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第13話

「伊吹嵐、正直に言って、これは全てあなたがやったのか」

彼女が眉を寄せて尋ねた。

「今朝の件で、君が高橋課長に不満を抱くことを知っていたが、このような過激な方法で問題を解決するべきではない」

伊吹嵐は一瞬困惑した。自分が東田智子のために助けて、結局は彼女に誤解され、他人の側に立たれるとは思わなかった。

彼は徹底的にがっかりして嘲笑した。

「つまり、あなたも私を信じていないってわけですね。では、東田社長が私がやったと思っているなら、それでしょう」

とにかく彼がどれだけ説明しても、これらの人たちは全て耳に入れない。

東田智子は心臓がドキリとした。

「私が絶対にあなたがやったと言ったわけではない。ただ問いただしているだけよ」

「図々しいなあ。東田社長にそのように話すとは、一体自分が何者だと思ってるんだ。東田社長、このような風上にも置けぬやつはクビにすべきだ」

東田正明の部下たちはすぐに騒ぎ出した。

上野浩志も軽蔑した表情を浮かべた。

「東田社長、これについては何らかの説明をください。私は無理矢理犯罪者にされたくないよ」

そして高橋輝と密かに笑みを交わし、お互いに相手の考えを知っている。

東田智子の冷ややかな顔は一瞬で葛藤を抱える。

実際、彼女もこの事が伊吹嵐のしわざだと完全には信じていない。

しかし、皆が彼が人を殴ったのを目撃しており、さらに、彼ははっきりとした証拠もない。

もし今、彼女が伊吹嵐を庇うと、矢面に立つに違いない。

彼女のこの地位においては、多くの考慮が必要だった。

その時、沈黙していた鈴木美香が口を挟んできた。

「高橋課長、君が一人で健気に抵抗し、七八人を打ち負かしたと言った。でも君の体で、本当に七八人の強者を一度に倒せたか?」

「東田社長、この点が非常に疑わしいと思う」

鈴木美香の一言で、東田智子は突然気付いて、冷ややかに言った。

「そうだね。高橋課長、君がいつも階段を上がるのが苦しいと聞いていたが、多くの人をいっきに倒せたか?」

高橋輝が途端に言葉に支えた。

東田正明が大声で言った。

「それでも、このことが、上野さんが高橋課長にそそのかされたという証拠にはならない。智子、上野さんはうちの重要な顧客だよ。一人のインターン生のために彼と対立するつもりか?必ず解雇すべきだ」

東田智子が眉を寄せた。

「この件は後で調査して、今は教えていただかなくて結構だ。

「両者ともに罰を与える、高橋輝は10日間の停職だ。伊吹嵐は半月の給料カットする。今日はこれでやめにしょう。

「誰かが解雇について何か言うなら、私が顔を立てないことになるよ」

彼女のその冷ややかな口振りを聞いて、皆は渋々口を閉ざした。

上野浩志は表情が一瞬で変わり、くそっ、この奴がまた逃げ切った。

しかし、焦る必要はない。とにかく、今夜東田智子がおれの女になる。それが最も重要だ。

上野浩志がその極上の美貌を持つ東田智子を見つめ、目の奥に貪欲と狂気がちらちらと見えた。

伊吹嵐がそれを聞いて、振り返りもせずに去った。

「どうでもいい、あなたたちの勝手にしろ」

彼はもう東田智子に何も言うことはない。

この女が自分に対して、最も基本的な信頼すら持っていないことを知り、彼は完全に失望した。

東田智子は眉をひそめた。

「この男、何かあるたびにこんなに無鉄砲だわ。今朝人を殴って、午後にまた問題を起こして…このやつはもう救われない」

自分がいなければ、彼はとっくに解雇されていたのに、感謝の気持ちもない。

そばで鈴木美香は彼の背中を見つめながら小声で東田智子に言った。

「智子ちゃん、私はこの事が胡散臭いと思う。あなたは本当に伊吹嵐を冤罪にしてしまったかもしれない」

東田智子はこめかみを押さえながら言った。

「美香ちゃん、今は頭が混乱してるから、もう何も言わないで、この件は後でまた話し合おう」

彼女は今、プロジェクトに集中しなければならない。他のことに気を取られる余裕はない。

しかし、鈴木美香は納得できない。さらに伊吹嵐に興味を持ち、口実をつけて早めに退勤することにした。

すぐに、長いリムジンのロールスロイス・ファントムが会社の前に停車した。

燕尾服を着た年配の執事が出てきて、「お嬢様、お迎えに上がりました」と言った。

「吉田さん、あの自転車に乗っている男性を追って」

鈴木美香が車に乗り込み、少し離れたところにいる伊吹嵐を指さした。

仕事が終わった後の伊吹嵐は、気分がとても沈んでいた。

そこで自転車に乗って、地元の骨董市場に向かった。ここには多くの地下情報販売人がいて、おそらくV組織の手がかりをつかむことができるだろう。

しかし、尋ねてみたところ、すべてが空振りに終わった。世界の一番の暗黒組織の情報は、そう簡単に探り当てることはできないのだ。

その時、彼はいつの間にか翡翠の店の前に来ていた。ここはとてもにぎやかだった。

人々は宝石を賭けている(これは翡翠の原石の取引方法であり、翡翠は採掘時にその品質を確定することはできず、切断後にしか分からないからだ。だから、ギャンブルと同じだ)。

賭けているのは普通の翡翠ではなく、最高級の原石である赤珊瑚だった。

薬用としても使用でき、魔除けとしても知られている。

価値の高い玉料であり、玉石よりもはるかに高価だ。

赤珊瑚の中で最も貴重な種類は帝王炎だ。かつて天価で取引されたことがある。

伊吹嵐も進み出た。参加している人は七、八人がある。小規模だから、ただ数万円程度だった。

唯一、金のネックレスを身に着けた丸坊主の男性だけが、しばしば何百万も投資していた。

「10個の上級品質、30個の中級品質、100個の下級品質を買います」

彼はずいぶん投資した。

しかし、結局は全てが無駄で、一つも赤珊瑚を手に入れられない。不満そうに言った。

「おまえたちの店はどうなってるんだ?俺はもう四千万以上かかったぞ、赤珊瑚のかけらも見つからない」

「お客様、石を賭けるのは運次第ですから、赤珊瑚が出る確率は、たとえ上級原石でも千分の一です」

店主は笑って言った。

「でも、こちらの最高級原石があり、、赤珊瑚が出る確率が十分の一と言われていますよ。ただ、価格が少し高いですね、二億円です」

周りの人たちは一斉に息をのんだ。十分の一であっても、二億円は高すぎる。

しかし、あの男は気にせない。いささかも躊躇することなく承知した。

「二億円なら二億だ。その石を出して解石させてくれ」

それから、カードを机の上に置いた。

店主は大喜びで、最高級の原石を取り出させた。確かに見た目が素晴らしく、皆が感嘆の声をあげた。

しかし、誰も気付かなかったのは、その店主の目に一瞬狡猾な光がちらついたことだった。

こんな素人を騙すのは簡単で、これで大儲けできる。

彼は手を振って、「早く、このお客様のために石を解いて」と言った。

「ちょっと待って」

突然、場違いな声がした。

「あの、だまされないで。この最高級原石は偽物だ」

この話は人々をあっけに取られた。

ええ、この最高級原石、偽物?

皆が驚いて、伊吹嵐に注目した。

それから、彼は、隅っこにある錆び付いて黒ずんだ見苦しい石を指した。

「この石の可能性があると思う」

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