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All Chapters of 離婚後、恋の始まり: Chapter 531 - Chapter 540

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第531話

かおるは少し驚いた。普段は眠りが浅い彼女が、あんなに大きなノック音で目を覚まさなかったなんて。お酒のせいだろうか?かおるは特に深く考えず、欠伸をしながら外に出て、ドアスコープから外を覗いてみた。外にいた人物を見て、彼女は目を細めた。まさか、月宮が?「バンバンバン!」考えを巡らせているうちに、再び外の男がノックを始めた。かおるはすぐにドアを開けた。そこにはまだノックするつもりで手を挙げている月宮が立っていた。あと2秒ほどドアを開けるのが遅れていたら、その手は彼女に落ちたかもしれない。「こんな夜中に、何ドアを叩いてるの?正気か?」かおるはむっとして言った。月宮は手を下ろし、かおるを一瞥した。「お前しかいないのか?」かおるは欠伸をかみころしながら、「他に誰がいるっての?あ、そうだ、喜多野さんもいるわ」月宮は、安堵の息を一瞬ついたものの、彼女の言葉を聞いたとたん、その眉間に再びしわを寄せた。「祐介がここで寝てるだと?」かおる:「あんたに関係ある?」月宮は眉間を揉みながら、事態が厄介な方向に進んでいると感じていた。もし祐介が本当に里香と何かあったなら......雅之が本気で報復に出るかもしれない。そうなったら、事態は収拾がつかなくなる。かおるは月宮が何かおかしいと思い、ドアを閉めようとした。「もう夜遅いんだよ、月宮さん。人の睡眠を妨害しないでくれる?」冷淡な表情で言い終えると、電話を切ろうとした。ところが、月宮はドアに手をついて、さらに深刻な表情でかおるを見つめながら言った。「彼らはどの部屋にいる?」かおるは眉をひそめた。「はぁ?」月宮の顔つきはさらに冷たくなった。「冗談じゃないんだ。彼らがどの部屋にいるのか教えてくれ。さもないと、中に入って探す」そう言いながら、彼は部屋に入り込もうと勢いづいた。かおるはとっさに彼の前に立ちふさがり、「ちょっと!あんた、私が入れたって言ったか?なに言ってんの?」月宮は小柄なかおるを見下ろし、目を細めると、突然その手を伸ばし彼女を脇に抱え込み、そのまま大またで部屋の中へと歩いていき、次々と部屋を見て回り始めた。かおるは驚き声をあげた。「ちょ、月宮!あんた、なにやってんの?これは不法侵入だって分かってるの!?放しなさいよ!」こんな風に抱えられて、実に居心地が悪かった。
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第532話

「月宮、何してんのよ?放しなさいってば!」かおるは必死に足をばたつかせ、月宮の顔を引っ掻こうとするけど、全然届かなかった。月宮はかおるを抱えたまま、階下の部屋に向かい、指紋認証を入力してドアを開けると、そのままソファに放り投げた。「きゃっ!」短い悲鳴をあげたかおるは、そのまま月宮に押さえつけられた。彼女は驚いた顔で見上げた。「何する気?」月宮は彼女を見下ろし、「一度ならず二度三度......かおる、お前は俺がいつまでも優しいと思ってんのか?」何か不穏な空気を感じ取ったかおるは、思わず唾を飲み込み、動くのをやめ、月宮の怒りをなだめようと冷静を装った。「月宮、ちょっとふざけただけじゃん。そんなに怒らなくてもいいでしょ?」月宮は冷たく言い放つ。「その『ふざけ』の代償がどれだけ大きいかわかってんのか?」かおるは口をとがらせる。「ふざけじゃなかったとしても、何があんたに関係あるわけ?里香ちゃんとあのクズはもう離婚してるんだから、彼女が誰と付き合おうが自由じゃない!」月宮は、離婚証書が偽造だと言いかけたが、思いとどまった。まぁ、今はこのままでいいか。今は、こいつをとっちめる方が先だ。「雅之が里香ちゃんを諦めない限り、彼女は雅之の女だ。俺が黙って見ているわけにはいかない」かおるは眉をひそめ、「あんたたち、全員おかしいんじゃないの?」離婚したっていうのに、何をそんなに干渉するのよ?どんだけ暇で他人に口出すわけ?月宮は不意に身をかがめ、彼女の顎を掴む。「また俺を罵ったな。どうしてやろうか?」かおるは思わず悪態をつきかけたが、すぐに飲み込んだ。両手で月宮の肩を押し、「もうしないから、月宮、ごめんってば。私が悪かった、あんたを挑発した私が......」「遅い」月宮はかおるが折れたのを見て、妙に不愉快な気持ちがした。その言葉を遮り、急に彼女にキスをした。「んっ!」かおるは目を見開き、まさかこんな展開になるとは思わなかった。いや......いや、こうなる予感はしてた。でも、まさかこんな早く?ちょっとでも抵抗したかったのに。かおるは懸命に抵抗するが、月宮の力はとてつもなく強い。以前にもそれは痛感していたし、自分の抵抗など彼にとっては意味をなさなかった。月宮はかおるの両手首を簡単に押さえつけ、頭の上に固定する
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第533話

月宮がかおるの耳たぶに軽く噛み付いて言った。「これが俺を誘った結果だよ」かおるは彼の肩に噛みつき返したが、次に起こる出来事が強烈すぎて、言葉も出ない状態に。この男、ほんとに野獣だわ!里香は昨晩、ぐっすりと眠れた。たぶん、かおるが隣にいたから安心できたんだろう。里香は目を開けて言った。「かおる、起きて、今日は私がうどんを作ってあげるよ。どんなうどんが食べたい?」そう言いながら起き上がると、隣を見たが、かおるの姿はどこにも見当たらない。「え、どこ行った?」里香は焦って、急いで靴を履いて外へ向かったが、かおるは部屋のどこにもいない。急いでスマホを取り出してかおるに電話をかけたが、そのスマホがなんと寝室で鳴っているではないか。里香の表情が一気に暗くなった。どういうこと?かおるはどこに行ってしまったの?なぜスマホを持っていなかったの?現代社会じゃ、お金を忘れても、スマホは忘れないものなのに。それに、かおるは一体いつ出て行ったの?なんでちっとも気づかなかったんだろう?里香が考え込んでいると、突然ドアをノックする音が響いた。急いでドアを開けると、疲れ切った表情のかおるが立っている。彼女は精気を吸い取られたかのように無気力な姿だった。「かおる、どこ行ってたの?」里香は彼女の手を握りながら問いただした。かおるは口元を引きつらせ、こう答えた。「昨日ちょっと飲みすぎちゃって、朝早く起きて散歩に行ったのよ」そうなのか?里香は少し疑いつつもかおるを見つめた。歩き方がどこかおかしいし、体全体に重い疲労感が漂っている。「大丈夫?」里香は心配そうに声をかけたが、かおるは手を振りながら、「大丈夫よ。昨日しっかり眠れなかったから、これを機にお酒はやめないとね。ちょっと寝るわ、里香ちゃん、私のことは気にしないで、あなたは仕事に行って」と言い、言葉通り寝室に戻って横たわり、目を閉じてすぐに寝入った。「くそっ、月宮のせいで一晩中振り回された!」ほんとに命でも惜しくないかのような絶倫さで、全然寝かせないんだから!里香はかおるにそっと毛布をかけ、立ち上がろうとしたがその時、ふと動きが止まった。かおるの首にはくっきりとしたキスマークが残っていた。それも鮮やかな色で、昨晩つけられたものに違いない。つまり、かおるは嘘をついたってことだ
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第534話

「初めまして、加藤忠と申します」「私は加藤誠です」二人の声が落ちた瞬間、空気がなんとも言えない妙な静けさに包まれた。里香は、「それで終わり?」と聞くと、忠と誠は互いに視線を交わし、忠が干からびた声で言う。「はい、それで終わりです」里香は思わず笑ってしまい、それからすかさず「あなたたちは何が得意なの?給料について何か要求は?」と尋ねた。忠と誠は再び互いを見つめ、そのまま祐介のほうに目を向けた。祐介は額に手を当て無念そうに言った。「まず、座って」忠と誠はその声に従い座ると、祐介は二人の状況を簡単に説明し、最後にこう言った。「給料は......任せるよ」しかし、里香は首を横に振りながら言った。「任せるわけにはいかないわ。彼らには私の安全を守ってもらうのに、私の周りってそんなに安全でもないからね。これはかなり危険な仕事よ。あなたが彼らにどれだけ払っているのか知らないけど、その倍出すわ」祐介は眉を上げ、「そんなに太っ腹なのか?俺も君のボディーガードに応募していい?」と冗談っぽく言った。忠と誠は突然、緊張し始めた。えっ?喜多野さんが俺たちの商売を奪う気?それは困る!もし小松さんが俺たちを雇ったら、三倍の給料になるってことじゃないか。まさに棚からぼたもちだ!喜多野さん、そういうのはマジで困るんだけど!里香は彼が突然そんなことを言い出すとは思っておらず、慌てて言った。「冗談言わないでよ。あなたが私のボディーガードなんてなったら、寝てても安心できないわ」祐介は笑いながら彼女を見つめ「ん?そんなに俺のこと心配してくれてるの?」と聞き返した。里香はまつ毛を軽く震わせ、次に忠と誠に目を向け、「あなたたち、異議はないわよね?」と言った。「異議ありません」二人は同時に答えた。冗談じゃない!三倍の給料だなんて、文句があるはずがない!里香はスマホを取り出し、「じゃあこれから、よろしくお願いね。私の安全をしっかり守ってね」忠と誠はそれぞれ番号を言い合い、連絡先を交換した。その時、ウェイターが料理を運んできた。里香が「さあ、ご飯にしましょう」と言った。祐介は彼女の穏やかで微笑んでいる表情を眺めながら、その綺麗な瞳の奥に一瞬の寂しさが拭うように見えた。食事の後、祐介が言った。「今晩、君をある場所に連れて行くよ
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第535話

「うん、わかった」里香は軽くうなずくと、エレベーターのそばに立って聡が戻るのを待った。スマホを見つめながら下を向いていたそのとき、エレベーターの扉が開き、驚いた声が響いた。「若奥様?」顔を上げると、そこには桜井がいて、嬉しそうな顔で「若奥様、社長に会いにいらしたんですか?」と聞いてきた。里香は淡々と首を振り、「違うわ」と一言。桜井は少し戸惑ったように鼻をさすり、困ったように笑みを浮かべながらも続けた。「社長、ひどい怪我で同じフロアにいるんですよ。本当に会いに行かないんですか?」里香は彼をまっすぐ見つめ、「私と雅之はもう離婚してるの」と冷たく告げた。「え?」桜井は一瞬驚いたが、すぐに理解したのか気まずそうに「すみません、小松さん」と謝った。里香の表情は少し和らいだが、桜井はその場を離れず、まだ立っている。「まだ何かあるの?」と里香が尋ねると、桜井は少し躊躇しつつ言った。「いえ、小松さん......元ご夫婦ですし、社長は今怪我で辛そうです。せめて一度くらい会ってあげたらと......」里香の眉がわずかに寄り、「私に説教するつもり?」と鋭い目で問い返した。その瞬間、桜井は慌てて手を振り、「いやいや、そんなつもりじゃないです!」と否定し、しょんぼりとその場を去っていった。里香は目線を少し落とし、無表情のまま心の奥に冷たい決意を抱いていた。雅之が怪我をしてようと、自分にはもう何の関係もないのだ。もう彼との縁は切れている。エレベーターが何度か開閉した後、ようやく聡が戻ってきた。「大丈夫?」と里香が心配そうに尋ねると、聡は少し顔色を悪くしながらも、「ちょっと調子悪いだけ。問題ないよ、行こう」と言った。「うん」と、里香も軽く頷き返した。エレベーターに乗り込む前、聡は一瞬遠くを見つめ、かすかにため息をついた。できることはしたけど......病院からの帰り道、何人かが集まって談笑しているところを通りかかった。里香に気づいた小池が、軽蔑の目を向けてきた。「まあまあ、元DKグループ社長夫人様じゃない?」里香は冷静に見返し、「何か用?」とだけ答えた。小池は冷笑しながら、「別に。ただ、あんたが二宮社長に捨てられた姿を見たくてさ。あんた、何様のつもり?二宮社長があんたと結婚したのなんて、所詮遊びだったんだよ。あの
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第536話

小池の顔色がサッと変わった。「どういう意味よ?」里香は冷たく笑って、「まだわからないの?皮肉だよ。あんなことを目撃したって、せいぜいオフィスでちょっと冷やかすくらいでしょ?もしくは、ネットで陰口叩くぐらい?それ以外、何ができるの?」と皮肉った。小池はムッとした顔で立ち上がり、顔を赤くして言い返した。「あんたが怖がるとでも思ってるの?今のあなたには、後ろ盾なんてもうないんだから!」「へぇ、それで?どうするつもり?」里香は相変わらず冷静なままで、「私を殺すつもり?」と少し冷たく言い放った。小池は悔しそうに歯を食いしばり、思わず拳を握り締めた。なんて腹立たしい!この女、前はもっと大人しかったのに、最近じゃ反撃ばかりしてくるじゃない!しかも、なかなか勝てないのがまた悔しい!そんな小池を一瞥し、里香は「他人に嫉妬する時間があるなら、自分の成績でも伸ばしたらどう?人を妬んだところで、あなた自身は何も良くならないわよ。ただ、もっとみっともなくなるだけ」と言い捨てた。「お前......!」小池が飛びかかろうとしたその瞬間、誰かが彼女を止めた。オフィス内の空気がピリッと張り詰め、重たい沈黙が広がった。でも、そんな緊張にも里香は全く動じず、黙々と作業を続けた。押さえつけられながらも、小池は陰険な目つきで里香を睨みつけ、「見てなさいよ、いつか必ず仕返ししてやるから」と心の中で毒づいた。病院にて。桜井は病室で立ち尽くしていたが、ベッドに座っている男性を直視する勇気が出なかった。雅之はノートパソコンを開いたまま、キーボードを打ち、ファイルを処理して、送信ボタンを押したところだった。雅之がノートパソコンをゆっくり閉じて、桜井に視線を向けた。「本当にそう言ってたのか?」桜井は冷や汗をかきながら答えた。「は、はい......その通りです」雅之は無言で眉間を揉みながら、ふと息をついた。確かに、里香なら言いそうなことだ。ここまで近くにいるのに、わざわざ見に来ようともしないなんて......胸の奥に広がる焦燥感を抑えきれず、雅之はスマホを取り出し、月宮に電話をかけた。「もしもし?」少し眠気の混じった声が返ってきた。どうやら寝起きらしい。雅之が冷たい口調で尋ねた。「昨夜の件、ちゃんと終わらせたのか?」月宮は欠伸をしながら、「ああ、二人
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第537話

かおるは少し苛立ちながら髪をかきむしった。その時、再びスマホの着信音が鳴り響いた。上司からの電話だ。かおるは深く息を吸い込んで電話に出た。「もしもし?」「かおる、月宮さんが図面に問題があるって言ってるんだ、それに、お前が彼の電話に出ないって!お前、うちのスタジオ全体をダメにするつもりか?すぐに月宮さんに電話をかけなおせよ......」「辞めます」かおるは淡々と言った。相手は一瞬固まった。「何て言った?辞めるって?冗談だろう?辞めたらどうなるか分かってるのか?」かおるは「うん、分かってるよ、すべての責任は私が負う」と答えた。相手はさらに驚いた。「お前、気でも狂ったのか?これをこなせば、相当な報酬を得られるんだぞ」かおるは口元を軽く歪め、「でも、もしずっと終わらなかったら?月宮はずっと私を困らせてばかりだ。もう疲れた。彼と遊ぶのはもう終わりにするわ」相手は一瞬考えを巡らせたが、一言も返せなかった。かおるは冷静に言った。「じゃあね。さようなら」そう言って、電話を切った。つまらない。もう行こう。冬木を離れる。でも、里香にどうやって話そうか、ちゃんと考えないといけないな。月宮にはもう絡めない。仕事が終わった後、里香がビルから出ると、祐介が真っ赤なフェラーリにもたれかかり煙草を吸っているところを見かけた。彼の髪は淡い青色に染まっており、さらに妖艶で魅力的な雰囲気になっていた。その目立つ容姿とその車は、多くの人の注目を集め、街行く人が何度も振り返るような光景だった。里香は足を止め、急に祐介の元に行くのに躊躇った。だが、祐介はすでに里香を見つけていて、まっすぐにこっちに歩いてきた。「仕事終わった?さ、行こうか!」里香は少し唇を曲げて、「祐介兄ちゃん、いつもこんなに目立つの?」と聞いた。祐介は眉をあげて、「これが目立つ?今度もっと派手なの見せてやるよ」里香は干笑しながら「もう、いいよ…」と言った。そんなことされても、ついて行けないよ!たくさんの視線に晒されながら、車に乗り込むと、祐介から箱を渡された。祐介は車を始動させながら「とりあえず、ちょっと腹ごしらえしとけよ」と言った。里香は不思議そうに箱を見ながら「どこへ行くの?」と尋ねた。祐介はしばらく考え、「結構遠くだ」と答えた。そして、意味深
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第538話

潮が満ち始めていた。遠くにあるコンテナが、まるで暗闇に潜む怪物のようにそびえ立ち、中にいる人を一寸ずつ飲み込んでいくかのようだった。里香は平然とその方向を見つめていたが、暗闇が広がっているため、潮が満ちる様子はよく見えない。彼女の脳裏に、自分がコンテナの中に閉じ込められている情景が浮かぶ。手足は縛られ、全身が絶望と無力感に包まれている。死がじりじりと近づいてくるのを見ながら、何もできない自分。夏実、あなたも今、こんな気持ちなの?里香はそっと目を伏せ、それ以上見るのをやめた。その時、目の前にスマホが差し出された。「ん?」里香は不思議そうに祐介を見た。祐介の陰のある美しい顔に薄い笑みが浮かぶ。「あのコンテナの上に監視カメラを仕掛けたんだ。夏実が絶望する様子、全部見られるよ」彼は里香の目をじっと見つめた。「見たい?」里香は驚いた。まさか彼がこんなことまでするとは。祐介は言った。「驚くことはないさ。自分を傷つけた人間が罰を受けるところを直に見なければ、その罰に意味なんてあるのかなって思ってさ」彼の視線が一瞬だけ緩んだかと思うと、すぐにその表情はまた平静さを取り戻した。里香の視線はスマホに移る。指を一度タップするだけで、夏実が絶望に打ちひしがれる姿が見られる。こんなものが見たいのか?心の中で自問する。里香はふと目を閉じた。彼女は夏実じゃない。そんな冷酷なことはできない。祐介は彼女の様子を見ると、少しだけため息をつき、「里香、あまりに心が優しすぎると、自分が苦しむことになるんだよ」と言った。里香は小さな声で答えた。「でも、もし私がそんなことをしたら、夏実と何が違うっていうの?」祐介は逆に問い返した。「同じで、何が悪い?」「え?」里香は不思議そうに彼を見つめた。祐介は肩をすくめ、「人は自分のために生きるもんだろ?夏実はそれが上手なんだよ。彼女は自分の利益のためなら、どんな手段だって使う。だから彼女はうまく生きてるんだ」祐介は里香を見つめた。「お前だって、うまく生きたいなら、彼女みたいに手段を選ばなくてもいい」「違う、そうじゃない」里香は首を振った。「私の幸せは、他人の苦しみの上に成り立つものじゃない」私は夏実じゃない。私は里香。ただの里香でいたい。祐介は里香をじっと見つ
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第539話

東雲の目がパッと輝いて、コンテナに向かって駆け寄り、声を張り上げた。「夏実さん、いるんですか!?夏実さん!」ゴンゴン!コンテナの中から再び音が響き、まるで返事のようだった。東雲は喜びで胸がいっぱいになりながら、急いでコンテナの錠を確認し始めた。ここにあるのはみんな廃棄されたコンテナで、錠前も特別なものじゃなさそうだったから、近くに転がっていた石で十数回叩くと、錠前がガチャンと壊れた。コンテナの扉を開けると、手足を縛られたままの夏実が横たわっていて、コンテナ内には海水が侵入し、彼女の耳の辺りまで達していた。夏実は東雲の顔を見た途端、涙を浮かべてむせび泣き始めた。東雲は夏実に近づいて、彼女を抱き起こし、体に巻かれたロープを解きながら口に貼られたテープも剥がしてやった。「はぁ......」夏実は息をつく間もなく、涙に濡れた顔で叫ぶように言った。「里香よ!絶対にあの女が私を狙ってるのよ。誰か使って、私をここに閉じ込めたんだから!」東雲は一瞬固まりつつも、「でも、俺はずっと小松さんのそばにいたけど、そんなことする素振りはなかったけどな」と言った。夏実は彼の腕を掴んで懇願するように言った。「東雲さん、私、雅之を救ったのに......里香は私を殺そうとしてるのよ!お願い、私のためにあの女に復讐して!」東雲はどこかおかしいと感じたが、ここで話している場合じゃないと判断して、夏実を立たせて言った。「夏実さん、まずはここを出ましょう」夏実もハッと我に返り、頷いた。「そうね、出ましょう、こんな地獄みたいな場所から!」目を覚ましたとき、コンテナに閉じ込められていたなんて気が遠くなるような恐怖だった。しかも、まるで里香にされたことと同じことを今度は自分が経験しているなんて!以前、自分は人を使って里香に同じようなことをさせた。その仕返しで里香が動いたに違いない。あの女、ほんとに許せない!道に出て車に乗り込むと、夏実は少し落ち着いたように見えたが、それでも執拗に言い続けた。「絶対に里香よ。あの女が私を殺そうとしてるの。東雲さん、お願い、助けて!」東雲は少し戸惑いながら聞いた。「小松さんが君に復讐する理由って、何かあるの?」「それは......」夏実は反射的に答えかけたが、何かを思い出したように東雲をじっと見つめ、涙をこぼしな
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第540話

東雲は少し慌てた様子で、「夏実さん、泣かないでください。誰もあなたを死なせるなんてことはないですから、お願いですから泣かないでください......」と言った。夏実は涙でぼんやりと彼を見つめ、「でも、あなたが助けに来てくれなかったらどうするの?来てくれなかったら私は本当に死んでいたわ!」と言った。東雲は「え......それは......」と困った顔をした。夏実は彼の腕をぎゅっと掴んで、「お願い、私を助けてくれない?本当に死にたくないの......」と哀願した。東雲はしばらく沈黙してから、「夏実さん、あなたは何をしたいんですか?」と重々しく話した。夏実の目に一瞬だけ得意げな表情が浮かび、すぐに「私を守ってくれない?」と訴えた。東雲は眉をひそめ、「できません。私は雅之さんの命令だけを聞きますから」と断った。夏実はがっかりしてうなだれ、「でも、東雲さんが私を守らなかったら私は死んじゃうのよ。里香は必ず私を殺すわ。だって私は雅之を奪ったのだから......」とつぶやいた。東雲は眉をさらにしかめながら、何かがおかしいと感じたが、しばらくの沈黙の後、「その何というか......考えさせてください。それに、夏実さん、ここは危険だから、まずは家にお送りします」と進言した。夏実はコクリとうなずき、「うん」と答えた。車は去っていった。夜の闇に包まれた小道にて、祐介は指をハンドルの上に置き、興味深そうに里香を見ながら、「全部見たか?」と尋ねた。里香は少しぼんやりとした表情で、「ええ......」と答えた。祐介は「雅之はずっとお前を尾行させていた。お前が絶対に夏実さんを放っておかないことを知っていたんだよ。だから今夜、タイミングよく夏実さんを助けようとしたんだ」と言った。祐介はずっと里香の顔をじっと見て、「彼の心の中では、夏実が最も大切な存在なんだ」と付け加えた。里香のまつげが軽く震えたが、すぐに「そう、でもそれはもう私には関係ないわ」と静かに言った。雅之とすでに離婚している。彼が何をしようと、自分には無関係だ。しかし祐介は里香を見つめたまま、「本当に?この真実を知って、本当は心が痛くて、辛いんじゃないか?」と問いかけた。里香は唇を少し噛み、彼を見返して「祐介兄ちゃん、あなたは最初から東雲が私を尾行しているのを知ってたの
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