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第329話

桃の名前を呼んだものの、雅彦はそれ以上何を言えばいいのかわからなかった。

桃は雅彦の声を聞いて、ここが雅彦の領域であることを思い出し、油断できないと思った。

振り返ると、雅彦が真剣な表情で翔吾を見つめていたのが目に入った。

桃の心は一瞬止まったような気がし、無意識に唇を噛み、立ち上がって翔吾の前に立ち、翔吾の顔を見えないように庇った。

「雅彦、あなたはちゃんと説明すべきじゃないの?これは一体どういうことなの?」桃の声には冷たさが感じられた。「私の子供はちゃんと幼稚園で授業を受けていたのに、どうやって彼を学校から連れ出してここに連れてきたの?これは誘拐とも言える行為だよ。私は警察に通報してもいいのよ」

桃の問いに、雅彦は我に返った。

桃の目に浮かぶ強い不信感を見て、雅彦の胸のあたりがひどく痛んだ。何か説明しようと思ったが、どうせ話しても桃は信じないだろうとわかっていた。

しかし今、雅彦はそれどころではなかった。彼は前に進み、一気に桃の手首を掴んで言った。「話したいことがある。外で話そう」

桃が反応する間もなく、雅彦に引っ張られてオフィスを出た。翔吾はその様子を見て、慌てて追いかけようとした。「何するんだ!ママを放してよ!何か言いたいことがあるなら僕に言えよ!彼女には関係ないだろう!」

翔吾が追いかけてきたのを見て、雅彦は海に目で合図を送り、海は急いで翔吾を抱きかかえた。

「安心しろ。雅彦様は君のママに危害を加えたりしない。彼らには大人の話があるだけだ」

翔吾は必死にもがいてついて行こうとしたが、海という大人の男性の力に抗えるはずもなく、雅彦に連れ去られる桃を見つめるしかなかった。

海が翔吾をオフィスに戻すと、小さな顔が険しく、表情も厳しかった。

まさか自分がやったことのせいで、悪いお父さんがママに仕返しをしようとしているのでは?

そう思うと、翔吾は一気に不安になった。ちょうどその時、海が誰かに呼び出されて部屋を出たので、翔吾は急いでパソコンのところに行き、佐和に助けを求めるメールを送った。

「佐和、大変なことになった!早く助けに来て!」

雅彦は桃を引っ張りながらオフィスを出た。

桃は当然ながら素直について行くはずもなく、ずっと抵抗していた。翔吾のことに関しては、雅彦と余計な話をしたくなかった。話せば話すほどボロが出る可能性があるからだ
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