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第3話

後ろ盾を得た北原萌香は、会社でますます傍若無人になっていった。あの日私に告げ口した同僚の木村も、彼女のせいで会社を去ることになった。

柏原介の言う通り、私は木村を残す権力すらなかった。

それでも会社のために、私は柏原介と利害関係を持ち続け、彼の妻として宴会に出席する必要があった。この宴会は、多くの顧客や提携先との接触の場でもあり、非常に重要なものだった。

私は常連のブランドジュエリー店に連絡を入れ、ネックレスを選ぶための予約を入れていた。

ところが、VIPルームに入ると、北原萌香がそこにいた。

彼女とは関わりたくないため、商品カタログから欲しいものを選んで早々に立ち去ろうとした。

すると、北原萌香の隣にいたマネージャーが困った様子で、「申し訳ありません、このネックレスは一つしかなく、既に北原様がご予約されています」と言った。

このネックレスはほぼ一億円の価値がある。北原萌香がそんなものを買えるはずがない。どうせ柏原介が支払うのだろう。

北原萌香はにこやかに笑って私に言った。「申し訳ないですが、柏原専務。遅かったですね。もう私のものです。」

あの女の得意げな様子を見ていると、吐き気すら覚えた。

挑発されるつもりはなく、私は冷静に言った。「そのネックレスはもういらないわ。貧乏人に目をつけられたものなんて欲しくないから。」

北原萌香の顔が一瞬曇ったが、すぐにさらに甘い笑顔を浮かべた。「毎年柏原社長からの誕生日プレゼントって、一束の花だけだって聞いたけど、どんなに高価な花でしょうか?それとも、専務は安物がお好きなのかしら?」

北原萌香は明らかに柏原介から何かを聞かされているに違いない。

付き合った頃でさえ、柏原介は今のように惜しみなくお金を使うことはなかった。

当時、彼の会社は成長期にあり、時には資金繰りが厳しかった。彼はそんなに余裕があるわけではなかったのだ。私は彼の事情を知っていたので、高価な贈り物を要求することは一度もなかった。冗談めかして「高橋家のお嬢様を甘く見てるの?」と言ったこともある。豪華な車や高級時計、宝石や首飾り――そんなもの、私が見たことがなかったのか?どれだけ高価なものを贈ってきても、私にとっては一束の花と同じだ。

私はそれを心からそう思っていた。物の価値はどうでもよかった。私は、愛情はお金で測れるものではないと信じていたからだ。

しかし、一束のバラが表す感情は、柏原介と北原萌香が非常に親密な今、いかに滑稽に思えることか。

私はサービスマネージャーに向き直り、「物が多すぎるので、選ぶのをやめて、最も高価なシリーズを全部予約してください」と言った。

誰かに贈ってもらう必要はない、自分で買い取ることができる。

しかし、心の中にはジュエリーを買い取る快感はまったくなかった。

自分で買ったものは、結局、柏原介から贈られたものとは違う。

ジュエリーショップを出ると、階段の入り口まで来たところで、北原萌香が追いかけてきた。

「柏原専務、お金があっても何の意味がありますか? 社長はもうあなたを愛していませんよ、自分を欺かない方がいいでしょうか。」

私は彼女を無視しようと思ったが、彼女は私を逃がさず、密かに録音した携帯電話の音声を再生し始めた。

その中には、明らかに柏原介の声が録音されていた。

「俺は清夏をずっと我慢していた。彼女は何でも自分の思い通りにしたがる。彼女は、七年前に私が彼女にすがりついていた時とでも思っているのか?」

次に流れたのは、北原萌香の甘ったるい慰めの声だった。

心の中は凍りついた。私は柏原が私を「我慢」していたことなど知らなかった。一体、彼はいつから「我慢」し始めたのかを考えざるを得なかった。

私たちが会社の方針で争った時だったのか?

結婚後、子供を持たない、職場に留まるという要求を私が出したとき、彼が我慢していたのか?

それとも、それよりも前、彼が私と付き合った頃から、私の家柄のために我慢していたのか?

それなら、彼は果たして……私を愛していたことがあるのか?

「専務、まだ気づいていませんか? 負けた原因は、お金持ちで有能すぎたことですよ」と、北原萌香は得意げに私の腕を掴んだ。

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