第117話

拓海は箸を置き、力強い目で彼女を見つめた。

紗希は深呼吸をして言った。「どうして祖母の担当医を変えたの？詩織のお兄さんはこの分野で最も優秀な医師なのに。彼に祖母の手術をしてもらえば、万全だったのに。」

男は目を暗くし、のどをわずかに動かした。「誰から聞いた？」

「今日、病院で祖母のお見舞いに行った時、あなたのお母さんに会ったの。」

拓海は体を後ろに寄りかけ、薄い唇を冷たく結んだ。「それで？お前の言いたいことは？」

「拓海、詩織のお兄さんの条件を受け入れるべきだと思う。あなたには何の損失もないんだから。」

紗希が言い終わると、レストランの雰囲気が凍りついた。

彼女は目の前の男を見て、突然彼が理解できなくなった気がした。

拓海は皮肉っぽく笑った。「何の損失もない？お前は早く離婚して、次の男の腕に飛び込みたいんだろう。そんな立派な理由を探す必要はないよ。」

「そう、その通りよ。これはあなたや私や祖母にとっても最良の選択なの。」

「それはお前一人の考えだ。」

男はきしむ音を立てながら椅子を押しのけて立ち上がった。彼女は彼を見上げた。「じゃあ、あなたの考えは？」

拓海はその場に立ったまま、背後から彼女の声が聞こえたが、表情ははっきりしなかった。「お前には関係ない。」

「拓海、ずっと離婚を引き延ばしているけど、もしかして私のことが好きになったの？」

男は背中が一瞬こわばり、すぐに振り返った。その口調は高慢だった。「紗希、誰がそんなことを言う勇気をくれたんだ？」

「違うの？」

紗希は実際にはただ気のままに放言を飛ばしただけで、ただ彼を怒らせて離婚に同意させたかっただけだ。

彼は薄い唇を冷たく結んだ。「これはただおばあさんのためだ。一度婚姻を利用して計算された以上、二度と脅迫を受けはしない」

紗希は一瞬戸惑った。彼が彼女との結婚のことを指していることを理解した。

彼の目に冷たさと嫌悪感を見て、彼がその結婚をどれほど嫌っていたかを突然理解し、胸が詰まった。

彼女は目を伏せた。「私たちの離婚のことは祖母に言わなくていい。あなたと詩織のことも言わないわ。祖母が手術を終えるまで、おばあさんは何も知らないままよ。」

彼女は今や目が覚めたように、もう彼に執着しないと決心した。

拓海は心に不思議な苛立ちが湧き上がり、眉をひそめた。「紗希、俺達の結婚がい