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第5話

私は光雲の言葉を聞いて、完全に固まってしまった。

大学時代の一幕一幕が脳裏をよぎる。

溪が昔好きな子がいたことを、私は知っていた。

しかしその子は、彼のおばあさんが亡くなった時に彼を捨てて海外に行ってしまった。

あの時期は、溪にとって最も辛い時だった。

私は無我夢中で彼のそばにいて、彼を支え続けた。

卒業の日に、溪はみんなの前で私に告白した。

情熱的で真摯な少年が、その愛を胸に抱き、私の前に現れた。

あの日、学校の屋上では風がとても強かった。

溪の目には、慎重で心配そうな色が浮かんでいた。

きれいな顔に、ほんのわずかな緊張の色が見えた。

彼は私に言った。

「俺と付き合ってくれないか?これからは俺が霧江を守るよ」

「俺たちだけの家を作ろう。もう霧江を一人にはしない。信じてくれ」

その時、私がなんと言ったのかはもう覚えていない。

ただ、泣いたことだけは覚えている。

溪は優しく私の涙を拭ってくれた。

私の目を覆い、一度キスをした後、しっかりと私を抱きしめた。

そして、私たちは完全に引き離された。

私は独り、雨の夜に歩みを進め、暗闇と向き合うことを選んだ。

溪はその腕の中の少女を、宝物のように大事に抱くことを選んだ。

心の中の酸っぱい感情が抑えきれない。

結局……約束を破ったのは溪の方だね。

信じてたのに。

……

溪は顔を上げ、光雲を真っ直ぐ見つめた。

しばらくして彼は言った。

「光雲は彼女とは……違うんだ」

光雲は必死に答えを知りたがって、涙を拭きながら彼に身を寄せ、尋ねた。

「どこが違うの?霧江が五年も溪のそばにいたから、溪は彼女を好きになったの?」

溪は微かに驚きの表情を見せ、唇を動かしたが、結局何も言わなかった。

光雲の顔には、傷ついた表情が浮かんでいた。

彼女は憤然と顔を下げ、溪の唇にキスをした。

「彼女のことなんか考えちゃダメ」

溪は突然のことに体をこわばらせ、彼女を押しのけようとしたが、彼女のお腹の中の子供を思って、その手は腰に回り、しっかりと抱き寄せる形になった。

光雲は嗚咽しながら、涙を浮かべて彼にしがみつき、言った。

「溪、私は溪しかいないんだよ……」

彼は最後に彼女を傷つけないようにするためか、目を閉じて、彼女の後頭部を引き寄せてキスを深めた。

その瞬間、私は気分が悪くなった。
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