All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 381 - Chapter 390

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第381話

結城理仁は内海唯花を見つめ、内海唯花も彼を見つめて話を聞いていた。「義姉さんの家に様子を見に行ってみるか?」内海唯花は携帯で時間を確認して言った。「佐々木俊介はこの時間、まだ帰ってきてないわ」少し黙ってから、彼女は言った。「お姉ちゃんのことは、お姉ちゃん自身でどうにかするはずよ。私の助けが必要になったら、私は全力でお姉ちゃんをサポートするわ」結城理仁は何も言わなかった。彼は携帯を手に取って誰と連絡しているのかわからないが、メッセージを送っていた。数分後、彼は突然彼女に言った。「気分が落ちているようだし、じゃあ、今日の仕事はこれで終わりにしよう。一緒にどこかぶらぶらしに行こうか?」内海唯花は少し黙ってから、言った。「特に行きたいところはないけど」今、姉の結婚のことを話していたので、この時の内海唯花の気持ちは曇り空になっていたのだ。彼女はいつも姉妹二人が長年互いに支え合って生きてきて、姉が結婚した後、良い人と結婚したと思っていた。姉はきっと幸せになるのだと。しかし、現実は残酷なもので、彼女に大きな痛みを与えてしまった。今や姉の結婚生活は終わりを迎えようとしている。彼女と結城理仁も将来どうなるのか不安な状態だ。今後どのような結果になるのか誰もわからない。哀れな運命を持つ者は、幸せな日々を送れないのか?「君が出かける気持ちがあるなら、俺と一緒に出かけようよ。どこで何をするかは俺に任せて」内海唯花は彼の真っ黒な瞳と視線が合った。彼の瞳はずっと深海のようで、多くの時には氷のように冷たくなる。彼女はいつも彼のその瞳からは、彼の内心を読み取ることができなかった。しかし、この時は彼の瞳から彼女への関心の色をうかがうことができた。急に心が温かくなるのを感じた。彼女は頷いた。「わかった。今片付ける。一緒に出かけて新鮮な空気でも吸おう」ふとレジの下に座っている犬のシロを見て、彼女は小声で尋ねた。「清水さんと、うちのペットたちはどうする?先に家まで送っていこうか?」結城理仁は彼女に手を伸ばした。「なに?」「君の車の鍵だ」内海唯花は車の鍵を取り出しながら尋ねた。「清水さんは運転できる?」「できるよ」「彼の家で働く人たちは車の運転ができることが必須条件だ。彼らが住んでいるところは市内から少し距離があるし、
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第382話

それを聞いて、結城理仁は眉間にしわを寄せ、何か言おうとしたが内海唯花のほうが先に口を開いて言った。「私と明凛が彼女に何かお返しするわ。いっつも彼女からもらってばかりじゃいけないから」神崎姫華がここにいろいろ置いていくのに、彼女も牧野明凛もどうしようもなかったのだ。受け取らなかったら、神崎姫華の機嫌がどれほど悪くなるかわからない。だから、大人しく受け取ったのだ。受け取ったものを整理している時、二人は神崎姫華が持ってきた物がどれほど高価なものなのか、心の中でわかっていた。今後、機会があれば、さりげなく同じくらいの価値のものを神崎姫華にお返ししなければ。「そういうことじゃなくて、君の店はそんなに大きくないだろう。こんなにたくさん本棚やラックがあるんだから。その神崎さんって人がいつも君の店に物を置いていては、君に売ったわけでもないんだし、店の邪魔になるだろう?」実のところ、結城理仁は面白くなかったのだ。彼自身、妻の店に存在感を残していないというのに、神崎姫華に先を越されてしまった。あの妻をいつも独占しようとする神崎姫華という恋敵は金城琉生よりもたちが悪い。なぜなら、神崎姫華は女だからだ。彼もまさか内海唯花に「唯花、君と神崎さんが付き合うのは面白くないな。ヤキモチを焼いてしまうじゃないか。早く彼女と縁を切ってくれ」などと言えるはずもない。彼がこんな言葉を吐こうものなら、内海唯花はまるで化け物でも見るかのように彼のことを見るだろう。しかも自分は以前ヤキモチなんか焼かないと豪語していたのだから、今更そんなことを言えば、彼の面子は丸潰れだ。「うちは広いから、それなら、家に持っていこうか?」結城理仁「……」神崎姫華が買った物が彼女の店のスペースを占領しているというだけで、彼は気に食わないのだ。それなのに、彼女は神崎姫華の物を家に持って帰るだと?「もう出かけよう」結城理仁は先に折れた。つまらないことで内海唯花と口論になって不愉快になりたくなかったのだ。この娘は度胸がある。夫婦が喧嘩したら、いつも彼はかなり気分を害されてしまう。かつての失敗は今の教訓としなければ。彼女が怒っている時、ショッピングに出かけて彼のカードで何十万円の買い物をするだけでもう気が済んで、いつものように毎日を過ごし、依然として楽しそうにしているのだ。
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第383話

内海唯花が海辺で海風に吹かれたいと言ったので、結城理仁は妻を乗せて海へと車を走らせた。もちろん、彼の家である海辺の別荘へは行けない。幸いにも、今のこの季節は、夜であることもあって、海辺は夏季のような賑やかさはなく、遊びに来ている人たちがちらほらいる程度だった。夫婦二人は柔らかな砂浜の上を歩き、波と一緒に海の向こうから吹いてくる海風が内海唯花の髪を乱した。それに彼女は少し寒さを感じた。結城理仁は足を止めた。内海唯花も彼に合わせて立ち止まり、尋ねた。「どうしたの?」結城理仁はスーツを脱ぐと内海唯花に渡した。「海風が強いから、俺のスーツを着たほうがいい」内海唯花がそのスーツをなかなか受け取らないので、また彼は言った。「自分で着るのか、それとも俺に着させてもらいたいのかな?」内海唯花はそのスーツを受け取り、それを着ながら言った。「あなたは寒くないの?」「俺だって寒いさ。だけど、君が風邪を引くといけないから」内海唯花は彼を見つめ、ぷはっと笑いだした。「結城さん、あなたのその返事はドラマのセリフと全然違うわね。ドラマの中の男は普通『俺は寒くない、君が着てくれ』って言うのよ」もちろん、彼のこのような嘘偽りのない言葉には、現実味があって逆に良いと思った。「海風がこんなに強くて、吹かれて寒いってわかってたら、ここに来ようだなんて言わなかったのに」内海唯花は彼のスーツを着た後、すぐに体が温かくなった。彼女は頭を傾げて彼を見た。それと同時に彼のほうも彼女を見つめていた。夫婦二人の視線が合った時、彼が言った。「確かに寒いけど、君みたいに縮こまるほどじゃないよ。俺は長袖のシャツを着てるから、半袖を着ている君よりも寒さには耐えられるさ」「あなたがそう言ってくれると、私も罪悪感が薄れるわ」結城理仁は唇をきつく結んだ後、口を開いた。「俺が寒いんじゃないかって心配するなら、抱きしめてくれてもいいんだけど。君の体温をもらえば、寒くなくなるからさ」これは……彼は今、彼女をおちょくっているのか?彼女が何も言わないので、結城理仁は彼女が抱きしめてくれないのだと理解した。一歩踏み出し、彼は引き続き前方に足を進めた。二分も経たずに、彼女は彼に追いつくと彼のスーツを返した。彼が口を開く機会を与えず、彼女は先に言った。「あなたは私よ
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第384話

内海唯花は、はははと大笑いした。彼女は突然彼のストリップショーを見たくなったのだ。結城理仁は立ち上がると、指で彼女の額にデコピンした。デコピンされた彼女は額がひりひりした。「君は一体頭の中で何を考えているんだ。思いつくことは、いつも人とは違うことばかりだ」内海唯花はわざと「おばあちゃんがいつも私にあなたを押し倒して素っ裸にして、あなたと寝ろって言うのよ。おばあちゃんに女の子のひ孫を見せろってね。ちょっと思ったんだけど、おばあちゃんのその願望を叶えてあげる?」と言った。それを聞いた後、結城理仁はまた彼女の額にデコピンを食らわせた。「いったーい」また痛みが走った。内海唯花も遠慮せず、両手で彼の両頬を掴み、二回つねってそれを彼への仕返しとした。「内海唯花」結城理仁は彼女の両手を掴み、厳しい表情になった。内海唯花は楽しそうな顔を急いで真顔に戻し、彼のその深海のような瞳を見つめた。そして恐る恐る言った。「結城さん、何か言いたいことがあるなら言ってよ。それにその顔、そんなに厳しい表情で見つめないでもいいでしょ、すっごく怖いわ」「聞いて」「うん、聞いてるよ。耳の穴かっぽじって、よーく聞いてますとも」「俺たちが寝るか寝ないかは、俺たちのプライベートなことだろう。俺たち二人だけのことだ。それは俺たち自身で決めることで、誰かに従ってやるようなことじゃないよ」結城理仁は二人の「初めて」をおばあさんに干渉されて決めたくなかったのだ。結婚手続きをした時と同じように、彼はおばあさんには伝えてある。結婚後、彼が内海唯花と生活するにあたってやることは、彼自身のことであって、おばあさんには干渉させないと。「そういうことだったのね」内海唯花はそれを聞いてすぐに緊張を解いた。彼の大きな手を外し、後ろを振り返って歩きだした。歩きながら「ただ冗談を言ってみただけ。もちろんおばあさんに言われたからってあんなことしようだなんて思ってないよ」と言った。彼女は男女間に起こる関係は、双方の同意があって成り立つと考えている。自然の流れに任せるものだ。結城理仁は黙って彼女の後ろ姿を見つめていた。なぜだか自分が正しいのに、何かのチャンスを逃してしまったかのように感じる。つまり、彼は彼女から押し倒され、服を脱がされて、ラブラブするチャンスを失った
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第385話

結城理仁はスーツを脱いで、彼女に渡した。「これも夢の世界に持って行ったら」今は車の中にいて海風に吹かれる心配もないから、内海唯花は遠慮せずに彼のスーツを受け取り、それを体に羽織って夢の中に入っていった。結城理仁は彼女の睡眠の妨げにならないように車の音楽を切った。彼は黙って車を運転し、彼女は静かに眠りにつき、何か夢でも見ているうちに、彼らはやがてトキワ・フラワーガーデンに到着した。ボディーガードたちはマンションの下を巡回していた。この日の夜はずっと彼らの視界から結城理仁は離れていた。清水がペットたちを連れて帰ってきた後、自分たちの主人が妻を連れてドライブに行ったとわかり、ボディーガードたちは少し焦っていた。しかし、その中の一人も主人に連絡しようとはしなかった。夫婦二人だけの時間を邪魔してはいけないと思ったからだ。そしてこの時、結城理仁の車が戻ってきたのを見て、ボディーガードたちは女主人に気づかれないように、それぞれ急いで四方に散らばっていった。特に七瀬に関しては、消えるスピードが相当速かった。焦りすぎて危うく緑地帯に突っ込んでしまうところだった。なぜなら、女主人は彼のことを知っているからだ。ボディーガードたちのその動作を結城理仁は見て見ぬふりをした。内海唯花はかなり大雑把で細かいことを気にしない性格だ。もしそうでなければ、彼らが毎日毎日マンションの下で徘徊していて、すぐに彼女はおかしいと気づくことだろう。車を駐車し、結城理仁はシートベルトを外しながら「内海さん、家に着いたよ」と彼女を起こした。内海唯花はぐっすり寝入っていて、彼が呼ぶ声が聞こえていないようだ。たぶんビールを二本飲んだせいだろう。結城理仁は彼女を二度揺さぶってみたが、それに合わせて彼女の体も左右に揺れるだけで、まったく起きる気配がなかった。「ビール二本でここまで熟睡できるとは。今後はやっぱりあまり酒を飲ませてはいけないな」結城理仁はこれも運命かとあきらめ、車を降りて助手席のほうへ行きドアを開けた。上半身車の中に入り、彼女のシートベルトを外してあげると、彼女の体を自分の懐まで持ってきて、抱き上げる形で車から降ろしてやった。四方に遠く散らばっていたボディーガードたちだったが、みんなこのシーンを目撃していた。それぞれ手で目をこすっていた
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第386話

思い立ったが吉日。結城理仁は今まさに内海唯花の部屋にいる。簡単にこそこそと引き出しや棚の中を探すことができる。暫くの間、彼女が隠すであろう場所を探し回ったが、彼女の分の契約書は見つからなかった。彼女は一体どこになおしているんだ?結城理仁はドレッサーの前に立ち、ドレッサーを見つめ自分があと探していないのはどこだろうと考えていた。すべての引き出しは、もう開けて探してみた。最後に、彼はテーブルの上に置かれた髪飾りの絵が描かれた紙に視線を落とした。彼はその紙を手に取った。内海唯花のスケッチはとても綺麗だった。彼女は髪飾りの絵を描いてどうするつもりなのだろうか?結城理仁は内海唯花が髪飾りのスケッチをしてどうするつもりなのかわからなかった。彼がその紙を裏返してみると、その面はまさに彼が今探している契約書だった。彼女はなんと契約書の紙の裏面にスケッチをしていたのだ。だから彼が引き出しや棚を探しても、どうしても契約書が見つからないわけだ。結城理仁は内海唯花の契約書を折りたたみ、ポケットの中に押し込んだ。そして、ベッドのところまで歩き、端に腰かけて唯花の寝顔を暫くの間見つめ、手を伸ばし彼女の頬を軽くつねった。すると、口角を上げ不敵な笑みを浮かべた。「内海唯花、君は一生、この俺だけのものだ!」おばあさんがもしこの場にいたら、彼に一発お見舞いすることだろう。なにが自分から妻を好きにならないだ。今こっそり契約書を探しているのは一体どこのどいつだ?結城理仁は内海唯花の契約書を盗むのに成功した後、上機嫌で彼の部屋に戻っていった。そして、自分の分の契約書を取り出し、ライターを持ってトイレに身を潜めると、二人分の契約書に火をつけ燃やしてしまった。そしてその燃えカスをトイレにきれいさっぱり流してしまった。内海唯花が時間を巻き戻す能力がない限り、一生あの契約書を見つけることができなくなった。……佐々木唯月が目を覚ました時、すでに夜中の十二時だった。彼女はまだお風呂に入っていなかった。本当は息子をあやして寝かしつけてから、起き上がって風呂に入るつもりだったのだが、自分も一緒に寝てしまったのだ。目が覚めてようやく自分がまだお風呂に入っていないことを思い出した。彼女は起き上がり、まずは部屋を出て玄関を確認しに行き、まだ内
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第387話

佐々木唯月の頭の中は一瞬にして真っ白になった。まさか電話に成瀬莉奈が出るとは思っていなかったのだ。すぐに、彼女は携帯を耳から離し、通話の内容を録音し始めた。義弟が友人に頼んで佐々木俊介の不倫の証拠を集めてくれたのだが、彼女にそれは佐々木俊介が精神的な浮気をしている証明であるだけで、二人は実際には体の関係になってはいないと教えてくれていたのだ。この時、あのクズ男と女狐はきっと一緒にいるはずだから、佐々木唯月は録音しようと思い立ったのだ。「あなたは誰?」彼女のその沈黙は電話の向こうの成瀬莉奈をつけ上がらせるのに十分だった。唯月は台本にあるかのように話を進めることにした。佐々木俊介が浮気をしていると知った後、彼女が天地を揺るがすほど大騒ぎすれば、佐々木俊介はそれに嫌気をさして、息子のことなど、どうでもよくなり、彼女と離婚すると言うことだろう。もし彼女が泣きも喚きもしなければ、佐々木俊介たちは彼女が離婚を望んでいると思い、逆に彼女を引き留めて、時間稼ぎをするだろう。「私は俊介の秘書の成瀬莉奈ですけど、そういうあなたはどちら様?」成瀬莉奈はわかっていてわざとそう聞き返した。「私が誰かですって?私は彼の妻ですけど!俊介はどこ?あんた達今どこにいるの、何をしているのよ。俊介を電話に出させて!」佐々木唯月はそう言いながら喚きだした。聞いた人に彼女がとても怒っていると思わせるような様子だった。彼女のその怒りが成瀬莉奈を勝った気にさせた。成瀬莉奈は電話を切らず、ただこう言った。「言ったでしょ、俊介は今シャワーを浴びてるって。そんなに早く出てこないわよ。俊介はあなたに、今夜は接待があるって言わなかった?私は彼の秘書だもの、もちろん彼と一緒に接待に行ったのよ。私たち、お酒を飲んだから、車の運転ができなかったの。俊介がホテルの部屋をとってくれて、お酒が抜けたら帰る予定だったの。まさか奥さんがこんな夜更けに電話して探りを入れてくるなんてね」成瀬莉奈のその最後に放った言葉は、どうも嫌味が含まれている。「運転代行がたくさんあるでしょ。呼べばすぐ来て家まで送ってくれるんじゃないの?どうしてわざわざホテルに泊まる必要があるの。あんた達、私に隠して何かやったんじゃないでしょうね。成瀬とか言ったわね、あんた、言いなさい!正直にいいなさいよ
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第388話

彼女が息子の世話をしなければならないと知っていて送ってきたのだ。この時間は確かに息子を一人で家に残し、ホテルまで行って浮気現場を押さえることなどできない。妹に電話しようか?佐々木唯月は悩んでいた。こんな時間に妹にお願いする?少し躊躇った後、唯月はこれは佐々木俊介の浮気現場を押さえるチャンスで彼女に有利になるのではないかと思った。それで、彼女は内海唯花に電話をかけた。内海唯花はビール二本飲んで熟睡してしまい、結城理仁に抱きかかえられて家まで連れて帰ってもらうほどで、電話に気づかなかった。佐々木唯月が電話をかけてきて、唯花の携帯が何度も鳴っていた。そして、ようやく彼女は夢の世界から現実世界へと戻ってきた。携帯を掴み、彼女は誰からの着信か確認することなく電話に出た。「もしもし、どなたですか」「唯花、私よ、お姉ちゃんよ」「お姉ちゃん、どうしたの?」ようやく我に返った内海唯花は姉が今日クズ夫に離婚を叩きつけると言っていたことを思い出した。それで夫婦が喧嘩したのだと勘違いし、眠気が一気に吹っ飛んだ。勢いよくベッドから起き上がると急いで尋ねた。「お姉ちゃん、どうしたの?まさか佐々木俊介の奴がまた暴力を振るってきた?」「あいつ家に帰ってきてないの。接待があるって言ってて、夜遅くにしか帰れないって。だけど、もうすぐ一時よ、それでもまだ帰ってきてないの。だから、私、あいつに電話をかけたのよ。それで電話に出たのは、あの成瀬莉奈って女だったわ。あの人たち今一緒にホテルに泊まってる」「お姉ちゃん、あいつらの浮気現場を押さえに行きたいのね?」やはり実の妹、内海唯花はすぐに姉の考えを見抜いた。「泥棒を捕まえるためには足跡を、浮気現場を押さえるには二人でいるところを確かめよって言うものね。どちらにせよ現場を取り押さえれば、私も胸を張って離婚を叩きつけられるわ」「お姉ちゃん、あいつらがどこにいるかわかる?」「わかるわ。成瀬って女、相当調子に乗ってるみたいよ。ホテルの住所を私に送ってきたの。唯花、私がホテルに行ってくる。あなたはうちに来て陽を見ていてくれないかしら。私が出かけてる間に陽が起きて私がいないと驚いて泣いちゃうから」「お姉ちゃん、私も一緒に行く」「大丈夫よ」「お姉ちゃん、あいつらは二人で、お姉ちゃんは一人で行
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第389話

内海唯花はそう言いながら自分のキーケースから一本の鍵を取り出して結城理仁に手渡した。「これはお姉ちゃんの家の鍵よ」結城理仁の黒い瞳が瞬いた。佐々木俊介が接待だったことを彼は知っていた。彼が九条悟に佐々木俊介の不倫の証拠を集めさせた時、噂好きの九条悟はその証拠を提出した後、どうもまだ百点満点とは思えず、納得がいかなかったので、裏でこっそりと佐々木俊介を監視していたのだ。それで、佐々木俊介が会社を出てからの一挙一動は、九条悟にすべて把握されていたのだった。夜、結城理仁が内海唯花に付き合って海辺に行っている時、隙を見て九条悟にメッセージを送り、チャンスを狙って裏で佐々木俊介と成瀬莉奈の関係がもっと進むように手を回していたのだ。佐々木俊介が完全に家庭と結婚生活を裏切っていることを実証するために。佐々木唯月が離婚を切り出す時、倫理的観点からも優位に立つことができる。今佐々木俊介と成瀬莉奈は一緒にいる。これは彼ら二人が自然の成り行きでそうなったことなのか、それとも結城理仁の裏工作による結果なのだろうか?結城理仁はすぐにはその答えを出せなかった。しかし、どちらにしても結果は同じだ。「君は彼らがどこのホテルにいるかわかる?」「お姉ちゃんが教えてくれないの。私には来るなって」内海唯花はどうしようもなかった。姉に彼女の助けが必要な時に、姉のほうは彼女を遠ざけ、自分でどうにかしようとしている。「俺のあの情報通な友人に連絡して、調べてもらうよ」「こんな夜中に……」「問題ない。いつかあいつにご馳走してやればいいから」それなら九条悟に一日休暇をあげれば済む話だ。「内海さん、出かけないで、ここでちょっと待ってて。それから、君の車の鍵を一緒に渡してくれ、清水さんに起きてもらって、義姉さんの家に行って陽君の面倒をお願いするから。俺は君と一緒に君の姉さんのところに行く」結城理仁はそう内海唯花に言うと、彼女が車の鍵を取り出すのを待って、それを受け取り家の中に入っていった。清水の部屋のドアをノックする時、彼は九条悟にも電話をかけた。九条悟は夜更かしをするのが好きなので、遅くに寝て朝も遅くに起きる。なにか面白いことがあれば、早めに会社に出勤してくるのだが、それがなければ、彼は結城理仁よりも遅く出勤してくる。結城理仁から電話がかか
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第390話

結城理仁は玄関の鍵をかけた後、内海唯花の手を引き、歩きながら言った。「友達に調べてもらった。君の義兄はマニフィークホテルという神崎グループ傘下のホテルにいるらしい。俺は結城グループで働いていて、この二つの会社は犬猿の仲だから、神崎グループの社員に俺だとばれては困る。それで黒ペンで書いたんだよ。これなら、俺だって気づかれないだろう」内海唯花は彼の顔に描かれた先天母斑を何度も見た。切迫した状況の中で、彼はこのような細かいところにも考えが回るようだ。このように細かいところまで考えが及ぶ人だから、結城グループという大企業でエリートをやれるわけだ。内海唯花は今おばあさんが言っていたことを信じられた。おばあさんは当初、彼女の前で結城理仁のことをべた褒めする時に言っていた。結城理仁はとても細かいところに気がつく人間だと。当然、彼が心から優しくしようと思った時に、彼のその細かい気配りが至る所でお目見えするのだ。「後で帰ってきたら、水と石鹸でしっかり洗ってね」内海唯花は本屋兼文房具店を営んでいるから、皮膚についたペンのインクの落とし方をよくわかっているのだ。正直に言うと結城理仁は帰ってきたら、内海唯花に顔についているインクを落としてもらいたいと思った。その言葉が口元まで来て、彼はまたそれを吞み込んでしまった。そんなことを言う勇気がなくて、口に出せなかった。そんなことではおばあさんから「あんたその口はなんのために付いているのよ?言いたいことははっきり言いなさい!」と言われることだろう。九条悟なんかは「ボス、怖がらずに堂々と口にするんだ!」と言うはずだ。内海唯花夫婦と清水のほうは急いで行動を開始していた。一方、成瀬莉奈のほうはというと、佐々木唯月からの電話を切った後、浴室のドアをノックしに行った。佐々木俊介がドアを開けると、彼女はその中に入っていった。暫くしてから、二人は浴室から出てきた。彼女は佐々木俊介に抱きかかえられて出てきた。その美しい顔には恥じらいの色がにじみ出ていて、バカでも彼らが浴室の中で何をしたのか想像に難くない。キングサイズベッドに横になり、佐々木俊介の胸に抱かれた成瀬莉奈は突然口を開いた。「俊介、言うのを忘れてたけど、さっき奥さんから電話がかかってきて、さっさと家に戻って来いって怒鳴り散らしていたわよ。私が
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