All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 481 - Chapter 490

536 Chapters

第481話

理仁は唯花を抱きかかえて二人の住処へと帰った。玄関のドアを開けた瞬間、ペットの犬が飛び出してきた。「どけ!」理仁が低い声で一喝すると、子犬はおとなしく床に伏せて、それ以上は近寄って来なかった。シロは知っている。オスのほうの主人は自分のことを好きではないと。幸い、彼は犬をいじめることはなく、餌も水も十分だった。「プルプルプル……」この時、理仁の携帯が鳴り響いた。彼は唯花を抱きかかえているので、携帯を取り出して電話に出ることができなかった。すると相手はすぐに電話を切った。きっと悟が彼に言われた通りに、十分おきに彼に電話をしてきているのだろう。理仁が言い訳をして逃れるために事前に準備しておいた策だ。しかし、今となってはその必要もなくなった。神崎夫人親子はすでに唯月の家にはいないのだから。彼は唯花を彼女の部屋へと連れて行き、ベッドの上に横たわらせて布団をかけた後、携帯を取り出して悟に電話をかけ、小声で言った。「悟、もう電話はかけてこなくていいぞ」「もういいのか?ちょうど自動電話サービスでも利用しようかと思ってたところだぞ」理仁の口角が引き攣った。「ご飯食べたか?よかったら一緒に行く?」「俺はいい。お前は牧野さんと約束して食事しないのか?」悟は言った。「もしデートに誘って断られたら恥ずかしいだろうが。俺たちは会って連絡先を交換はしたけど、彼女のほうから連絡してきてないんだ。俺だって彼女が俺のことをどう思ってるのかさっぱりわからないしさ」理仁「……俺はようやくばあちゃんがなんで俺に対してやきもきしていたのか、わかったような気がする」悟は言葉を詰まらせ尋ねた。「じゃ、今から彼女を食事デートに誘ったらいいかな?」「お前次第だろ。どのみち、女性を追いかけるなら、少しくらい図々しくならないとな」「どうやら君は今、顔の面の皮が相当分厚くなってるようだね」理仁は自分の顔を触った。「その厚さを測ったことはないから、どのくらいかは知らんがな」悟はハハハと笑った。「内海さんは俺の人生の中で最も尊敬すべき女性だよ。この世でたった一人しかいないね!」「黙れ!」理仁は彼に怒鳴り、電話を切った。彼は唯花のベッドの端に腰をかけて、彼女の寝顔を静かに見つめていた。その表情は非常に優しく穏やかになってい
Read more

第482話

理仁はやはり素直になれなかった。「それは断じてない!」「ほんとのほんとに?」「ない!」唯花は姿勢をまっすぐにし、残念そうに言った。「もしあなたが私のことが恋しくて眠れないっていうんなら、清水さんにお姉ちゃんの家に残ってもらって、私はあなたと一緒にいようと思ったのになぁ。まあ、あなたがそう言うんだったら、やっぱりお姉ちゃんのところに行って来ようっと。最近どんどん寒くなってきたし、もう冬の気配だわ。一人で寝たらなんだかちょっと冷えるのよねぇ、はぁ」結城理仁「……」彼女はつまり、彼が彼女のことを恋しいとひとこと言えば、まくらを抱きかかえて彼の部屋にやって来て、一緒のベッドで寝ると言いたいのか?唯花は、やはり残念そうな様子で、手を伸ばし理仁の顔を二度触った。そしてその手を下のほうへ滑らし、彼の首を通って、最後は胸の位置まで来ると、またそこを触った。理仁が何を思っているのか読み取れない瞳で彼女をじっと見つめた時、彼女はスッとそのやりたいように動かしていた自由な手を離した。「お腹ペコペコだわ。ご飯食べましょ。うちの旦那さんが自ら作った料理の味を確かめに行かなくちゃね」唯花はからかい終わると部屋を出て行こうとした。彼女は理仁の横を通り過ぎて行った。理仁は突然彼女のほうへ体の向きを変え、後ろから彼女の腰を抱き寄せた。「俺をからかっといて、そのまま行く気?」彼の声は低くかすれていて、彼女の腰をぎゅっと強い力で抱きしめた。空手を習っていた彼女でも、彼のそのがっちりと絡みついているその両手を引き離すことができなかった。「ちょっと力を緩めてよ」唯花は彼の手をほどくことができず、彼に力を緩めるようにお願いするしかなかった。理仁は彼女の頬にキスをし、ようやくその力を緩めた。そして彼女は彼の胸の中でくるりと体の向きを変え、顔を上げて美しいその顔に彼をからかうような笑みを浮かべていた。瞳はキラキラと綺麗に輝いていて、まるで真っ暗な夜空に瞬く星のようだった。理仁の瞳にはこの時の彼女がとても魅力的に映っていた。「内海さん」「あなたに『唯花さん』って呼ばれるのが好きなんだけどなぁ」「君こそよく俺を『結城さん』って呼んでるだろ」理仁のこの言葉は少し拗ねているようだった。彼女はどうもあまり親しげに呼んでくれない。「私
Read more

第483話

夫婦はさっきまでお互いにからかい合っていた。それが食事の時には、理仁は唯花に対してとても細かいところまで気が利いて、彼女を気遣うじゃないか。唯花は彼にこのように優しくされて、驚いた。それと同時にまた心の中で思った。良い旦那さんって、なるほど自分の手で調教しないと出来上がらないのね。彼女自ら仕立て上げた良い夫を誰かに奪われないといいのだが。夕飯が終わってから、夫婦は一緒に彼女の姉の家に行った。陽はその時すでに目を覚ましていた。しかし、自分一人で遊ぼうとはせず、まるで金魚のフンのように母親の後にくっついて離れない。唯花は彼を抱っこすることはできたが、よく懐いていた清水でさえも、抱っこされるのを拒否されていた。「お姉ちゃん、明日って仕事?」唯花は甥を抱っこしたまま姉に尋ねた。唯月は陽を見つめ、暫く悩んでから言った。「唯花、私、仕事を辞めて自分で何かやり始めるわ」陽の現在の様子では、唯月は本当に安心できない。しかし、会社を休むと、まだ新入社員である彼女は仕事を失いかねない。一日考えて、唯月は子供の面倒を見ながら、自分で何か事業を始めようと決めた。「お姉ちゃん、何を始めるか考えてる?」唯月は相手の反応を気にしながら言った。「お弁当屋さんを開こうと思うけど、あなたはどう思う?会社で働く以外なら、料理は私自信があるし。だから、お昼だけのお弁当屋さんはどうかなって。午前中お弁当作りをしてお昼前に売ったら、午後からは店を閉めて陽の世話ができるでしょ」「お弁当を作るなら、かなり早起きしないといけないわよ。とても疲れるわ。お姉ちゃん、あなた一人だけで、やっていけそう?」最初は彼女はきっと問題ないだろうが、毎日毎日ではきついだろう。唯月は言った。「最初は小さなお店でお弁当の種類もそこまで作らないでやってみようかな。すぐ作れるおにぎりとか、卵焼きとか野菜炒めとかシンプルなおかずで。お金が稼げてきたら、ちゃんとした店舗を構えてバイトの子を雇ってやるの」ずっと話を聞いていただけの理仁がこの時、口を開いた。彼は義姉が自分で小さなお店から始めるのには賛成だった。「義姉さん、どこか弁当を売るのに適した場所は見つかっていますか?店じゃなくてお弁当をどこかに運んで道端で売るならどこがいいですか?初期費用はいくらかかるんですか?」「商店
Read more

第484話

「唯花、明日あなた達はそれぞれ自分の仕事に専念してちょうだい。私のところに来る必要ないから。私一人で陽の面倒を見るわ」唯花は安心できなかった。「だったら、清水さんにここにいてもらうわ」清水を雇ったのは、もともと昼間、陽の面倒を見てもらうためだ。それに彼女と理仁が住んでいる家の掃除もお願いしていた。唯月は少し申し訳なさそうにしていた。清水は妹の夫である理仁が、唯花を疲れさせたくないから雇ったベビーシッター兼家政婦だ。それが結局、いつも清水に自分の手伝いばかりさせることになっている。「お姉ちゃん、私たちは姉妹でしょ。お互いにサポートして当然よ」唯花は姉に心理的負担をかけたくなかった。「お姉ちゃんと陽ちゃんが何事もなく生活してくれるだけでいいの。他の何よりも重要なことよ」「清水さんの給料は、あなたが先に代わりに払ってもらえる?私が社会復帰してお金を稼ぐようになったら、あなたにお返しするから」妹が彼女を手伝ってくれることはとても心強く感謝していたが、それでもそれを当然のことだとは思いたくなかった。理仁は優しい声で言った。「義姉さん、俺たちは家族ですから、そんなに固く考えなくても大丈夫ですよ。俺も唯花さんも稼ぎはまあまああります。それに子供もまだいないし、生活へのプレッシャーはほとんどありません。清水さんの給料に関しては、気にしないでください。俺たちも清水さんへの待遇を悪いようにはしませんから」唯月は妹の夫である結城理仁のことを本当によくできた旦那だと、どんどん思うようになってきた。妹は彼女よりも幸運に恵まれている。理仁は責任感のある男性だ。夜九時過ぎ、夫婦二人は久光崎のマンションから自宅へと帰っていった。おばあさんはその時、すでにリビングのソファに座ってテレビを見ていた。夫婦二人が手を繋いで帰って来たのを見て、おばあさんはその瞬間すごくテンションを上げた。理仁は少しぎこちない様子だったが、唯花のほうは緊張せず自然体だった。二人は夫婦なのだから、手を繋いでも、別に後ろめたいことじゃないだろう?「おばあちゃん、どこに行ってたの?私が起きてからずっと見かけなかったけど」おばあさんの前までやって来ると、唯花は理仁の手を離し、おばあさんの隣に座った。「昔からの友達と一緒におしゃべりしてたのよ。さっきお姉さんのとこ
Read more

第485話

唯花をなぐさめた後、おばあさんは軽くあくびをし、それから、テレビのリモコンを置いて立ち上がり、夫婦二人に言った。「私は先に休ませてもらうわね。もう年寄りだから、これ以上は耐えられないわ」数歩進み、彼女はまた立ち止まって唯花のほうへ振り向いた。「唯花ちゃん、あなたの枕を持っていったほうがいいかしら?」唯花は笑って言った。「必要ないわ。客間にも枕はあるから」おばあさんは孫の顔をちらりと見ると、それ以上は特に何も言わずに部屋のほうへと歩いて行った。唯花がお風呂に入る時に、おばあさんはすでに大きないびきをかいて寝ていた。あのぐうぐうと大きな音を立てたいびきが、また彼女の部屋で鳴り響いている。唯花「……」十数分後。唯花がパジャマを着て、部屋から出てドアを閉めた瞬間、夫の姿が目に飛び込んできた。彼もパジャマを着ていて、両腕を胸の前に組み、彼の部屋のドアに寄りかかって立っていた。「まだ寝ないの?明日仕事でしょ」唯花は彼をからかった言葉は忘れたふりをして、まるで口から出まかせに彼にこう言ったような感じを出していた。そして彼の目の前を通り過ぎ、客間のほうへと歩いて行った。そして客間の扉を開くと、彼女はぽかんと口を開けてしまった。シーツは、ない。布団も、ない。枕も、見あたらない。明らかに彼女がベッド用品を揃えて買って来たというのに、どうしてなくなっているのだ?泥棒でも入ったの?泥棒が入ったといってもまさか、ただベッド用品だけを盗んで去って行くわけないだろう。彼女は振り返って、あの壁に寄りかかって立っているツンデレ男を見た。絶対に彼が彼女がお風呂に入っているうちに、客間にあるベッド用品を全て持ち去ってしまったのだ。理仁は依然として何も言わず、さっきと同じように静かに彼女を見つめていた。唯花は体を方向転換させ、彼の前にやって来ると、少しだけ足を止め、また彼の部屋のほうへと歩いて行った。歩きながら「確か誰かさんが言っていたわね、部屋に入って契約書を好きに探していいって」と言った。理仁は彼女が部屋に入った後、自分もその後に続き、ドアを閉めて冷静に言った。「ゆっくり探せばいいさ。見つからなかったら、今後はその契約書の話はしないでくれよ。だって、そんなもの初めから存在してなかったんだからね」彼の部屋にある金庫を
Read more

第486話

彼女は彼のベッドに上がると、横たわり、気持ちよさそうにこう言った。「前に一回ここで寝たけど、あなたのベッドって格別に暖かく感じるのよね。たぶん、これも私の幻覚なんでしょうけど」布団を引っ張って来て自分にかけると、彼女はニコニコと笑って言った。「理仁さん、おやすみ」理仁は黒い瞳をキラリと輝かせ、彼女を暫く見つめていた。そして急に、彼女の上の布団をはがし、その上に覆いかぶさろうとした。が、彼女は勢いよく起き上がり、素早く床に下りてスリッパを履いて出て行こうとした。「唯花さん」理仁は手を伸ばして彼女を掴まえた。「あの、わ、私部屋に戻ってトイレに行ってくる」月一回のあれがやって来て、雰囲気がぶち壊しだ。しかし、この場にいた某氏は理解できていない。「俺の部屋にもトイレくらいあるぞ」「だけど、あなたの部屋には足りない物があるのよ。部屋に戻ってトイレに行ってから、またここに戻ってくるわ。だけど、あなたは今日、私と寝られないわよ」唯花は少し残念そうに彼の頬をつねった。「もうちょっと我慢してね」理仁がいくらあっち方面に疎いとは言えども、この時ようやく状況を理解したようだ。彼はゆっくりと彼女を掴んでいた手を放し、彼女は自分の部屋へ戻っていった。少ししてから、唯花が再び彼の部屋へと戻ってきた。そこで彼女が見たのは理仁が彼女に背を向け、両手で枕を抱きしめて、なんだか悶々としている様子だった。唯花はその光景を目にして、やっぱり他の部屋で寝た方がいいだろうかと迷っていた。まあいい、やっぱりおばあさんと一緒に今夜は寝ることにしよう。唯花はまた身を翻して部屋の外へ出て行こうとした。「君を抱きしめることもさせてくれない気?」ん?唯花はその瞬間足を止め、振り返って、あの悶々としている男を見た。「ただ抱きしめてるだけも辛いかと思って」「一人じゃよく眠れないんだ」彼が我慢できるというのだから、だったら彼女は何も遠慮することはない。それで、唯花は嬉々として理仁の傍へと戻り、布団をめくりながら言った。「あなたもそんな様子を見せないでよ、夫に毎日愚痴をこぼす主婦みたいよ」「俺は男だ」「あ、女じゃなく男のほうの主夫だね」理仁は手を伸ばして彼女を引っ張り、横たわらせた。彼は彼女の上に覆いかぶさり、機嫌の悪そうなキ
Read more

第487話

神崎夫人は夫から差し出されたティッシュを受け取り、瞳に溜まった涙を拭いた。そしてやっと口を開いた。「陽君は私の妹と少し似ていたわ。彼のお母様は、唯月さんと言うのだけれど、彼女がちょっと痩せたら、もっと妹にそっくりだわ。姫華が唯花さんと初めて会った時、なんだか彼女にとても親近感が湧くって言ってた。私が唯月さん親子に会った時にも、姫華と同じような感覚になったわ。たぶん、それも親戚同士だからなんじゃないかしら。航さん、今回はたぶん、本当に妹が見つかったんだと思う……」神崎夫人は妹が早くに亡くなっていることを思い、涙がまた頬を流れた。「でも、あの子はもうこの世にいないのね。十五年も前に亡くなっていただなんて。だからこんなに長い間探し続けても、見つからなかったわけだわ。他界しているんだから、どこを探しても意味がないはずよね」夫である神崎航は妻を慰めた。「君は妹なんだろうと感じただけだろう。人と人との縁というのは時に本当に不思議なものだよ。まだ泣くのは早い、DNA鑑定をしてからの話だよ」一度も会ったことのない義妹がもしも本当に死んでいるのだとしたら、神崎航もとても残念だと思った。彼が妻と知り合ったばかりの頃、彼女は神崎グループのただの社員だった。その時から妹のことを捜し始めたのだ。あれから数十年が経っているが、彼女は一度も諦めたことはなかった。子供たちにも手伝ってもらい、彼女の妹捜しは続いていたのだ。長年の努力と信念が、ある日突然虚しいものへと変わったのだから、妻がそれを受け入れられないのは至極当然のことだ。「私の直感が教えてくれるの。唯月さんと唯花さんは妹の娘たちなんだって。妹がいなくなってからというもの、あの二人の女の子はとっても辛い日々を過ごして……二人が強く生きてきたおかげでどうにかなったけどね。あの子たちは私と同じようにとっても強い子たちだわ」彼女は当時たった8歳で幼く、妹を養う力はなかった。唯月姉妹は彼女よりも少しはマシだった。少なくとも両親が亡くなった時に賠償金が支払われ、クズな親戚たちに大部分を持っていかれはしたが、村役所が二千万を二人のために残してあげていたのだ。当時、唯月は15歳で、なんとか妹の面倒を見て養うことができた。姫華は母親に唯花は姉にとても良くしていると言っていた。神崎夫人は、彼女たち姉妹
Read more

第488話

「私は食欲がないわ」「丸一日、何も飲み食いしていないのに、食欲が出ないのか。私がどれほど心配しているかわかるかい?子供たちだって心配しているんだよ。次男だって君が気落ちしているのを心配して、わざわざ帰ってきたというのに」彼ら神崎家には三人の子供がいる。長男は大人で落ち着いていて、次男は家にじっとしているような性格ではなく自由人だ。一番下は大切に可愛がってきた愛娘だ。以前、毎日のように結城理仁の周りを衛星みたいに付き纏っていた。ここ最近はそれをせず落ち着いている。「ダイエットしてるとでも思ってちょうだい」神崎夫人はベッドに横たわり「私は寝るわ」とひとこと言った。神崎航は彼女の好きにさせるしかなかった。彼女が食べたくないと言うのだから、彼も彼女に食べるよう強制することはできない。彼女は昔からずっと一度決めたらそれを貫く性格だから。娘は彼女に似ていた。長年理仁を想い慕っていて、みんながいくら忠告しても姫華は絶対に諦めなかった。それが超えられない壁にぶつかって、しぶしぶ考えを変えるしかなかった。その夜はそれ以上の会話はなかった。翌日、天はまた小雨を大地に降らせた。もともと少し冷える朝が、雨のせいで余計に冷え込んで寒かった。理仁は先に目を覚ました。隣に寝ている女性は夜中過ぎからぐっと冷え込んでくると、無意識に彼の懐に潜り込み、本当に彼で暖を取っていた。頭を下に向け、まだ自分の体にぴったりとくっついている可愛い妖精を見つめ、理仁の顔はほころんだ。目を開くと真っ先に自分の好きな女性がすぐ傍にいるというのは、こんなに甘く、幸せなことだったのか。唯花を数分間そのまま見つめ続け、理仁はようやく優しく彼女の体を自分から離した。そして、彼女を起こしてしまわないように、音を立てないで、そっとベッドをおりた。窓のほうまで行き、カーテンを開き外の空模様を確認した。雨が降っているので、空は曇りで暗かった。朝のジョギングに出かけるには、あいにくの天気だ。暫くそこに立ったままで、彼は後ろを振り返り窓から離れた。十分後、彼は部屋から出てそのままキッチンへと向かい、一分も経たずにそこからまた出て来た。ベランダに行くと七瀬に電話をかけた。七瀬が電話に出ると、低い声で指示を出した。「七瀬、ホテルに行って三人分の朝食を買ってきて
Read more

第489話

理仁は七瀬に頼んで買って来させた朝食を持ってきて、食卓の上に置き、少し考えてからまたキッチンの中に入っていった。彼は唯花のためにジンジャーティーを入れてあげた。「てっきり朝食は自分で作るのかと思ってたら、なるほどテイクアウトしたものなのね」彼をからかっているような声が聞こえてきた。理仁が振り返って見る必要もなく、それは彼の祖母の声だった。彼は振り向くこともせず、返事もしなかった。「あなた何を作っているの?ショウガの匂いがきついわよ」おばあさんは自分がやりたいようにキッチンに自由に入ってきて、彼に近づくと、鍋の蓋を開けてちらりと見て、またその蓋を閉じた。「なにか進展があったかと思ったけど」おばあさんはぶつくさとひとこと言って、嫌そうな目つきで孫をちらりと一瞥すると、身を翻して離れた。その時、理仁の整った顔がこわばり、耐えきれず自分で自分を弁解した。「俺はもうかなり頑張っている」本来であれば、昨夜は絶好のチャンスだったのだ。それがまさか神様のいたずらに遭ってしまうとは。「もっともっと彼女にアタックしなさいよ。まずは彼女の心を掴むの。唯花ちゃんの両手の指には、なぁにもついていないわよ?」理仁「……」アタックしろと言われても、彼はもう十分努力している。指輪はもうすでに二人分買ってある。彼の分はすでに何回かはめたことがある。しかし、それは神崎姫華を諦めさせるためにしか使っていない。唯花の分は、まだ彼が大切に保管していて、まだ彼女にプレゼントしていない。「私のところにペアのダイヤリングがあるわ。それはあなたのおじい様が生前買ったものよ。本当は私たち夫婦がつけるつもりだったけど、おじいちゃんはダイヤの指輪をたくさん買ったからね、おばあちゃんはそんなにつけられないのよ。ジュエリーを保管している部屋にダイヤの指輪がいくつもあるわ。そこに置いておくのも場所を取るだけだし、あなたにあげるわ。あなたが決めて」おばあさんのジュエリー保管庫にあるものはどれも珍しく高価なものばかりだ。おばあさんが長年つけているダイヤの指輪は結婚指輪で、夫から他にもたくさんダイヤの指輪をプレゼントされても、やはりその結婚指輪がお気に入りだった。「ありがとう、ばあちゃん」理仁はおばあさんのジュエリー保管庫にあるものはどれも外のジュエリー
Read more

第490話

結城坊ちゃんはこの年になるまで、誰かにこんなふうにつねられたことなどないぞ。痛かったじゃないか!「おばあちゃんは起きてる?」唯花は体を起こしてベッドをおりながら彼に尋ねた。彼女はおばあさんがまだ起きてこないうちに、自分の部屋に戻りたいのだ。「起きてるよ」「こんなに早く?」急いで部屋へ戻ろうと思っていた唯花は立ち止まった。「じゃ、私がこの部屋から出てきたら、おばあさんに見つかっちゃうんじゃ……」「俺たちは夫婦だろ」理仁は彼女がこそこそするのは好きじゃなかった。唯花は笑った。「それもそうね、私たちって夫婦なんだし、あやしいことなんかないんだもの。おばあさんが見たらきっと喜ぶし。おばあさんったら、私たちが結婚してからずっと別々の部屋で寝ているのを知ってから、よく私の前であなたを襲えって言ってうるさかったんだからね」理仁は言葉を失い彼女を見つめた。自分の祖母に対しても、彼はとても呆れかえっていた。もちろん、今では感謝の気持ちの方が大きい。おばあさんがうるさく言ってこなければ、彼も唯花と結婚することはなかったのだから。「部屋に戻って着替えてくる。今日何が食べたい?私が作るわ」「もう外で買ってきたから、作る必要ないよ」唯花は彼をまた見て、部屋を出て行った。理仁は顔を暗くした。彼女がここを出る前に彼をまた最後にじっと見つめたのはどういう意味だ?彼が彼女のために朝食を買ってくるのがそんなに意外なのか?太陽が西から昇ってくるみたいに?「おばあちゃん、おはよう」唯花は部屋を出ると、何事もないかのようにおばあさんに挨拶した。「唯花ちゃん、おはよう」おばあさんは慈愛に満ちた瞳で彼女を見つめた。「お腹が空いたでしょ。理仁が朝早く起きて、この冷たい雨が降りしきる寒空の下、頑張ってスカイロイヤルまで行って朝食を買ってきてくれたのよ。彼があなたはあのホテルの料理が大好きだからって」唯花はそれを聞いて心が温かくなった。なんだか大切にされているような感じがする。「私は別に好き嫌いがないから、その辺のコンビニでおにぎりとか、サンドイッチとか適当に買ってきたものでいいのに」おばあさんは笑って言った。「毎日そんなもの食べてちゃ、飽きちゃうでしょ。たまには違うものを食べなくちゃ。ささ、早く着替えていらっしゃい。
Read more
PREV
1
...
4748495051
...
54
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status