交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

182 チャプター

第101話

佐々木唯月は言った。「うん、あれからなんだけど、あの人たちは良心的なフォロワーから助けてもらって、おばあさんは無事に入院して手術の日程まで決まったとか言ってた。ネット民は私たちのことを恩を仇で返す恩知らずな人間だとか散々罵ってたわ。おじいさんとおばあさんが苦労して立派な大人に育ててくれたのに、不孝者の姉妹だってね。おばあさんが病気になって入院しているのに、お見舞いにも来ない義理も人情もない冷たい人間だ。おじいさんとおばあさんにも、天国にいる両親にも顔向けできない最低な奴らだって」佐々木唯月は一日中家でネット上のコメントを読みながら、だんだん怒りが溜まっていった。自分の両親のことにも触れられて、更に憎しみが増していった。彼女の両親がまだ生きていた頃、おじさんたちよりも祖父母には孝行していた。しかし、両親が亡くなってから彼らは彼女たちにどのような仕打ちをした?「お姉ちゃん、あんなネット弁慶たちの言うことなんて気にしないで。ああいう人たちは本当のことなんか知らないで表面的なことだけ見て簡単に信じ込む奴らよ。自分が利用されてるってのに全く気がついていない。自分は正義感溢れる善良な人間だと思ってる。でも彼らは誰かの駒になって無実の人を傷つけているなんて知りもしないんだから」ネット上の物事は、いつだって180度方向がコロコロと変わるものだ。内海唯花は今までそういうのをたくさん見てきた。この時、結城理仁が低く落ち着いた声で言った。「内海さん、君のおばあさんはネット民からの手助けで入院できたんじゃないぞ。あいつらは自分で費用を払い、入院手続きし、手術を受けることになったんだ。そのネット上に書かれているのは、あいつらが自分で勝手に書き込んだものなんだ」姉妹は彼の方を向いた。結城理仁は説明を加えて言った。「俺が君と一緒に君の故郷に行っていた時、サービスエリアで電話して俺の会社と付き合いがある木下社長に調査を依頼したんだ。彼は君の親戚たちはとても良く過ごしていると言っていたよ。君の祖父母、おじ、いとこ、みんな病院からそう遠くないホテルに泊まっているようだ。そんなことをするのは、どうせ君たちにお金を出させるためだろうな」神様は不公平だ。あのような一族たちを世間にのさぼらせているのだから。お金はあるが、良心は皆無。15年前二人の孤児をいじめ
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第102話

文章には悲しみと怒り、絶望と無力感がびっしりと詰まっていた。内海唯花は姉の日記をめくりながら昔のことを思い出し、さめざめと泣いていた。『おじいさんとおばあさんはなるべく多くのお金を手にするために、母方の祖父母やおじさんたちと収拾がつかないほど喧嘩してた。彼らはどちらも自分たちが相手よりも多くお金を分配されるためだけに争って、誰一人として私たち姉妹のことを考えてくれる人なんかいなかった。私たちを引き取って育てようともしなかった。私の両親はどちらも亡くなったのに、あの人たちはお金のことばかりで、私たちの気持ちも考えてくれなかった。これを家族、親戚と呼べるの?お父さん、お母さん、早く帰ってきてよ。娘の私たちが今辛い目に遭ってるんだよ?どうして私と妹を放ったらかしにするの?ひどすぎるよ。雨が降ってきたわ。神様が私たち姉妹が両親を亡くして、可哀想と思って涙を流してくれてるのかな?私たち親がいない孤児になっちゃった。お父さんって呼んでも、もう返事してくれない。お母さんって呼んでも、もう聞こえないみたい。妹はまだ小さくて何も理解できていないみたい。私が泣いたら、彼女も泣くの。妹はいつも私にパパとママはいつ帰ってくるの?って聞くの。彼女はお父さんとお母さんが恋しいんだよ。妹を抱きしめながら泣いて、教えてあげたわ。お父さんとお母さんはもう二度と帰ってこないんだって。私と妹を置いて、天国に行っちゃったんだって。私たち親がいない孤児になっちゃった......』......『おじいさんとおばあさんはお金を多くもらうために、六千万を渡せば、これからは私たちが彼らの世話をしなくていいって。おじいさんたちが死んでも葬式とかお墓のこととかは、息子や孫がたくさんいるから心配する必要ないって言ってた。彼らの頭の中はお金のことばっかり。金、金、金。お金は親族に対する情よりも大切なのよ。孫娘よりもお金が大事だなんてことがある?あのお金はあなたたちの息子とそのお嫁さんが命と引き換えにしたものじゃない。あの人たち、お金欲しさにここまで騒いで、自分の息子とお嫁さんの気持ちを考えたことがあるの?あ、そっか、お父さんとお母さんはもう死んだんだもの、あいつらが死人の気持ちなんて考える必要ないよね。あいつら、とうとうお金を手に入れることができたわ。父方の祖父母に六千万円。母方の祖
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第103話

内海唯花は姉の日記をツイッター上にアップして『不孝者の孫娘』に対する反応を見せた。姉の日記のほかに、彼女が故郷に戻った時に集めた証拠もだ。二人のこの老人は非常に良い生活を送っていて、何百万もの貯金があり、彼らの子供たちは村の中でも一、二を争うお金持ちだという証明もした。結城理仁は妻と一緒に義姉の家に行く途中、内海唯花におじいさんから電話が来て、電話の向こうから聞こえてくる元気な声が、車に搭載されているレコーダーに録音されているかもしれないと思い出していた。彼が確かめに行ってみると、本当にその声は録音されていた。内海唯花はそのおじいさんとの通話記録を一緒にネットにアップした。その後は、ネット民が大騒ぎし、いかに怒り狂ったのかは言うまでもないだろう。結城理仁は九条悟に内海家を調べさせた資料を、唯花のツイートには一緒に掲載せず、九条悟に任せて彼女のネットフレンドとして、内海家の子供や孫たちの現在の仕事や収入の状況を暴露した。はじめ『不孝者の孫娘』というツイートのトレンドワードへの関心は高かったが、今や多くのネット民たちは怒りに燃え滾っていた。本来、内海唯花姉妹が不孝者だと罵っていた者たちは、『不孝者の孫娘』を書いた作者に怒りの矛先を向けた。突如風向きが変わり、内海智明のメディア関係者の友人たちは急いで公式アカウントに掲載していた文章を削除した。怒り狂ったネット民たちから叩かれるのを恐れたのだろう。「お姉ちゃん、もう大丈夫よ。心配しなくていいわ。あいつらはもう二度と私たちにお金の要求なんかしてこないわ。もし来たとしても、それは私たちに大目に見てくださいって言って謝罪するためよ」内海唯花は姉を慰めて言った。「私はあいつらに本当に腹が立ってるの」佐々木唯月はぐっすりと眠っている息子を抱いていた。「私たちがやるべきことはもう全部やったわ。正義は人々の心の中にある。神様が私たちを公平に扱ってくれるのを信じましょう。唯花、あなたと結城さんは一日中走り回っていて疲れたでしょう。急いで帰って休みなさい」「お姉ちゃん、陽ちゃんを連れて部屋に戻って休んでね」姉が甥っ子をベッドに寝かしつけて部屋から出てきた後、内海唯花夫婦はおやすみの挨拶をし、帰って行った。一日中忙しく動き回り、内海唯花もとても疲れきっていた。それでも家に着い
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第104話

内海唯花はそれからすぐには部屋に戻らなかった。彼女はベランダに行き、ハンモックチェアに座って、そこに置かれた花たちと暗い夜空に点々と輝く星を見つめた。心が穏やかになってから彼女はようやく体を起こし部屋へと戻って行った。夫婦二人の夜は、このように静かで平穏だった。一方、病院にいる内海家の人々は、ネットからの激しい攻撃を受けていた。彼らは先に内海唯花姉妹にネット暴力を浴びせたのだが、彼女たち二人に与えた影響は少なかった。逆に、内海唯花の彼らに対する反応には、佐々木唯月が当時書き記していた日記だけでなく、当時の真相、村民たちの音声による証言もあった。さらに村役場は内海唯花の証言に間違いはないとお墨付きを与えていたのだ。彼らの仕事、収入、家などの詳細がネット上では何でもできるネット民たちによってかき集められた。自分で建てた別荘に住み、なかなか良い仕事に就き、年収は少なくとも数百万から数千万あり、多い者で数千万から億もあるのだ。彼ら若者ならまだしも、二人の老人ですら数百万から一千万を超える貯金があるのだ。彼らの経済状況がとても良いことは明らかだった。それなのに、おばあさんが病気になりその医療費を二人の孫娘に支払わせようとしているのだ。特に内海おじいさんと唯花の通話記録がネット上に晒されると、ネット民たちからの罵りの嵐だった。「自分らの金は惜しむくせに、孫娘に金を出してもらおうってモラハラじゃん。子供も孫もたくさんいて、それぞれ金稼いでるってのに、なんで自分の子供に金出させないんだ?」「自分の子供じゃなくて孫なんでしょ。しかも当時二人の両親が亡くなって、その賠償金を分ける時に老人のお世話とお墓のこととかも関わる必要ないってサインまでしたのに。よくも今になって、いけ図々しくも道徳なんか振りかざして、孫娘にお金出させようとするよね」「録音聞いてみるとさ、あのじじいの言いっぷり、本当に人として終わってるっしょ?しかも、孫娘にあいつらが来るときにかかった交通費とガソリン代まで出してもらおうって。しかもしかも、ホテル代までだよ。自分の親が病気で入院したんだから、それは息子、娘の責任じゃないわけ?」「孫たちが孝行者だから、ちょっとお金と労力を出すのはよく分かる。でも、孫娘ばっかりに執着してさ。孫息子に一円も出させないのは一歩譲ったとしても、孫娘の
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第105話

内海唯花の伯父の一人が甥に言った。「智文の仕事が一番重要だ。もし今回の件で智文が仕事を失いでもしたら」内海家の上から二番目の伯父は、その続きを言わなかった。彼の智明を見る目には責める色が見えた。ツイッターを利用して内海姉妹にモラハラをしたのは智明の意思だ。「おじさん、智文はあの会社で長年働いてきて、本社からの信頼も厚いんだ。こんな些細なことで仕事をクビになったりしないさ。俺がこの件は智文とは全くの無関係だと釈明すればいいだけの話さ」智明は個人経営をしているので、彼はネット上のことが彼の仕事に影響を与えるとは思っていなかった。内海家の二番目の伯父は、甥の話を聞いてすぐに安心した。そして息子に電話をかけ、ネットで今回の件は自分とは無関係だと説明し、巻き添えを食らって、仕事に影響を与えないようにと言った。「あの二人のクソガキどもは残酷な奴らだ」内海家の伯父は怒鳴った。「金を出したくないってんなら、出さなきゃいい話だろうよ。俺らを容赦なく窮地に追い込む必要なんかねえだろ。今や俺らは面目丸潰れだぞ」先に彼らが『不孝者の孫娘』をツイートをして、検索ワードには上がったが、その影響力は足りなかった。しかし、内海唯花からの反撃はかなりの影響力を持っていた。彼らには、親戚友人たちからの電話が絶えなかった。さらに知らない人間からも彼らを罵る電話がかかってきた。唯花姉妹がネット暴力に晒されたかどうか彼らは知らないが、彼らのほうはしっかりとネットからの攻撃を受けていた。ネット上は彼らへの怒りの声に満ち、わざわざ病院まで来て彼らを罵る者さえ現れた。病院の警備員がそのネット民たちを追い出したり、警察を呼ばなければ、彼ら一族は恐らく怒りに満ちたネット民たちから散々な目に遭わされていたことだろう。さらに卵を投げつけられていたかもしれない。ずっと黙っていた内海家のおばが口を開いて言った。「あんたたちがあんなことするって言った時、私は反対したでしょう。十数年前に、父さんと母さんは佐々木唯月たちと契約書にサインしたんだよ。そこには今後、彼女たちのお世話はいらない、葬式や墓のこともやる必要ないって書いてあったんだ。今母さんが病気になって、一致団結してあの子たちからお金を巻き上げようとするなんてさ。父さんと母さんだって子供がいないわけじゃないだろ。私らだって
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第106話

内海家のおばあさんは村の中でも気が強く理不尽な人として知られていた。昔からずっと強硬な態度で、決して低い姿勢を見せない人だった。彼女はどうしても子供や孫たちに頭を下げて謝らせようとはしなかった。彼女は一体いつまでその姿勢を貫けることだろうか。内海唯花は故郷の親族たちがこの夜どのように過ごしているのかなど全く知らず、ぐっすりと眠っていた。空が明るくなる時間に両親が夢に現れ、彼女はお父さん、お母さんと叫び両親の手を掴もうとしたが、その手は虚しく空を切った。目が覚めた時、枕カバーが涙で濡れていた。しばらくの間ぼんやりと天井を見つめ、内海唯花はベッドから体を起こした。ティッシュを二枚手に取り、頬に残った涙の跡を拭って呟いた。「お父さん、お母さん、あなたたちの娘がいじめられてるってもしかして分かってるの?心配しないで、私とお姉ちゃんはもう15年前のような子供じゃないの。あいつらはもう私たちを容易く扱うことなんてできないのよ」彼女は携帯を手に取った。昨晩寝る前に携帯をマナーモードに設定しておいたのだ。見ると、多数の着信と未読のショートメッセージが来ていた。彼女が着信を見てみると、全て知らない番号からのものだった。おそらく内海家の人間がかけてきたものだろう。二つのショートメールを適当に開いてみると、やはり彼女にツイート文を消せという内容のものだった。しかも彼女たちはなんといっても同じ内海家の血が流れている家族なのだからとまで、ほざいているのだ。彼女がこのようにするのは、別に同じ血が流れている家族を窮地に追い込む気があるわけじゃないだろう。彼女がツイッターの記事を削除すれば、これ以上は言い争わないし、おばあさんの治療費を出せとも言わない。もし良心があって、お見舞いに来るなら祖父母への恩に報いることだなどと言っている。内海唯花はそれ以上ショートメッセージを見る気は失せてしまった。あの人たちは未だに自分たちは道理にかなっていて、彼女はやり過ぎだと、冷酷無情で容赦のない人間だと思っているのだ。どちらが先に手を出してきたのか等、全く考えてもいないのだ。もし彼女が十分な証拠を揃えて来なければ、姉妹二人のほうが彼らによって窮地に追い込まれていただろう。彼らは全く彼女たちに慈悲など示したことはない。さらには、図々しくも祖父母に対する恩に報いるべ
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第107話

結城理仁はすぐにその微笑みをひっこめて、いつもの威厳のある様子へと表情を変えた。警戒心を持ったその黒い瞳は内海唯花の目と合った。「結城さん」内海唯花は彼に尋ねた。「あなたにキスしてもいい?」結城理仁「......」彼女は恥というものを知らないのか。まさか男性にこのような質問をするとは。「結城さんって笑うと素敵ね、ムズムズしちゃう。本当に結城さんを抱きしめて熱いキスをしたいわ」結城理仁は呆れて言った。「内海さん、どうやら君のその顔の皮は分厚いんだな」「私の顔の皮は薄いですけど」内海唯花はそう言い、笑いながら自分の顔をパシパシと叩いていた。「私たちは夫婦だから、さっきみたいなことを言っただけ。それに、法律上の夫婦だから、あなたにキスするのだって普通のことでしょ」それを聞いて、結城理仁は本能的に数歩後ずさりして彼女との距離をとった。彼のその挙動に唯花は大笑いした。結城理仁は当惑のあまり怒り出した。彼のこの挙動は、結局のところ彼女のせいなのだ。以前、彼女が前触れもなく彼の顔を触ったりしたからだ。あまりに大笑いしている彼女を見て、結城理仁は腹が立ってきた。彼はすぐさま数歩前に進むと、笑っている内海唯花をつかんで懐に抱き寄せ彼女の唇を塞いだ。そして、気ままに笑っていた彼女から笑みが消えた。内海唯花の笑い声は急に聞こえなくなった。彼女は驚いて目を大きく見開き、至近距離にある彼の端正な顔を見ていた。彼が笑っている顔がとても魅力的だったので、彼女はちょっと彼を冷やかしてみただけだった。彼が男女関係においては彼女よりも純粋であることを知ったうえで、彼をからかうのを面白がっているのだ。それがまさか彼に先手を取られるとは。なんと彼のほうから彼女にキスをしてきたのだ。結城理仁は彼女の赤い唇にキスをし、その笑い声を止めた後、彼女のその唇を深く堪能することなく、すぐに彼女を自分から引き剥がしてしまった。そして指先で彼女の額にデコピンをし、彼女は「いたっ」と一言漏らした。「人をからかうにも程がある。これは当然の報いだろ」結城理仁は低くかすれた声でひとこと言った。そして、彼はまるで何事もなかったかのように食卓に腰をかけ、淡々と朝食を食べ始めた。内海唯花「......」彼女は自分の唇を触り、淡々と朝食を食べ
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第108話

「車のお金は俺にくれる必要はないよ」結城理仁は急に車を購入した件に話題を変えた。内海唯花は彼の銀行口座番号を知らないので、毎日直接彼の携帯に100万円送金するしかなかった。でも、彼はそのお金を受け取らないのだ。唯花は車を購入したその日の夜に100万円彼に送金したが、彼が受け取らなかったので、そのお金は自分の銀行口座に戻ってきた。「君に車を買ったのは、ただ俺の面子の問題だから。平日は仕事で忙しいし、たまには仕事上の接待やらパーティーやらで君を連れて行かないといけないかもしれないだろ。もし俺の奥さんがいつでも故障してしまうような電動バイクに乗ってるなんて知られたら、俺の面目丸潰れだ」結城理仁が彼女に車一台プレゼントしたのは、自分の面子のためだと言うのだ。「あれは、間違いを認めたそのお詫びとしてのものじゃなかったの?」内海唯花は彼に問い返した。結城理仁「......まあ、いろいろ含めた気持ちだと思ってくれ」「あなたが車をくれるっていうなら、今年はもう生活費をくれなくていいわ」結城理仁は顔をあげ彼女の目をみつめた。彼女の意見には賛成も反対もしなかった。内海唯花は彼が黙っているのを賛成意見として受け止め、このようにすれば彼に借りを作ることはないと思い、だいぶ気持ちが楽になった。「君のおばあさんの事だけど、しばらくは彼らの相手をする必要はないよ。耐えられなくなったら、自然と向こうから君に謝罪してくるだろうしね。それから、君の両親が当時君達姉妹に残してくれた家だけど、姉妹で訴訟を起こしたらいい。全部が戻ってくるとは限らないが、あいつらに半分のお金を支払わせるんだ。うまい汁を吸っておいて、また君たちに噛み付いてきたんだ。ああいう奴らには慈悲なんて与える必要はない」もし結城理仁が手を出せば、彼ら内海家の一族は全員乞食として生きて行くことすらも困難なのだ。しかし、これは内海唯花自身のことだから、彼はただアドバイスをするだけで、それからどうするかは、やはり彼女が決めることだ。「おばあさんの手術が終わって退院してから、訴訟を起こして両親の家を取り戻すわ」結城理仁は、うんと一言返事をした。彼らはなんといっても彼女の実の祖父母だ。彼女は血縁関係であることを考慮して、やはり彼らに最低限の余地は残してあげたのだ。朝食を
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第109話

結城理仁はベランダの入口に立って、彼女に声をかけることはなく、黙ったまま一分ほど彼女を見つめた後、去って行った。そして妻が包んでくれたグルメが詰まった弁当を持って、仕事へと出かけて行った。家を出る前に、彼はきちんと内海唯花に「行ってきます」と一声かけて行った。「うん、車の運転気をつけてね」唯花は一言彼に注意した。理仁はドアを閉め、弁当箱二つをぶら下げて降りていった。彼のボディーガードは下で待っていた。立っている者、しゃがんでいる者、緑化帯に座っている者もいた。彼が二つの弁当箱を下げて降りてきたのを見ると、ボディーガードたちはすっくと立ち上がり、彼を見てあまりに驚き近づいてくる者は一人としていなかった。結城理仁「......」なんだ、彼が弁当箱二つ持っているだけで、彼らは主人を識別できなくなったのか?「若旦那様」ボディーガードの一人の七瀬の反応が一番早く、駆け足で彼の側に近寄っていった。そして、理仁の手からお弁当箱二つを受け取った。結城理仁は何も言わず、あのロールスロイスに向かって行った。すぐに数台のボディーガードの車に護送されてロールスロイスはマンションの駐車場から走り去ってしまった。内海唯花はこの時ちょうどベランダから外を見ていて、よく見かける高級車が数台の車に守られながら遠くに走り去っていくのを見ていた。それに夫が乗るあのホンダの車も最後尾について走っていった。高級車に出くわしたら、よろこんで道を譲り、追い越そうとはしないだろう。万が一にもぶつかりでもしたら、その修理代は一般人にとって相当なプレッシャーになる。このマンションには2億近くするロールスロイスに乗っている人が住んでいるのだから、ここがとても高級住宅地であることが分かる。結城理仁がこの家を買った時、一体いくらかかったのだろうか?彼は大企業に勤めていて、少なくとも管理職の一人である。しかし、彼の会社での立場がどれほどのレベルなのか内海唯花は何も知らなかった。彼女も一度も彼に聞いたことはない。彼はそもそも彼女を警戒しているし、もし彼の仕事や役職について聞けば、また彼は余計なことを考え始めるかもしれない。結城理仁が出かけた後、唯花は花の水やりを終わらせ、ハンモックチェアに腰掛けた。ゆったりとした気持ちでネットを開き、親戚への反撃をした後、
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第110話

結城理仁は二つの弁当箱を弟のデスクの上に置き、低く落とした声で言った。「俺とおまえが同じ会社で働いてるってのをおまえの義姉さんが知って、多めに朝食を作ったんだ。これはおまえにって持たせてくれたんだぞ。いつも外食ばかりするな、健康的じゃないからな」「兄さんだってずっと外食ばっかだったじゃんか」自分のホテルで食べているとは言え、外食は外食だ。結城辰巳は持っていたコーヒーを置き、待ちきれない様子で弁当箱一つを持ち上げ、蓋を開けながら言った。「先週の土曜日にさ、義姉さんの料理の腕は拝見済だからなあ。ここ数日ずっとあの味を思い出してたんだよ。うわ、すっご。めっちゃ豪華じゃんか。見た目もきれいだしさ、絶対美味しいに決まってる」結城辰巳が二つの弁当箱を開けた後、耐え切れず義理の姉の腕前を褒めたたえた。ハンドメイドが上手なだけでなく、料理の腕までピカイチだとは。なるほど、ばあちゃんが義姉を気に入って、どうしても兄貴と結婚させようとするわけだ。すごくよくできた嫁じゃないか。弟の喜ぶ様子が見ていられなくて、結城理仁は気にしてないふりをして言った。「義姉さんは俺がいろいろ助けてあげたそのお礼に今朝早起きして、俺のためにしっかり栄養バランスのとれた朝食を作ってくれたんだ。全部食べきれなかったから、おまえにちょっとその残りを包んで食べさせてやるだけだ」結城辰巳「......」そしてすぐに彼は笑顔を作った。「義姉さんが俺用に弁当箱によそって兄さんに持たせたんだろ。絶対口つけてないやつじゃん」結城理仁は何も答えなかった。こんなことなら彼が全ての料理に口をつけて、結城辰巳に彼の残り物をあげていれば、このクソガキはこんな得意気な顔をしていられただろうか?「兄さん、他にまだ用あるの?」「なんだ、兄貴自らおまえに食いもんを持って来てやったってのに、急いで俺を追い出すつもりか?」結城理仁は不服そうに弟を見つめ、見るともなく見ていたらデスクの一角に置かれていたビーズ細工の招き猫が目に入った。彼はそのビーズ細工を持ち上げ、何度も何度も見て言った。「この招き猫はばあちゃんが飾ってるあのビーズ細工と同じ作者が作ったやつみたいだな」結城おばあさんは内海唯花が彼女にプレゼントしたハンドメイドの作品を家でも目立つ場所に置いているのだ。彼が特に気に留めな
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