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第269話

詩織は取り消された婚約式のことを思い出し、夜も眠れないほど腹が立った。

すべてが順調だったのに、あの日に限って多くの予期せぬことが起こり、最終的に婚約が取り消されてしまった。

北は眉を上げた。

「私のせい?」

「拓海は、あなたが渡辺おばあさんの手術を引き受けたのが私のためじゃないと言った!」

北は咳払いをして、頷いて答えた。

「そうだな、確かにお前のためではない」

詩織はこの答えを聞くと、信じられない様子だった。

「北兄さん、何を言っているの?私のためじゃないなら、まさか、拓海のためにこの手術を引き受けたの?あなたはずっと拓海のことを嫌っていたじゃない」

「そうだ」

「私のためじゃないなら、誰のため?」

詩織もこれまで調査してきたが、何も分からなかった。

しかし、すべてが非常に不自然であった。

北は極めて冷静な表情で言った。

「詩織、あまり詮索しても意味はないよ。ただ一つ忠告しておく。嘘が通用するのは一瞬だけで、一生ではない。今回の婚約もお前の嘘が原因だ!」

「北兄さん、確かに私は嘘をついたけど、なぜ渡辺おばあさんの手術を引き受けたの?誰のため?なぜ渡辺おばあさんの手術を引き受けたのか、誰のために手術を決意したのか、話してくれないの?」

「詩織、それはあなたが関与すべき問題ではない。帰りなさい」

詩織は目に涙を浮かべた。

「北兄さん、あなたと平野兄さんは、何か私に隠していることがあるの?平野兄さんは私に、養子縁組解消書類にサインしろって言ってきたわ。これだけ長い間家族だったのに、なぜ突然私を追い出そうとするの?」

北は黙った。

本来なら婚約後に詩織に話すつもりだった。

しかし、その後多くの予期せぬ出来事が起こったため、今のところは一時的に保留するしかなかった。

北は目の前の詩織を見つめた。

「私に答える義務はない」

そう言うと、北はオフィスを出て行った。

詩織は一人でぼんやりと立ち尽くした。

彼女はすべてがおかしいと感じていたが、何が原因なのか分からなかった。

このとき、一人の看護師が近づいてきて、詩織に氷を親切そうに渡した。

「これで冷やすと良くなりますよ」

「ありがとう」

詩織は氷を受け取って頬に当て、慌てて涙を拭いた。

隣の看護師が言った。

「あなたは小林先生の妹さんですよね?」

詩織は柔和なふ
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