共有

第533話

家政婦とボディーガードも呆然としていた。

「とわこさん、こんな時間にどこへ行くんですか?」

とわこは全身の神経が張り詰め、平静を装うことも、子供たちに笑顔を見せることもできなかった。

彼女は血走った目で蓮を見つめ、「蓮、妹をしっかり守ってね」と言った。

蓮はいつも強かったが、今の母親の様子には怯えてしまった。いくら早熟とはいえ、彼もまだ五歳の子供に過ぎない。

彼はとわこの服の裾を掴み、寂しげで不安そうな声で尋ねた。「ママ、どこに行くの?」

普段なら、とわこはたとえ善意の嘘でも、まず子供たちを安心させるために説明をするだろう。

しかし、今は全身が凍りつき、頭もまともに働かない。

ただ一つの思いが頭を支配していた——アメリカへ行って真を助け出さなくては、と。

どんな危険があろうと、どんな代償が必要でも!

真は彼女のせいで囚われている。もし彼女と出会っていなければ、あんな非道な拷問を受けることもなかっただろう。

あの血まみれの指は鋭い刃のように彼女の心を突き刺していた。

……

タクシーが門の外に止まった。

マイクは車を降りる前に、レラの悲痛な泣き声が耳に入ってきて、眉間に深い皺が寄った。

彼はとわこがスーツケースを持って出ようとし、子供たちが必死に彼女にすがっているのを目にした。

マイクの胸が締め付けられ、大股でとわこの元に駆け寄り、彼女の手からスーツケースを奪い取った。

「とわこ、何を考えているんだ?!子供が泣いてるのが聞こえないのか?!」とわこのスーツケースを横に投げ捨て、両手を腰に当てて問い詰めた。「一体何があったんだ?例の荷物……荷物はどこにあるんだ?」

とわこは彼を見ずに、そっけなく横に歩き出した。

マイクも彼女の後を追いかけた。

「その荷物は午後1時に受け取ったの。24時間以内にアメリカに行かなければ、彼らは真を殺すって言ってる!」とわこの瞳には暗い影が漂っていた。「もう時間がないの……お願い、止めないで!」

マイクは思いのほか深刻な状況に驚いた。

「俺も一緒に行くよ。家で子供たちの世話をしろなんて言わないでくれ、とわこ。この連中はただの悪党じゃない!君一人で行くなんて自殺行為だ!君が死ぬだけならまだしも、お腹の子まで一緒に巻き込むつもりか?!」

とわこの目は真っ赤に染まり、死にたくはないし、リスクも冒したくない
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status