共有

第6話

柳時彦は静かに膝を屈め、母の墓石の汚れを拭いていた。その表情は穏やかだった。

「お母さん、もう一ついいニュースがあるんだ。晴香と結婚することにしたよ。

彼女は幼い頃から、お母さんが見守ってきた人だし、私たちの結婚、きっと喜んでくれるよね。

神原安子のことについては、私、後悔してる」

その時、雷が轟くような音が空に響き渡り、厚い雲が低く垂れ込めてきた。

しかし、柳時彦の「後悔」という言葉は、この雷の音よりもはっきりとしており、耳に響いた。

私は茫然と彼の後を追った。彼が親切に柳晴香のために車のドアを開け、結婚式の日を選んでいるのを見ながら。

彼らはまるで理想的なカップルで、以前の私の存在はただの通過点に過ぎなかった。

今、彼らの試練は過ぎ去り、愛する二人がついに結ばれるのだ。

私が期待していた結婚式は、全く同じものが柳晴香に与えられた。

ウエディングドレス、指輪、結婚式の案内状......

彼は何もかも忘れ、会社のことも気にせず、全てを柳晴香との結婚式に没頭していた。

しかし、嬉しいことに、私はどうやら柳時彦から離れられそうだった。

彼と柳晴香がデートしているとき、私は無意識に彼の後を追うことはなかった。

彼と柳晴香がウエディングフォトを撮っているとき、私は車の中に留まって、彼から数千メートルも離れていられた。

私は彼の傍にいないように努力し、彼から距離を置こうとした。

まさか成功するとは思っていなかった。

そして、私は待ちきれないほど逃げ出した。

遠くに逃げ、まるで孤魂のように街中を彷徨った。

「安子!」

足を止め、ふわりと振り返ると、濃い夜の闇の中、鈴川清が街灯の下に立ち、手にビールの束を提げていた。

私を見つけると、彼の目には感動の涙が浮かんでいた。

「安子、本当に君だ」

私は、鈴川清が私を見ることができることをほとんど忘れていた。

彼はその場に慎重に立ち、まるで一瞬でも目を閉じたら、ただの幻想になってしまうのではないかと恐れていた。

私は笑顔で頷いた。

「ぱりん」ビンが地面に落ち、割れて酒が鈴川清のズボンにかかった。

彼は泣きながら両腕を広げたが、ただの空気を抱きしめることしかできなかった。

しばらくの間、彼は呆然とし、慌てたような表情を浮かべた。

「安子、どうして?どうして君に触れられないんだ?安子」
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status