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第286話

彼女は義足を抱きしめ、顔には深い悲しみが浮かんでいたが、必死に強がろうとしていた。しかし、その今にも崩れそうな姿は、見ているだけで胸が痛くなった。

里香は言った。「送っていくよ。何階に住んでるの?」

「いいの、大丈夫」

夏実は即座に拒否し、代わりに雅之を見つめた。「雅之、さよなら」

そう言うと、夏実は片足でぴょんぴょんとエレベーターの方へ向かっていった。その姿は、頼りなく、そして痛々しいほどに弱々しかった。

雅之は突然歩み寄り、夏実の腕を支えた。「僕が手伝うよ」

夏実の目は急に赤くなり、涙が溢れそうになった。「いいのよ。自分でできるから......」

雅之は何も言わず、彼女を支えながらエレベーターへと向かった。

夏実は彼をじっと見つめ、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。その瞳には、彼を溶かしてしまいそうなほどの強い想いが込められていた。

里香は玄関に立ち尽くし、その光景をじっと見つめていた。

どう言えばいいんだろう?

夏実が足を失ったのは、雅之を庇うためだった。だから、雅之が夏実に責任を感じるのは当然だ。

その理屈は分かる。でも、どうしても気分が悪い。特に、夏実が義足を抱えて泣いている姿を見ると、さらに気分が悪くなる。

なんだか、夏実が何か企んでいる気がしてならない。

里香は目を伏せ、自分が少し意地悪なんじゃないかと思った。だって、夏実は足を失ってしまったんだ。それなのに、私はこんなことを考えて......

里香は深呼吸をして、気持ちを落ち着けると、そのまま部屋に戻った。

もういいや。こんな夜遅くに、早く休まないと。

うん......

雅之はあっちに行ったから、今夜はもう戻ってこないだろうな?そう思いながら、里香はドアを閉めた。

その頃、下の階では――

雅之は夏実を部屋に連れて行き、夏実をソファに座らせ、彼女の手から義足を取って装着しようとした。

夏実は再び拒絶した。「もういい。自分でできるから」

雅之は淡々と言った。「僕に罪悪感を抱かせたいなら、ちゃんと傷口を見せるべきだろう」

夏実の動きは一瞬で止まった。彼女は信じられないという表情で雅之を見つめた。「な、何を言ってるの?」

雅之は夏実を見上げ、「それが君の狙いじゃないのか?」と冷たく言った。

夏実は思わず手を振り上げ、彼を打とうとしたが、その手は空中で止まったまま動か
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