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第2話

溪と私は大学の同級生だった。

彼が一番辛い時期に、そばにいたのは私だった。

少しずつ彼の心を開かせて、付き合うことになった。

卒業後、私たちは一緒に警視庁に入った。

彼は刑事になり、私は似顔絵捜査官となった。

半年前、初めて集団の逮捕計画に参加した。

当時、溪の父親は捜査第一課の課長だった。

そしてその時――

私たちの計画が何故か凶悪犯に漏れ、ビル全体に時限爆弾が仕掛けられていた。

爆発音が響いたその瞬間、溪の父親が私を守り抱え込んでくれた。

この爆発でチームのメンバーは全員犠牲となり、私だけが重傷を負いながらも生き残った。

溪が第2チームを率いて到着した時には、私はすでに気絶していた。

意識が戻った時、私は病院のベッドの上だった。

爆発の影響で頭部にも重い傷を負い、犯人の顔を思い出せず、その日の出来事さえも忘れていた。

真実を知った溪は、私をひどく憎んだ。

彼は病院に駆け込み、私の手首を強く掴み、私を電気治療のベッドに押し倒した。

「お前のせいで父さんは死んだんだ!」

「何故忘れた!」

「お前のせいで皆が浮かばれないんだ、この元凶が!」

私だっていろんな方法を試してきた。

溪の父が亡くなった後、毎日電気治療を受け、大量の薬を飲み続けた。

夜、目を閉じるたびに、血だらけの溪の父が私を見つめ、「お前が殺したんだ」と言ってくる夢を見た。

自分が病んでいるのを感じていた。

耳の奥には溪の父が私を「霧江」と呼ぶ声が聞こえてくるようだった。

昔の言葉がまだ耳に残っているかのように。

私たちが大学の頃、毎年のように、溪の父は溪と一緒に私を家に呼んでくれた。

幼い頃から両親を失っていた私にとって、溪の父が初めて作ってくれた豚骨ラーメンは、湯気で目が潤むほど心が温かくなった。

顔を伏せ、照れ隠しをしながらも、心の中では溢れるほどの喜びを感じていた。

そんな彼の姿が今も目に浮かぶ。

熱々の豚骨ラーメンを手渡されそうになったが、気が付くと手は空っぽだった。

私は溪のもとを訪れたこともあった。

その夜、土砂降りの中、寮の下で立ち尽くし、「私、病気みたいなの……死にたいくらい体が苦しいの」と泣きながら訴えた。

けれど彼は冷淡に私を見つめ、嘘をついていると思い込んでいた。

「いい加減にしろよ、さっさと出て行け」

「そんなボロボロの姿を見せて、俺に許してもらおうってのか?」

「死にたいならさっさと死ね、目障りだ」

私は雨に打たれて全身ずぶ濡れになり、髪が頬に張り付いていた。

道で転んでしまい、スカートには泥がついていた。

溪の手を必死に掴み、涙が止まらなかった。

「溪、私、嘘を……言っていないの」

「お願いだから、信じて」

迷子の子供のように、ただ助けを求めていた。

もしかしたら、溪が私を抱きしめてくれるかもしれないと考えた。

たとえそれが嘘でも、抱きしめてくれれば――

それだけで生きる勇気が湧くかもしれない。

しかし溪はそうしなかった。

ただ冷たい目で私を見つめ、まるで死体を見るように。

「父親を殺した人間と一つ屋根の下にいるなんて、考えただけで吐き気がする」

溪は私の手を振りほどき、二度と振り返ることなく扉を閉めた。

私は行くあてがなく、ただ無心で街を彷徨った。

歩き疲れて街灯の下で泣き崩れ、頭を何度も叩き続けた。

「何で……何で何も思い出せないんだ!」

「どうして私だけが生き残ったの?」

道端にうずくまり、頭上から雨が混ざる涙が流れ落ちる。

「もう疲れた……」

「お父さん、お母さん、私が間違ってたなら、そう言ってよ……私も……そうしたくなかったの。でも……本当に何かを間違えたみたい……」

「どうして、死んだのが私じゃなかったの?どうして……」

「私が死ねば、全部がうまくいったのに……」

「代わってよ、私が死ぬから……みんなを元に戻して」

私は頭を抱え、声を上げて泣き叫んだ。

胃がひっくり返りそうなほど泣き続け、感情が崩壊した。

最後には泣き疲れ、雨の中を歩き出し、人気のない道路に横たわって、終わりを求めた。

だが、その夜、親切な人に出会い、私は病院へ運ばれた。

無事が確認されると、医師は心理検査を受けさせた。

予想通り、重度のうつ病と診断された。

看護師は私を心配し、「どうか、生きてください」と励ましてくれた。

彼女たちを心配させたくないから、私は微笑みながら答えた。

「もう死のうなんて思ってないから、大丈夫よ……」

だって、私にはまだ、やらなければならないことがあるんだから。

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