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第9話

番外編:姉の視点から

以前、花岡桃香が生きてきた20年の人生について。

生まれてからずっと、私は何も不条理さを感じたことはなかった。

彼女が鬱病にかかった事でさえも。

私は彼女を軽蔑していた。

でも後々、私は彼女が経験した全てを身にしみて感じた。

そうして初めて他人から無視される恐怖に気づくことができたのだ。

私が緒方章と結婚してから、緒方家の家族全員が私をまるで空気のように扱っていた。

使用人が作るごはんは私好みではなく、私の分がないこともあった。

食卓でのおしゃべりに私が口を挟める隙間はなく、誰も私の話なんて聞いたことはないかのようだった。

私は良い嫁になることを求められた。

以前の芸事や趣味など全てを禁止された。

表に出ることは許されず、誰の前でも謙遜して頭を下げ、義理の両親を敬わなければならない。

このように過ごす日々。

私は花岡桃香が以前、どうやって十数年もこのような地獄に耐え続けたのかさっぱり分からなかった。

三ヶ月だけなんとか我慢して、名家の集まるパーティで父と母にこの結婚を解除したいという望みを込めて助けを求めた。

私は彼らにとって、残ったたった一人の娘だから、どうあっても最終的には私のことを気にかけてくれると思っていたのだ。

しかし、母は父の手を引っ張るだけ。

そして、以前花岡桃香にしていたのと同じように、冷たくその場を離れていった。

息が詰まりそうだった。

……

緒方家に嫁いで三年目のこと、家からの連絡があり、母は目が見えなくなってしまったらしい。

ここ数年、ずっと思い煩う日々で、花岡桃香のことを懐かしんでいたという。

私が彼女に会いに家に帰った時、彼女は花岡桃香の写真をプリントした人形を抱きしめ、光のない瞳で茫然としていた。

私は彼女に近寄り、近況を尋ねた。

彼女が口を開いて言った最初の言葉は「桃香ちゃんなの?私の桃香ちゃんが帰ってきたの?」だった。

母の目の中には本当に私の姿は映っていなかった。

でも、私は悔しかった。

私は意地を張って彼女の手を引っ張り、彼女に私は花岡桜子なのだと教えた。彼らが二十数年間目に入れても痛くないほど可愛がっていた花岡桜子なんだと。

以前、彼女たちが花岡家の顔として扱っていた花岡桜子だ。

しかし、彼女は力強く私の手を振りほどき、甲高く鋭い声で叫んだ。

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