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第8話

父さんは私たちより早くタイに到着しており、空港には迎えの人を手配してくれていた。

「和樹、今回の件はお前が罠にかけられたんだ。国内の寺院をあちこち調べたが、誰もこんな術について知らなかったよ」

「だが、ある東南アジアの商人が、タイにアジャンという師匠がいて、彼がそういう術を知っていると教えてくれた」

「詳しいことは、明日彼に会って話を聞いてみないと分からない」

私は黙って頷き、心の中で「まあ、急ぐ必要はないな」と考えた。

ホテルに着いた頃には、夜が明けるまであと数時間しかなかった。

私はスマホを手に取り、短編動画をチェックしていた。

すると、長らくフォローしている音楽系のブロガーが新しい動画をアップしているのを見つけた。興味を引かれて見てみると、なんと悠太の「打倒」動画だった。

そのブロガーは言っていた。「悠太は有名な音楽大学の学生なんかじゃない。実際にはただの金で入れる三流大学出身だ」

「彼の海外のSNSをくまなく調べたけど、音楽に関する投稿は一切していない。フォローしているのはみんな、遊んでばかりいる金持ちのボンボンだ」

「彼の3曲の『オリジナル』も、実際はどこかから盗作したものだと疑っている」

動画が投稿されて間もなく、コメント欄にはすでに何万もの返信がついていた。

「最初から、こいつは作曲の才子なんかじゃないって言ってたんだ。でも、当時は誰も信じてくれなかった」

「私、彼の高校の同級生なんだけどさ。高校時代の悠太はタバコ吸ってケンカばっかしてたんだ。普通の国立大学すら受からなくて、楽譜の読み方さえ知らなかったよ。それが芸能界に入ってから突然作曲の天才になっただなんて、信じられない」

私は動画に見入っていて、時間を忘れてしまっていた。ドアをノックする音でようやく気がつくと、すでに朝になっていた。

父さんは白い服を着た、顔中にタトゥーを入れた男を連れて部屋に入ってきた。

その男は細めた目で私を頭の先から足の先までじっと見つめた後、私の右手の指輪に視線を止めた。

彼はタイ語で何かを言い、通訳が私に伝えた。

「渡辺公子さん、その指輪はどこから来たのですか?」

「これは、私の彼女がくれたものです。何か問題でもありますか?」

私は無意識に指輪をくるくると回した。別れた後も、この指輪を外すことはなかったので、もう習慣になっていた。

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