長年にわたり、彼女と佐和との関係は、お互いのために何でも捧げられるような仲間だったが、それは激しい愛情ではなかった。彼は家族のような存在で、いつもそばにいて支え合ってきた。桃は、この穏やかで安定した関係こそが自分の求めているものだと思っていた。だが、今は……頭の中に雅彦の姿が一瞬浮かび、桃は思わず強く首を振った。自分の行動が理解できなかった。雅彦という危険な男だと分かっていながら、その危険に心が奪われるような感覚を覚えるのだ。当初、雅彦に対しては憎しみしかなかった。初めて再会した時は、殺してやりたいほどの怒りすら感じていた。だが、いつからだろうか。彼が心血を注いで翔吾を自分の元に連れ戻してくれた時だろうか。それとも、全身血まみれになりながら自分を守ってくれた時だろうか。その揺るぎない憎しみが、少しずつ薄れていったのは。雅彦に対する自分の感情が何なのか、桃には今でもはっきりと言い切れなかった。そんなことを考えながら、外の景色を眺めている時、携帯電話がまた鳴った。画面を見ると、翔吾からの電話だった。桃は安堵し、通話ボタンを押した。「もしもし、翔吾?」翔吾は桃の声を聞くと、小さな顔に笑顔を浮かべた。「ママ、元気?俺と会えなくて、寂しかった?」「寂しいに決まってるでしょう、翔吾。美乃梨おばさんと一緒にいるの、慣れた?」「うん、大丈夫だよ。清墨おじさんがちゃんと手配してくれたから、何にも困ってないよ。心配しないで」翔吾を心配させないため、清墨は美乃梨に問題があって誰かが家に来るかもしれないから安全のためだと説明していた。翔吾は理解の早い子供で、説明を聞くとすぐに納得し、桃に迷惑をかけないためしばらく会わないようにと自ら提案してくれた。それで桃は、傷が癒えるまで会わない言い訳を考える必要がなくなった。母と子はしばらく話を続けた。そのうち、美乃梨が現れ、翔吾が手を振って声をかけた。「おばさんもママと少し話してよ」美乃梨は電話を受け取り、「桃、そっちの状況はどう?」と尋ねた。桃は雅彦とのことを簡単に説明した。二人の傷が順調に回復していたと知り、美乃梨も安心した様子だった。少し雑談をした後、桃はさっきまで考えていたことを美乃梨に打ち明けた。彼女は局外者であり、桃の事情をよく知る人物でもあるため、何か違
Last Updated : 2024-12-21 Read more