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第2話

かつての親友が私を裏切るなんて。

啓介の浮気を教えてくれただけなら、善意の忠告だったのかもしれない。

でも、確認もさせずに離婚を迫るなんて。おまけに浮気撲滅屋の手を使って脅すなんて、とうてい善意とは思えない。

ふと思い出した。啓介と付き合い始めた頃、美香はしょっちゅう啓介の悪口を言ってたっけ。

啓介が朝ごはん買ってくれても「ちょっとした親切で操ろうとしてる」って。

高価なプレゼントをくれても「お金で釣ってるだけ。きっと裏であなたのこと、拝金主義だって言ってるわよ」って。

プロポーズの時だって、その場でいちゃもんつけまくってた。

これまでのことを静かに振り返ると、どんどん冷めていく気持ち。

黙ってる私を見て、美香の顔に得意げな表情が浮かんだ。

立ち上がると、いきなり私の手首を掴んだ。

「行くわよ。今なら役所もお昼休みで、丁度いいわ。家に寄って書類取って、啓介呼んで離婚しちゃいましょ」

我に返って、美香の手を振り払った。

「結構よ。あなたの言い分だけで啓介と離婚なんてしないわ」

美香は目を丸くした。また断られるとは思ってなかったみたい。

「夕子!あなたのためを思って言ってるのよ!」

急に声を荒げた。「啓介はもう浮気してるのよ!あなたのこと愛してないの!しがみつくのやめなさいよ!」

美香の表情が、見たこともないくらいゆがんでいた。

今朝まで「愛してる」って何十回も言ってくれた啓介を思い出す。顔をゆがめた美香と比べると、天秤が大きく傾いた。

「私の言うこと聞きなさいよ!今すぐ啓介と離婚するのよ!」

美香が叫びながら、また手を伸ばしてきた。

私は研究室にこもりっきりで、牛みたいに強い美香には敵わない。掴まれたら逃げられそうにない。

でも焦らなかった。すぐに人を呼んだ。

秘書が慌てて入ってきて、美香を引き離した。

「夕子!こいつに私に手を出させるの?」

美香は狂ったみたいに、鬼のような目で私を睨んだ。

掴まれて赤くなった手首をさすりながら、真剣な顔で言った。

「私と啓介のことは放っておいて。仕事があるから、もう帰って」

そう言って、秘書に美香を連れ出すよう合図した。

美香は憤然と私を睨みつけ、冷笑した。「いいわ、夕子。後悔しても知らないわよ!」

ただの捨て台詞だと思った。長年の友達だし、一時の怒りだとしても、まさか本気で何かするとは。

結果、友情を過大評価してた。

そして、美香の底の浅さを甘く見てた。

オフィスで水を飲んでた。啓介に電話して事情を聞こうと言葉を探してたところ、秘書が慌てて戻ってきた。悪い知らせを持って。

「社長!木下さんが戻ってきました。それに、あの...」

秘書は困ったような顔で、言葉を濁した。

眉をひそめた。「何を連れてきたの?」

「横断幕を持ってて...」秘書はごくりと唾を飲んで言った。「不倫撲滅同盟、だそうです」

水を吹き出しそうになった。信じられない。

「一階で、横断幕広げて拡声器で叫んでます。生配信もしてて...」

秘書がタブレットを私の前に置いた。

画面の真ん中に美香。背後には10人くらいのごつい男たち。

「不倫撲滅同盟」の横断幕を掲げて、しかも狙ったように会社の看板も映してる。

「川野製薬の河野夕子社長が、他人の関係に割り込んでいると実名で告発します!」

画面の中の美香は怒りと悲しみに満ちた表情。でも話し方は論理的で、急所を突いてくる。

「私は浮気撲滅屋で、夕子の親友です。依頼人から相談を受けて、親友が他人の関係に割り込む第三者だと知りました!」

「親しい仲だけど、こんな不道徳な行為は許せません。浮気撲滅屋として当然のことです!」

「さっき、夕子に優しく忠告しました。あの男と別れるようにって...でも秘書に追い出されて、話し合いを拒否されました」

配信は盛り上がってて、視聴者は1万人以上。どんどん増えてる。

「あの有名な川野製薬?」

「川野って慈善活動で有名じゃない?こんなモラルの欠けた幹部がいるなんて」

「やっぱり女が社長なんておかしいと思った。バックに男がいたんだ!」

「不倫女は家族もろとも死ね!川野製薬をボイコットだ!」

めまぐるしく流れるコメントを見て、頭が痛くなった。

さすが親友の美香。私の弱点を知り尽くしてる。

うちの会社は近々上場予定で、悪いニュースは絶対に出せない。

こんなことで上場が駄目になったら、取り返しがつかない。

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