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第249話

紗希は地面に倒れると思っていたが、結局そうはならなかった。

彼女は再び体を立て直した。

左右の手をそれぞれ誰かに引かれたことで、地面に転ぶという悲劇を免れたようだ。

彼女はほっと胸をなで下ろした。

もし本当に転んでいたら、お腹の中の赤ちゃんはどうなっていたのだろうか。

養父母と激しく言い争った時も、彼女は理性を失っていて、後で思い返し非常に後悔した。

衝動は悪魔だ。

紗希は自分の手を引っ込めようとしたが、二人の男性は手を放さなかった。

周りの空気が一瞬静かになった。

紗希が風間と拓海を見た後、二人の男性はようやく手を離した。

自由になった彼女は咳払いをしながら言った。

「ありがとう」

風間は笑って言った。

「大丈夫だよ。お前が怪我をしたら労働災害だから。スタジオ代を節約するためにお前を助けたんだ」

紗希は思わず吹き出した。

「じゃあ、それなら、スタジオのお金を無駄にしないよう、もっと気をつけなればならないわね」

側にいた拓海は、二人がこんなに軽く冗談を言い合うのを見て、薄い唇を尖らせ、冷ややかな目で風間を見た。

風間はそれを感じ取り、拓海を見て言った。

「拓海さん、さっきはどうもありがとうございます」

拓海は言葉に詰まった。

「......」

生まれて初めて汚い言葉を吐きたくなった。

ありがとうなんて、冗談じゃない!

自分は自分の妻を助けたのに、他人にお礼を言われる必要があるのか?

紗希は拓海の表情がおかしいことに気づき、急いで言った。

「拓海さん、助けてありがとうございます!」

拓海は少し不機嫌そうに言った。

「それだけ?」

彼女は説明したいことは何もないのか?

紗希は少し戸惑って言った。

「善良な人は一生平安?」

拓海はむっとして言った。

「紗希、婚約式が始まるのを見ているだけで、何も言うことはないのか?」

さっき、彼女が今日の婚約会場をデザインしたと言っていた!

本当によくやってくれた!

彼女は今、嫌そうな素振りすらも見せないが、そんなに急いで他の女性と婚約させたいのか?

紗希は彼の深い瞳を見つめ、理解したようで、理解していないようだった。

しかし彼女は彼の目に宿る思いを理解したくなかった。

彼女は目を伏せて言った。

「確かに言いたいことが一つある」

拓海は息を少し止め、我慢して言
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