成瀬莉奈は佐々木俊介の胸に寄りかかり、甘えた声で言った。「俊介、ごめんなさい。電話に出るべきじゃなかったわ。彼女が何かあなたに急用があるのかと思って、うっかり出ちゃったの」「いいんだ、どうせいつまでも隠し通せることじゃないし、遅かれ早かれあいつには教えることだったんだ。伝えるタイミングを見定めるより、成り行きに任せたっていいや。あいつが疑ってるってんなら、帰って直接、正直に話してくるよ」佐々木俊介が成瀬莉奈を悲しませるような真似をするはずがない。彼の心はだいぶ前から成瀬莉奈に寄っていて、唯月にはまったく愛情の欠片も残っていなかった。しかし、両親と息子のことを考えて、ずっと我慢していたのだ。そうでなければ、唯月のことなどとっくの昔に追い出していたところだ。「俊介、もしあなた達が離婚するなら、あの女があなたの財産を半分持って行くってことになるの?」成瀬莉奈は佐々木俊介の財産の半分を佐々木唯月に持って行かれるのは嫌だったのだ。彼女は唯月には何一つ渡すことなく、裸同然で去って行かせたかった。佐々木唯月が仕事を辞めてから数年、子供もまだ小さく、2歳過ぎだ。彼女がまた職場復帰したくても、恐らくそれは難しいだろう。離婚して何もかも失った後、成瀬莉奈は唯月のどん底に落ちぶれた様子を拝むことができるのだ。もしかしたら、唯月は子供を背中におぶって、街中で乞食になっているかも。佐々木俊介は冷たく笑って言った。「あいつがよこせと言っても、俺が大人しく渡すと思うか?結婚してから、あいつはこの家のために一円だって稼いでないんだ。家は俺が結婚前に買った財産だし、結婚してからも俺がローンを返してきた。だから、あいつにこの家を分けてやることなんかないよ。あいつは家のリフォーム代をちょっと出しただけだ。どのみち俺はそのリフォーム代もあいつに払ってやる気はない。もし欲しいんだったら、内装の壁紙でも剥がして持ってけばいいんじゃね?俺の貯金は……」彼が部長になったのも、ここ二年のことだった。収入は以前と比べて何倍にもなってはいたが、普段の出費も増えている。それによく成瀬莉奈に高価な物を買ってプレゼントしているので、彼は稼いだ分からそんなに貯金していなかった。ただ三百万前後といったところだろう。しかし、彼の副収入のほうは多かった。その副業で稼いだお金は、会社
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