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第 0368 話

「もう競らないのか?」雅彦が尋ねた。

「もうやめた」

8億が彼女の限界だった。もしルイスがすぐに8億と叫べば、ここにいる意味はない。

「雅彦、私たちは少し帰るのが遅くなりそうだ」綿はため息をつき、重々しく言った。

二人は輝明とすれ違った。

輝明はゆっくりと振り返り、綿の背中を見つめた。

綿は雅彦にスーツの上着を渡し、あの蝶のタトゥーが輝明の視線を引きつけた。

彼女は面具を外し、近くにいた給仕のトレーに無造作に投げ入れ、ハイヒールを脱いで、とても苛立った様子だった。

輝明は眉をひそめた。心の中で「お嬢様気質だな」と感心した。

給仕が彼の横を通り過ぎると、輝明は「その面具を」と声をかけた。

「これは先ほどの女性が不要だと言ったものです」給仕が答えた。

輝明は手を差し出して受け取り、代わりに一枚の札を渡した。

給仕は嬉しそうに去って行った。

輝明は手に持った小さなキツネの面具を見て、微笑んだ。

「世界中どこにこんな偶然があるんだろうか。出張で仕事に来たのに、綿に会えるなんて」

「輝明社長」意森が大股で近づいてきた。

輝明は彼を見て、「うん?」

意森は言った。「綿さまは確かに柏花草を手に入れようとしているようです。今日は彼女の隣にいた男が、今日の出品物を尋ねに来て、特に柏花草について質問していました」

輝明は「うん」とだけ答え、「分かった」

意森は輝明を見て尋ねた。「それでは、この柏花草は……」

輝明の目は深くて測り知れない。「持ち帰れ」

「はい」意森は輝明の意図を理解した。

輝明はもう会場には行かなかった。なぜならルイスも去ったのを見たからだ。

輝明は目を細めた。まさか綿が本当にルイスとの約束を果たしに行くつもりではないだろうか?

綿は会場から出てきた。

このルームキーは隣のホテルのものだった。

雅彦が車を持ってきた。

綿はスーツケースを引き出し、後部座席に置いた。

雅彦は車を走らせ、綿はスーツケースを開けた。

雅彦は後ろを振り返り、綿が針を取り出しているのを見た。

「おいおい……」

このルイス、どうやら良い結末は迎えられなさそうだ。

「ボス、加減して」雅彦は綿に注意を促した。「ここはM国だからね」

「M国だろうと関係ないわ。私を侮辱するなんて、この男、来世でも立たないようにしてやる!」綿は怒りを込めて言
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