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第179話

詩織は目にうしろめたさを浮かべた。自分の本当の家族に見つかりたくなんてなかった。

最初に捨てられたということは、家族が彼女を望んでいなかったか、育てる余裕がなかったということだった。

今、小林家はこんなに裕福で、彼女は何年もお嬢様として暮らしてきた。なぜわざわざ実の両親を探して苦労する必要があるの?

実の両親なんて大切じゃない。

詩織は孤児院でたくさんの苦労をしてきたので、お金と地位がどれだけ大切かよく分かっていた。だから彼女には本当の家族を探す気なんてなかった。

詩織は無理に答えた。「私の家族を探すことと婚約は関係ない。今の私の家族はあなたたちだから、私と拓海の婚約式に出席してほしいの」

北は詮索するような目で見た。「詩織、お前は目的を達成しただろう。そして今、俺も渡辺おばあさんの手術を引き受けた。これ以上欲張るなよ」

「北兄さん、私も小林家の一員でしょ。あなた達に出席してもらうことが、欲張りなことなの?」

「確かに最初は平野兄さんがお前を孤児院から連れてきた。でも実は、僕は平野兄さんのその決定に最初から賛成していなかった。だから、お前を妹として扱ったことは一度もない。それに、詩織、この何年間、お前は小林家のお嬢様という立場を利用して何をしてきたか、お前もよく分かっているはずだ。僕はお前がどういう人間なのか分かった。だから、お前は身分をわきまえたほうがいい」

北は詩織がどんな人間か分かっていたからこそ、詩織が極端なことをしないように、身分を隠し、紗希の存在も明かさないことに同意した。

詩織は心にあった最後の希望も完全に砕かれて、もう取り繕っても無駄だと分かった。

子供の頃、北に何度か本当の彼女を見られてしまったことがあった。だから、北が正体をバラすのを避けるため、彼女はいつも北から遠ざかっていた。

詩織は目に浮かんだ涙をぬぐい、冷静に答えた。「北兄さん、とにかく平野兄さんは私の婚約に家族を同席させることを約束した。もし来てくれないなら、おばあさんに話すしかない」

「そんなことをしないで」

「北兄さん、私だっておばあさんの邪魔をするつもりはない。この何年間、おばあさんは私にとても優しくしてくれたから。でも、私はただ、婚約パーティに家族で出席したいだけなのよ」

詩織はそう言うと、すぐに立ち去った。しかし、彼女の顔色はとても悪かった。北にす
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