All Chapters of 消えた子: Chapter 1 - Chapter 9

夜になり、いつものように雪奈を寝かしつけた。彼女の寝顔を見ていると、ふとした衝動で、ずっと使っていなかったベビーモニターを起動させた。これは、雪奈が生まれて数か月の頃に設置したもので、携帯のアプリで彼女の様子を確認できるようにしていた。泣いたりぐずったりすると、アプリから通知が来る仕組みだ。雪奈が幼稚園に通い始めてからは、このモニターを使わなくなっていた。だが、今夜は何故か不安で、モニターがあった方が安心だと思った。一晩中、アプリは何の異常も知らせなかったので、ほっとした。翌朝、いつものように雪奈を起こしに行くため、部屋のドアを開けた。だが、彼女はベッドにいなかった。すぐに不安が押し寄せ、ベッドの後ろや、下、クローゼットなど、隠れそうな場所を探したが、雪奈の姿はどこにも見当たらなかった。僕は慌てて月子を起こした。彼女も混乱しており、二人で家中を探し回ったが、雪奈は忽然と消えてしまった。震える手で警察に通報したものの、失踪からの時間が短く、これが犯罪である証拠もなかったため、高橋諒という警察が一人調査に来ただけだった。玄関や窓には侵入された形跡はなかったが、雪奈の部屋の窓は開いていた。子どもが生まれてから、僕たちは常に慎重にしている。家に雪奈がいるときは、必ず窓をロックしていた。不思議なことに、雪奈が自分で窓を開けて外に出たのだろうか？我が家は2階で、それほど高くはないが、4歳の子どもが怪我もせずに飛び降りられるものなのか？幸いにも、昨夜設定したベビーモニターは正常に動作していたので、僕は急いでその映像を高橋に見せた。映像では、雪奈がベッドでぐっすり眠っている姿が映し出されていた。そして、午前1時、モニターが「保護者が監視エリアに入った」と通知を出した。だが、映像を見ても部屋には誰もおらず、寝ている雪奈だけが映っていた。次の瞬間、雪奈に掛けられた布団が少し凹み、彼女は目を覚ました。眠そうに目をこすりながら、彼女はベッドのそばに向かって話しかけていた。だが、その表情は怯えている様子もなく、むしろ楽しげに笑っていた。その後、雪奈はベッドから降り、机に上って窓を開け、そこから消えてしまった。僕と月子は言葉を失った。強盗や人さらいよりも恐ろしい、目に見えない何かが、僕の娘を連れ去ったの

ベッドに横たわっていると、月子が寝返りを打ちながら眠れない様子がはっきりと感じられた。僕も同じく眠れずにいたが、僕が心配しているのは雪奈が無事に戻ってくるかどうかだった。それに対して、月子は何か別のことで緊張しているように見えた。一晩中、半分夢うつつの状態で過ごし、時折夢の中で雪奈が僕を呼ぶのを感じた。だが、近づいてみるとそこにいるのは雪奈ではなく、月子の顔だった。最後に目を覚ましたのは、電話の音だった。電話をかけてきたのは高田陽菜という女性警官だった。「山田健太郎さんですか？お嬢さんたちが見つかりましたよ。これから家に連れて帰ります」待ってくれ、僕には娘が一人、雪奈しかいない。なぜ彼女は「お嬢さんたち」と言ったのだろう？まもなくして、高田が家に到着し、警察手帳を見せてくれた。雪奈の姿を見た瞬間、僕は涙がこぼれそうになった。家を離れて何日も経っていたが、雪奈は驚くほどきれいで整った状態だった。まるで誰かにずっと世話されていたかのようだ。僕を見るなり、雪奈は嬉しそうに駆け寄り、「パパ！」と甘い声で呼んできた。「雪奈！いったいどこに行ってたんだ？雪奈がいなくなって、パパもママもどれだけ心配したと思ってるんだ！」月子は泣きながらしゃがみ込み、雪奈を抱きしめた。雪奈が話す前に、背後から幼い声が聞こえた。「そんなに慌てないで、パパとママ。この数日、妹と一緒に外で遊んでたんだよ。ちゃんと妹を守ってたんだから、大丈夫」続いて、高田の後ろからもう一人の子どもが現れた。年は7歳くらいで、確かに雪奈によく似ている。ただし、彼女の服装はどこか古臭く、履いているのはすり減った布靴だった。僕は全身に寒気を感じ、思わず震えた。「お前、誰をパパとママって呼んでるんだ？お前は誰なんだ？」その女の子は首をかしげて笑い、驚いたように言った。「冗談はやめてよ。あなたたちの長女、山田星奈だよ！」僕は月子と顔を見合わせ、お互いにゾッとした。僕たちは、娘が一人、雪奈しかいないことを確信していた。この「山田星奈」と名乗る少女は、どう考えても僕たちとは無関係だ。「こういうことです。今朝、二人の少女が道で迷子になっているという通報を受けて、警察で保護しました。年下の方があなたたちの娘、雪奈だと判明しました」と、高田は説明した。「

月子の体調はずっと良くなかった。幼い頃、大病を患い、命を落としかけたことがある。命は取り留めたものの、体質は依然として弱く、無理をしたり、感情を激しく動かしたりすることができない。雪奈が生まれてからは、ほとんどの時間、僕が彼女の世話をしていた。僕たちの口論は結局、何の結論にも至らなかった。というのも、月子が僕の手に付いたウサギの血を見た途端、急にトイレに駆け込み、吐き始めたからだ。彼女の弱々しく、無力な姿を見て、僕は信じるしかなかった。彼女が何を隠していようと、今は僕たちは家族として、この異常な状況を一緒に乗り越えるしかないのだ。翌日、僕たちは仕事を休み、雪奈を連れて家を出た。星奈は後ろから不気味な笑みを浮かべながら言った。「パパ、ママ、早く帰ってきてね」彼女を無視して、僕はすぐに月子と雪奈を連れ、市内へ向かった。人が多く、騒がしい場所なら、この恐怖感を和らげられるかもしれない。お義母さんが到着するまで、もうあの家には一歩も入りたくなかった。僕たちは賑やかな親子レストランを選び、温かい音楽とスタッフの親切な接客で、張り詰めていた神経が少し緩んだ。雪奈は嬉しそうに好きなメニューを選び、僕と月子もそれぞれ注文した。ところが、ウェイターはなぜかテーブルのそばから離れなかった。「料理をお願いします」「それでいいんですか？お客様、こちらは三人分ですよ。もう一人のお子さんはまだ注文していませんが？」僕は全身が凍りつき、ウェイターの視線を追って下を見ると、星奈がテーブルの下にいた。彼女は全身びしょ濡れで、黒い髪が顔に貼り付き、両手を床につけてカエルのようにしゃがんでいた。口は異常に大きく開き、あごの骨が信じられないほど広がっていた。長い舌が垂れ下がり、そこから血がポタポタと滴り落ちていた。僕は恐怖で体が震えた。ウェイターが心配そうに聞いた。「大丈夫ですか、お客様？」再び目を凝らすと、星奈は元の姿に戻っていた。彼女は普通の女の子のようにテーブルの下から軽々と出てきて、ウェイターに向かって言った。「私も妹と同じものをお願いします」ウェイターが去った後、僕は怒りと恐怖で感情を抑えきれず、星奈に問うた。「どうやってここまで来たんだ？お前は家で待っているべきだっただろう」「でも、あなたたちは戻る気がなかったじゃ

親子鑑定の結果を携帯で確認した僕は、完全に混乱の中に陥っていた。月子を見つめると、理解できない思いと恐怖が同時に心を支配していた。彼女はまるで巨大な謎そのものであり、同時にすべての謎の答えを知っているかのように思えた。出発の際、月子はどうしても車に乗ろうとしなかった。星奈はただお義母さんの隣に静かに座り、無理強いすることはなかった。しかし、僕は月子が油断した隙を見計らい、手刀で彼女の首の後ろを打ち、気絶させて車に押し込んだ。お義母さんは驚いた表情を見せたが、雪奈を一瞥し、結局僕の行動を黙認した。僕がこうしたのには少しの僕心があった。僕がこうしたのには少しの私心があった。雪奈の安全が何よりも優先だったからだ。どんなことがあっても、雪奈は無実で、傷つけられるべきではなかった。深夜になって、再びあの古びた家に戻ると、僕は強烈な重圧を感じた。星奈は迷いなく家に入り込み、まるで自分の家に帰ってきたかのようだった。彼女は雪奈を連れており、その手は雪奈の首にかかっていた。ほんの少しの力で、その首を折ることができるかのように見えた。「雪奈、外に遊びに行こうよ。裏山の池でオタマジャクシをすくおう」それを聞いたお義母さんの顔は真っ青になり、星奈に向かって必死に首を振った。「もう夜遅いから、明日の朝にしなさい」星奈は無邪気な顔をして、お義母さんを見上げた。「雪奈と一緒に遊ぶって約束したじゃん。なんで守らないの？」僕はプライドを捨てて、彼女に懇願した。「僕が一緒に行くから、頼む、雪奈を連れて行かないでくれ。君が何をするつもりでも、付き合う！」「うるさい！お前が賢ければ、朝になったら雪奈を返してやるよ。すべてはお前の行動次第だよ」彼女は簡単に僕を振り払った。星奈の力は、最初に比べてさらに強大になっていた。家に戻ったせいなのか、それとも月子の血を飲んだせいなのか、理由はわからない。武器を探して彼女に対抗しようと思ったが、それでは雪奈が傷つくのが先だ。僕は絶望の中で彼女たちの姿が裏山へ消えていくのを見つめ、家の中で神経質に歩き回り続けた。星奈が「僕の行動次第」と言ったが、どうすれば雪奈を取り戻せるのか、まったくわからなかった。お義母さんはまだ気絶している月子を見下ろし、自分の切られた手首を見つめながら、大きな