「うちの年配の面々はみんな退職して家にいて、ちょっとした商売をしてるんだ。疲れないし稼ぐ金額も少ないけど、暇つぶしにはなるしね。充実した生活に感じられるみたいだよ。俺も最初は親に仕送りしてたんだけど、いらないって言われたからさ。一回あげたら、その倍の額を俺に返してくるんだ。妻ができた時のためにしっかり貯金しとけってね」内海唯花は以前、結城理仁の家族に会った時のことを思い出した。義父は年を取ったと言っていても、依然として立ち居振る舞いが上品で、若々しく風格のある人生の先輩たちだった。義母は唯花のことを少し気に入らないようだった。しかし、教養がある人で、彼女に対して何かしてくることもなかった。彼女と話す時にも優しい声で気配りしていた。義母もとても若々しく、唯花が義母と一緒に歩いていたら、周りから姉妹かと疑われるくらいじゃないかと思うくらいだ。内海唯花が結城理仁と結婚してから結構時間が経っているが、唯花が一番交流しているのはやはりおばあさんで、それ以外の人とはこの間家に食事に誘って会ったのを除いて、ほとんど交流がなかった。だから、彼女は彼の実家が具体的にどこにあってどんな様子なのか全く知らなかった。おばあさんと彼女の関係は良好だが、彼女がおばあさんに尋ねた時、おばあさんはある山の名前を言って、家はその山の山頂にある。そしてそこにはたくさんの家があって、彼らの家がどこにあるのか言ってくれはしたが、しっくりこなかったので結局よくわからないままだ。それから、おばあさんはやはり結城理仁が彼女を連れて来た時に詳しいことを話そうと言っていた。結城理仁は一度も彼女を実家に連れて行くと言ったことはない。内海唯花は契約のことを思い出し、彼の実家に行く話はしないことにした。夫婦は白髪になるまで一生を共にするわけではないから、彼の実家がどこにあるのか知らなくとも、別にどうでもいいだろう?しかし、一つだけ確かなことがある。彼の実家の人たちはみんな教養があって、若い世代もしっかりと礼儀をわきまえているということだ。結城家の長男である理仁の妻に対しても、とても尊敬した態度で接してくれたのだ。「あなたのご両親はどちらも考えが開けている方たちよね」結城理仁は笑った。「うちの年長者たちはみんなそうだね」内海唯花は彼の話に同意した。少し時間がかかって、結城
内海唯花は自分の部屋に戻り、ドアを閉めてから、そのままドアにもたれかかった。自分の顔を少し触ってみたら、やはりまだ熱かった。彼女は自分がどうしてこんなに顔が赤くなったのかよくわからなかった。多分姉と一緒に浮気現場を押さえ、衝撃を受けたのが原因かもしれない。暫くそのまま立っていてから、内海唯花はお風呂に入ろうと決めた。あとで結城理仁に朝ごはんを作らなければならないのだ。突然清水のことを思い出し、内海唯花は慌てて電話を掛けた。電話が通じて彼女は言った。「清水さん、後で直接陽ちゃんを連れて私の店に行ってください。わざわざ一回家に帰って来なくてもいいですよ」「わかりました」「お姉ちゃんは大丈夫ですか?」「大丈夫ですよ。朝ごはんを食べてから、会社へ行くと言っています。今お姉さんにコーヒーを入れています。昨日あまり寝てないですから、きっと眠いでしょ。コーヒーは良く効くと思いますよ」内海唯花は姉のことを心配したが、仕事を始めてまだ数日だから、休みなんか取れないのはわかっていた。「運転する時、気をつけてって伝えてください」「はい、わかりました」電話を切ると、彼女はお風呂に入った。バスルームを出て、いつものようにドレッサーの前に座り、髪を梳こうとした時だった。ドレッサーの上に置いていたものが一つ足りないと気づいた。彼女が描いたかんざしのデザイン画はどこへ行ったのだ。それは自分で髪飾りなどを作ってネットショップで売るために、先に描いておいたデザインだった。二晩かけて、ようやく書き終わったものだったのだが。内海唯花は櫛を持って髪をとかしながら、その紙を探していた。しかし、どうしても見つからなかった。「どうしてなくなったの?ドレッサーの上に確かに置いといたのに、誰か私の部屋に入ったわけ……」その時、彼女は結城理仁が言ったことを思い出した。昨日彼女が寝落ちして、どうしても起きなかったから、結城理仁は彼女を抱いて部屋に戻ってきたと。つまり、彼は彼女の部屋に入ったことがある。しかし、彼女が描いたのは髪飾りの絵で、結城理仁は大の男なんだから、彼女の絵を取るわけがないだろう。それに、ただの絵で、本物じゃないのに、それをこっそり取る理由もないと思った。清水は仕事に来てからも、いつも一緒に店についてくれるし。確かに昨夜先に帰ってきたが、まさかそれを紙屑として
彼女には全くその記憶がなかった。就喝了两瓶啤酒,虽说喝了啤酒后让她睡得沉,那也不算醉,不醉怎么会吐?ビールを二本飲んだだけだし、確かに彼女をぐっすり眠らせるだけの効果はある。でも、この程度なら酔ったとも言えないし、吐くわけなどないのに?もしかして、食べ過ぎて、胃がもたないから吐いてしまったわけではないだろう。内海唯花は少し疑ったが、ただ一枚の絵のためだけに、結城理仁が嘘をつく必要はないと思ったから、これ以上追究しなかった。やはり姉の話はいつも正しかった。お酒は控えるべきものだ。「探してみる?」「できないでしょ。本当に見つかったとしても、もう使い物にはならないよ。大丈夫よ、後で暇な時、また描けばいいから」結城理仁は少し申し訳なさそうに言った。「すまない、そんなに重要な絵だなんて思わなかったんだ。適当に紙を使って手を拭いて、まさか内海さんの絵が描いてあっただなんて。今度書き終わった絵はドレッサーに置かないで、ベッドに近すぎるよ」「わかった」こんなことは毎日あるわけじゃないと内海唯花は心の中で密かに思った。彼女は毎日お酒を飲むわけじゃないだろう。「結城さん、気を負う必要はないわ。ちゃんとしたところに置かない私にも非があるから。あとで書き直せばいい話だよ」「じゃ、本物の髪飾りでも買ってあげて、それをサンプルにしてみる?」内海唯花は断った。「いいのよ、自分で絵を書いてサンプル用のデザインにしても十分だから」結城理仁は諦めるしかなかった。当初、彼はどうして彼女が彼とスピード結婚するのは、お金のためだと思っていたのか。おばあさんが毎日耳にたこができるぐらい彼にうるさく言っていたせいもある。それに、彼女がおばあさんのことを助けたこともあるから、おばあさんに報酬を要求しないわけがないと勝手に思い込んだせいで、結城理仁は内海唯花を警戒していた。誤解までして、彼女を疑っていた。それに、あの訳がわからない契約書を作って、彼女を縛り付けようと思ったが、まさかその結果、縛られてしまったのは彼自身のほうだった。昨日その契約書を燃やしたから、結城理仁はご機嫌で妻の作った朝ごはんを食べていた。心の中で一番気にしていたこともなくなったから、ホッとした!朝ごはんを食べ終わると、内海唯花は食器を片付けた。結城理仁は彼女が用意
九条悟は会社の前で結城理仁を待っていた。そして彼は結城理仁の姿を見ると、ニコニコと笑いながら言った。「今日は会社へ来ないかと思ったぞ」九条悟は結城理仁の後ろについて歩いた。ボディーガードたちは会社の前まで送って来ただけで、その中には入らなかった。「俺が会社へ来なくて、お前に会議を全部任せたら、絶対また俺のために牛馬のように働いて、前世に俺に何か貸しを作ったのかとかごちゃごちゃうるさいだろ」「ずっと俺を使役してたって、そういう自覚があったのか。」結城理仁は彼をチラッと一瞥した。「俺がちゃんと力の発揮できる舞台を用意してあげないと、お前は九条家の当主に重視されないだろう?」九条家の若い世代は結城家の若者たちに劣らない。九条悟が若い世代の中で一番優秀だと言われているのは、彼自身の能力はもちろん、結城理仁と仲が良く、結城グループで重役を任されていることも大きい。九条家の当主の息子ではなく、ただの甥でありながら、当主に重視されているので、九条悟は九条家一族での地位は、かなり高かった。それに、彼自身は当主の座に興味がなく、九条家当主の息子である御曹司にも信頼されている。二人は血のつながった実の兄弟のようだった。九条悟はへらへらと笑った。「俺を自分専用の情報屋として育てただろう。ちょうど俺は噂好きだからね。それに、お前に頼まれたこと全部プライベートなことで、どちらもビックニュースになる貴重なネタだぞ。もしいつかお金に困ったら、お前のプライベートを一つだけ記者に売っても、一儲けできるんだからな」二人は一緒にエレベーターに乗った。結城理仁は彼に言った。「お前の全財産を全部俺にくれない限り、金に困ることはまず不可能だろう」九条悟は確かに噂好きで、いつも興味津々に他人のことを聞きたがるが、実はとても口の固い人だった。そうじゃないと、結城理仁は彼のことをここまで信頼しているはずがない。神崎玲凰は何回も九条悟を自分の部下にしようとしたが、できなかった。それに、多くの人が九条悟を酔わせて、彼の口から結城グループの機密情報を聞き出そうとしても、どれもことごとく失敗に終わった。「君にはもう数え切れないほどたくさんあるだろ、絶対あげないからね。そういえば、昨晩はどうだった、浮気現場に行ったんだろう?」エレベーターに二人しかいないので
「……」結城理仁は呆れたように親友を見ていた。九条悟は恥ずかしそうに鼻をこすりながらいった。「牧野さんとのお見合い、少し期待してきたぞ」「土曜の午後に時間を作って会ってみよう。場所はお前に決めてもらおう。決まったら俺に言ってくれ、俺が妻を通して牧野さんにそれを伝える」「土曜、つまり明後日だな。理仁、俺今どう見える?イケてる?顔にニキビとかある?髭は?」その時、エレベーターは一番上の階に到着した。エレベーターのドアが開くと、結城理仁はすぐこの自惚れた奴を残して、すぐに降りた。九条悟はすぐ彼の後についた。「結城社長、九条さん」アシスタントの木村は彼らを見ると、すぐ椅子から立ちあがり、挨拶をした。二人とも挨拶として、木村に頷いた。結城理仁のオフィスに入ると、彼は仮眠室のドアを指差しながら九条悟に言った。「あそこに鏡があるから、それで確認しろ」九条悟は椅子を引き、結城理仁のデスクの前に座って笑った。「俺は自分の顔にはそこそこ自信があるぞ。牧野さんは俺を一目でも見たら絶対落ちるはずさ」「うちの唯花は俺のこの顔を前にしても、未だに落ちてこないんだぞ。牧野さんと彼女は親友なんだ。性格も趣向も大体同じだと思うけどな」九条悟は「……なんでそんなこと言うんだ、自信がなくなっただろう。こんなやり方の仲人が一体どこにいるよ。ちゃんと牧野さんが世界でも数の限られたいい女性だとべた褒めしろよ」「そんな女性がお前と見合いするわけがないだろう」九条悟は言葉を失い、どうやって反論すればいいかまったく思いつかず、仕方がなくこう返事した。「理仁、君が口が少ないのは逆にいいことだぞ。口を開けば、すぐ他人の痛い所をつくんだな。俺も敵わないよ。」「佐々木俊介とその家族たち、それに、成瀬莉奈と彼女の家族たちも、ちゃんと見張ってくれ。あのクズは確かにもう義姉に離婚を申し込んだが、絶対裏で何か汚い手を使うだろう」「安心して、ちゃんと見張りを手配しておいたぞ」「じゃ、今そこに座っていて、まだ何か用か?」「もう他の面白いことないの?」九条悟はまだ自分の好奇心が満たされていないと思っていた。結城理仁は今すぐにもこいつを外へ出してしまいたかった。何の返事もしてくれない結城理仁を見て、九条悟はようやく笑って諦めた。「わかったわかった、じゃ
「それに関して、一番重要な原因は彼女が太りすぎてるからだ。だから毎日出勤の前に会社の向こうの公園で五周走ってきて、走り切らないと出勤させないと条件を付けたんだ。これでダイエットもできると思うぞ。一ヶ月だと効果が出ないから、三ヶ月にしたんだ」結城理仁「……」これは彼女に気を配りすぎなのではないか。佐々木唯月に仕事を与えただけでなく、彼女の見た目とスタイルも心配していた。世界中探し回っても、このようないいボスは見つからないだろう。「隼翔、試用期間を一ヶ月にして、試用期間が終わったら、彼女の給料を上げてくれ。もし彼女の今の能力が給料を上げるに値しないなら、毎月彼女にあげるお金は俺につけといてくれ」「彼女は今ただの普通の社員だぞ。給料をどう上げてもせいぜい二、三万円ぐらいで、何の役にも立たないだろう」結城理仁はまじめに説明した。「二、三万円ぐらいはお前にとって確かにどうでもないことだけど、一般人にとってはできることが多いんだ。義姉さんはもうすぐ離婚する。彼女は息子の親権を取るつもりで、安定した仕事と給料があると有利になるんだ」「彼女は以前、スカイ電機で財務部長をやっていて、能力の心配はきっとないだろう。それに、今普通の社員の仕事をしているが、彼女の能力ならそれ以上の仕事をしているはずだ。試用期間が終って、給料を上げても合理的だろう。大したお金じゃないから、お前につける必要なんかないさ」東隼翔は九条悟のような噂好きではないし、話の一番重要なポイントもすぐ掴めるのだ。彼は結城理仁が何のためらいもなく佐々木唯月のことを義姉と呼んだのを聞いて、全く意外には思わなかった。佐々木唯月は内海唯花の姉で、内海唯花は結城理仁の妻である。結城理仁が佐々木唯月を義姉と呼ぶのは当たり前のことだ。「隼翔、ありがとう」「礼を言われるようなことじゃないさ。それに、佐々木唯月は今うちの社員で、俺のために働いているから、俺が給料を出すのは当たり前のことだ。それと、彼女はもうすぐ離婚するのか?」「うん、夫が浮気したんだ」東隼翔はまったく意外そうな顔はしなかった。「以前、彼女に偶然二回会ったことがあって、彼女はずっと一人で子供の世話をしていた。最後に会った時、彼女はたくさんの物を買っていたのに、旦那に電話をかけても、迎えに来なかったから、何か問題があるんだ
「陽ちゃん、大丈夫だった?」佐々木母は自分がひどいことをした自覚があって、帰ってから少し陽のことを心配していた。今回、孫の恭弥が風邪を引いたことで、家族全員が苦労していた。熱がいつも上がったり下がったりしていて、大人たちをかなり心配させていた。陽は恭弥より一つ下なのだ。もし本当に風邪を移してしまったら、どれほど苦しくなるだろう。「家には帰ってないから、陽にも会ってない。大丈夫だろう、今日家の近くで会社へ行く唯月を見たんだ」一晩であのような騒ぎを起こし、彼と成瀬莉奈をまとめて殴っておいて、彼女はよくものうのうと出勤できるものだ。彼の方はまだマシだが、成瀬莉奈は今にも顔に、はっきりとビンタされた跡がしっかり残っていて、ホテルを出られなかった。昨晩、唯月姉妹二人が離れると、成瀬莉奈は彼を抱きしめて長い時間泣いていた。彼女がこんな目に遭うのは全部彼のせいだと言った。それを聞いて、彼はとても心が痛んだ。それで、絶対離婚してみせるという決心がついた。「それならいい、私も安心できるわ。あんなことをして、お母さんも心が痛かったのよ。陽ちゃんはどういっても私の孫だから。それに、唯月は本当に人の心がないね。あんな小さい子を残して会社へ行くなんて」佐々木母は全部唯月のせいにした。「俊介、どうして今すぐ離婚したいの?理由とかないの?」佐々木俊介はまた煙草を深く吸い、視線を上げて両親に向け、少し気まずく口を開けた。「昨日莉奈とホテルで過ごした。そして、唯月のやつが俺に電話をかけてきたんだけど、莉奈は何か急用があるんじゃないかと思って、俺の代わりに電話を出たんだ。それがまさかあの女、妹を連れてホテルにまで押しかけてきたんだ。俺と莉奈を捕まえて……それで、大喧嘩になったんだ。莉奈はあの女のせいでひどい目に遭ったんだぞ。今もホテルで隠れてるしかできないよ。母さん、もうあいつと一緒になれない。一日も一緒に過ごしたくないんだ。絶対離婚する!」佐々木俊介の親二人はそれを聞いて無言になった。すると、佐々木父は突然立ち上がり、佐々木俊介にビンタをお見舞いした。佐々木俊介はまさか父が彼を殴るとは思わなかったので、避けられずしっかりそれを受けてしまった。「あんた、何をやってるの」佐々木母はすぐ恭弥を腕からおろして、立ち上がってまた手を出
息子の離婚する意思が強いし、それに成瀬莉奈と既成事実になっただけでなく、唯月に発見され、現場まで突き止められたのを二人は知って、唯月の性格を考えると、きっとこれ以上我慢しないだろうと思った。佐々木母は口を開けた。「俊介、唯月と結婚してから、お金を稼いだのはあなただし、彼女は完全に収入がなかったじゃない。離婚するなら、ちょっと役所へ行って手続きを済ませて、彼女に自分のものだけまとめてさっさと離れるようにさせてね。あの子が他のものを持っていくのはだめだよ」離婚するのがもう避けられないことだったら、その損失を最低限にするしかない。「母さん、何も持って行かせないようにするのはさすがに無理だな。あいつが自分から何もいらないと言い出さない限りね。それに、結婚してからあの女、確かにお金を稼いだことはないけど、俺の収入も夫婦共同財産に入るからさ。もしあいつが離婚訴訟を起こしたら、絶対財産の半分を渡さなければならないんだ。「家のローンは確かに俺で返しているんだが、さっきも言ったけど、それは結婚してからの共同財産だから、離婚して家を彼女に渡したくないなら、お金をあげなきゃ。前に軽く計算したけど、そんなに多くないよ。それにリフォーム代は全部彼女が出したんだ。離婚したら、そのリフォーム代を返せって言われたことがあるんだけど。家電を買った金も含めて、全部で840万ぐらいかな、全部あいつが出したんだ。でも俺も言ったんだよ、リフォーム代を返すのは不可能だって。あれはあいつが自ら喜んでお金を出したんだろ、俺が無理強いしたわけじゃないし、絶対返さない」佐々木母はすぐ同意を示した。「もちろんだよ。リフォーム代を返すわけがないでしょ。もし騒いだら、相手しなくてもいいわ。それに、俊介、結婚してからの共同財産って大体いくらある?本当に彼女に半分あげるなら、いくらあげたらいいの?」「400万ぐらい」「400万!」佐々木母は叫び出した。「だめだよ、俊介。400万なんてあげるわけがないでしょ。彼女は結婚してから一円たりとも稼いでなかったのよ。ただで400万あげるのはさすがに図々しいよ。4万だけならいいわ、要らないならそれも渡さなくていいの」400万、このような大金渡すものか。佐々木俊介も唯月にお金を分けたくないのだ。しかし、離婚しなければならない状況が突然迫って
結城理仁の下にはあと八人の弟や従弟たちがいるのだが、彼だけがおばあさんの悩みの種だった。おじいさんは亡くなる前に彼女と一緒に九人の孫を分析していた。結城理仁はおばあさんに対して最も孝行者だが、一番彼女を悩ます存在でもあった。さらに理仁の性格からいって、彼女が理仁の結婚を助けない限り、一生独身だろうと言っていた。今考えてみると、おじいさんの分析は正確だったといえる。「おばあ様、お二人のお気持ちはそんなに焦らなくてよいと思います。一生を共に生きていくのは、これは人生においてとても重要なことですから。もし唯月さんのように人を見る目が足りなかったら、離婚をするのはいいですが、何年もの彼女の青春を無駄にしたわけですから、その代価はとても高いです」外からドアを開ける音が聞こえてきた。「若旦那様と若奥様がお戻りになられたようです」おばあさんは彼女にまた注意した。「私の呼び方には気をつけてね」清水は何度もうなずいた。結城理仁夫婦がドアを開けて入ってきた時、清水はおばあさんと一緒にテレビを見ていた。「結城さん、内海さん、お二人ともおかえりなさい」清水は立ち上がり、笑って言った。「結城さん、おばあさんがいらっしゃっていますよ」「ばあちゃん」内海唯花はやって来て「おばあちゃん、先に来ていたのね。結城さんにどうしておばあちゃんが店に来ないんだろうって言っていたのよ」「お店に行って邪魔になるんじゃないかなと思ったの。それで辰巳に直接ここまで送ってもらったのよ」結城家の中で、おばあさんは内海唯花が一番親しい存在だ。二人はまるで祖母と孫の関係のようだった。この二人の中を結城理仁は嫉妬してしまうくらいだった。内海唯花と彼が一緒にいる時、そんなに深く仲の良い話などできない。おばあさんがここに住むのは、彼から内海唯花を奪う目的なのか?「あ、しまった!」内海唯花はあることを思い出し、結城理仁の太ももをパシンと叩いて言った。「結城さん、うちにある三部屋にはベッドがあるけど、他にはないわよ。おばあちゃんは今夜どこで寝てもらうの?」清水にベッド用品を買った時、客間にもベッドを買っておくべきだった。おばあさんが来たのに、何も準備できていないじゃないか。結城理仁は彼女が自分の太ももを叩いた手を見て、そして自分の祖母のほうに目を
しかし、彼女のドレッサーの上にはあの紙はなかったはずだ。彼女は確か、あの紙の裏にスケッチを……あ!内海唯花は爆睡している結城理仁を見つめた。彼は別に悪気はなかったが、彼女のスケッチをだめにしてしまっただけでなく、彼らの間に交わした契約書、いや、彼女の手元にある契約書を消し去ってしまった。彼の分は絶対に大事に大事にどこかに保管してあるだろう。指で結城理仁の顔を突っついたが、彼は反応がなかった。内海唯花はまた突っつき、言った。「私の分はあなたに消されてしまったじゃない。あなたの分はまだあなたの手元にあるんでしょ、不公平だわ。私には何も保証がなくなっちゃったじゃないの」彼の分を盗んできて、それも消し去ってしまおうか?そうすれば平等になる。どちらの手元にも契約書がなければ、お互いに何かに縛られることはなくなり、彼女も安心できるのだ。彼女には彼の部屋に入るチャンスがないのを思い、内海唯花は頭が痛くなった。どうやれば、彼から契約書を盗んでこの世から消してしまうことができるだろうか?飲ませて酔わせる?奇襲して気絶させる?それとも彼を誘惑してみようか?内海唯花はいろいろな手段を考えたが、結局自分自身でそれを却下してしまった。やはり、ゆっくりとチャンスをうかがおう。内海唯花は結城理仁の部屋に入れるチャンスが来るのは時間がかかると思っていたのだが、まさか夜にその絶好のチャンスが訪れるとは全く思ってもいなかった。おばあさんが突然やって来て、結城辰巳とホテルで食事をした後、内海唯花の店にはすぐには行かず、ホテルで少し休んでいた。それから夜の九時過ぎになって、ようやく辰巳を呼び、トキワ・フラワーガーデンに送ってもらった。夜十時頃、おばあさんはスーツケースを持って結城理仁の家の前まで来て、インターフォンを鳴らした。「どちら様ですか?」清水は来客に返事をしながらやって来てドアを開けた。ドアを開けた瞬間おばあさんがいるのを見て、清水はとても驚いていた。「おばあ様、どうしていらっしゃったんですか?」「あの二人は在宅してる?」「今お戻りの途中のようです。まだ家には帰られていません。私のほうが先に帰ってきたのです」毎日の夕方、唯月は仕事を終えると息子の陽を迎えに来ていた。清水はそれ以上は店にいる必要はない。清水はおばあさんの
「俺がばあちゃんに付き合ったら、もっと不機嫌にさせるだけだよ。ばあちゃんは俺がおしゃべり上手じゃなくて無口なのが嫌いだから。だから君のほうがもっと好きなんだ」内海唯花は特に多くは考えずに言った。「だったら私たち一緒におばあちゃんを気晴らしに連れて行ってあげましょうよ」結城理仁はかなり計算高い男だ。彼女に「いいよ」と答えた。「西の郊外にゆっくり過ごせる山荘があるんだ。明日君とばあちゃんをそこに気晴らしに連れて行くよ」明後日は義姉とその夫である佐々木俊介の離婚協議が行われる。彼らは唯月側の親族として、もちろんその助太刀に行く予定だ。それ故、彼はたった一日しか妻とデートする時間がないのだ。彼がさっき言った山荘とは、彼ら結城家の事業の一つだ。そこは営業の形をとっていて、誰でも利用できる。毎年そこで休暇を過ごす人はたくさんいるのだ。「そこってとても綺麗で、楽しいって聞いたことがあるわ」「俺も行ったことがないから、どんな感じなのかわからないんだ」内海唯花は携帯を取り出し、その山荘の写真を検索した。それを見た後、明日が来るのが待ち遠しくなった。一人で食べると味気ないと言っていた結城家の坊ちゃんは、たった数分で内海唯花が持ってきてくれた弁当をきれいに平らげてしまった。彼がその空になった弁当箱を洗いに行こうとした時、内海唯花が急いでそれを止めた。「私がやるわ。あなた午前中は忙しかったんでしょ、しっかり休んでちょうだい。あなたの上司のオフィスはとても居心地が良いから、そこのソファに横にならせてもらったらいいわ。あなたのデスクの上にうつ伏せになって寝るよりも気持ち良いでしょ」彼女のその優しさが結城理仁の心に甘い蜜のように広がった。結城理仁も本当に眠かった。内海唯花が弁当箱を洗っている時、彼はソファに横たわりそのまま寝入ってしまった。内海唯花が出て来た時、彼がすでに寝てしまったのを見た。それで、そうっと歩いて彼の近くまで行き、静かに彼の寝顔を見つめていた。容姿の良い人って、寝ている時もやっぱりイケメンなんだな。内海唯花は弁当箱を置き、彼の傍に腰かけて、引き続き彼の寝顔を堪能した。この男、プライドが高く、冷たくて、結婚手続きをしに行ったあの日は、彼女に必要最低限の会話しかしたくない様子だった。それがいつからか、彼は彼女に優し
結城理仁は弁当箱の蓋を開けながら言った。「もし君がうちの会社に入って働いたら、会社にはたくさん役職があるってわかるよ。例えば部長だっていろんな部署に応じているんだしね。俺はまあ、会社の中でも上の立場でも下の立場でもないかな」内海唯花は舌をべえと出して言った。「私にあなたの会社に入って働けるような能力がなくてよかったわ。じゃなきゃ、そんなにたくさん役職があっちゃ覚えられないよ」結城理仁はじいっと彼女の瞳を見つめた。「今君の仕事もとても良いじゃないか。自由だし収入だって悪くないんだ。一体どれだけの人が君のような自由業に憧れているか知っているか?」「私はただ誰かの下について働くのが苦手なだけなの。だから卒業してから、明凛をパートナーにお店を開いたのよ。それでも明凛の家族が手助けしてくれたんだ。そうじゃなかったら、私たちはあの店を経営するのは難しかったよ」高校の前は多くの生徒が行き来するから、客の数も多くその前で店を開こうと思ったら、そんなに簡単じゃないのだ。「あの招き猫ってうちのネットショップで売ってるやつだよね?」内海唯花は結城辰巳のオフィスにあるデスクの上の招き猫を見て言った。結城理仁は「うん」と一言答えた。彼は辰巳のあの招き猫を見たくなかった。それは弟が一円も払わずに手に入れたものだからだ。「さっき仕切られてるほうのオフィスを通る時、気づかなかった?みんなのデスクの上には招き猫や花のハンドメイドが置かれているよ。あとは、あの鶴とかいろいろ、何にせよ全部君のネットショップで購入したものなんだ」内海唯花はその瞬間、達成感が湧いてきて笑って言った。「あなたと辰巳君がおすすめしてくれたおかげだね。あと姫華のおかげも大きいわ。彼女はSNSにアップしておすすめしてくれただけじゃなく、お兄さんも買ってくれたらしくて、オフィスに飾ってあるんですって。私の商売を後押ししてくれるとか。今はね、ネットショップの売り上げが、本屋の収入を上回っているのよ」友達が多ければ、物事はうまく進んでいく。友達がもし神崎姫華のように実力のある者であれば、その物事はもっと急速に進んでいくであろう。結城理仁「……」彼の妻の手作りがライバル社のオフィスにまであるというのか。彼はまだ神崎グループを攻略できていないのに、理仁の妻は彼よりも能力があるらしい。彼より
「私はもう食べたから」内海唯花は何気なく答えて。また少し考えてから口を開いた。「なら、私もあなたと一緒にいて、あなたが食べ終わってから、帰ろうか」結城理仁の黒い瞳がキラキラと輝いた。「俺のオフィスに行こうよ」内海唯花はまたそこにいる多くの人たちを見て、探るように尋ねた。「私はここの会社の人じゃないけど、勝手に入って大丈夫かな?」「俺が連れて行けば、問題ないよ」彼は内海唯花に手を差し伸べた。唯花は少しためらった後、自分の手も彼もほうへ差し出した。彼女の手を握り、結城理仁は口角を少し上にあげて笑ったが、内海唯花はそれには気づかなかった。彼は片手で彼女が持ってきてくれたお弁当箱を持ち、もう片方の手は内海唯花の手を繋いでいた。内海唯花を連れているので周りの社員たちみんな驚愕し、どういうことなのか推測をしている目で見つめられながら二人は会社に入っていった。「結城さん、こんにちは」「こんにちは」みんな結城理仁に会うと、恭しく挨拶をした。彼らは内海唯花にも微笑み軽く会釈をした。唯花に挨拶をしているが、その人は彼女を見て唯花が一体自分たちの社長とどのような関係なのか憶測していたのだ。彼らの結城社長に手を引かれて会社に入って来るということは、絶対に社長の好きな人であるに違いない。そういえば、社長は一体いつ彼女を作ったんだ?秘密主義を本当に貫くお方だ。もし今日運良くこの光景を見られなければ。彼らは結城社長にも彼女ができるなんて信じられないだろう。なるほど神崎お嬢様が最近会社の前で社長を待ち続けていないわけだ。きっと結城社長に彼女ができたことを知ったからなのだろう。神崎お嬢様はわがままではあるが、名家の出身で、プライドが高い人だから他人と一人の男を争わないのは当然のことだ。ある人は結城理仁が内海唯花の手を繋いで歩いているその光景を携帯で撮影したいと思ったが、そばにいる人に制止されてしまった。「お前、死にたいのかよ。結城社長を盗撮しようだなんて、よく思いつくな」その人は少し納得いかない様子で言った。「正面からはっきり撮ろうとしてないよ。後ろ姿だけ撮ろうと思ってさ。うちの社長にもようやく春が来たんだって、こんなの世間を釘付けにするビッグニュースだぞ。SNSにアップしたくてたまらないよ」「後ろからだったとしても撮っちゃ
結城辰巳はおばあさんを連れて下におりていった。祖母と孫の二人はホテルに食事に行くつもりだ。オフィスビルを出たところで、辰巳は視界の隅に内海唯花の姿を見た。「おばあちゃん、兄さんが俺におばあちゃんを連れて出ていけって言った理由がわかったよ」彼は会社の入り口を指さしておばあさんに言った。「兄さんの奥さんが来たよ。お弁当箱を持ってるから、お昼ご飯を届けに来たんだ」なるほど、それで彼の兄が急いでおばあさんを連れて出ていけと言ったわけだ。おばあさんに邪魔されたくなかったから。おばあさんはその瞬間足を止め、目を細めて暫く見つめて言った。「本当に唯花さんだわ。あなた、早くお兄さんに電話して知らせなさい。他のオフィスに移るように、あなたのオフィスがいいわ。唯花さんに社長だって知られるわけにはいかないもの」結城辰巳は「うん」と一言返事し、兄に電話をかけた。別に連絡する必要はなかった。結城理仁はそもそも内海唯花が来ることを知っていたからだ。結城理仁のデスクの引き出しには望遠鏡があって、おばあさんが出て行った後、それを取り出して窓の前に立ち下を見ていた。内海唯花の車が現れると、望遠鏡をまたもとの場所に戻し、急い地下に下りて行った。結城辰巳は車でおばあさんを連れて出かけて行った。会社の入り口に停止し、車の窓を開けて内海唯花に挨拶をした。「おばあちゃん、辰巳君、こんにちは」内海唯花は笑って向かって行き尋ねた。「おばあちゃん、どうしてここにいるの?」おばあさんはわざと不機嫌な顔をした。「一言じゃ語り尽くせないわ。唯花ちゃん、先にご飯を食べてくるわね。私お腹すいちゃった。夜あなたに話すわ」「どうしたの?わかったわ、おばあちゃん、ご飯行ってらっしゃい」「義姉さん、俺おばあちゃんを連れて食事に行って来ます。兄さんはオフィスにいるから、先に兄さんに電話して、そうしたら、義姉さんを迎えに来るはずですよ」結城辰巳はそう言い終わると、また車を出しおばあさんを連れて去っていった。暫く車を進めてから彼は笑って言った。「幸い毎日この車で出勤していてよかったよ。いつか義姉さんが会社まで来ることもあるんじゃないかと思ってさ。俺が高級車を運転してたら、そこから義姉さんに疑われ始めちゃうかもしれないじゃん。そしたら、兄さんに殺されちまう」「たぶんその
「確か私、以前誰かさんが『俺はヤキモチなんか焼かない、ネチネチしてうっとおしい!俺から妻を追いかけるなんてことはせん!』とかなんとか言ってなかったかしら。理仁、これって誰が言った言葉が知ってる?」結城理仁は顔をこわばらせ、怒りに燃え、唇をかたく閉じたままで何も言わなかった。おばあさんは笑うのに満足したようで、話題を変えた。「神崎のお嬢ちゃんはもうあそこで待っていないの?」「あの女は二度と俺に付き纏ってくることはないさ」神崎姫華はここ二日間、彼に会いに来ていなかった。彼女は内海唯花にも言っていた。結城理仁に彼女がいる、もしくは結婚している場合は、絶対に二度と彼に付き纏ったりしないと。この点に関しては、結城理仁は神崎姫華を高く評価していた。彼に対しては真の愛だからとか何とか言って、彼を追いかけ他人の結婚生活を壊したりしないのだ。あのわがままなお嬢様はこの考え方に関しては他の人間よりもしっかりとしている。「彼女はあなたと唯花さんの関係を知っているの?」「いいや、彼女に俺の左手を見せつけてやったら、これはやばいと思ってさっさと懲りたようだ」おばあさんは、ははと軽く笑い尋ねた。「あんたの左手がなんだって?左手を見ただけで危険を察知して去って行ったの、一体何をしたってのよ?」結城理仁は黙っていつでも持ち歩いているあのゴールドの指輪を取り出した。そして、左手の薬指にはめておばあさんの方に見せつけた。おばあさん「……」「ばあちゃん、辰巳に言って食事に連れて行かせるよ。スーツケースは持って行って、食べ終わったら、あいつに内海さんの店まで送ってもらってくれ」おばあさんが何か言いたげにしているところに結城理仁が付け加えて言った。「ばあちゃん、辰巳もいい歳だ。いつも俺ばかり見張ってないでさ、俺はどうせもう結婚して妻がいる人間なんだ。辰巳の奴はまだ独身だろ、他の孫にも目を向けてみなよ、じゃないと辰巳が俺だけ贔屓してずるいとか言い出すかもしれないぞ」おばあさんは口を尖らせた。「だってまだ誰も気に入った子がいないんだもの。誰か気に入る子が見つかったら、あなたの弟たちも誰一人としてあなたのように逃げられないわよ。辰巳に来てもらわなくていいわ、私が自分で彼のとこに行くから」おばあさんはそう言いながら、立ち上がりスーツケースを引いて出
おばあさんはスーツケースを持って、一直線にソファの前まで来ると、そこに腰を下ろして言った。「理仁、私、あなた達の家に引っ越してきて一緒に住むわ」結城理仁は顔をこわばらせた。「ばあちゃん、約束したじゃないか……」「別に悪いことをしようってわけじゃないのに、なんでそんなに緊張してるのよ。何を心配しているの?」おばあさんは彼に言い返して、すぐに強気な態度で言った。「私はあなたの父親とおじさんたちから家を追い出されたの。それでどこにも行く当てがないから、孫に頼るしかないじゃないの、だめ?あなたも父親やおじさんたちと同じように、おばあちゃんを家から追い出す気?ああ、年取ってからこんな目に遭うなんて、どこに行っても邪魔者扱いされちゃって、息子や男の孫を精一杯育てて何になるっていうのかしら?やっぱり孫娘を育てたほうが私に優しくしてくれたのに」結城理仁は顔を曇らせた。「ばあちゃん、父さんやおじさんたちがばあちゃんを追い出すわけないだろ」彼のところに引っ越してきて一緒に住もうとしているからといって、それを彼の父親やおじさんたちのせいにする必要はないだろう。おばあさんはニコニコ笑った。「うちのお嫁さんが私を追い出したなんて言えないでしょ?息子たちは私が産んだんだから、彼らのせいにしたって、この私と言い争うようなことはしないでしょうよ。お嫁さんは私の実の子じゃないんだから責任を押し付けるわけにはいかないわ」結城理仁「……」「私聞いたのよ」結城理仁は少し嫌な予感がして尋ねた。「ばあちゃん、何を聞いたんだよ」「唯花さんのお姉さんが離婚するらしいわね。彼女が困っているなら、ちょうどあなたが活躍できる良い機会じゃないの。あなたが彼女の困難を解決してあげれば、唯花さんのあなたに対する好感度は急上昇よ。そうしたら、私はやっと孫娘を拝むことができるってわけ。こんなに良いチャンスはまたとないわ。おばあちゃんはそれを見逃さないわよ。今度ばかりは何を言ったって、絶対に逃しちゃだめ、だめ。私が引っ越して来るのをあなたに邪魔されるっていうなら、唯花さんにあなたが私をいじめるって言いつけてやるんだから。私の行く当てがないのに、家に置いてくれないひどい人なんだってね」結城理仁の顔色がまたさらに暗くなっていった。「ばあちゃん、これは理不尽すぎるだろ?」「だっ
結城理仁はすぐ電話に出た。「結城さん、午前の仕事大丈夫だった?もし眠かったら、午後会社を休んで帰ったらどう?」結城理仁は彼女の気遣いにご機嫌になり、黒い社長椅子にもたれかかり、ぐるぐると椅子を回しながら、わざと落ち着いた声で答えた。「会社に着いた時またコーヒーを一杯飲んだから、ここまでもったよ。大丈夫、もうすぐ昼休みの時間だ、もうすぐ休めるから」「昼ご飯は?」「眠いから、食欲がないし、食べたくないんだ」「それはいけないよ。午前中ずっと仕事でしょ。昼ご飯食べないと胃によくないよ。もし病気になったらなかなか治らないわ」結城理仁の返事は甘えたようだった。「だって、食べたくないんだ」「じゃ、昼休みの時、先に少し寝てて。私が後で昼ご飯を持って行くから。会社の前に着いたらまた電話する」彼は姉のために動き回り、昨日全然寝ていなかったから、どうあっても、内海唯花は昼ご飯を食べないと言った彼を放っておけないのだ。「わかった。じゃあ会社で少し寝るよ。着いたら電話してくれ。車で来るなら気をつけて」「私は店で半日も寝たの、今めっちゃ元気だよ。大丈夫だから。じゃ先に仕事をして、終わったらすぐ休むんだよ」言い終わると、内海唯花は電話を切った。そして、立ち上がりキッチンに入り、弁当箱を取り出し、洗いながら清水に言った。「清水さん、結城さんは昼ご飯を食べに来ないから、私が持って行ってきます。清水さんたちは先に食べてて、私の分を残しておいてくれればいいですから。帰ってから食べますね」清水は返事した。「ご飯は全部できましたよ。お姉さんが帰って来たら、すぐ食べられます。内海さん、先に食べたらどうですか?帰ってから食べると午後一時を過ぎるでしょう。体に良くありませんよ」内海唯花は少し考えて、一理あると思い、頷いた。彼女は弁当箱を清水に渡し、それにご飯とおかず、スープまでも入れてもらい、弁当箱をいっぱいにさせた。彼女自身は素早くスープを飲み、おかずはあまり食べずに、ご飯を一椀食べただけだった。さっさと食事を済ませ、弁当箱を持ち清水に挨拶した。「それじゃ、行ってきます。清水さん、後で忙しくなるかもしれませんから、陽ちゃんはよろしくお願いします」店に来るお客は皆いい客だから、何かを取られる心配もないし、牧野明凛はレジに立つだけでいいのだ。「