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第42話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第43話
藤堂沢は彼女をじっと見つめていた。しばらくして、彼は静かに笑って、「女同士は、そういうことにこだわるのか？」と尋ねた。そして彼は少し低い声で、優しく言った。「薫、お前はいつ、そんなことを覚えたんだ？藤堂家の奥様だった頃に？」彼の言葉は、どこか挑発的だった。夫婦間で交わされる、甘い会話のようだった。しかし九条薫はそんな気分ではなく、窓の外を見ながら、「色々な場所で覚えたわ」と冷淡に答えた。藤堂沢はさらに何か言おうとしたが。信号が青に変わり、後続車がクラクションを鳴らし始めた......藤堂沢は仕方なくアクセルを踏み、車を走らせた。......B市で最も高級なヘアサロン。藤堂沢は九条薫を連れてきた。彼は特別な客だったので、店長が自ら対応した。店長は愛想良く、「奥様はお肌が白くてお綺麗ですし、スタイルも抜群なので、当店に新しく入荷したマルケッサのオートクチュールドレスが、きっとお似合いになると思います」と勧めた。そう言って、彼は店員にドレスを持ってくるように指示した。ドレスは本当に美しかった。藤堂沢は九条薫を見て、優しく「試着してみろ」と言った。しばらくして、フィッティングルームの中で。九条薫はドレスを着たが、背中のファスナーが届かなかった。何度か試してみたが、どうしても閉まらないので、彼女は小声で誰かを呼んだ......しばらくすると、ドアの外から足音が聞こえてきた。ドアが開くと、そこには藤堂沢が立っていた。二人の目が合った。その瞬間、お互いに少し戸惑った。フィッティングルームは明るく、鏡に囲まれていた。九条薫のドレス姿が、鏡に映っていた......柔らかなドレスは彼女の体にフィットし、スカート部分は幾重にも重なっていたが、重たく見えることはなく、軽やかな印象だった。背中のファスナーは開いたままで。胸元が大きく開いていた。彼女はブラジャーではなく、ヌーブラをつけていた。九条薫は、何も言わずにそこに立っていた......藤堂沢は後ろ手でドアに鍵をかけ、静かに彼女に近づくと、彼女の目の前で立ち止まり、低い声で「ファスナーが届かないのか？」と尋ねた。そう言うと、彼は彼女に触れた。九条薫は後ろから抱きしめられ、彼の胸に体を預けた。藤堂沢は背が高く、188センチくらいあった
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第44話
二人の体はぴったりと密着し、擦れ合っていた。九条薫が全く何も感じていないと言えば、嘘になる。しかし、彼女は藤堂沢に触れられることを拒否したかったので、「7時からパーティーが始まるわ。あなた、あのプロジェクトをそんなに重要視しているのなら、遅刻したくないでしょ？」と言った。藤堂沢は彼女の言葉を聞いて、少しだけ彼女から離れた。彼は鏡に映る彼女を見ながら、軽く鼻で笑って、「薫、お前は本当に興ざめだな」と言った。とにかく、危機は回避できた。車に戻る途中、二人は何も話さなかった。午後7時、藤堂沢の黒いベントレーがゆっくりと伊藤家の別荘に入った......彼が車から降りて九条薫のためにドアを開けると、九条薫が車から降りようとした時、彼女の手は藤堂沢に握られていた。彼女は思わず彼を見上げた。夜風の中、明るい照明の下、二人は見つめ合った。藤堂沢は彼女の手を握りしめ、彼女を自分の体に引き寄せ、耳元で囁いた。「今夜は俺のそばを離れるな。他の男に媚びを売るんじゃないぞ......分かったな？」彼の言葉は、独占欲に満ちていた。九条薫は藤堂沢の肩にもたれかかりながら、黒木智の姿を見つけた。黒木智は別荘の入り口に立ち、ワイングラスを片手に、暗い目で彼女を見つめていた。九条薫は彼を刺激したくなかったので、唇を震わせながら、藤堂沢に軽く抱きついた。黒木智は険しい表情で、その場を立ち去った。藤堂沢も馬鹿ではなかった。彼は九条薫の顎を軽く掴み、低い声で言った。「俺を利用するようになったのか？」九条薫は顔をそむけて、「沢、今夜の目的を忘れないで」と言った。藤堂沢は意味ありげな目で彼女を見て、「忘れるものか......」と言って、彼女の手を取った。まるで仲睦まじい夫婦のようにしていた。九条薫は彼に合わせた。彼らはパーティーでダンスを踊り、拍手を浴びた。伊藤夫人は九条薫を他の夫人たちに紹介した。「藤堂グループの奥様で、素晴らしいバイオリニストなのよ」九条薫を持ち上げるために。伊藤夫人は、「佐伯先生が帰ってくるそうよ。佐伯先生のお気に入りの弟子がいるのは有名な話だけど......実はね、その弟子が誰だか知ってる？他でもない、この九条さんなのよ！」と、根も葉もない噂を広めた。九条薫は驚いた。このことは、彼女と佐藤清と
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第45話
伊藤社長は、妻がプロジェクトの話をしていると理解した。彼は他の会合があるので、先にパーティーを後にした......藤堂沢は伊藤夫人に礼を言った。伊藤夫人は夫の後ろ姿を見ながら、目を潤ませていた。彼女は藤堂沢の方を向いて言った。「沢、あなたは知らないでしょうけど、昔、主人は浮気をしていて、私と離婚しようとしていたの。あの頃は、上流階級の誰もが私を軽蔑していた。あるパーティーで、薫に会ったんだ。彼女は当時15、6歳だったが、とても人懐っこくて......時也と一緒に来ていて、綺麗なドレスを着て、誰もいないところで私にバレエを踊ってくれたの。あの時、私は本当に久しぶりに笑ったよ。生きる気力を失っていた私に、彼女は光を与えてくれたんだ」伊藤夫人はそう言って、静かに笑った。「恥ずかしい話ね......」彼女は立ち去り際に、寂しげながらも毅然とした態度だった。今では伊藤夫人としての地位は揺るぎないものとなり、夫からも尊敬されている......しかし、自分みたいな人間は、いつ何時、奈落の底に突き落とされるか分からないのだと、彼女自身は分かっていた。彼女は九条薫が辛い思いをしていることを知っていたので、彼女を助けようとしたのだ。藤堂沢はまだ同じ場所に立っていた。伊藤夫人の協力があれば、このプロジェクトはほぼ確実に成功するだろう。しかし今、彼の頭の中には、数千億円規模のプロジェクトのことではなく。九条薫のことがあった。九条薫は、今の生活が辛い、藤堂家の奥様でいたくないと言っていた。それは、伊藤夫人と同じ気持ちなのだろうか？夫に失望し、そして愛想を尽かし......違うのは、伊藤家にとって伊藤夫人であることは一生の仕事だが、九条薫は藤堂沢さえもいらないと言っていることだ。......九条薫が化粧室から出てきたのは、9時半近かった。もうそろそろ帰ろうと思っていた。考え事をしていた彼女は、ドアのところで人とぶつかりそうになった......よく見ると、相手は黒木智だった。二人は、黒木智が彼女の香水の匂いを感じられるほど近くにいた。柑橘系の爽やかな香りだった。九条薫は彼のそばを通り過ぎようとしたが、黒木智に腕を掴まれた。温かい指が、彼女の細い腰に触れた。九条薫は顔を上げた。彼女の目には、驚きと戸惑いが浮かんでい
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第46話
九条薫は化粧室から出てきた。顔色が悪かった。藤堂沢はワイングラスを置いて、彼女を見下ろしながら言った。「どうした？具合が悪いのか？伊藤社長に言って、先に帰ろう」九条薫は拒否しなかった。藤堂沢は伊藤社長と伊藤夫人にメッセージを送ると、九条薫を連れてパーティー会場を後にした。車に乗り込むと。彼は九条薫の方を向き、今までにない優しい表情で言った。「今回のプロジェクトは、ほぼ確実に成功するだろう。薫、感謝するよ。お前がこんなに有能だとは知らなかった」九条薫は革張りのシートにもたれかかっていた。一日中忙しかった彼女は、疲れ切っていた。しばらくして、彼女は彼の方を向き、優しく言った。「以前から、私はこうだったわ。ただ、あなたに気づかれなかっただけ」結婚して3年間、彼が彼女と会ったのは、ほとんどがベッドの上だった。それ以外の時間は、仕事で会社にいたり、H市へ白川篠に会いに行ったり......九条薫の愛情は、そんな彼の態度で冷めてしまっていた。今更優しくされても、彼女の心は動かなかった。物静かな彼女の姿は、とても魅力的だった。藤堂沢は思わず彼女にキスをしようとした。九条薫は彼の唇に手を当て、彼を見上げて優しく言った。「沢、4000万円には、セックスのサービスは含まれていないわ。あなたはいつも、公私混同しない人でしょう？」藤堂沢の心は揺らいだ。彼は彼女の手のひらにキスをし、かすれた声で言った。「以前は、お前の方からセックスをせがんでいたくせに。コンドームを取りに行く時でさえ、子猫のように俺の首に抱きついて、離そうとしなかった......忘れたのか？」九条薫の白い頬は、ほんのりピンク色に染まった。彼女は顔をそむけて、「もう、やめて！」と言った。......藤堂沢はそれ以上何も言わず、アクセルを踏んで車を走らせた。彼女の家までは、1時間ほどかかる。九条薫は疲れ切っていたので。30分後、彼女はシートにもたれかかり、眠ってしまった。目を覚ますと、車は彼女のアパートの前に停まっていた。彼女は少しぼんやりとした様子で、「もう着いたの？送ってくれてありがとう。ドレスはクリーニングして、後で返すわ」と言った。九条薫はそう言うと、降りようとした。しかし次の瞬間、藤堂沢は彼女の細い腰を抱きしめ、彼女を自分
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第47話
藤堂沢は優しい眼差しで、少し掠れた声で言った。「そのドレス、似合っているな」結婚して3年間で、これが一番穏やかな時間だったかもしれない。九条薫は感慨深げだったが、最後に小さく「ありがとう」とだけ言った。二人は並んで階段を上っていった。古びた建物に、藤堂沢は眉をひそめた。幸い、廊下の照明は直っていた。後ろで、一台の銀色の車が夜の闇に停まっていた。田中友里は車の中で、二人が姿を消した方角をじっと見つめていた。彼女が着ているのは、本来ならパーティーで着るはずだった白いドレス......美しく、そして華やかだった。彼女は伊藤家の別荘から、二人を尾行してきたのだ。彼女は藤堂沢が九条薫を連れて出てくるのを見ていた。藤堂沢があんなに優しい表情をするのを見たのは初めてだったし、あんなに独占欲むき出しの行動を取るのも初めてだった。彼は、九条薫の細い腰にずっと手を回していた。彼女はずっと、藤堂沢は九条薫のことを気にしていないと思っていた。愛のない結婚生活で3年間も苦しんできた九条薫は、きっとボロボロになっていると思っていた。しかし、パーティー会場での九条薫は、皆の注目の的だった。バイオリンを弾く彼女の姿は、息を呑むほど美しかった。だから、藤堂沢は車の中で、彼女にキスをしたのだろう。田中秘書はハンドルを握りしめ、落胆していた。彼女はこの現実を受け入れることができなかった！彼女は携帯電話を取り出し、藤堂沢と九条薫がダンスをしている写真を一枚選び、偽アカウントから白川篠に送った......白川篠がこんな親密な写真を見たら、黙ってはいられないだろう。田中友里は小さく笑った。自分には手に入らないのなら、九条薫にも手に入れさせない。......九条薫のアパートは狭かった。藤堂沢は身長が188センチ近くあったので、頭を下げながら部屋に入った。彼は窮屈そうに一人掛けソファに座った。九条薫は落ち着いていて、寝室へ行きドレスを脱ぎ、普段着に着替えた。そして彼女はキッチンでラーメンを作り始めた。藤堂沢はコートを脱ぎ、ソファにもたれかかりながらタバコを吸い、九条薫の後ろ姿をじっと見つめていた。以前、九条薫は仕事から帰ってきた彼のために、よくこうしてラーメンを作ってくれていた。しかし、彼はこんな風に彼女を見たことがな
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第48話
藤堂沢はそう考え、そして行動に移した。彼は狭いキッチンに入り、後ろから九条薫を抱き寄せた。顎を彼女の肩に乗せ、顔を傾けて、彼女の耳たぶに優しくキスをした。突然のことに、九条薫は抵抗できなかった。彼女は足が震えるのを感じた。彼女は洗いかけの食器を見ながら、低い声で言った。「沢、ラーメンを食べに来たんじゃないの？一体、何するつもりなの？」藤堂沢は腕に力を込め、彼女の耳元で囁いた。「薫、俺と一緒に帰ろう」九条薫の体は硬直した。藤堂沢が命令口調ではなく、まるで頼むかのように言ったのは、これが初めてだった......そのわずかな変化に、彼女の胸は締め付けられた。彼女は俯いたまま、何も言わなかった。藤堂沢は彼女の髪にキスをし、少し目を開いて「お願いだ......なあ？」と囁いた。突然、携帯電話の着信音が鳴り響いた。藤堂沢は眉をひそめた。電話に出る気はなかったが、九条薫は我に返っていた。「電話に出て」藤堂沢は電話の画面を見た。白川篠からだった。彼は電話を切ろうとしたが。九条薫は誰からの電話か察しがつき、食器を洗いながら冷淡に言った。「もう帰って。200万円、送金するのを忘れないで」彼女は無関心を装っていたが、内心では200万円のことを考えていた。さっきまでの甘い雰囲気は、消え失せていた。藤堂沢は一歩下がり、彼女の後ろ姿を見つめながら、静かに尋ねた。「薫、もう俺のところには戻ってこないのか？」九条薫の背中が、彼の問いに答えていた。藤堂沢もプライドの高い男だった。女に縋り付くことなどできるはずがない。彼は携帯電話を取り出し、九条薫に200万円を送金すると、ソファの上のコートを手に取って、部屋を出て行った......九条薫は食器を洗い続けていた。携帯電話の着信音、藤堂沢が出て行く音、ドアが閉まる音。彼女は気にしないようにしていたが、今夜の彼の優しさがどこから来ているのか、彼女には分かっていた。彼女が彼にとって、役に立つからだ！もし彼女が伊藤夫人を説得できず、プロジェクトを成功させていなかったら、彼は彼女のことなど見向きもしなかっただろう。わざわざラーメンを食べに来たり、甘い言葉を囁いたりすることもなかっただろう。彼は藤堂沢だった。ビジネスの世界では、冷酷非情な男だった。二人は再び、険
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第49話
白川篠の両親が、以前九条家で働いていたなんて。その時、店員が大きな皿に盛られた魚の煮付けを運んできたが、佐藤清には食欲がなかった。彼女はまだ怒りが収まらず、「白川家は、何か企んでいるに違いない！」と言った。九条薫も気分が悪かったが、佐藤清の手の甲を優しく押さえて、彼女を慰めた。彼女は佐藤清の気持ちが理解できた。佐藤清の実家は裕福だった。26歳だった彼女は、40歳で子持ちの九条大輝の後妻になることに固執し、実家とは絶縁状態になってしまった。佐藤清はプライドが高かった。彼女は必ず幸せになって、実家に自分の選択が間違っていなかったことを証明するつもりだった......なのに、今はかつての使用人に見下されている。どうして、そんな屈辱に耐えられるだろう？九条薫は、しばらくの間、佐藤清を慰めていた。そして彼女は4000万円の報酬の話をした。「このお金があれば、少しは楽になるわ。おばさん、きっと、私たちはこれから幸せになれる！」佐藤清は九条薫の言葉に笑った。しかし、笑っているうちに、彼女は涙をこらえながら言った。「薫、私は自分のことじゃなくて、あなたのことが心配なの！ただの運転手と料理人の娘で、見た目も地味なのに、どうして......」そして彼女は続けた。「沢は目が腐ってる！」九条薫は、佐藤清の機嫌を損ねないように、適当に相槌を打った。佐藤清は愚痴をこぼして気持ちが落ち着いたようだった。夫のことが心配だったので、少しだけ食事をしてから、急いで帰って行った。九条薫は、一人残されて魚の煮付けを眺めていた。「奥様！」突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。九条薫が顔を上げると、そこに白川篠が立っていた......白川篠はパジャマを着て車椅子に座り、弱々しい様子をしていた。しかし、その大きな瞳には、どこか賢しこそうな光が宿っていた。白川篠が九条薫に会いに来たのは、他に方法がなかったからだ。ここ数日、藤堂沢は彼女の電話にも出ないし、病院にも見舞いに来ない。田中秘書に電話をしても、いつも嫌味を言われる。「身の程知らず」だと。彼女は不安だったので、九条薫に助けを求めに来たのだ。白川篠の育ちは良くなく、その手段も卑劣だった。彼女は自分の立場もわきまえず、九条薫の服の袖を掴み、泣きそうな顔で言った。「奥様、お
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第50話
九条薫の考えはシンプルだった。父の病気を治し、兄を釈放させて、家族で新しい生活を始める。しかし、運命は彼女を見放さなかった......藤堂沢も、彼女を解放するつもりはなかった。その夜、彼女が帝国ホテルで演奏をしていると、小林颯から電話がかかってきた。小林颯の声は焦っていた。「薫、すぐに病院に来て！大変なことになったの！」九条薫はドキッとした。彼女は慌てて「どうしたの？」と尋ねた。小林颯は少し間を置いてから、静かに言った。「おばさんと白川さんが揉めて、警察沙汰になったの。薫、覚悟して......おばさんは、逮捕されるかもしれない」九条薫の手から、携帯電話が滑り落ちた。道明寺晋が車で九条薫を病院まで送ってくれた。幸い、病院はそれほど遠くなく、30分もかからずに到着した。しかし、九条薫は間に合わなかった。彼女が到着した時、佐藤清は既に警察に連行されていた。病院は騒然としていた。白川家の人間が勢揃いしていた。白川篠の母親は、娘の火傷した腕を抱えながら泣き叫び、「娘の顔が台無しになった！あの女を刑務所にぶち込んでやる！」とわめいていた。白川篠の父親は、黙ってうつむいていた。九条薫が最も驚いたのは、藤堂沢も田中秘書を連れて来ていたことだった。彼が来るとすぐに、白川篠は彼の胸に飛び込んだ。弱々しい姿だった。白川篠の母親も泣きながら、「足が不自由なのに、今度は腕に火傷まで......篠は、これからどうやって生きていけばいいの！？」と言った。看護師が「早く処置しないと、傷跡が残りますよ」と注意した。白川篠の車椅子は壊れていた。何度か押してみたが、動かなかった。藤堂沢は白川篠を抱き上げ、ストレッチャーに乗せようとした......その時、彼は九条薫と目が合った。九条薫は静かに瞬きをした。自分の夫が、他の女を優しく抱きしめている。妻と愛人、どちらを選ぶか、彼の答えは明らかだった。藤堂沢も彼女を見ていた。しばらくの間、九条薫は何も言わなかった......すると、藤堂沢はストレッチャーを使うのを止め、白川篠を抱きかかえたままエレベーターに乗り込んだ。白川篠は腕の痛みで顔を歪めていたが、今は満足げだった。彼女は藤堂沢の腕の中で、九条薫に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。周囲の人々は、ヒソヒソ
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第151話
九条薫が口を開く前に。藤堂沢は彼女の手を掴み、真剣な眼差しで言った。「今すぐB市に帰って処理する！薫、私はこの件を鎮静化させ、悪影響を最小限にする」九条薫はうつむいた。しばらくして、彼女は苦笑いをした。「どうやって鎮静化させるの？10万回の転送、沢、どうやって鎮静化させるか教えて」藤堂沢は拳を握りしめ、立ち去った。白川篠のこの件は、九条家だけでなく、藤堂グループにも影響する......もしうまく処理できなければ、藤堂グループの株価は今日にも暴落するだろう。藤堂沢は劇場の入り口まで歩いて行った。彼はそれでも振り返って九条薫を見たが、九条薫は彼を見ていなかった。彼女はスポットライトの下に立っていて、全身が弱々しく孤独に見えた。彼女は劇場の責任者に静かに言った。「少し一人でいたいのですが、いいですか？」彼も彼女の境遇に同情し、すぐに言った。「もちろんです、九条先生。ここを片付けますので、何時までいても構いません！ここは午後6時に閉まります」九条薫は静かに感謝の言葉を述べた。人々が去ると、九条薫は再びバイオリンを構え、目を閉じてマスネの「タイスの瞑想曲」を演奏した。それは彼女の母親が一番好きだった曲で、九条薫は幼い頃の夏の夜、母親に抱きしめられ、優しく歌ってもらい、母親の腕の中で気持ちよさそうに眠っていたことを思い出した。バイオリンの音は抑え込まれ、力を入れすぎたため弦が切れた......九条薫はゆっくりとバイオリンを下ろした。彼女はずっとそこに立っていた。ついに彼女は携帯電話を取り出し、九条大輝に電話をかけ、3回呼び出し音がした後、電話に出た。二人は無言だった。浅い呼吸が彼女に、父はもうそのことを知っていることを告げた。九条薫は喉を詰まらせた。「お父さん、ごめんなさい！」電話の向こう側で、九条大輝はまた30秒沈黙した。やっとのことで口を開いた九条大輝の声は、ひどく嗄れていた。ほんの30秒ほどの間に、彼がどれほどの苦悶を味わったかが窺い知れた。「薫、実はお父さんは、君が一生をかけて、時也の10年を買い戻すことを望んではいなかった」九条薫の目には涙が溢れ、彼女は携帯電話を握りしめ、ゆっくりとしゃがみ込んだ。とても辛いからだ！体も心も、すべてが痛んでいた。彼女が幼い頃から誇りにしてい
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第150話
「話せ！」藤堂沢はまだ30歳にもなっていなかったが、性格は常に落ち着いていて、ビジネス界では泰然自若として有名だったが、田中秘書の次の言葉は、彼を動揺させた。田中秘書は低い声で言った。「白川さんが写真集を撮りたいと仰ったので許可を出されましたよね。本来でしたら私が手配すべきだったのですが、結婚式の準備で手一杯だったため、部下に頼んでしまったんです。ところが、その部下が事情を知らず、田中邸の鍵を白川さん側に渡してしまったんです。今朝早く、白川さんがそこで写真撮影を行い、さらにツイッターに投稿までして......そのコメントが酷いんです......『愛されない方が愛人』って」藤堂沢は携帯電話を握る指が白くなった。彼は5秒で対応策を考えた。「すぐにツイッターの責任者に連絡して、どんな犠牲を払ってでも、篠のツイッターを削除させろ！薫にこれを見せたくない」田中秘書は事実を言った。「できます！しかし、今はそのツイッターが既に10万回も転送されているので、取り消しても意味がありません......社長、申し訳ありません。私のせいです！」空気が静まり返った。しばらくして、藤堂沢は静かに言った。「それでも削除しろ！」電話を切り、彼は九条薫を見た。九条薫はまだ舞台の中央に立っていて、照明はまだ彼女に当たっていたが、彼女はもはや輝いておらず、顔は青白かった。彼女は白川篠のツイッターを見た。彼女はその挑発的な言葉を気にしなかった。彼女が気にしたのは、白川篠が当然のように田中邸に入り、彼女の両親の愛の巣に入ったことだ......白川篠は何者か？彼女は藤堂沢の愛人だ！田中邸は藤堂沢が買ったものだったのだ。今、彼は愛人を甘やかし、白いウェディングドレスを着せて、彼女の母親の家に土足で上がり込み、清純そうに見えるが実は挑発的な写真を撮らせている......九条薫の心はズタズタに引き裂かれた。これは彼女にとって、そして九条家全体にとって、大きな屈辱だった。この屈辱は、他ならぬ藤堂沢が彼女にもたらしたものだった。「藤堂奥様」と呼び、やり直したいと言っていた男。いつも彼女を抱きしめて「愛している」と囁く男......彼はいつも、彼女の愛が欲しいと言っていた。でも、彼にそんな資格があるのだろうか？九条薫は藤堂沢を見た。彼女の瞳には、見知らぬ他人
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第149話
藤堂沢は静かに尋ねた。「何がそんなに嬉しいんだ？」九条薫が喜ぶのは珍しいことだった。しかし、彼女と藤堂沢の関係は、喜びを分かち合うようなものではなかった。彼女は携帯電話を握りしめ、曖昧に言った。「ずっと欲しかったものが手に入ったの！」藤堂沢は宝石のような高級品だと思った。彼は微笑んで言った。「何が欲しいんだ？買ってやる」九条薫の返事は、携帯電話を握りしめたまま、裸足でウォークインクローゼットに入ることだった。背後から藤堂沢の声が聞こえた。「いつも携帯を握りしめているのは、何か秘密を見られるのが怖いのか？また若い男でも作ったか？」ウォークインクローゼットの中で、九条薫は服を選んで着替えた。彼女は静かに言った。「私に何か秘密があるの？H市はあなたの本拠地でしょ？今、ここに帰ってきて、感慨深いんじゃない？」藤堂沢の心は少し揺れた。彼は追いかけて行き、ドアに寄りかかりながら彼女の穏やかな様子を見つめ、思わず言った。「彼女とはそんな関係じゃない！彼女に触ってもいない！あの写真は彼女が盗撮したんだ」九条薫は気にせず笑い、黒いストッキングを静かに引き上げた。彼女の脚は細く、これを履くと、本当にセクシーで魅力的だった。藤堂沢はもちろ好きだったが、妻がセクシーな黒のストッキングを外に履いていくのは、夫としてはあまり嬉しくない。彼はかなり不機嫌だった。「こんなに寒いのに、それを履くのか？」九条薫は彼を通り過ぎて洗面所に行った。「コートの中にストッキングを履かないで、まさか素足でいろって言うの？」藤堂沢は眉をひそめた。「もっと厚手のものはないのか？」九条薫は顔を洗いながら顔を上げ、鏡の中で藤堂沢と視線が合った。しばらくして、彼女は静かに言った。「もし、あなたが不満なら、次はちゃんと厚着してくるわ。だって私は今、あなたの力を借りて兄さんの裁判を進めたいんだもの。あなたを怒らせるようなこと、できるわけないでしょう？」彼女の皮肉に、藤堂沢は腹を立てた。しかし、彼はそれでも飛んで帰ることはせず、九条薫の後をついてH市オペラハウスに行った。佐伯先生はH市出身だったので、そこは佐伯先生のワールドクラシックミュージックツアーの最初の公演地だった。九条薫が到着すると、責任者が自らやって来て熱心に挨拶した。「九条先生、本当に早いですね」
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第148話
しばらくして、彼はようやく動きを止めた。彼は彼女の柔らかな唇に自分の唇を寄せ、囁くように言った。「彼を好きになるな！」九条薫は彼を押しやり、冷淡な口調で言った。「食事の予約を取る！好きとか嫌いとか、子供っぽくない！」彼女は彼に引き戻された。藤堂沢は再び彼女にキスをした。彼女を抱き上げてキスをした。結婚して数年、九条薫は藤堂沢がこの事でどれほど夢中になれるのかを初めて知った。彼が彼女を下ろすと、彼女のすらりとした両足は震えが止まらなかった......彼女は先ほどのできごとを思い出すのも恥ずかしく感じた。藤堂沢はまるで獣だ！彼の上品な外見はただの偽装で、根は好色で下劣な男と何ら変わりはない......むしろ、もっと激しい。九条薫の心は動かなかった。彼女は藤堂沢を深く愛していた。彼の気品、富、そして必要な時には見せる優しさと思いやり......これらは、恋に憧れる若い女性にとっては抗しがたい魅力だろう。しかし、九条薫は彼に3年間も傷つけられてきた。3年という歳月は、どんなに熱い心も冷ましてしまう。彼女はもはや、藤堂沢が自分を愛しているとは感じていなかった。もし彼が彼女を愛しているなら、さっき玄関で彼女にああいうことはしない。彼にとっての彼女の好意は、結局体の関係でしかない。彼女といると気持ちが良く、満足できるから......すべては独占欲のせいだ！飽きたら、自然と身を引くだろう。その時、彼女は自分の心を保てる。......実は藤堂沢はかなり忙しかった。最近、彼自ら携わらなければならないプロジェクトがあった。それなのに、九条薫が彼を困らせていた。彼はH市まで彼女を追いかけてきたが、会社での多くの仕事も放っておけず、夜には幹部と会議を開いた。会議が終わると、既に午前1時だった。九条薫は眠っていた。藤堂沢は浴衣を取りシャワーを浴びて、ベッドに横たわると、九条薫を優しく抱きしめ、彼女の手に触れた。実は、彼は彼女が起きていることを知っていた。呼吸のリズムで分かったのだ。しかし、彼女がとぼけているのを彼はあえて指摘しなかった。一日疲れていたので、彼女とそういうことをする気力もなかった。先ほどの玄関でのことは、ただ軽く彼女を満足させただけだった。彼は彼女が理性を失う姿が好きだった。夜はますます更
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第147話
藤堂沢はH市へ向かい、ホテルに到着したのは夜9時だった。ネオンが輝いていた。H市の夜は、美しく、幻想的だった。藤堂沢が黒い車から降りると、仲良く並んで歩いている二人を見つけた。彼の妻と、他の男。初冬の夜、彼女は濃いキャメル色のカシミヤコートを着て、黒い髪をゆるく巻いて肩に流していた。ロマンチックな雰囲気だった。彼女は穏やかな表情で、楽しそうに杉浦悠仁と話していた。自分を見る時とは違って、彼女の目は温かかった。藤堂沢はホテルの中庭に立ち、腕時計を見た。夕方、写真を見たのが6時。今は9時だ。つまり、この3時間、九条薫はずっと杉浦悠仁と一緒に、まるで恋人同士のように過ごしていたのだ。藤堂沢は、二人の元へ向かった。九条薫は顔を横に向け、偶然彼を見つけると、彼女の笑顔は消えた。藤堂沢は彼女の隣に立ち、杉浦悠仁に言った。「杉浦先輩、奇遇だな。こんなところで会うなんて」しばらくして、杉浦悠仁は藤堂沢と握手をし、かすかに微笑んで言った。「これが奇遇かどうかは、まだ分かりません」二人の男の言葉には、それぞれ深い意味が込められていた。藤堂沢は九条薫を見て、優しい声で言った。「俺は晩ご飯をまだ食べていない。付き合ってくれ」九条薫が答える前に、彼は彼女の手首を掴み、杉浦悠仁に言った。「それでは、杉浦先輩、また明日。もう遅いので」杉浦悠仁は彼の意図を察し、何も言わなかった。藤堂沢が九条薫を連れて行こうとした時、彼は藤堂沢を呼び止めた。ネオンの光の下で、彼は藤堂沢の目を見て真剣な顔で言った。「彼女のことを本当に好きなら、二度と泣かせないでください」藤堂沢は九条薫を見た。冷気に当たって少し赤くなった彼女の白い頬は、男心をくすぐる。藤堂沢は何も言わず、彼女の肩を抱いた。彼はやはり、面白くない気持ちだった。彼女を抱きしめる腕に、自然と力が入った。九条薫は皮肉っぽく言った。「沢、まるで浮気現場に乗り込んできたみたいじゃない！杉浦先生とは、たまたま会っただけ」「たまたま、で済むものか？よほど縁があるんだろうな」ホテルの部屋のドアを開けるなり、藤堂沢は九条薫をドアに押し付けた。彼は彼女のコートを脱がし、黒いドレス姿になった彼女の白い肌が露わになった。その美しさに、彼は目を奪われた。九条薫は疲れていたので、彼
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第146話
使用人は慌てて、「はい。荷物も、全部、奥様ご自身で......」と答えた。「偉くなったものだな！」藤堂沢はそう言うと、2階へ上がった。時間を見ると、まだ起きるには早い時間だった。彼はそのままベッドに横になった。枕には、九条薫の香りが残っていた。その香りは、藤堂沢の心を掴んで離さない。彼は九条薫の香りが好きだった。いつも清潔で、ほんのりとした石鹸の香りがした。セックスをしている時、彼は彼女の髪に顔をうずめ、彼女を強く抱きしめていた......思い出すだけで、藤堂沢の体は熱くなった。身支度をしている時。彼は、九条薫の体が魅力的すぎるのか、それとも、自分が性欲が強すぎるのかと考えた。しかし、考えれば考えるほど腹が立った。彼女からは、何の連絡もないんだ！彼女は本当に、自分を無視するつもりなのか！......九条薫は、昼頃、H市の空港に到着した。今回は小林拓から急な依頼で、H市でのイベント会場にトラブルが発生したため、現地に行って調整役をしてもらいたい、とのことだった。小林拓は手が回らないので、九条薫にH市まで来てもらえないか、と頼んだのだ。九条薫はまず会場へ行き、担当者と打ち合わせをした。話がまとまりかけたところで、彼女はホテルへ向かった。H市環宇ホテル。シングルルーム。九条薫は荷物を置いて、小林拓に電話で報告した。「小林先輩、安心して。先方とは、ほぼ話がまとまりました。きっと大丈夫です」小林拓は喜んで言った。「君に頼んで正解だった！さすが薫、君の手にかかれば、すぐに解決する！本当に助かった」九条薫は軽く微笑んで言った。「簡単なことでしたから。先輩、お礼には及びません」二人はもう少し話をした。電話を切ると、九条薫は空腹を感じた。時計を見ると、もう夕方5時だった。窓の外には、真っ赤な夕焼けが広がっていた。九条薫は少し気分が楽になり、財布を持ってレストランへ行こうとした。その時、彼女は思いがけず知り合いに会った。杉浦悠仁だった。彼は医学学会に出席するために来ているようで、数人の同僚と一緒だった。彼らは話しながら、ビュッフェの料理を取っていた。杉浦悠仁は九条薫の姿を見ると、一瞬、立ち止まった。それから彼は同僚に何かを言い、九条薫の方へ歩いてきた......シャンデリアの光の下、彼は彼女
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第145話
白川篠を見送った後、藤堂沢は2階の寝室に戻った。九条薫を夕食に誘おうと思った。一緒に、ゆっくりと食事をするのは久しぶりだ。これからは、彼女と仲良くやっていきたい。寝室のドアを開けると、彼が贈ったプレゼントが部屋の隅に無造作に置かれていた。まるで、彼の気持ちごと捨てられたかのようだ。九条薫がわざとそうしているのは、藤堂沢には分かっていた。かつて彼が彼女にした仕打ちを、そのまま返されているのだ。まさに、因果応報といったところか。ウォークインクローゼットから、かすかな物音が聞こえてきた。荷造りをしている音のようだ。藤堂沢は急いでクローゼットへ向かった。案の定、九条薫はスーツケースに荷物を詰めていた。服、アクセサリー、そして彼女の持ち物が、スーツケースいっぱいに詰め込まれていた。それを見て、藤堂沢の胸は締め付けられた。彼は九条薫の手首を掴み、彼女を小さなソファに押し倒した。そして、体を密着させ、低い声で言った。「どこへ行くつもりだ？」九条薫は抵抗しなかった。彼女は顔を上げて夫を見つめた。彼の目に、焦りと不安が浮かんでいる。まるで、彼女のことをとても大切に思っているかのようだ。彼女は指先で、彼の精悍な顔を優しく撫でながら言った。「彼女との話は済んだの？もう大丈夫なの？」藤堂沢は、彼女の言葉に苛立った。彼は彼女の手を掴み、挑発的な態度を止めさせ、「俺は彼女を海外療養させることにした」と言った。九条薫は驚いた顔をした後、静かに笑った。「愛人を囲うのね。結構なことじゃない」藤堂沢は彼女の唇を噛み、「俺の言葉を捻じ曲げるな」と言った。九条薫は冷たい目で彼を見つめた。「私が言葉を捻じ曲げている？沢、あなたと彼女は他人でしょう？どうしてそんなに彼女の看病をするの？どうしていつも病院にいるの？あなたたちは抱き合っていた、そんなに彼女に夢中だったのに、よくそんなことが言えるわね」一枚の写真が、藤堂沢の胸に突きつけられた。藤堂沢は眉をひそめ、写真を見ると、固まってしまった。彼と白川篠の写真だった。病室のグレーのソファで、毛布を掛けて眠っている彼に、白川篠が寄り添っている写真だった。この写真を見れば、誰もが彼らを恋人同士だと思うだろう。白川篠の瞳は愛情で溢れていて、見ているだけで彼女の想いが伝わってくる。藤堂
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第144話
そう言うと、彼の目はさらに深みを増した。彼が九条薫とやり直したいと思ったのは、ただ償いをしたいからではなく、彼女と一緒にいたいと思ったからだ。彼も言った通り、二人には楽しい時間もあった。そして、その楽しさは、他の女では味わえないものだった。彼は九条薫が欲しい。それ以外の理由は、何もない。九条薫は、その話には乗りたくなかった。彼女は面倒くさそうに彼を払いのけ、「白川さんに会うんでしょ？早く行って」と言った。藤堂沢は、彼女の言葉に無関心を感じた。この気持ちは、決して心地良いものではなかった。九条薫は、彼のことなど気にしなくなっていた。白川篠が家に来ても、全く動じない。まるで、彼には彼女の感情を知る資格もない、と言っているかのようだった。......白川篠の病状は芳しくなかった。彼女は死ぬと言って看護師に頼み込み、こっそり藤堂邸へ連れてきてもらった。白川の母でさえ、このことを知らなかった。彼女は応接間で長い時間待っていた。2階からかすかに聞こえてくる音も、彼女には聞こえていた。2階には、藤堂沢と九条薫しかいない......あの音は、彼らが出している音に違いない。白川篠の顔色は、青白かった。こんな時間に、もし二人が良い雰囲気だったら......藤堂沢は妻とセックスをしているのだろうか？と、彼女は考えてしまった。そんなことを考えていると、ドアが開き、藤堂沢が入ってきた。白川篠は、藤堂沢の白いシャツの襟に、口紅の跡がついているのに気づいた。彼女の顔色はさらに青白くなり、もう座っていられなかった。彼女は藤堂沢を見つめ、泣きそうな声で懇願した。「藤堂さん、お願いです。海外へ行きたくありません。B市にいたいんです......もし奥様に私が邪魔なら、私が謝りに行きます。彼女に説明します。私は一度も、奥様の座を奪おうなんて思ったことはありません」藤堂沢は看護師に、外へ出るように合図した。二人きりになると、彼は静かに言った。「これは俺が決めたことだ。薫には関係ない」白川篠は信じられなかった。彼女は涙を浮かべながら言った。「私が奥様に説明します。本当に、悪気はなかったんです。ただ、具合が悪くて......とても痛かったんです。藤堂さん、あの時、私があなたを助けた恩を仇で返すんですか？私を置いて行かないでください。あな
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第143話
九条薫は邸宅に戻った。白いマセラティが止まると、使用人がすぐにドアを開けた。嬉しそうな顔で、「奥様、たった今、宅配便が届きました。高級そうなものがたくさん入っていましたよ」と言った。そして、小声で言った。「きっと社長からです」使用人は、九条薫がようやく幸せを掴んだと思い、心から喜んでいた。しかし、この結婚が九条薫にとってどれほど残酷で、彼女がどれほど理不尽な目に遭ってきたのか、使用人には知る由もなかった。九条薫は何も言わず、軽く微笑んだ。彼女は2階へ上がり、寝室のドアを開けた。リビングには、ブランド品の箱が山積みになっていた。高価な服、珍しい宝石、女性が憧れるハイヒール......この前、発表されたばかりのオートクチュールのドレスまであった。まさに、贅沢の極みだった。藤堂沢が静かに入ってきて、後ろから彼女を抱きしめ、顎を彼女の肩に乗せて優しく尋ねた。「気に入ったか？」九条薫は何も言わなかった。彼女は静かに箱を開けた。中には、ラインストーンがちりばめられたサテン地のハイヒールが入っていた。とても綺麗な靴だった。藤堂沢のセンスは、本当に良い。九条薫は軽く微笑んで言った。「こんなもの、女の人が嫌いなわけないでしょう？ 沢、これはあなたの償い？」彼女は好きだと言ったが、口調は冷淡だった。藤堂沢がそれに気づかないはずはなかった。彼は彼女の体を抱き起こし、ソファの肘掛けに座らせた。そして、彼女に覆いかぶさるように一歩前に出た。彼のスラックスの生地が、薄い布越しに彼女の体に触れた。九条薫は、彼の存在を感じた。九条薫の表情が少しだけ和らいだのを見て、藤堂沢は彼女にキスをしようと顔を近づけた。彼の声は、少し嗄れていてセクシーだった。「薫、俺たちにも楽しい時はあっただろう？」「セックスのことなの？」九条薫は体を反らし、長い指で彼のシャツの襟を直しながら言った。「ねえ沢、私たちもう大人なんだから、まず見た目が良ければ、あとは流れでしょ？ 相手が誰とか、愛してるかどうかとか、そんなに重要じゃないのよ。ほら、あなたは私を三年も憎んでいたけど、全然邪魔にならなかったじゃない。そうでしょ？」藤堂沢の瞳の色が、濃くなった。彼は彼女をじっと見つめて言った。「つまり、相手が違う男でも同じように楽しめるってことか？」
