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第5話

啓介の頭を手で押しのけ、呆然とする美香を見つめて言った。

「夫が浮気してるかどうかはあんたが心配することじゃない。すぐに調べるわ。それより今は——」

研究室の惨状を一瞥してから、借用書を取り出した。

「あんたが借りた2000万、返済期限半年過ぎてるわね。このまま返さないなら強制執行申し立てるわよ。それに、研究機器の総額7億4千万円。全額で賠償してもらうわ」

美香の顔が一瞬で真っ青になった。口をパクパクさせて、力なく言い訳を始めた。「夕子...私、あんたの唯一の友達でしょ?どうしてこんなひどいことするの?お金がないのわかってるくせに...」

「さっきはずいぶんいい度胸してたじゃないか」

私は冷笑した。

「どうでもいいわ。とにかく、もう警察呼んだから、あとは警察に判断してもらうわ」

警察を呼んだと聞いて、美香の顔色がさらに悪くなった。

彼女は私を睨みつけると、逃げ出そうとした。

だが次の瞬間、駆けつけた警官と鉢合わせた。

警官は私が提供した監視カメラの映像を見て、しばし言葉を失っていた。「たとえ本当に不倫相手だったとしても、会社の高価な物を壊す権利なんてない。れっきとした犯罪行為ですよ」

美香はまだ抵抗しようとして、甘ったるい声で言った。「お巡りさん、私と夕子は親友なんです。これは冗談で...お手数おかけして申し訳ありません」

警官が私の方を向いた。

私ははっきりと言った。「示談書は書きません。和解するつもりもありません」

もし美香がただの幼なじみに騙されただけなら、長年の友情に免じて許すかもしれない。

でも、会社の前で騒ぎを起こし、研究室まで壊すなんて、明らかに世論で私を潰そうとしてる。

そんなの、徹底的に追及するしかない。

情けは人のためならず。善意に裏切りで報いるなら、善意なんて返せるわけがない。

それに、警察が介入せず、強力な声明で世論を鎮めなければ、うちの会社の上場は絶対に頓挫する。

川野製薬は家族三代の心血を注いだもの。私の手で潰すわけにはいかない。

「夕子!よく考えて!私はあんたの唯一の友達よ!」

美香は甲高い声を上げ、私に掴みかかろうとした。

啓介が私を背後に庇い、美香が触れないようにガードした。

私は耳をこすりながら言った。「美香、そのセリフ、もう聞き飽きたわ」

友達って言葉、簡単に口に出すはずではない
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