涼音の提案に対し、優子は迷うことなく即答した。「おじいさん、もし私に裕也への興味が少しでもあったなら、そもそも逃げたりはしていません。私は再婚するつもりはありません」「そうか……」涼音の目にはわずかに落胆の色が浮かんだが、すぐにそれを消した。無理に強いることはせず、穏やかに頷いた。「まあ、それもよかろう。君が毎日楽しく過ごせるなら、それが一番だ。明晩の宴、忘れずに出席するのだぞ。用意したドレスは気に入ったか?」「ええ、とても素敵です。でも、おじいさん、お願いがあります。子供たちは宴に出席させたくありません」「それもよかろう。まだ幼いのだから、大切に守るべきだ」「おじいさん……明晩、あの人が動く可能性があります。私への憎しみは深く、きっとこの機会を逃すことはしないでしょう」涼音は筆を力強く置いた。「優子、心配するな。奴が来るなら、むしろ好都合だ。必ず、帰る場所のないようにしてやる。お前の叔父に、すでに厳戒態勢を敷くよう指示している」優子は小さくため息をついた。「あの人は、おそらく私の生家と何らかの関係があると思います。おじいさん、本当に私の祖母の行方を知らないのですか?」もし祖母を見つけることができれば、すべてが明らかになるかもしれない。もしかすると、恨んでいるのは祖母や父の世代の誰かかもしれない。「君の祖母が姿を消したあの日、俺はあらゆる手を尽くして彼女を探した。しかし、ようやく見つけた時、大津波が襲い……再び、美波とは引き裂かれた」今でもその記憶が蘇るたびに、涼音の顔には苦痛が滲んだ。まるで、タイタニックのヒロインが、愛する人が凍りつき、海に沈んでいくのを目の前で見るかのようだった。人間は、自然の前ではあまりに無力だった。愛する者が波に飲み込まれていくのを、ただ見ていることしかできなかった。涼音は、波にさらわれ、遠く離れた県に流れ着いた。その後、あらゆる場所を探したが、美波を見つけることはできなかった。当時はまだ通信手段が手紙しかなかった時代だった。携帯電話もなく、一度人を見失えば、二度と会えない可能性のほうが高かった。「俺が悪かった……俺が、すべてを誤った。美波を裏切る結果になった」美波の生死が分からぬまま、涼音はついに彼女を探すことを諦めた。そして、愛子と出会い
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