海人が持つ権力は、吉木がどれだけ努力しても手に入れることができないものだった。その差を突きつけられるたび、まるで見えない力で頬を打たれるような屈辱を感じた。だが、それでも――彼は来依を助けたいと思った。「お前は来依のことを何も分かっていない。なぜ来依が、お前のように金も権力もある男ではなく、何も持たず、しかも一度は彼女を利用した俺を選んだのか……お前には理解できないだろう?」海人は眉をひそめたが、恋敵の前で動揺を見せたくはなかった。「いずれにせよ、来依は俺の正妻になる」吉木は静かに言い返した。「彼女は幸せにならない」「お前は来依じゃない。彼女は幸せになる」「お前も来依じゃない。どうして幸せになるって言い切れる?」海人はこんな幼稚な議論を続ける気はなかった。「祖母がもう長くないからといって、脅されるものが何もないと勘違いするなよ。俺なら、大人しく身の程を弁えて生きるけどな」「黙りなさい!」来依が海人の背後から姿を現した。「仏様の前でそんなことを口にするなんて!」彼女が今日ここに来たのは、吉木の祖母のために祈るためだった。せめて残された時間を、苦しみなく穏やかに過ごせるように。しかし、「もう長くない」などという言葉を、仏の御前で口にするわけにはいかない。「海人、今日はお参りに来たの。どんなことも、一旦置いておいて」「……いいだろう」海人が頷いたことで、来依はほっと息をついた。だが、その直後、彼はこう続けた。「参拝が終わったら、大阪に戻って婚姻届を出すぞ」来依はうんざりしながら、どうせ結婚できるわけがないのだからと、投げやりに答えた。「……いいわよ」「姉さん……」吉木は不安げに来依を見た。しかし、彼女は静かに微笑み、安心させるような視線を送る。吉木は昨夜、南に言われた言葉を思い出した。それ以上、何も言わなかった。一行は心を込めて参拝し、それぞれの願いを祈った。平穏を願い、寺を後にする際、全員の手首にはお守りのペンダントがかかっていた。来依は二つ持っていた。海人は、吉木が手に入れたお守りを来依が身につけていることに不快感を覚えた。だが、すぐに婚姻届を出すのだからと考え、表情を険しくしただけで何も言わなかった。下山途中、トイレの前で南が来依を引っ
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