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消えた子
消えた子
著者: 落合 彩月

第1話

娘の名前は山田雪奈、4歳だ。とても可愛くて、おとなしく、決して走り回ったりしない。

数日前、近所に新しい公園ができたので、雪奈を連れて散歩がてら行ってみた。

最初、雪奈はとても楽しそうで、他の子どもたちと一緒に滑り台で遊び、夢中になっていた。

汗を拭いてあげるために近づいたら、雪奈は一瞬静かになり、上を向いて聞いてきた。「パパ、あの姉ちゃん、どうして一緒に遊ばないの?」

雪奈が指差す先を見たが、そこには誰もいなかった。

公園は人で溢れ、騒がしかったので、見間違いだろうと思い、適当に答えた。

「あのその姉ちゃん、きっと遊び疲れたんだろう。他の子たちと遊んでいなさい」

雪奈は素直に頷き、再び滑り台へと戻っていった。

その間、他の親たちと話していると、母親たちは「こんなに忍耐強く子どもを見守るお父さんは珍しい」と褒めてくれた。

「妻は体があまり丈夫じゃなくて、外での活動は好きじゃないんだ」と笑いながら答えた。

妻の中村月子は体力がないものの、家では雪奈への愛情を惜しむことはない。

話が終わらないうちに、突然滑り台のほうから聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。それは間違いなく雪奈の声だった。

急いで駆け寄ってみると、雪奈は地面に座り込んでいて、怯えた表情で、ぷくぷくした小さな手で膝を押さえていた。膝には少しすり傷ができていた。

「雪奈、どうしたんだ?滑り台から落ちたのか?」

彼女は悔しそうに小さな声で言った。「誰かが押したんだと思う。でも、誰かはわからない......」

少し苛立ちながら、周りの子どもたちを見渡したが、みんな無邪気な顔をしていて、雪奈が泣いていることに戸惑っているようだった。

雪奈自身も誰が押したのか見えなかったようで、ケガも軽かったので、仕方なくそのまま家に連れて帰った。それ以上の追及はできなかった。

しかし、月子がその話を聞くと激怒し、雪奈のために説明を求めようとした。必死に説得した。

「子どもが転んだりするのはよくあることだよ。次からはもっと気をつけるから、もう雪奈にケガをさせたりしないさ」

月子は僕を弱腰だと思っているようだったが、これ以上口論したくはなかった。彼女が娘を思う気持ちは十分理解していたからだ。

雪奈を寝かしつけたあと、ひとりで公園に行き、タバコを吸いながら散歩した。

時間も遅くなり、公園にはもう子どもの声はなく、たまに散歩する大人が数人いるくらいだった。

風のない夜、ブランコが静かに揺れていたが、特に気に留めることもなかった。きっと子どもたちが遊んだ後だろうと思っただけだ。

別のブランコに腰を下ろし、夜空に浮かぶ月を見上げた。周りには一つの星もなかった。

そのとき、突然耳元で幼い声が笑いながら囁いた。

「どうしてブランコに乗らないの?押してあげるよ!」

次の瞬間、足が地面から離れ、身体がふわりと浮いた感覚がした。僕が反射的にブランコのロープを握りしめた。

足でブランコを止め、振り返ってみた。

しかし、背後には夜の闇が広がるだけで、誰もいなかった。

寒気が走り、誰かに見られているような得体の知れない感覚が押し寄せた。

ここ最近、仕事と育児の疲れが溜まっているせいで、幻覚を見たのだろうと自分に言い聞かせた。

タバコを一本吸い終えると、公園を後にした。

しかし、どうしても気になったのは、隣のブランコがまだ揺れていたことだった。それも、とても高く、遠くまで。

その後、もうあの公園で雪奈を遊ばせるのは気が進まなかった。だが、彼女はあそこの遊具にすっかり夢中になり、甘えた声で「もう一度行きたい」とせがんできた。

雪奈の可愛らしいおねだりに勝てるわけもなく、仕方なく再び公園へ連れて行った。

今回はしっかりと注意を払うことにした。子どもが夢中になるのは自然なことだが、親としては監護の責任を果たさねばならない。

雪奈は砂場に座り、小さなシャベルで砂を掬いながら楽しそうに遊んでいた。

その時、彼女はくすくす笑いながらこう言った。

「姉ちゃん、砂で作ったこのクマさん、すごく可愛いね!」

しかし、砂場にはクマの形をしたものなどどこにもなかった。

前回のことが頭をよぎり、僕は少し不安になったが、適当な理由をつけて切り上げることにした。

「ママが早く帰ってご飯にしようって言ってるよ。雪奈、帰ろうか」

雪奈を抱き上げた瞬間、彼女が座っていた砂場のそばに小さな足跡が乱雑に残っていることに気づいた。

砂場に入る子どもたちは通常、靴を脱いで裸足で入るものだ。しかし、その足跡は靴を履いていて、しかも、昔子どもの頃に履いていた布靴のような形だった。

その瞬間、背筋に冷たいものが走り、雪奈を抱きしめたまま急いで家に戻った。

たとえ次にどんなに彼女が公園に行きたいとせがんでも、もう二度とあそこには連れて行かないと心に決めた。

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