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第 0373 話

輝明が譲ってくれるなら、私は感謝するであろう、と綿は微笑を浮かべながら誠実に述べた。

しかし、もし輝明が譲る気がないなら、彼女はそれ以上しつこくはしないつもりであった。

たかがネックレス一つのことに過ぎないのだから。

輝明は眉をひそめ、水を一口飲み込みながら冷静に問うた。

「綿、何で交換するつもりだ?」

「交換?お金で買うわ」綿は両手を広げ、「あなたが落札した金額の倍額でどう?」

雅彦は二人を眺めながら内心でドキリとした。この二人、もし夫婦ではないとしても、まさに強者同士の結束だ。輝明は元々強引な人であり、綿は今やそれ以上に強引で、他人を顧みない狂気が漂っていた。

「金の話は下品だな」と彼はため息をつく。

綿は面倒そうに応じた。「輝明、その日に知らせてくれればそれでいいの。今日はもう遅いから、これで失礼するわ。さようなら」

立ち上がろうとする綿に、輝明は舌打ちをした。「綿、俺は一応お前を助けたんだぜ。腕にはまだ傷がある」

綿は動きを止め、彼に視線を向けた。その美しい杏の瞳が瞬きをする。

まるで自分が助けなかったかのように話しているが、何を存在感を示そうとしているのか?

それに、その腕の傷だって、自分が負わせたわけではない。

綿は冷静な表情で輝明を見つめ、「私は言ったはずよ、助けは要らないって。それでも助けたのはあなたの勝手でしょ」と淡々と答えた。

「だから、あなたが自発的にやったことに対して、私は感謝なんてしない」

綿はにっこりと笑い、軽く頷くとそのまま背を向けて出て行った。その言葉はあまりにも爽快で、まるで無形の刃のように輝明の心臓に突き刺さる。

かなり手厳しい言い方だった。

――「あなたが自発的にやったことに対して、私は感謝なんてしない」

バタン――個室の扉が激しく閉じられた。

輝明は手に握っていたグラスをぎゅっと握りしめ、しばらくしてから苦笑を浮かべた。

「輝明社長……」森下が入ってきて、静かに声をかけた。

輝明は疲れた表情で目を上げ、「言え」と言った。

「私たちとルイスとの協力関係は既に終わりました」と森下は頭を下げ、恭しく報告した。

輝明は頷き、「そうか」と返した。

「さっき落札した品は、一緒に国内に持ち帰ります」

輝明は立ち上がり、外に向かった。

森下は問いかけた。「輝明社長、もう少し召し上がりません
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