海人は答えなかった。無言のまま、新しいタバコに火をつけようとする。雪菜が手を伸ばしたが、彼は軽く身をかわした。「本当に品がないわね。だから振られるのよ」海人の目がわずかに冷えた。何も言わず、ソファに腰を下ろし、白い煙を吐き出す。雪菜は腹立たしさを覚えたが、ふと彼の姿を見て、思わず目を止めた。ソファにゆったりと座り、長い脚を無造作に組む。その仕草には、どこか虚無感が漂っていた。整った顔立ちと、冷めた雰囲気、そのすべてが、不思議なほど人を惹きつける。――どんなに受け入れがたい部分があっても、好きになってしまえば、ある程度は許せるものよね。彼女はタバコを取り上げるのをやめた。海人のことが好きが、受動喫煙は嫌だったので、少し距離を置き、ベッドの端に立った。「私と結婚して」海人は鼻で笑っただけだった。それでも雪菜は気にせず、続けた。「あなたも、伯母さんに次から次へと見合いを強要されるのはうんざりでしょう?ずっとこの部屋に閉じ込められるのも嫌じゃない?あなたの恋愛には干渉しない。だから、私と結婚すればいいのよ。そうすれば、あなたは自由になれる。あの女を探したいなら、私がカモフラージュしてあげる。それに、西園寺家なら菊池家に釣り合う。利害の一致、リソースの共有もできる。あなたにとって、悪くない取引じゃない?」海人は、何も言わずに彼女を見つめた。雪菜は、海人が幼い頃からずっとこの旧宅で育ってきたことを知っていた。留学前もよくここで会ってた。昔から冷めた性格で、何に対しても執着を見せなかった。当然だろう。彼のような立場にいる人間が、好きなものを公にすれば、それは敵にとって最も弱い部分になる。だからこそ、彼は常に理性的で、感情を表に出さない。それでも――彼の家柄、容姿、そして生まれ持った威圧感、それらすべてが、女たちを引き寄せてきた。雪菜も、今回の見合いの前に、彼と来依のことを調べていた。そして、衝撃を受けた。――彼のような冷淡で理性的な男が、まさか恋に狂うなんて。しかし、それを見たとき、彼女の中に一つの感情が生まれた。――征服欲。それは、男も女も持つもの。もし、こんな男が自分に夢中になり、来依ではなく、自分に狂うようになったら?もし、彼が自分の足元に跪くよう
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