まったく滑稽な話だ。自分で考えた計画も、相手を罰しようとした手段も、結局は綿を殴ってるみたいな虚しさしか残らない。柔らかくて、何の手応えもない感じ。そう、怒りすら湧いてこないのよ。だって、相手は雅之だもの。彼に逆らうなんて、自分には無理なんだ。彼がその気になれば、自分の進む道を全部塞いでしまうことだってできる。啓がそうだったように、今の夏実だって同じ。自分は一体、どれほど手強い相手と絡んでしまったんだろう?里香はぼんやりと遠くの闇を見つめた。それはまるで底なしの深淵みたいで、ゆっくりと自分を飲み込もうとしているみたいだった。そんな彼女の手を祐介がそっと握り、「里香、大丈夫か?」と優しく声をかけた。「私......大丈夫よ」そう答えながらも、唇はかすかに震えていた。自分は平気。大丈夫。たまたまうまくいかなかっただけ。大したことじゃない。でも、気づいたら涙が頬を伝っていて、その冷たさがじんわりと肌に染みた。指で涙を拭うと、そこには光る水滴が残ってる。何で泣いてるの?泣くことなんてないはずなのに!とっくに分かってたじゃない!雅之の考えなんて、理解できるわけないのに、どうして戦おうなんて思ったんだろう?ふっと、自嘲気味に笑ってみせたけれど、涙は止まらなくて、最後には一筋の線を作って流れていった。祐介はそんな里香を見て心が痛んだのか、そっとティッシュを取り出して涙を拭いてくれた。里香は鼻をすすりながら、「祐介兄ちゃん、大丈夫だから。今日はもう帰ろう」とつぶやいた。祐介は「分かった」と言ったが、その声は少し掠れていた。里香がこんなに苦しんでいる姿を見るのは辛かった。でも、こうでもしなければ、彼女は雅之への未練を断ち切れないだろう。たとえ離婚しても、どれだけ心が離れていても、里香の心のどこかには雅之の居場所が残っている。それは祐介の望む結果じゃない。だから、ごめんよ、里香。こんなに苦しませて、こんなに悲しませて。でも、その代わり、倍にして君を大切にするから......カエデビルに到着すると、里香は車を降りて、祐介に軽く微笑んで言った。「今日はここで帰るね。なんか今日、私調子悪いみたい。今度、改めてご飯おごるよ」祐介も車を降り、少し眉をひそめて里香を見つめた。「ご飯なんていらない。君が元気でいてくれれば
最終更新日 : 2024-11-29 続きを読む