第268話

「やめておきなさい。結菜もいるわよ。病室に女性が二人も彼を見守っているのを見たら、あなたもきっと傷つくわ」松山瞳が言った。「彼の精神状態があまり良くないのよ。私はてっきり会社で大きな問題が起きたんだと思ったけど、裕之に聞いたら、そんなことはないらしいの。ひょっとして、あなたに関係があるんじゃないかしら？」

とわこは再びデスクチェアに腰を下ろした。「瞳、あなたは私を買いかぶりすぎよ。離婚した時でさえ、彼を打ちのめすことはできなかったわ。そんな力は私にはないわよ」

「じゃあ、彼がこんなにおかしくなったのはどうして？まさか、あの小林はるかのせいじゃないわよね？」松山瞳は不思議そうに言った。「最近、小林はるかが常盤家の本宅に頻繁に出入りしているって話よ。あの女、腹黒すぎる！」

とわこは最近、常盤奏と小林はるかの話を聞いても、心がどんどん平静になっている。いずれ、二人が結婚するという話が聞こえてきても、彼女は冷静さを保てるかもしれない。

彼女と常盤奏は、もう交わることのない二本の線になってしまった。これからはますます遠ざかっていくだろう。

「瞳、あなたと裕之はどうなの？」とわこは話題を変えた。

「相変わらずよ。彼は今年の年末まで粘るつもりらしいわ。もし年末までに両親を納得させられなかったら、来年は家業を継ぐことになるって」松山瞳はため息をついた。「常盤奏ほどのビジネスセンスを持っている人なんてそうはいないのよ。私たち二人には、家業を継ぐ運命しかないのかもね」

とわこは感嘆した。「あなたって、本当に自慢するね」

「あなたの前で自慢なんてできないわ」松山瞳は笑った。「とわこ、あなたが常盤奏を見に行く気がないと聞いて、ちょっと安心したわ」

「彼が末期の病気にでもなってるわけじゃないんだから」とわこはわざと軽い調子で言った。

「もし彼が末期の病気だったら、あなたは見舞いに行くの？」

「本当に末期の病気なら、人道的見地から、死ぬ前に一度は見舞いに行かなきゃね」

松山瞳は大笑いした。「もうすぐ常盤奏の誕生日だけど、もし彼があなたを招待したら、行くの？」

「行かない」

「彼は誕生日を祝うつもりもないわ。前から誕生日を祝ったことがないもの」

「じゃあ、なんでそんなこと聞くのよ？」

「あなたの決心がどれだけ強いか、確認したかっただけよ！」松山瞳は彼女の反応に満足