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第8話

溪はそれが私からの電話だと思い、期待に満ちて受話器を取った。

「霧江!」

電話の向こうで相手は少し戸惑ったようだった。

「もしもし、鈴井さんのご友人、もしくはお付き合いされている方でしょうか?」

溪は茫然としながらも頷き、声がかすれた。

「……はい」

「実は、私は鈴井さんの心理カウンセラーでして、彼女は半月前に予約されていたセッションを過ぎてもいらっしゃらないんです。何かご事情があったのでしょうか?」

溪は口を開こうとしたが、喉に詰まったように言葉が出なかった。

何度か試してようやく、かすれた声で話し始めた。

「……すみません、俺も彼女がどこにいるか……わからないんです」

溪は電話を切ると、微かに震える指先で携帯画面に映る私の写真に触れ、絶望と苦しみに満ちた声で私の名前を呼んだ。

「霧江……」

「もしあの時、君の言葉を信じていたら……君は、死なずに済んだのか?」

だが、この世に「もし」は存在しない。

もう戻らない過去に意味などない。

溪は絶望の淵に沈み、その場に倒れ込んでしまった。

同僚が彼を見つけ、病院に運び込んだ。

溪が目を覚ました時、彼の目にはもうかつての情熱も誇りもなかった。

その冷たい目には赤い血走りが浮かび、悲しみを極めた麻痺したような表情で天井を見つめていた。

同僚はため息をつき、慰めるように言った。

「隊長…ご冥福をお祈りします」

「残念なことです。霧江さんは亡くなる前に、何も手掛かりを残していませんでした。手がかりがあれば、犯人の糸口が見つかったかもしれませんが……」

同僚の黒田は霧のかかったメガネを静かに拭いた。

彼はかつて私と一番親しく、悲しみを隠すことができなかった。

溪はこの二言を聞いた瞬間、急に目に感情が宿り、黒田の服を掴んで歯を食いしばりながら言った。

「いや……いなくなった前に、残したものは一つだけあるんだ……」

溪は黒田を連れて警視庁に戻った。

以前はあれほど潔癖だった彼が、私の絵のために、ゴミ箱をあさり始めた。

清掃のおばさんがゴミ袋を交換したと聞くと、道端で待ち続け、悪臭を放つゴミをひとつずつ拾い集めた。そして、全てが揃うと、自分のオフィスに篭り、一日一夜、飲まず食わずでその断片を組み合わせ、ついに一枚の完成した絵を作り上げた。

しかし、完成した絵を見た同僚たちは、画面い
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