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第120話

「松本おばさん、私は大丈夫、彼の仕事のことは理解できているから」

紗希は何も起こっていないかのように振る舞い、夕食後は育児専門家と一緒に妊婦に関する知識を学んだ。これこそは今彼女が学ぶべきことだった。

彼女も多くのことを必死に忘れたいと思った。

翌日、紗希はニュースをチェックしていると、あるエンターテインメントニュースが目に入った——「お令嬢―詩織は恋人と夕食後、一緒にジュエリーショップで指輪を購入した」

このニュースを見て、彼女の気分は重くなった。

前回と同じで、正面の顔の写真は撮っていないが、その後ろ姿から拓海と詩織だと分かった。

昨日区役所で離婚手続きをしたばかりなのに、その夜には二人で指輪を買いに行っていた。

随分と速いペースだった。

紗希は携帯を閉じ、余計なことを考えないようにするために、妊婦の知識学習に集中した。

午後は授業がなかったので、彼女はスタジオに行って仕事をした。今は本当にお金が必要だった。

男より稼ぐことの方が大切だ。

数日間、拓海は新居に戻らなかったが、紗希は何とも思わなかった、普通に食事をし、赤ちゃんの知識を特に熱心に学んでいた。

渡辺おばあさんは病状がよくなり、集中治療室から一般病室に移された。

紗希は手作りのスープを持って渡辺おばあさんを見舞いに病院へ行った。病室のドアを開けると、詩織と美蘭もいたのを見た。

拓海も傍に立っていた。

彼女は足を止めた。「後で入るよ」

このような状況では、家族の時間を邪魔するのは適切ではないと思ったからだ。

しかし、渡辺おばあさんは笑顔で彼女に手を振った。「早く来なさい。何を言ってるの」

紗希は気が進まない様子で近づいた。隣の詩織は作り笑いを浮かべて立ち上がった。「紗希さん、ここに座ってください」

紗希は座らず、保温容器をベッドサイドのテーブルに置いた。「おばあさん、これは私が手作りしたスープです。後で少し飲んでくださいね」

「ありがとう、忘れないわ。最近はどう?お腹の赤ちゃんは気になっているの?」

子供の話題が出ると、病室の雰囲気は少し気まずくなった。

紗希は少し落ち着かない様子で答えた。「赤ちゃんはとても大人しいです。実は私、楽をさせてもらっています」

渡辺おばあさんは笑って言った。「昔、あなたの義母が拓海を妊娠していた時も同じだったわ。特に楽だったのよ」
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