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第3話

配信画面で、美香が突然目頭を押さえて、話の内容を変えた。

「夕子、あの人のことを手放せないのは分かるわ。でも、他の人のことも考えてよ。幸せな関係を壊すなんて、ひどいことよ」

「誰だって間違いはあるわ。今すぐ改めれば、きっとみんな許してくれると思う」

涙ながらに語る美香。私のことを思い、迷いから目覚めさせようとする善人のふり。

その言葉を聞いて、思わず冷笑した。

さすがに賢い。正妻を追い出そうとしてるなんて言えないもんね。

この数言で、誰だって私が浮気相手だと思うでしょ?

それに、実名で告発するって言ってたのに、自分の名前は一言も出さないのね。

「もう諭すのはやめて!不倫女に恥なんてないわ。何言っても無駄よ!」

「そのまま中に入って、その会社をぶっ壊せ!そうすりゃ会社が代わりに罰してくれるわ!」

「そうだそうだ!会社を壊せ!不倫女を使う代償を教えてやれ!」

コメント欄では、ネットの正義マンたちが彼女に応援。

美香の目が輝いた。すかさず言う。「分かったわ!不倫撲滅同盟の私たちが、天に代わって成敗してやる!」

そう言うと、ごつい男たちに手を振って、大勢で会社に押し入った。

「社長、どうしましょう?」

秘書は卒業したての若い子。こんな事態、見たことないから慌ててる。

冷静に指示を出した。「全社員にメッセージ。非常階段で避難して。今日は有給休暇。彼らと会ったら、できるだけ遠ざかって。自分の身を守るのが一番。それと、誰もネットで発言しないで。この件は私が対処する」

秘書はすぐに頷いて、通知を出し始めた。

私は配信画面を見つめてた。

美香が連れてきた男たちは荒らしのプロ。ゲートを蹴破って、イナゴの群れみたいに会社に押し寄せた。

見つけたものは何でも壊す。エレベーター横の金のなる木まで、鉢ごと砕かれて哀れに横たわってる。

従業員に会わなくて良かった。殴られてたかもしれない。

「就業時間なのに誰もいない。川野製薬ってペーパーカンパニーじゃないの?」

「そうだ!壊せ!不倫女を失業させろ!」

「何やってんだ?高い物を壊せよ。植木鉢なんか蹴って何になる?パソコンを壊せ!」

コメントに煽られたのか、連中の行動はエスカレート。デスクのパソコンを何台か壊すだけでなく、実験室の前まで来た。

美香がカメラに向かって言う。「ここが会社で一番安全な場所よ。夕子はきっとここに隠れてるわ!」

私がオフィスにいるのを知ってるくせに。

明らかに、うちの研究室を壊すつもり。

「ドアをこじ開けろ!ぶっ殺せ!」

「不倫女が殴られるのは当然だ!」

「不倫したくせに殴られるのが怖いの?死んでも文句言えないよ!」

ネット上の裁判官たちが盛り上がってる。視聴者数は10万人を超えた。

目の前で実験室のドアが暴力的にこじ開けられ、中に押し入って機器を叩き壊し始めた。

幸い、一昨日研究室を新しい場所に移動させたばかり。中にあるのは運び出せなかった機器2台だけで、データも資料もない。

頭の中で損害を計算する。このチンピラどもを逮捕するには十分だな。立ち上がってオフィスを出た。

「何してるの?あそこは実験室よ!中の機器は何億円するのよ。壊さないで!」

急ぎ足で、彼らを止めようとした。

「夕子、やっと出てきたわね」

美香がカメラを私に向けた。得意げな顔。でも言葉は卑屈。「怒らないで。夕子のためを思ってるの。私一人じゃ夕子止められないから、みんなの力を借りてあなたを正しい道に戻そうとしただけ」

散らかった実験室と、ポケットを膨らませた数人の男たちを見て、眉をひそめて言った。

「これは故意の器物損壊罪よ。それに窃盗の疑いもある」

「夕子!話をそらさないで!」美香は心を痛めるような表情で、「今更分からないの?他人の関係に割り込むのは悪いことだって」

彼女をじっと見つめて、一言一言はっきりと言った。

「つまり、結婚証明書を持つ夫と普通に暮らすことが、他人の関係に割り込むってこと?」

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