟、もう電話はかけてこなくていいぞ」「もういいのか?ちょうど自動電話サービスでも利用しようかと思ってたところだぞ」理仁の口角が引き攣った。「ご飯食べたか?よかったら一緒に行く?」「俺はいい。お前は牧野さんと約束して食事しないのか?」悟は言った。「もしデートに誘って断られたら恥ずかしいだろうが。俺たちは会って連絡先を交換はしたけど、彼女のほうから連絡してきてないんだ。俺だって彼女が俺のことをどう思ってるのかさっぱりわからないしさ」理仁「……俺はようやくばあちゃんがなんで俺に対してやきもきしていたのか、わかったような気がする」悟は言葉を詰まらせ尋ねた。「じゃ、今から彼女を食事デートに誘ったらいいかな?」「お前次第だろ。どのみち、女性を追いかけるなら、少しくらい図々しくならないとな」「どうやら君は今、顔の面の皮が相当分厚くなってるようだね」理仁は自分の顔を触った。「その厚さを測ったことはないから、どのくらいかは知らんがな」悟はハハハと笑った。「内海さんは俺の人生の中で最も尊敬すべき女性だよ。この世でたった一人しかいないね!」「黙れ!」理仁は彼に怒鳴り、電話を切った。彼は唯花のベッドの端に腰をかけて、彼女の寝顔を静かに見つめていた。その表情は非常に優しく穏やかになってい
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